硝太は黒川あかねの誹謗中傷したアカウントの個人情報を調べ尽くしたものの、それが利用されることは一切なくアクアの『今ガチ』のリアルを流す方法であかねは救われることになる。
──僕、やっぱりいらなかったな
アクア達が作った動画は24時間後には7万4千のリツイートを達成。世間の意見をまるっと書き換え、とまでは行かなかったがあかねに同情的なコメントが圧倒的に増えた。
「うん、次の収録から復帰するよ」
リツイートの数字が増えていくのを見ながら意を決したあかねが言った。残りのメンバーがあかねを温かい目で見る。
「そうですか。うん、良かった」
硝太もそれに倣うようにあかねを見たあと何度か頷く。自身であかねを救うことは出来なかったが、何はともあれあかねが番組に復帰できるようになったのだから硝太としても悪い結果では無い。
──自身がいらない子なのはもう十分知っている
「これからはさ、あかねもキャラ付けした方がいいんじゃない?ねぇ、硝ちゃんの好みの女の子とかいる?」
またも立ち上がってその場から去ろうとする硝太を押さえつけながらMEMちょがあかねにアドバイスをする。MEMちょに押さえつけられたことで硝太も流石に諦めたのかその場に座り込む。
「好み…?」
好みの女、と聞かれても恋愛を理解できない硝太にこれといった答えを出すことは出来ない。その反応が女性陣には食い付きが良かったようでゆきとあかねも集まりこぢんまりとした女子会のようなものが形成される。
元々芸能科で女子グループに自然と混ざっている硝太はその状況を黙って受け入れる。
「好きな人とかいるかな?学校とか、習い事とかで会う女の子でこんな子好きーとか」
「お母さんです」
「あーそういう意味じゃないんだけど、可愛いなぁ」
三人、いやアクアを除いた今ガチメンバーからすれば硝太は小学生低学年。未だにお母さん大好きなマザコンでもそんなに違和感は無い。むしろそれが可愛いのかルビー曰く撫で心地のいい髪の毛をくしゃくしゃにするように撫で回している。
本来なら知らない人相手は近づくことすら拒否する硝太が思いっきり撫で回されても逃げ出さないのは相当珍しい。複数人で撫でられる姿を見るのはミヤコとルビーが可愛がっている時を除けばまず見ない。
「黒川さんはそのままの方が綺麗だよ」
好き勝手に撫で回されながらも意識を強く保った硝太が言った言葉に各々の手が引っ込む。
「そういう意味じゃない」
「そう?真面目で努力家で、優しい人。キャラクターとしてならこれ以上黒川さんを表すものもないんじゃない?別に演技しなくても今の黒川さんのままでいてくれた方が僕は好きだ」
見かねたアクアが硝太を女性陣の輪から引きずり出すものの、話している意味がわかっていない硝太は素で自分の中の黒川あかね評を語る。
その声はこれまでのものより落ち着いていながらも感情が籠っており、MEMちょとゆきの二人は思わず黄色い声を上げる。
「…ねぇ、これって…」
「この子があかねの為に頑張ってたのって…やっぱり」
それを見てアクアと硝太を除く五人はそれぞれ耳打ちしながらなにかを話し合っている。ヒソヒソ話しているものの、所々内容が聞こえてきているが硝太には訳が分からずアホ毛でクエスチョンマークを作りながら首を傾げてアクアの方に助けを求めるように見る。
流石のアクアもこの状況には頭を抱えている。硝太が今ガチに関わって来るのもそうだがそれ以上に恋愛感情を持ち出されると硝太は何も出来ない。
「ねぇあかね。これ、ガチだよ」
「そ、そうだね…」
「どうする?どうする?ガチで返す?」
「え、えーけど硝太くんまだ小学生…」
「いいじゃんいいじゃん!」
硝太は番組に出演すらしないというのに当初のキャラ作りの話から恋愛話に盛り上がる五人。五人からすれば硝太があかねに誹謗中傷をしたアカウントを特定した、それに数日間休み無しで対応したという異常性すら『好きな人の為なら頑張れる男の子』という形で成り立っている。
「兄さん、なんで僕小学生になってるの?」
「…」
そんなことを硝太は理解できるはずもなく、聞こえてきた『硝太は小学生』というワードについてアクアに質問する。
それを聞いたアクアは頭を抱えるしか無い。硝太は小学生ではなく高校生。それを言えばこの五人は間違いなく更に盛り上がるし、硝太はより置いてけぼりになる。とはいえこのまま硝太は小学生というていで話が進むのもよろしくは無い。
「硝太は高校生だ」
意を決したアクアは硝太をその辺に放ると恋愛話で盛り上がる輪の中に入って訂正する。その途端、恋愛話に盛りあがっていた五人は一斉に停止する。
「マジで!?ちっさ!」
「いやいやアクたん、弟が可愛いからっていくらなんでもそれは…」
「中学生でも小さすぎるでしょ…」
ノブユキは即信じたものの、MEMちょは信じていないようで少し引いた対応を見せる。ゆきやあかねもMEMちょ側らしく嘘を言って水を差したアクアをジト目で睨む。
「いや、僕高校生ですよ?兄とは血が繋がってなくて、同い年なんです」
そんなアクアとほかメンバーの前に硝太が立つ。その片手には一応学生証をもっているが顔は困惑を隠しきれておらず、周りが自分を小学生扱いする理由が理解出来ていないことを思わせる。
硝太の中では『アクアマリンが高一でその弟を名乗っているから高校生に見られていないんだろうな』程度のことしか考えておらず、背丈や見た目のことは欠片も気にしていない。
「───は?」
言葉だけなら嘘と切り捨てられるが顔写真付きの学生証という証拠まで見せられ、MEMちょとゆき達は一斉に表情が凍りついた。
◇◇◇
外は暗くなり、皆家に帰る。硝太は最後まで「女性を一人夜道に置いて帰れるか」と言っていたがあかね達がタクシーを呼ぶ、親に迎えを頼む、と言うと渋々と引き下がった。三人からしても可愛がっていた子供が、唐突に同年代という衝撃のカミングアウトをしてきて脳が混乱しているのもあるのだろう。流石に共に帰らせるのはアクアも気が引ける。結果アクアは硝太を引きずって帰宅した。
そんな二人を迎えたのは玄関で仁王立ちしているルビー。頬はリスのように膨らませて見るからに「私は怒っています」と表現している。
「お兄ちゃん、硝太。私が何言いたいかわかる?」
玄関で仁王立ちするルビーを見て思わずアクアと硝太は目を合わせる。ルビーを怒らせると相当面倒な事になる。ルビーはとにかく一度怒ったらは早々許してくれないのでしばらく口を聞いてくれなかったりする。そんなルビーの地雷を踏まないように兄弟間で回答の譲り合いを始める。
「…はぁ、もういいよ。硝太が勝手にどっか行くのも、それをお兄ちゃんが隠すのも今に始まった話じゃないし」
そんな二人を見て怒りが冷めたのかルビーはため息をつくとそう言ってリビングの方へとゆっくりと歩き始めた。
余程二人でいたことが気に食わなかったのだろう、大きな音を立てたり物に当たっているわけではないが怒りを感じさせる行動を撮っている。
「硝太、今日のことはしばらく内緒だ」
「了解」
歩いて行ったルビーの背中を見守りながら今度はアクアが硝太に耳打ちをする。撮影をしていたアクアはともかく黒川あかねの誹謗中傷をしていたアカウント個人情報を集めていた、なんて今のルビーにバレたらどうなるか、アクアですら予想はできない。
「けど、良かったの?」
「何が?」
「アイさんのこと」
靴を脱いで手洗いをするために洗面所まで二人で歩きながら硝太は今ガチメンバーと共にいた時の会話を思い出してアクアに聞く。
硝太が高校生だと分かった後、今ガチのメンバー達は当初のあかねのキャラ付けの話題に戻った。その時にまた脱線してアクアの好みに話が移ったのだが。その時のアクアの出した条件が『B小町のアイ』そのものだった。
「あくまで似てるってだけだろ。そもそもアイは天性のものだ。誰にも真似はできない」
硝太の質問に冷静に返すアクア。しかしその発言を聞いた硝太の目は鋭くなる。
「甘いよ、兄さん」
「何がだ」
「真似ができるできないじゃない。兄さんの口から『B小町のアイ』の話題が出てくること自体が問題なんだよ」
踏み台を手洗い場の前に置いて手を洗い始めながら硝太は冷たい声でアクアを糾弾するように言った。
「アイは有名人だ。多少世代がズレているからって俺と同じ年代のやつが知っててもおかしくないだろ。現にメムは知ってた」
世代交代が激しい芸能界においてもB小町のアイはその亡くなった原因も合わせて有名だ。特に芸能人からして見れば知っていて当然、同じ苺プロのアクアは立場としては知らない方が不自然と言える。
だからアクアもアイに近い女性像を出したのだが硝太の青く輝く右目はそこにあるひとつの違和感を確かに捉えた。捉えた、のだがアクアの態度に瞳を閉じて見なかったことにした。
「あの人は基準にするべきじゃないと思うなー。まぁ兄さんがそれでいい、って言うならいいや。次回からは
その言葉を聞いた時アクアは何か引っかかるものを感じはしたが無視することにした。
それより気になるのが硝太の実質的な今ガチと関わらないという宣言。何度か逃げ出そうとはしていたもののアクア目線では硝太と今ガチのメンバー達の相性は悪くないように見えた。まず硝太が無視したりせず真っ当に向き合っている時点でクラスメイトよりは良い関係を築けている。なんならアクアより気安い関係に見えた。今ガチのメンバーからの受けもそこまで悪くなく、硝太の異常性を見せつけられながらも受け入れている彼らは貴重な存在と言える。特にノブユキとMEMちょとは波長が合うのか普通の友達のような関係に見えた。そんな彼らと一生会わないだろう宣言を硝太はした。連絡先でも交換していれば話は別だが硝太は彼等と連絡先の交換すらしていない。
「いいのか」
「そもそも僕は他所の人間だ。同じようなことが起こらない限り干渉しないよ。それに今回はみんなに迷惑をかけたからね」
少し窘めるように聞き返すアクアに手を洗い終えて踏み台を洗面所の隅に置きながらなんの未練も見せずに硝太は答える。硝太の目的はあくまで黒川あかねの炎上問題の解決、そして黒川あかねを助けること。炎上問題はあの動画でかなり収まり、黒川あかねは撮影に参加することを決めた。もう斉藤硝太という個人に存在価値は無い。少なくとも今ガチには必要ない。
「それで本当にいいのか、お前」
なんの未練も見せずスパッと全てを諦める硝太をアクアは心配そうに見つめる。黒川あかねを助ける時に硝太の案を棄却してアクア側、つまり今ガチ側が動画作成をして解決したことで明らかに自信を喪失している。あかねの炎上問題に文字通り自分の全てをかけたからかこの症状は自暴自棄に近い。
「僕は一視聴者なんだよ。まず彼らの問題に何か出来ると思ったこと自体が間違いなんだ。」
「待てよ」
そう言い残して去る硝太の肩をアクアは思いっきり引き戻す。決して力では勝てなくても硝太は流れるままアクアに引き寄せられる。
硝太の言い分は一つ一つを切り取れば真っ当なもので、アクアも否定はできない。硝太はあくまで一人の視聴者、役者たちの問題に関わっても事態を混乱させるだけ。
それでも誰より必死に解決方向を探っていた硝太がそれを言うのはアクアには許せない。
「別に撮影に参加しろとかついてこいとか言う気はない。確かにお前は視聴者の一人に過ぎないしな。けど、何か出来ると思ったのが間違いなんて言うな」
「──ごめん」
アクアの言葉に静かに謝る硝太。しかしその顔は暗くいつの間にか右目の光は無くなっていた。
「どうしたの二人共?」
そこに先程まで怒っていたはずのルビーがひょっこりと顔を出してくる。硝太とアクアが中々洗面所から出てこないのを心配したのか、ただ構いたかっただけなのか。それはどちらにも分からないがルビーは二人のほうに近寄ると何気無しに硝太の頭に手を置いて優しく撫で回す。別に何もおかしくは無い、この家なら毎日見られるルビーが硝太を甘やかす光景。
「なんでもない」
ルビーに頭を撫でられた硝太は気持ちよさそうに目を細めルビーの胸に頭を突っ込んで甘える。先程までの暗い空気が嘘のような甘え方にアクアはため息をついた。
そういえば硝太は大抵の事はルビーかミヤコに甘えて済ませるような男だった、と呆れ半分安心半分で見ていた。
しかし三人とも、これから起こるあかねの変化とその影響の事は考えようとすらしなかった。
お姉ちゃんルビーはこの作品の癒し。弟にはぱふぱふも平気で許しちゃうので硝太も本能的に甘えまくります。(ルビーはおっぱい大きいもんな)
それはそれとして今回は硝太→あかねの実質的な告白回となりました。
なんでこれからキャラ付けしようって時に硝太はあかねちゃん大好き!してるんですかね…そんなんだからクラスでボッチになるんやぞ
もしアクアが硝太を高校生とカミングアウトしてなかったら今ガチメンバーの中でおねショタ成立させられていたんですかね…
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