【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
黒川あかねの自殺未遂を止めたのは星野アクア。
硝太はそんな時、ただ苺プロにいただけ。

何も出来なかった後悔が、硝太の心に闇を落とす
???「闇に堕ちろ」


#22 悪意の波紋

 黒川あかねという少女の最初の印象は「今ガチ女性陣の中で1番美人で1番おっぱいが大きいな」という程度のものだった。

 学校に一人でいる的に小耳に挟む女性の好みとかそういった要素は自分の中ではあるのだろう。だが言葉にしてしまうとどうしても「お母さんに近い人」ぐらいしか出てこない。そんな自分が恋愛リアリティショーを見ているのだからある意味当選の帰結なのかもしれない。

 

 今ガチを素直に見るなら主題は鷲見ゆきと熊野ノブユキの恋愛が主題なので、その二人に注目してみるのが普通だろう。兄であるアクアマリンに注目するなら兄が絡んでいたメンバー、よく絡んでいた枠で言うならMEMちょに注目するべきだろう。正直に言うと黒川あかねは今ガチで一番目立たないキャラクターだ。なのに自分は何故か黒川あかねに一番注目して見ていた。理由は分からない。彼女の出演する舞台を見たか?否。アクアマリンとの絡みで印象に残るシーンがあったか?否。役者として興味を持ったのか?否。理由がわからない。箇条書きで上げればミヤコと似た要素はあげられる黒川あかねだが二人が似たような人間かと言われればそれは違う。

 

 気付けば自分は彼女少ない出番から彼女の特徴を冷静に分析していた。真面目で、努力家で、優しくて。人見知りで、落ち着きがあって、周りを見れる。そんな彼女に純粋に興味が湧いていた。売れていないからか分からないが誰よりも必死で色んな人の言葉を吸収して答えようとしている。そんな姿勢に共感したのだろう、そう思うことにした。

 そんな彼女がらしくないことをし始めた時はすぐに演技していると分かった。しかし売れてないから焦っているんだろう、と思う程度で特に気にも止めなかった。鷲見ゆきの頬に傷をつけた時もおなじだ。彼女が焦っていることはわかっていたので謝っている姿や仲直りしている姿は映されていなかったが画面外でしているというのは察しがついた。

 

──僕は本当はあの場で誰かに止められてでも彼女を慰めに行くべきだった。彼女の元に行って理解者になるべきだった。

 

 次の回でも明らかに彼女の出番は減らされ、様子がおかしかったが気にしていなかった。今思えばあの頃からSNSで彼女は相当な攻撃を受けていたのだろう。それを察することが出来な買った自分は最早殺人者と大した違いは無い。殺人は殺人でもただの殺人なら事情しだいでは仕方ないものとして済ませられたがこれはその辺の命とは比べ物にならないほど輝いている命だ。それを殺したのだから万死に値する、は言い過ぎかもしれないがそれほどの悪辣さを含まれている。

 

 SNSの黒川あかねへの攻撃を見た時、絶望というより、理解が出来なかった。鷲見ゆきの頬に傷をつけた、モデルの売り物に傷をつけたと言ってのは悪いことというのは肯定する他ない。謝ったところで傷が治る訳では無いので彼女の今後の仕事に多かれ少なかれ影響することも含めて攻撃される理由にはなる。しかしそれは鷲見ゆきを思っての攻撃である必要がある。もし炎上してあかねに罵詈雑言をしているヤツらが全員その類なら怒ることは無かった。彼女への慰めは必要だが、仕方がないこととして受け入れられた。

 しかし現実はそんなに優しいものでは無い。そこに居たのは人の形を真似たような悪意の塊ばかりだった。正義のヒーローが悪人を殴るように自らが悪と断定した相手を言葉で叩き続ける。そこに存在する理屈は自分達が絶対的に正しいとされるもの。簡単に言うなら気に入らないから殴る、というだけ。彼女の事を、彼女の感情を欠片も理解しようとしないくせに少し間違えたらSNSが匿名であることをいいことに正義の味方面をして叩き続ける。正義に踊らされた愚民共。

 

『シンプルに死ね』

『死んで謝罪しろ』

『消えろブス』

『早く消えろ』

 

 悪意をそのまま浴びせているような集中砲火。

 これを見て彼女が何も思わないわけが無い。真面目で誰であろうと真摯的に向き合う彼女の事だ。全ての非難を全て受け止めようとするだろう。そんなことをして正常な意識で居続けられるわけがない。目に見えるもの全てが自分の敵に見える。通りがかりに笑っている人が自分を小馬鹿にしているように見えて、陰口を言っている人が自分の悪口を言っているように見える。社会にいるひとりとして関わり続けなければならないのに何処を見ても敵しかいない状況。周りの誰もが自分への悪意を抱えており、そこから形成された刃をいつ剥いてくるのか分からない。まるで死刑執行を待つ死刑囚のようだ。それを地獄と言わずになんという。

 

──何をやっているんだ、僕は。

 

 彼女の今いる地獄は昔自分自身が体験したものだ。SNSか直接かという違いこそあれど本質的には同じものだ。自分の場合は地獄の底に沈んでも母親に助けてもらうことが出来た。そばにいる人が助けてくれた。しかし彼女にはそれがない。そんな彼女の苦しみを一番に理解できるのは自分では無いのか、と思ってしまう。ならば助けに行かなければならないのに何故自分は何もやっていないのか。

──今すぐにでもこれらを呟いた正義の仮面を被った悪人を鏖殺すべきでは無いのか。

 そう思いながらも何も出来ない自分が恨ましく、殺したくなった。

 

◇◇◇

 ミヤコと共に呼ばれた警察署についた硝太はミヤコが警察官と何やら話している横をすり抜けて(アクアマリン)の気配を探る。警察署にいるのは一般人数名、拳銃を所持した警察も相当数いる。その中でアクアは逃げも隠れもせず、廊下にある長いベンチに座っていた。

 服の袖と髪の毛、そして足元が若干濡れている。外は雨なので傘ではなく雨合羽を着てその辺を歩いていた、とまで推理した硝太はアクアの元まで駆け寄る。

 

「兄さんっ」

「硝太か」

 

 名前を呼ばれたアクアは顔を上げる。その目からは何かがあったようには見えない。警察から電話こそあったが()()()()そこまで重大な状態では無い、と考えた硝太の予想は外れていなかったということになる。

 

「黒川さんは?」

「…そこだ」

 

 『黒川さん』と本来硝太がここで出す訳のない言葉を出したことをアクアは驚きもせず、少し迷う様子こそ見せたが隣の部屋を指さす。保護者であるミヤコではなく硝太がここに来たことから幾らか話を聞いていると判断したのだろう。アクアが指さした部屋には『取調室』と書かれた札が着けられており、中からは酷く動揺している女性二人、男性一人の気配を感知する。

 二人は黒川あかねとその親族と予想した硝太はドアノブを壊れそうな力で強く掴む。

 

「あかねは警察が保護している。怪我もない」

 

 アクアは今すぐにでも扉をぶち破って取調室に入ってしまいそうな硝太の肩を掴んで止める。力なら硝太の方が圧倒的に強いので引っ張りながら取調室の扉を壊すことなど容易だが、アクアに止められたことで硝太は少し冷静になり、アクアの顔を呆然とした顔で見つめる。

 

「──ごめん」

 

 アクアの顔を見て何かに気付いた硝太は両手で顔を覆うように抱えてアクアの隣に座る。両手の先にある目は死んだ魚のような目に変わっている。死んだ魚のような目になりながらも警察署に来る直前の輝きはそのままなのでまるでオッドアイのようになってしまっている。数秒前の怒気が嘘のように縮こまった硝太に流石のアクアも少し引く。

 

「なんで謝る」

「黒川さんのこと、気付けなかった」

 

 黒川あかねが炎上していることに硝太が気付いたのは数時間前のこと。今ガチを更新された日に見ていたにも関わらず、だ。それに対してアクアはもっと前から黒川あかねの異常に気付いていた。だから黒川あかねが危険な時に1番に動くことが出来た。それに気付いた硝太の怒りは後悔に切り替わった。

 

「お前はSNSとかやってないから気付かなくても──」

「気付かなかったなら殺してもいいの?」

 

 アクアがそんな硝太を励まそうと頭を優しく撫でようとするがその手を硝太は冷たい声で跳ね除けた。

 

「警察まで来たんだ。今の彼女が問題を起こすとは思えない。自殺未遂でもしたんだろう?兄さんはそれを止めた。それを見回りに見られたか止めるための協力者として警察を巻き込んだ」

「ああ」

「炎上程度なら人が死ぬまで警察が動くわけないもんね。事務所も番組も黒川さんを見捨てたんだろう?つまり黒川さんは四面楚歌な状態で立たされていたわけだ。それに僕は気付くことすらなかった。気付かなかった、なんて言い訳としては下の下だ。気付けるだけのものは持っていたんだから」

 

 伸ばした手を跳ね除けられ身体をピタリと止めたアクアに対して、硝太は静かに自嘲的に笑みを作る。しかしそこから笑い声が盛れることはなく、乾いた泣き声のような声が出る。

 黒川あかねを大した理由もなく罵倒して彼女を追い込んでいた人間が許せないのは当然。では何故、ヤツらを止めるなり黒川あかねを救おうとしなかった。今ガチを見ていたのだから、鷲見ゆきを傷つけた時に動揺していた彼女に気づいていたのなら、彼女の心の傷に寄り添うことぐらいはできたはず。

 

「僕は…()()見捨てたんだ…!」

 

 太ももにおろした握り拳を強く握りすぎたことで硝太の手から血が地面に滴り落ちる。何も出来なかった、ではなく何もしなかったことに対する後悔はたとえアクアが止めてくれたとしても強く残る。

 同じことをした経験があるのだから当然だ。

 

「アクたん!」

 

 自分を呪い殺すように手を握る硝太とそれをただ見てるだけしか出来なかったアクア。しばらくそうしているとアクアを呼ぶ声が聞こえ、アクアが再び顔を上げるとMEMちょ、鷲見ゆき、熊野ノブユキ、森本ケンゴの今ガチのメンバーが集まってきた。

 全員行方不明だったあかねを探していたがアクアがあかねを見つけたと聞いて集まってきたのだ。

 

「あかねは!?」

「警察が保護している。怪我もない」

「…良かったぁ」

 

 その中でも黒川あかねを1番心配していた鷲見ゆきが代表するようにアクアに詰めかけながらあかねの無事を確認する。アクアは硝太に言ったのと全く同じ事を言う。それに安心した鷲見ゆき達は安心して胸を撫で下ろす。

 

「あれ?その子は?」

 

 安心して余裕が生まれたのかMEMちょがアクアの隣に座っている硝太に目を向ける。

 普段ならいくら敵でないとしても慣れない相手ならアクアを盾にするか最低でも顔を背けか慌てるぐらいはする硝太だが見られているというのに無反応を貫いている。

 

「俺の弟」

「マジで!?似てなっ!」

 

 無反応、というより後悔ばかりを考えて周りに人がいることにすら気付いていない硝太の代わりにアクアが答える。弟、とは言っても血は繋がっていないので見た目は当然似ていない。特に今は硝太が普段の甘えん坊ながらも落ち着いた姿とは違う、荒れている状態なのだ余計に嘘臭く感じる。

 熊野ノブユキがアクアと硝太を見比べて素直な感想を言うとMEMちょは硝太の前に来ると膝を曲げて視線を合わせる。

 

「君も、あかねのこと探してくれたの?」

 

 今来たMEMちょ達からしたらアクアがあかねを探す時に協力させたようにしか見えない。まさか硝太はあかねを見つけたどころか探してすらいない、あかねが危険なことに気付いてすらいないなんて思うはずもない。

 あかねを探したことに年上のお姉さんとしてお礼を言おうと思っていたのだろう。にこやかな顔を見せるMEMちょの瞳に死体のような顔の硝太が映る。

 

「…違う。僕は、彼女を見捨てた」

 

 目の前であかねを探した、というワードを出された事で目の前に誰かがいると気がついた硝太は今にも泣き出してしまいそうな顔と声でMEMちょの優しい言葉を否定した。

 同時に硝太血だらけになった両手がMEMちょの視界に入る。外傷を受けたというより自傷したような痛々しい傷から血が滴り落ちて影を落とすように地面をベンチの下を赤く染め上げる。

 

 

「───え?」

 

 あまりの情報量にMEMちょが困惑の声を出したのとほぼ同時に隣の取調室から黒川あかねが出てきた。

 相当泣いたのか目元は赤くなっているが、その顔は普段の彼女のままで、先程まで自殺未遂をしていたようには見えない。

 

「あかね!」

 

 あかねが出てきたことでアクアと硝太を見ていた今ガチのメンバーも黒川あかねに集まる。いの一番に来た鷲見ゆきが泣きながら黒川あかねの頬を叩いたあと強く抱き締めた。

 

「このバカ…心配させて…!相談してよ… !」

「ご、ごめん…」

 

 抱きしめられたことで心配してくれた友人達の存在に気付いた黒川あかねはまた涙を浮かべる。他の今ガチメンバーも集まって各々声をかけていく中、硝太は彼らに背中を向けて来た道を戻ろうとする。

 

「硝太はいいの?」

 

 すると警察との話を終えたミヤコがやってきて優しい声で硝太を止めた。

 アクアが警察に行った、ということだけを聞いていたなら硝太がついてくる必要は無い。それでも硝太がわざわざ電話で話を聞いている間に動き出すのだからそれほどの問題があった、ということはすぐに分かる。

 そして黒川あかねの事を硝太がどう思っているかミヤコが分からない訳が無い。誰よりも近くで硝太を見続けて優しい子に育てようとしたミヤコだからこそ、硝太の心の内も透けてみているようにわかる。硝太にとって黒川あかねとこの事故は10年以上前の事件の刷り直しのようなもの。ここで黒川あかねを助けられたのなら硝太の中で確かな自信になっていたのだろうが、現実はそうとは行かない。むしろ、また何も出来なかったことに強く悔やむようになった。

 

「黒川さんのこと、心配していたんでしょう?」

「僕に彼女の無事を安心する権利はないよ」

「そういう話じゃないわよ。全く、また手を血だらけにして。救急箱借りてくるからそこで待ってなさい」

 

 硝太の血だらけな手を見たミヤコは驚きもせずに少し呆れたような声で叱る。そのまま慣れた様子で硝太を先程座っていたベンチに再び座らせると、硝太に声をかけてまた来た道を戻ってしまった。

 アクアは黒川あかねの所に、ミヤコは救急箱を取りに行ってしまった為手持ち無沙汰になった硝太は今ガチのメンバーたちの話に聞き耳を立てる。

 

「あかね、これからどうしたい?」

「どうって…」

「このまま番組を降りるって選択肢もあるってことだ」

 

 アクアが黒川あかねに提示したのは『諦める』選択肢。番組と出演者で契約を結んではいるが黒川あかねはまだ未成年。番組側が未成年者を扱う上で監督責任を問われる問題となる。ここまで事が大きくなったら辞めると言っても止められはしない。

 

 

「私…もっと有名な女優になってこれからも演技続けて行くために頑張ってきた。怖いけど、凄く怖いけど。続ける。このまま辞めたくない」

 

 涙を浮かべながら、多くのことを考えながらも黒川あかねは『続ける』という選択肢を取った。それに安心した今ガチのメンバーが再び胸を撫で下ろす。

 今ガチのメンバーからすれば自分達の番組で炎上を引き起こして自殺未遂まで発展した挙句、メンバーが抜けるなんて耐えられるわけが無い。もちろん自殺してしまうのと比べたらマシではあるがそれでも仲のいい友達となった出演者が心を痛めたまま終わる、なんて胸糞悪い終わりで番組を続けられる気はしない。

 

 これからも色々言われることにはなるだろうが、全員で支えあって番組をやり切ろう。そう全員が思ったところに水を差すようにガタッと音が鳴る。

 

「───どうして?」

 

 音に驚いた今ガチのメンバー達が振り返るとそこには勢いよく立ち上がった結果ベンチを倒した硝太が呆然とした顔で立っていた。

 

◇◇◇

 

「私…もっと有名な女優になってこれからも演技続けて行くために頑張ってきた。怖いけど、凄く怖いけど。続ける。このまま辞めたくない」

 

 アクアが提示した『辞める』という選択肢に対してあかねは『続ける』と言い切った。

 アクアが辞める選択肢がある、と言った時。それを聞いた硝太は心のどこかで安心していた。このまま黒川あかねが番組をやめれば炎上も時間はかかるだろうが自然に収まっていく。今後の芸能人人生を無くすことになったとしても、殺されなくて済むのならそれに越したことはない。黒川あかねには道がそれしかない、という訳でもないのだから。

 しかし黒川あかねは硝太の考えに収まるほど弱い女の子ではなかった。

 

「───どうして?」

 

 思わず立ち上がり、その衝撃でベンチが倒れる。ベンチが倒れたことであかねの選択を賞賛していた今ガチのメンバーの視線が硝太に向かう。

 普段なら耐えられない多くの視線だが、それにすら気が付かないほどに硝太は困惑していた。理解が出来るできないではなく、追いついていない。自殺してしまうほどに自らを追い込んで心を傷つけたあかねは十分に傷付いた。もう逃げてもいいはずだ。

 

「どうして、戦うの?」

 

 再び震えている弱い声であかねに問う硝太。手からは血を垂れ流し、目からは生気が失われた子供が急に話に入ってきたことでMEM達は戸惑いを隠しきれない。

 しかし硝太の瞳には黒川あかねしか映っていない。

 

「逃げればいいじゃないか、アイツらは絶対に反省しない。今度こそ殺される…!」

「落ち着けっ!硝太!」

 

 感情的になり始めた硝太とそんな硝太を黙って見つめるあかねの間にアクアが入り、半ば強引に止める。力の差はともかく、兄にここまで強引に止められては硝太も進むことが出来ない。

 

──いくらなんでもおかしい。硝太がこんなに感情的になるなんて

 

 硝太の共感性の高さはアクアも充分知っている。今ガチの女性陣の中でも『黒川あかね』を推しているような姿も見ていた。過去の経験からも自殺未遂というセンシティブな話題、それもアクアが関係する話題に硝太が絡みに来ることはアクアも想定はしていた。想定していたものの、警察署に来てからの様子はその想定を大きく超える怒気や後悔等の異常な反応を見せている。

 そもそも硝太が怒ること自体珍しく、それに伴った身内を除いた人間の為に怒るのは10年以上共に過ごしたアクアでも記憶に無い。その状況からアクアは最悪の想像をしてしまう。

 

──こいつ、もしかしてアイとあかねを…

 

 10年前に死亡したアクアとルビーの母親にして硝太の姉である星野アイ。ストーカーに刺殺された彼女と自殺未遂をしたあかねを無意識に重ねているとしたら今のような硝太の暴走も理解ができる。

 

「あっ、あかね」

「硝太くん、だっけ」

 

 

 アクアが硝太を止めている後ろでその様子を驚きもせずじっと見ていたあかねが硝太の元まで歩み寄る。ゆきが止めようとするがあかねは先程MEMちょがしたように膝を曲げて硝太と目線を合わせる。

 

「ごめんね、ありがとう」

「う、ううっ…ううう…」

 

 真っ直ぐな目で言われた謝罪と感謝の言葉に遂に硝太の情緒は壊れ、膝を落としてその場でうずくまりながら泣き始めてしまった。決して大声で泣いたりはしていないがその様子は自殺未遂直後のあかねに似ているようにアクアには見えた。

 

「硝太は本当はもっと落ち着いてるんだが…」

「うん、大丈夫。私のことを本気で心配してくれてる子なんだってわかったから」

 

 硝太が泣き始めたのを横目に見ながらアクアが硝太が出来るだけ嫌われないようにフォローをする。硝太の反応を見る限り、硝太のあかねへの心象は悪くない、というより初対面とは思えないほどいい。有馬や吉祥寺先生など初対面から割と絡みに行っている人が増えたので勘違いしてしまいそうになるが硝太は学校、特にクラス内では話し相手すら一人も作ろうとしないほどに塞ぎ込んでいる。入学式直後は何人かそんな硝太を物珍しく見るように仲良くなろうとしてくれる人もいたが硝太は彼らすらも拒絶した。誰とも関わりを保たないことで心の平穏を保っているような硝太が自ら関わりに行ってその個人の為にこれだけのことをするということは硝太の中で黒川あかねは苺プロ(身内)に近い立ち位置にいると言える。

 そんなあかねが硝太を嫌っては本末転倒、と思って必死にフォローをするアクアだがあかねは軽く笑顔を作って硝太を受け入れた。同業者の他にも自分を心配してくれた人がいたことで落ち着いたのか、あかねはまるで母親のような優しい笑みを硝太に向けている。

 

「硝太?」

 

 そこに硝太の母親であるミヤコが警官から借りてきた救急箱を片手に心配そうに歩いてきた。座らせたはずの硝太がベンチを倒してその近くでうずくまりながら泣いているのだから何かあったのか、と思うのも無理は無い。

 

「おかーさん…」

 

 ミヤコの気配を感じとった硝太は泣き止み、目元を擦りながらミヤコの元に行く。こういうところを見るとごく普通の小学生にしか見えないから不思議なものだ。

 

「すいません。迷惑かけたみたいで」

 

 ミヤコは硝太の手の出血を止めながらあかね達に頭を下げる。頭を下げられたあかね達はと言うといたたまれなくなり、首を横に振る。

 

「いや、迷惑なんてそんな…」

「ありがとう」

 

 慣れた様子で硝太の手に包帯を巻くとミヤコはその手を握る。元々ミヤコの目的は黒川あかねの保護ではなく警察に匿われたアクアに保護者として会って様子を確認すること。

 

「アクア、これからどうするの?」

「ちょっとやることがある、先に帰っていてくれ」

「そう。早めに帰ってきなさい」

 

 もうミヤコにこれ以上ここにい続ける理由は無いことに気付いたアクアは少しだけあかね達の方を振り返ると何かを決めたようで用事が出来たと言って先に帰らせようとする。

 ミヤコも細かい事情はともかくアクアがあかね達を心配したことに満足して帰ろうとする。それに対して硝太は、あかね達の方を見ると()()()()()()()()()()()()駆け出した。

 

「お母さん、ちょっと待って」

「何?」

 

 ミヤコがその事に驚くよりも早く非常に早いスピードであかねの目の前に再び立つと硝太は包帯に巻かれた手であかねの手を取った。

 

「黒川さん。貴女が戦うなら、僕も戦う」

「そっか、ありがとう」

 

 あかねは優しく微笑むと硝太の頭に手を乗せてゆっくり撫でた。

 

「私も、頑張るよ」




あかねちゃんの事が結構好きになってる硝太くん(15)。身内でもないあかねちゃんの為なら殺人も厭わなくなっている当たりマジで精神状態がヤバい。誹謗中傷受けてるの君じゃないんだけどね…共感性強いのが…

一応没ネタですが
アクアと合流した後硝太は取調室の扉を壁ごとぶち壊してあかねの顔を確認し、その時に泣いているあかねを見てより怒りを強くする。っと言う内容にしようと思いました。まぁそんなことしたら器物損壊で捕まりそうなのでボツにしたんですけどね。代わりに掌がズタズタになりました。すまんなミヤコさん。硝太その気にならなくても自傷行為始めるタイプのヤンデレなんや(男のヤンデレに価値があるの?という質問は置いといて)


硝太が可哀想なことになってますが(可哀想は可愛い)あかねちゃん、硝太が母親の「ごめんなさい」で覚醒したこと知らないから…でも兄弟いる様子がないのに姉ムーブできるあかねは流石。っと言うか硝太ずっと同年代の女の子に姉ムーブさせてるな…MEMちょはともかく。


高評価、感想、お待ちしております!
アニメ効果で評価バー凄いことにならんかな…
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