ルビーと有馬のアイドルグループの名前、B小町に決定。
ルビーと有馬のアイドルグループ『B小町』の出演する初動画の撮影を終え、二人が休んでいるのを見て硝太はカメラを回収する。
出演者の二人がアイドル『B小町』としての初仕事を頑張ったのだから次はマネージャーである硝太の番。マネージャー、とは言ってもマネージャーらしい仕事をする能力がない硝太の初仕事は今回の動画の編集となる。マネージャーというのは最早名前だけだ。
三脚とビデオカメラを回収して動画の内容を確認する。二人の頑張りもあり撮れ高十分。あとは一時間もあるぴえヨンブートダンスのカット編集と字幕をつけるのみ。小さい頃は何をするもミヤコの側にいてミヤコの仕事振りも見てきた硝太は動画の編集ソフトの使い方ぐらいならわかる。
そこまでは、良かったのだが。
「うぅぅぅ…」
開始半日で硝太は潰れていた。ミヤコが編集作業をする姿を何度も見たとはいえ、編集自体は初経験というのもあるが一番の問題はそこでは無い。共感能力が高い硝太にとってルビーや有馬が疲れながら追いつこうとする動画を何度も見るのは精神的にかなり疲れる。
目は半開きで何故かクマのようなものが現れており、アホ毛は萎れ、全体的に萎んでいる。
編集作業自体はほとんど終わらせているので決して硝太に編集の能力がゼロかと言われるとそうでは無いのだが、初めての仕事で共感しやすい姉の疲れる姿を長く見る編集を選択したのは間違いとしか言いようがない。
「うっわぁ…硝太、大丈夫?」
「やっぱりこうなると思ったわ」
人が多いところならともかく肉体的には疲れ知らずのスタミナを持つ硝太の半分死んだような姿に様子を見に来たルビーと有馬も若干引いている。半日もして疲れも取れた二人とは逆に疲れた硝太、と動画撮影時とは逆の状態になる。
「アンタが編集とか出来るわけないでしょ、見栄はらなくても他のスタッフの人に任せればよかったじゃない」
疲れきった硝太を見兼ねたルビーが硝太を後ろから抱き締める。因みに胸には当たっていない。有馬は仲睦まじい姉弟の横をすりぬけると編集された動画を再生して確認しながら硝太の無計画さを諌めるように言う。硝太は元よりアクアやミヤコと比べると優秀な人間でないのは有馬もルビーも承知している。アクアは五反田という映画監督の元で編集スキルを磨いているし、ミヤコも作業の片手間とはいえある程度の編集技術はある。他のスタッフも言わずもがな。硝太がやれると見栄を張って言う必要は無い。
それを聞くと硝太は死んだ目で不敵に笑う。
「ははっ。僕が小学生の頃学校も行かずに何してたと思ってるんです?」
「いや学校は行きなさいよ」
有馬の常識的なツッコミに撃沈したようで糸が切れた人形のように硝太は有馬の方を向いて口をポカンと開けたまま停止してしまう。
「硝太?」
動画を一時停止したようにピクリとも動かない硝太を心配したルビーが後ろから硝太の頭を優しく叩く。しかし硝太は有馬に顔を向けたまま何も動かない。
「何よ」
「あ、いやっ…なんでも、ないです」
なにか言いたげな表情をしていた硝太に気付いた有馬が追求するが硝太は傍から見ても嘘だとすぐに分かる慌てようをみせながらも免れようとする。当然そこを逃がす有馬ではなく、ジト目で睨み始める。
「…わかりました。有馬先輩って普通科の人と交流あったりするんですか?」
有馬の目線に十秒も耐えきれず、硝太はすぐに両手をあげて負けを認めた。
硝太が考えたのはつい先日、自身が失踪した時のこと。あれは解離性遁走というれっきとした障害の一つ。強いストレスがトリガーとなって発症するものなので硝太は失踪する前の記録を辿っていたのだ。失踪の前後のことは覚えていないが、アクアからの話で藤波木陰という普通科二年生の女子生徒に呼ばれたことまでは分かった。
「普通科と?科が違うから同じ2年生でもほとんどないわよ」
「では、藤波木陰という名前に聞き覚えは?」
次は有馬が黙る番だった。その顔から聞き覚えはあるが、あまり話したくない内容だと言うことは硝太でなくてもすぐに分かる程。今は演技中では無いとはいえ、女優の有馬がそんな顔を隠さずに、あるいは隠しきれずにみせているのは異例と言っても良かった。
「え?なに?先輩みたいにフリーの人?」
その中で話を聞いていたがいまいち状況を掴めていないルビーが有馬の時のようなフリーの芸能人、つまりB小町の新メンバーに入れれそうな人間を見つけたと勘違いして目を輝かせる。そんなルビーとは対照的に有馬は顔を暗くして頭を抱えた。
「そんなもんじゃないわよ。…ええ、一応聞いたことはあるわ。こっちが一方的に知ってるだけだけど」
「一方的に?」
「その藤波木陰って子相当やばい噂があるのよ。なんでも昔クスリの売人だった、とか」
有馬の衝撃の発言を硝太は驚きもせずに受け止める。クスリ、とは言っても風邪薬のような普通のものでは無い。平和な日本ではアニメやマンガ、ニュースなどでしか聞かない違法薬物。その売人ではないか、という噂が藤波木陰にある。
──少なくとも高校に進学できて警察に追われていないってことは証拠は無いってことだ。
硝太は学校の周りを警察が嗅ぎ回っている様子がないこと、何より芸能人のいる陽東高校が入学を許しているということから少なくとも証拠は見つかっておらず確定していない情報でしかないと冷静に推理した。
「勿論根も葉もない噂よ。数年前に事件になってたえーっと…ナントカっていうクスリが売られていた近辺に住んでいたってだけ」
有馬も完全に信用しているわけではないようだが、そのような噂があるのは事実らしい。
噂はあくまで噂。確定した事実では無い。しかしその噂にはそう思われるだけの事実はあるということ。今回の場合はそのクスリがばらまかれた場所に住んでいたという程度の物で当然ながら噂にはなっても証拠にはならない。
「事件?クスリ?」
「違法薬物だね。それもよほど毒性が強いとみた」
まだ話の内容に追いつけていないルビーに対して事件のことを考えながら硝太は相槌を打つ。ルビーの場合は特に硝太が所謂向精神薬を取っている姿を見たことがあるせいで理解したとしても情報がとっちらかってしまうだろう
藤波木陰が薬物事件に関わっているかどうかは分からないがその薬物事件とインスタントバレットという藤波木陰が言っていたいわゆる魔法が結びつかなければ求めた情報が掴めたとは言いきれない。
──何故、そんな人が僕に目をつけてきたのかは、知らないけど。
藤波木陰の言っていた言葉には魔法のことを除いても引っかかるものがある。それを一つ一つ解決するには相当な時間がかかりそうなものだが、そうしないと彼女が『斉藤硝太』を探していた理由はきっと分からないままだろう。
魔法があるのか無いのかは置いておくとしてもインスタントバレットの使い手、ではなく斉藤硝太という名前を出しているということは最初から
「有馬先輩、藤波木陰って生徒には他に変な噂とかないんですか?魔法使いだとか、魔術師だとか」
「そんなオカルトっぽい話は無いわよ」
一応有馬にもう一度聞いてみたが魔法やそれに類する噂は無いようだ。有馬はなんでそんなことを聞いてきたのか分かっていないようで顔を歪ませる。
「アンタもしかして…厨二病?ちょっと早過ぎない?」
「僕は高校生ですが?」
計ったのか、藤波木陰が魔法というワードを出した時の硝太と同じような反応をする有馬。実際は硝太はもう高校一年生なので厨二病だとしたら早いのではなく卒業しろと言うべきなのだが。
「まっ、根も葉もない噂話に流されるなってことよ」
「…」
そう言って有馬は話を終わらせると動画を再び再生してに向き合わせようとする。しかし硝太の中では疑問はある種の確信に変わっていた。
──根も葉もない噂話、か。…
何せ、藤波木陰は現時点で人殺しであることは確定している。彼女が嘘つきであったとしてもアレだけ死の気配を持っているのなら憑いているのが生者であるはずがない。彼女は文字通り、ナイフで人を殺したのだ。その時点で少なくとも表社会にはいられない裏の人間ということは確定している。薬物関連の事件に本当に関わっているのかは別として引っかかるフックはある。
──ここ数年で事件になった薬物、それも噂話として残り続けるほど大きな事件になったものと言えば…MDMAとマリアドラッグか。
動画編集ソフトのタブを閉じて代わりに検索アプリを立ち上げる。MDMAは覚醒剤と並んでよく聞く違法薬物の一つで気分や知覚に変化をもたらすタイプのもの。数年前に歌〇伎町に大量に流通したとニュースに出ていた記憶がある。
それに対してマリアドラッグという薬物については情報が無いに等しい。と、言うのも数年前のマリアドラッグ事件で急に出来上がって名が上がって以降、音沙汰ない薬物だからだ。街一つを巻き込んだ大きな事件となったものの、それ以降話は進んでいない。結局のところ新しく作られた違法薬物が割と直ぐに警察の目に止まって流通元どころか生産元まで止められた、と考えてしまうものだ。
しかしそれはそれで不自然だ。多くの死傷者を出した事件と言うだけに警察も本腰を入れたと思われるがそれでも生産元を全て突き止めて虱潰しに潰す、なんてことが出来るのだろうか。仮に海外に拠点がひとつでもあればすぐに作られそうなものだが。
二つの事件をよく調べればそこから関係を繋げているかもしれない。そう思い立ち上がった検索アプリを見て全ての思考が止まった。
「───え?」
検索アプリを立ち上げると最近のニュースが貼ってある場合が多い。今回もその例には漏れずそのアカウントの検索情報などから様々なニュースが出てきている。
その中の一つに目が奪われた。
『【今からガチ恋始めます!】自己中あかねの暴行事件!ゆきは大丈夫か?』
そのニュースを見た時藤波木陰のことも、MDMAやマリアドラッグといった違法薬物のことも全てが吹き飛んだ。
トップ画像には頭の上に自己中と付けられた黒川あかねと頬を押えている鷲見ゆきの間に取ってつけたようにVSとついた画像が貼ってある。
──悪意しかない画像だった。この身体にまとわりつく蛇のような悪意には覚えがある。他者を騙して、蹴落として笑う悪意だ。
「あー黒川あかね、バチバチに燃えてるわねー」
硝太の動きが止まったのを確認した有馬がそのニュースを見て他人事のようにつぶやく。実際他人事で、有馬にはもちろん、硝太にも関係の無い話だが。
──その時の硝太は無関係とは感じられなかった。
「硝太?───ッ!」
硝太の様子が変わった。誰よりも早くそれを感じたルビーが硝太を強く抱き締めながら顔色を伺う。しかし硝太の顔に思わず腕を解いて引いてしまった。
硝太はルビーが顔を覗いて来ているのにも気付かず震える手でそのサイトをクリックした。
いつもは赤い硝子玉のような瞳をしている硝太の右目の奥から、赤い色を塗りつぶすような青い光が、漏れ出ていた。
硝太、まさかの闇堕ち。編集中にミヤコさんつけておかないから…
え?なんで闇堕ち?さぁ…?
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過去の話も含めてどんどん投げてもらって構わないので待ってます。
毎日言ったらうるさすぎて逆に減ったりしないよな?