謎の女性との変わった夢を見た硝太は目覚めた後見覚えのない場所にいた。その場で八咫烏を使役する少女と再会する。そしてその少女に何の変哲もないビー玉を貰う
「──ってことがあったんだよ」
解離性遁走による失踪の翌日。
硝太はいつものように芸能科でルビー、寿みなみ、不知火フリルと昼食をとっていた。
入学したばかりの頃はその小学生のような見た目と科を移動する生徒がほとんど居ないこと、そして何よりあの国民的美少女、不知火フリルと仲良くしていることから注目されていたが不知火フリルや寿みなみが仕事で学校に居ない日であろうと毎日のように芸能科に来るのでいつしか気にもされなくなっていた。
いつもなら寿かルビーが会話を提供して残りの2人がそれに乗ったりたまに不知火からも話題を提供してコミュニケーションが下手な為、言葉選びや対応を間違える硝太のフォローをルビーがする、という話だが今回は違った。
話の内容は昨日の硝太が芸能科に来なかった理由、つまり失踪事件の話である。昨日の失踪の事を話そうとすれば硝太本人の障害を打ち明けることにもなるが硝太はあくまで自然に自らの障害について話した。
「た、大変やったんやねぇ」
硝太の割にはちゃんと話せたのが、話題がかなりセンシティブなこともあり、話を聞き終わったあとの寿はかなり絶妙な表情をしていた。
硝太が障害者だということはその身長から何となく察しが着いていた寿と不知火の2人だったが実際は身長よりも問題な精神障害を多数抱えているとは思ってもいなかった。
それも家から一歩外に出るだけでも危険で日常生活にも支障が出るレベルだと聞いた時は二人とも相当驚いた。そんな障害を抱えた人が目の前にいることもそうだが何より、そう話している本人がそのことを欠片も気にしていないことに。
「よくある事だよ。気にする程じゃない」
コメントに困っている寿と不知火を見て硝太はため息を零しながら「気にするな」と言う。周りからすれば相当無理のある言葉だが一度記憶喪失で文字通り全てを失っている硝太にとっては生まれた時から持っているものであり、悪い意味でも普通の障害がない生活を知らない。
「私は気にするけどね。硝太危なっかしいんだから」
「面目ありません」
しかし姉のルビーはそんな態度の硝太が気にならないようで頬をふくらませながら横から横腹をつつく。
どれだけ自分が気にしなくても自分が大切に思い、それ以上に自分のことを思ってくれるルビーの言葉には硝太も言い返せないようでルビーにつつかれると硝太はあからさまにしょんぼりした顔になりながら素直に謝る。
「まぁ何も無くて良かったよ」
「それもそうやな〜」
しょんぼりとした顔になった硝太を励ます不知火に寿は同調する。二人は硝太の失踪や精神障害に驚きはしたもののそれを理由に硝太に過剰な気遣いをしたり逆に無碍に扱う気はない。タレントとして多くの人に出会っているフリルですら会ったことの無い、話にしか聞かない重度の精神障害と目の前で話している男の子との差が現実離れしていてそのギャップをまだ受け入れられていないというのもあるが何より二人はそうじゃない硝太の側面を知っているというのが大きい。
「まぁ僕が失踪した時って毎回同じ辺りにいるから見つけやすいってお母さん言ってたし」
「え?そうなの?」
「そうそう。えーっと、この辺りかな」
そんな二人の厚意に気づけない硝太はルビーへの言い訳をする。
失踪する場所がいくら分かりやすかったとしても失踪することに変わりはないしその直後の記憶喪失は変わらないので言い訳としてはかなり厳しい部類に入るが硝太の正面でその話を聞いていた不知火はその言い訳に何か引っかかるものを感じた。思わず、不知火が硝太にその場所について尋ねると硝太はスマホの地図アプリを立ち上げると母であり、今回の失踪でも硝太を見つけたミヤコが教えてくれた場所をつついて4人の中心に置く。
つついた場所にはたまたまとあるマンションがあり、そのマンションの住所と共に多数の周辺画像が出てくる。
そのマンションは決して変わったマンションでは無い。築20年ほどの比較的新しいマンションで駅近で部屋も広い。その大きさと綺麗な外見から少し裕福で、尚且つ家族を持ったサラリーマン向けなのかと推測できる大きなマンション。そこにはなんの不思議も違和感もない。──ただ一点、そのマンションで10年ほど前とあるアイドルがストーカーに刺殺されたという点さえ除けば。
「毎回この辺にいるってお母さんが言ってた。」
硝太にはそのマンションに特別思い入れは無い。マップに表示されたそのマンションをつついたのも駅を示そうとしたら逸れただけで完全なる偶然。しかし硝太の言葉は間違いでは無い。
今回硝太が見つかったのはそのマンションの近くの駅である。今回は駅だったがこれまではそのマンションの手前や近くのコンビニ等にいるのだが疾走直後と直前の記憶の無い硝太にそれを知る由はない。
「ルビーちゃん?どうしたん?」
いつの間にか硝太の見せた画像を見て顔色を悪くしていたルビーに寿が顔を向ける。ルビーは見られていることに気づくとすぐに笑って顔を上げた。
「いや!そこのマンション見たことあるなーって思ったんだけど、そうか!硝太がいたからか!あははっ」
ルビーがわざと話題を逸らすように笑ったので不知火と寿もそれ以上追求しようとはせずに硝太失踪に関する話はそれで終わった。
◇◇◇
その日の夜。
昼食後に向かったレギュラー番組の撮影を終えた不知火は昼の話になにか引っかかるものを感じながら帰宅した。
帰ってくるのは家族のいない、一人暮らしの家。事務所が用意したファンから隠れる為のマンションの1部屋で硝太が見せたマンションほどでは無いがそれなりに大きくと綺麗に纏まっている。
不知火は夕飯用に貰ってきた弁当を置くと机の上に置いたノートパソコンを起動する。
「あのマンション、何処かで…」
立ち上がるために時間をかけているノートパソコンを眺めながら不知火は遠くにしまった記憶を掘り起こす。
思い出すのは不知火がデビューしてすぐのこと。その頃から自身のことを子供のように見てくれていたマネージャーがある日持ってきたストーカー対策の自作DVD。もう引っ越しやら何やらする時に無くしてしまったのか実物すら持っていないそこには数年前にストーカーに殺害されたとあるアイドルとその事務所の杜撰なストーカー対策について出されていた。社内の人間、それも当時子役の不知火1人しか見ないとはいえモザイクすらかけずにマンションを映し出し、字幕でこれでもかとそのアイドルと事務所を罵っていたDVDは当時子供の不知火でさえ「外部に出たら相当問題になるな」と思うほどの代物だった。そんな衝撃的な内容だったこともあり記憶の片隅に追いやっていたとはいえとはいえ覚えていたのだがそのマンションが、硝太の見せたマンションに酷似していた。
当時から口は悪いが仕事には真面目なマネージャーの事だ。あのDVDにあからさまな間違いが入っているとは思えない。しかし当の不知火本人が記憶の片隅に追いやってしまったものなので間違いでは無いとは言いきれない。
「確か、その時のアイドルは──アイ」
アイドル、アイ。B小町の不動のセンターであり世代では無いものの、不知火もよく知っている有名なアイドル。顔が整っているのは当然のこと、観客を引きつける天性の才能は当時弱小だった苺プロダクションが大きく躍進し、彼女が所属するB小町は東京ドームのライブまで踏み込むほどまで大きくなった。しかし、それは叶わず彼女はドームライブ当日、ストーカーに刺殺されることになる。確かDVDではアイが当時から危機感の無い性格だったことと、苺プロの情報統制の杜撰さを言っていた記憶がある。「お前は絶対有名になるんだから今のうちからストーカーとか厄介ファンには気をつけろ」と毎日のように言われていた。
アイの所属事務所、苺プロは今はアクアとルビーが所属しており、現在の社長、斉藤ミヤコは本人から確認をした訳では無いが見た目と名前から恐らく──硝太の母親。つまり、硝太とアイは無関係でない可能性が高い。
アイが亡くなった頃はまだ硝太は4歳頃だったので直接覚えているか覚えていないかと聞かれたら覚えているわけが無いがアイが亡くなったマンションに無意識に向かう、なんてことがあるのだろうか。それも解離性遁走という障害が起こったタイミングで。何やら嫌な予感がする。
パソコンが立ち上がったのを確認して検索欄にカーソルを置く。そして興味のまま検索を始めた。
『苺プロ アイ』
『B小町 ストーカー』
『アイ ストーカー』
『アイ マンション ストーカー』
アイのストーカー事件について検索するが、そこには数年前に見たのと同じような内容の記事が多数出されていた。当時人気絶頂だったアイドルがドームライブ直前でファンに刺されて死亡、なんてショッキングなニュースは芸能分野の記事を出さないようなサイトでも今回は例外、というように他のニュースサイトと同じような内容が書かれている。中にはDVDで見覚えのあるマンションの画像が貼ってある記事もあった。恐らくマネージャーはここから画像を貰ってきたのだろう、と思うほどに古い記憶と硝太の見せてくれ記憶の中にある画像を照合させる。これだけ燃え上がっておいて、当時は3日もすればニュースも収まったというのだから信じられない話だ。いくら芸能界のニュースは旬が過ぎるのが早いとは言っても早すぎないだろうか。
そうやって調べている間にひとつのニュースサイトに辿り着く。そこには他のニュースサイトと同様、ドームライブ直前にアイが刺されたことが書かれていた。違うことといえば、たった一つ、他のニュース記事にはない文言が追加されていた。
『その場にいた斉藤硝太ちゃん(4)も意識不明の重体』
「───え?」
思わず、手が止まった。
ニュースで重体と書かれると似た言葉である重傷とは大きく変わってくる重傷は全治1ヶ月以上かかることはあるが足を失ったり視力を奪われることもあるとはいえ基本的にはすぐに治る、命の危険では無い状態を示す。それに対して重体とは脳、内蔵器官などの損傷、病気などで生命に関わるほど危ない状態の場合を示す。無論、あくまで命に関わるほど危ない状態であり死ぬのが普通とか今元気なのがおかしいという話では無い。問題は硝太が重体になった場所、その記事が100%正しいという訳では無いだろうが硝太はアイが刺された現場にいたことは確定と言っていい。硝太はアイが刺された現場にいてアイを視察したストーカーに何かされ生死を彷徨うことになったということになる。ルビーが大好きで人目もよらずに甘える彼のことだ、アイを庇うもストーカーには適わず刺された、と考えるのが自然だ。
硝太の書かれたニュース記事はそのひとつしかなく嘘か誠か、信用はできない
しかし仮にその記事が正しかったとしてもそれほどアイと密接な関係でありながらアイの亡くなったマンションを見ても何も思わなかった、というのは不自然だ。ルビーが少し慌てていたのとニュース記事に貼ってある画像からして見間違いでは無さそうだが仮によく似たマンションと言うだけで別だとしても、何かしらの反応は出てくるはずだ。
──斉藤くんは私が知る限り嘘や隠し事が苦手なタイプ。なのにこんなに反応が薄いのは…まさか
「記憶、喪失?」
別にありえない話では無い。硝太の障害のひとつ解離性遁走は解離性障害という大きな分類の障害の一種でその中には所謂多重人格にあたる解離性同一性障害、そして記憶喪失になる解離性健忘などが含まれる。元々合併症の多い硝太なら話していなかっただけで解離性健忘を患っており、過去の記憶がなくてもおかしくない。
しかし未だに何かが引っかかる。とんでもない見落としをしているような気がする。まるでミステリーで犯人の
『斉藤硝太』
震える手で検索欄にカーソルを合わせるとそう入力した。斉藤と硝太の呼びは特別珍しいものでは無い、ありふれた名前だが漢字は別だ。斉藤はともかく『しょうた』という読みをするのに『硝太』という漢字を使うのはかなり珍しい部類に入る。
予想通り似た名前はあるものの、彼本人の内容は先程見たアイの死亡事件のニュースがトップに出ていたぐらいで大したものは無い。マウスのホイールをクルクル回しながら硝太と近い名前の人が出てきているサイトや記事を眺めていると10年以上前にSNSに投稿された動画が出てきた。
スマホの画面をテレビに向けて撮られているその動画は非常に尺が短いながらそれなりの数のいいねがついていた。その動画の投稿者は別に有名人とかYouTuberとかそういった人ではなくただの一般人。時間が経っていることもあり、直接検索しなければ出てこないような動画。
しかしその動画にはタイトルの代わりに『マジかよ』とつけられているだけで硝太の名前で検索してヒットした理由が分からない。
動画の再生ボタンをクリックする。
昔スマホだからか動画の画質は悪いがテレビ画面には生放送の音楽番組が写っている。しかし撮られているのら音楽を歌っているシーンではなく、これから歌を歌うアイドルや歌手のインタビューコーナー。視聴者から届いた質問をMCが代理となって聞くというよくあるやつだ。動画になっているのは質問コーナーのB小町の番で不動のセンターであるアイがMCが読み上げた質問に答えているところだった。
B小町は最近人気が出てきたというのもあるのか尺は長めにとってあり多くの質問がアイへと投げかけられる。問題だったのは最後の質問。
『アイさんにとって一番大事なご家族は誰ですか?』
ほんの一瞬だけ、アイの笑顔が固まった。質問しているMCはそれに気付いていないようでニコニコした顔のままアイの答えを待っている。
何か考えているのかメンバーを見たアイがなにかに気付いての表情を歪ませた、その瞬間。
いつも学校で聞いている声が聞こえた。
『おねえーちゃーん』
「──斉藤くん?」
幼さを残した声に明るい茶髪、そして赤いガラス玉のような瞳。幼稚園児程の体躯の幼い子供がテレビカメラの裏側から出てきた。生放送中に現れた急な来訪者は慌てて止めに来たADやカメラマン達の脚の合間を縫うように通り、最後に一人のAD背中をジャンプ台にして蹴り飛ばす。本気では無いとはいえ大の大人十数名に囲まれても赤子の手をひねるように簡単に躱し最後のジャンプの踏み込みでは大人一人を地面に押し倒す見た目からは考えられない運動神経と体幹の良さ、そしてMCや進行のアナウンサー達の頭上を軽々と越えてアイに抱き着いく甘えん坊体質。そこに居たのは間違いなく斉藤硝太だった。
跳んできた硝太を少し驚きながらも笑顔で抱き留めるアイ。幼稚園児程とはいえ跳んできた子供を抱きしめるとそれなりの衝撃が来るはずなのだが、アイはよろけながらも硝太を力強く抱きしめる。
スタジオで他の出演者が慌てる一方、B小町のメンバーは1人が苦笑し、1人がアイが抱きしめた硝太に赤ちゃん言葉で話しかける等皆好意的な反応を見せる。
スタジオが混乱した中、それを察知したアイは硝太の脇に手を入れてたかいたかいをするように持ち上げる。
「あっ、この子は硝太!斉藤硝太って言うの!血は繋がってないけど私の弟なんだ!」
アイの突然の告白にB小町以外の全員が一斉に凍りつく。
動画はそこで終わっていた。撮影者はアイに弟がいたことに対し何を思ったのか分からない。わかるのはただ一つ。
──斉藤硝太とB小町のアイは血の繋がらない姉弟。
そう考えれば全て辻褄は合わせられる。
アイが刺された場面で硝太も刺されたのは
──アクアさんやルビーに対する態度と、お母さんが大好きって言っていたのも家族を失う恐怖を知っているから。あるいは失った
「…」
検索タブを全て消去して履歴も消してからノートパソコンを閉じる。ため息をしてから天井を眺めると呆然と考える時間が生まれる。
不知火にも姉がいる。仮に彼女を失ったら自分はどうなるんだろう、と考えると硝太の辛さを少しは理解できる気がした。
きっと、彼は怖いんだ、大事なものをまた失うことが。だから人を遠ざけるような行動をするが、他人を傷つける勇気は無い。一人でいることにも耐えられずルビーやアクアさんに甘える。それは硝太なりの防御行動なんだろうか。
考え事をしていると背中の方からガタンッ、となにかが落ちた音がした。硝太のことを考えるのをやめて振り返るとうさぎのぬいぐるみが棚の上から落ちていた。
そのぬいぐるみは半年ほど前、事務所のスタッフからファンの贈り物と言われて受け取ったものだ。白い薔薇を抱えた赤い瞳のうさぎ。ぬいぐるみにしては少し重く、刺繍が雑な所もあって可愛らしいぬいぐるみではないがファンの贈り物と言われたのでとりあえず棚の上に置いていたのだがなにかの衝撃で落ちてしまったらしい。
うさぎのぬいぐるみを元あった場所に戻す。
一瞬だけ、うさぎの瞳が光ったように見えたが気にしないことにした。何も無いと、思うようにした。
フリルが本題にくい込んできたっ…!そして判明する硝太とアイの関係!そう…実は硝太とアイは(戸籍上)姉弟だったのです!…え?だからなんだ?そうだね…
けどこの小説、というよりフリルルートはサスペンス(ミステリー)と復讐が主題ですから!
芸能界とか異能バトル(アクション)とかラブコメとかやってますけど本題はサスペンスですから!え?そんなにサスペンスシーンない?そうだね…手癖で…
なんて言うかサスペンスとラブコメと芸能界で味付けした異能バトルみたいになってない?そうだね…
では、高評価、お気に入り登録よろしくお願いします!