アクあか成立
「『今からガチ恋始めます』収録終了です!お疲れ様でしたー!」
六人の出演者がそれぞれのグラスをぶつけて乾杯する。『今ガチ』の打ち上げは『今日甘』と比べるとどうしても規模では劣るものの収益的に失敗である『今日甘』とくらべるとその雰囲気はとてもいいものとなっている。決して『今日甘』が殺伐としていたという訳では無いがあかねの炎上騒動というそれ以上の事件があったとは思えないほどに皆表情に柔らかさを感じる。
「いやー思い返すと一瞬だったわー」
「色々あったけど本当に楽しかった」
それぞれ懐かしみながら感想を言っているのを横目にアクアは物陰に隠れている子供一人分の人影を睨む。関係者以外立ち入り禁止な場所には決して似合わない上下黒のジャージに身を包んだ、雰囲気もクソも考えていない悪目立ちする服装と目立つ容姿の割にはアクアを除くと誰一人としてその存在に気付いていない。
「何してんだ、硝太」
「あれ、バレちゃった?意外と早かったな。みんなが抜けるまでは黙って見てるつもりだったんだけど」
今ガチメンバー達の輪から一時的に抜けるとアクアはその人影に近づく。そこにいたのは当然硝太だ。もちろん硝太は関係者では無いのでアクアの付き人という名目上の言い訳があった『今日甘』の時とは違い即座につまみ出される存在なのだが、本人が影に徹している為未だに気付かれてすらいない。
「質問の答えだけど、みんなを見に来た。が正解かな。あともう一つ理由はあるけど、それは後からだし」
気づかれたくせに悪ぶれる様子もなくそれどころか楽しそうに壁に背中を預ける硝太。最近今ガチであかねの演技を見て倒れた人物とは思えない余裕にアクアは流石に呆れてため息をつく。
「今ガチにはこれ以上関わらないんじゃなかったのか?」
硝太はあかねが復帰するのを決めたのと同時に『今ガチ』は家でルビー達と見るだけに留めると発言した。要するに撮影についてくることは無く『今ガチ』家で見るだけで役者陣と関わったりはしないという意思表明。しかし今やっていることは真逆、意識的に嘘をつくのは極度に下手で言ったことには基本忠実な硝太らしくない。
「そのつもりだけど少し事情が変わってね。発言を撤回するようで悪いけど極秘に兄さんについてくることにした。一応撮影現場には行ってないから、義理は通したってことで」
「お前な」
「けど撮影のことは聞いてるよ。おめでとう、兄さん。黒川さん…じゃなくて
硝太が笑顔になりながら肘で優しく脇腹をつついてくる。硝太は恋愛感情を理解出来ない。黒川あかねに好意を抱いていたのも数年経てば学校の先生に気に入っていた子供のようにいい思い出になるか素直に忘れるかのどちらかになるだろう。それでも気に入っていた相手であることは間違いない。そんな相手が兄を選んだ、兄に選ばれたということを純粋に喜んでいる。
「どうだろうな、ビジネスで付き合うだけになるだろ」
「無いね。二人はこのまま幸せになって愛を誓い合うんだ。僕の
「お前のサイドエフェクト信用ならねぇな」
本人がビジネスカップルになると言ったのに硝太は即座にそれを否定する。少しだけ遠くを見るようにあかね達が話している姿を眺める。硝太も色々と考えているのだろうが、根拠の無い話なのでアクアは真に受けることなく、この打ち上げ最大の目的の為に再度席を外す。
「鏑木って人のとこ行くの?」
鏑木勝也。『今ガチ』のプロデューサーでアクアを『今ガチ』に誘った張本人であり、アクアととある契約を交わした相手。その契約は『今ガチ』に出演したらアイのことを教える。契約をアクアは最後までこなした。鏑木は注目を集めたいアクアをこれからも使いたいと考えるだろう、それなら鏑木側も契約を守る。彼本人にアイの情報を公開したことで生じるデメリットがないから尚更だ。
「ああ、契約だからな」
「ついて行くよ」
袖口に何やら物騒なモノを隠しながら硝太が隣に並ぶ。
何か期待するアクアと対称的に硝太は心配が尽きない。アクアと鏑木が話した時、鏑木はアクアとアイに何らかの関係があることを見抜いているような言い方をしていた。もし、アクアとアイの親子関係に気付いているのなら下手に情報を公開される前に
「いい。調べても特に何も出てこなかったんだろ?」
「そうだけど…わかった」
確かに鏑木がアクアとアイの親子関係に気付いていたとして、それを使うなら既にアクアを囲うのに使うだろう。苺プロ相手に何かをしようとするのならその時に殺しても問題は無い。
心配はしてしまうがそれでもアクアを信じることにした硝太はアクアを店の外、鏑木がいるであろう喫煙所まで導きながらアクアを探す今ガチメンバー達の方へと歩いて行った。
「皆さん、お疲れ様ですっ」
あかねとカップル成立したことにについて聞き出したいのだろう、アクアを探す今ガチのメンバーたちの目の前に硝太が現れる。
「おっ、硝太じゃん。アクアが連れてきたのか」
他者目線では何も無いところから突然現れた硝太に番組のスタッフは驚くものの、一度見て慣れた今ガチのメンバー達は何事もなく硝太を迎え入れる。
「アクア知らね?あいつ急にどっか行っちまってさー」
「兄さんは兄さんでやることがあるので。僕は代打です」
アクアは既に鏑木の元に行っておりこの場にはいない。普通なら誤魔化すところだが硝太は元々嘘が極端に下手なこともあり誤魔化すことなくストレートに伝える。愛の情報を知るために鏑木という男の元に行った、という点さえ伝えなければ問題は無い。
「へぇ、アクアもなんだかんだ食えないやつだな」
「んじゃ代打って言うなら思う存分可愛がらせてもらおうかー!」
とはいえ彼らも馬鹿では無い。硝太の含みのある言い方になんとなくの事情を理解して即座に受け入れると代わりに硝太を近くの机を使って囲む。その様子には硝太が同年代だと知って驚いていた姿やあかねのためと言って他人の個人情報を収集していた子供に恐怖を感じている姿は無い。
出演者達がそんな雰囲気だと謎の来訪者に驚くスタッフたちも何も言えない。
「撮影現場にはいなかったけど今日も見てたの?」
「ええ、ちょっと遠くから見てました。黒川さん、いえ
「きゃーー、あ」
硝太が黒川あかねのことをあかねお姉さん、と身内になったことを認めたことでゆきとMEMちょから黄色い声が上がる──が、直後に2人共顔が固まり、気まずい表情に変化する。
MEMちょ達は硝太があかねに好意を持っていたことを知っている。自覚症状が無いとはいえ、目の前で
「おいおい、マジかよ。俺達見られてたのか!」
「ってか、敬語はいいよ。同年代なんだろ?」
その代わりにノブユキとケンゴの男子二人組が間に入る。二人も硝太のあかねへの感情を理解していてそれなりに気まずいがそれより背中を叩いたり、敬語をやめるように言って失恋から気をそらそうとする。
硝太本人は恋愛感情を理解出来ないため認識としては恋をしていない、つまり失恋した訳でもないのでその勢いにアホ毛ではてなマークを作るがただでさえ跳ねているところにはてなマークを作られようとそれより男性陣が間に入ったことで恐怖の感情を出した方を気にしている為気付くものは誰もいない。
「───あ、ああ。うん。わかった、こんな、感じかな」
「そうそう。この前あった時もお前アクアの相手してる時以外ずっと敬語だから背筋立っちまってさぁ」
直前に吉祥寺にも同じ事を言われたとはいえ、未だに今ガチのメンバーに慣れていない硝太に対して、男子組最年長のケンゴが大人の対応を見せる。今ガチのメンバー達はそれぞれ同業者、共演者というより友人としての側面の方が大きく、年上年下関係なく気兼ねない関係を築いていた。そんなところに見た目小学生で、ずっと敬語の硝太が現れて勢いを持っていくようなことを言ったのだからケンゴの反応もおかしい話では無い。
「なぁ硝太も連絡先交換しようぜ、ほらゆき達も!」
ノブユキが後ろから少し下がったゆき達を回収しながらスマホのLI〇E画面を見せる。この前は出来なかったお友達登録の画面を見せられて硝太の声が思わず震える。
入学式で人生初めての友達を得て早数ヶ月。これまでの場合はただの話し相手も含めてルビーやアクアが間に入ってコミュニケーションをして慣れてから本格的に絡んでいた。会うのは三度目だが、一度目はあかねしか目に入っておらず、二度目は女性陣としか話していないため男性二人にはまだ慣れていない。ただでさえ硝太が同性と話すのに慣れていないのもあり恐れなどの感情が分かりやすく出てきてしまう。
「…とも、だち?」
「ん?何言ってんだ?俺たち友達だろ?」
ノブユキは心底なにを言っているのか分からない、というような不思議な顔をしながら硝太にもスマホを出すように勧める。
硝太はスマホを取り出してLI〇E画面を出すがその友達画面にはミヤコとルビーとアクアの家族三人と有馬や苺プロのスタッフの事務所の人間しかいなかった友達画面もルビーのゴリ押しの効果もあって寿みなみに不知火フリル、吉祥寺頼子と数少ない知り合い達やと友人の連絡先が追加されていた。
しかしその数は同年代と比べるとどうしても少ない、そもそも話す時は会って話す時が大半のためこうして画面を開くことすら少ない。
「…これどうやろう」
「分からねぇの?やってやるよ」
なので硝太は友達登録の方法すら知らない。そのスマホをノブユキが受け取ると慣れた動作で自身のスマホと登録を行い、どんどんスムーズに登録されていく。
「ほらよっ」
「お、おお…」
あっという間に全員分が登録されたスマホを手渡されて硝太は目をぱちぱちさせて信じられないような表情で友達数が急に増えた自分の画面を見る。当然、そこには義姉となるあかねのアカウントもあり、硝太の表情が分かりやすく和らぐ。
「硝太って役者とかやってんの?」
硝太の表情が和らいだのを確認したケンゴが出来るだけ優しめに話しかける。
「いえ、僕は。苺プロで、マネージャーを」
「へぇー役者とかやればいいのに」
「僕、そういうの得意じゃないから…」
まだ男性陣に慣れていない為言葉が途切れ途切れになっているが段々と慣れてきたようでちゃんと会話になっている。
因みに今ガチメンバー達は硝太が嘘をつけないことを知らない。
「それに、今は有馬先輩と姉さんの応援している方が好きなんだ。姉さんやっとアイドルになれたから毎日楽しそうで」
「かなちゃん?」
「アイドル?」
硝太は磨かれた机に映った自分を見ながら笑顔を零す。ルビーは最近、長年の夢だったアイドルになって苺プロで抱えていたB小町の名前を継いだ。おそらく今が幸せ絶頂期なのだろう。いつも以上にキラキラ輝くお星様のようなルビーを思い出している硝太の表情が緩む。
硝太の発言にあかねとMEMちょが反応するがそれに他の人は気付くより前に集まっている今ガチメンバー達の近くに鏑木との話を終えたアクアが戻ってくる。
「──何やってんだ?」
「あっアクア!」
「来たな、アクア!もう逃がさねぇぞ!」
アクアの声に硝太を囲んでいた今ガチメンバー達が砂糖に群がるアリのようにいっせいに集まる。あかねとのキスの件やら色々と話したいことがあるのだろう。
元々アクアの代打、鏑木と話している間の時間稼ぎとして来ていた硝太はそれを確認して再び物陰に隠れようとしたその時、アクアの近くにいたノブユキに手を掴まれて引き込まれる。力では圧倒的に優れていたが、こんなところで暴力沙汰を起こすわけには行かず硝太もアクアとあかねを中心とした輪の中に無理やり入らされる。
「あかねと本気で付き合うんだよなアクア!」
「いや、別に仕事の延長線上で…」
「うっわ、キスしといてそれは無いでしょ…」
輪の中ではアクアとあかね、通称アクあかに気振った残りのメンバーがアクアとあかねに質問攻めをしていた。アクアは本気の交際にそこまで乗り気では無いのに対して他のメンバーはそれを本気にさせようと躍起になっている。
「硝太もなんか言ったれ!」
「そーだ!そーだ!」
硝太を輪の中に入れたノブユキやMEMちょが二人を囃し立てながら硝太の背中を叩く。
硝太の動きに、明確に動きがついた。全員で一体となったイベントに硝太も思わず声を上げて笑う。
「…ははっ!兄さん、仕事だけで付き合ってあかね
「お前な…」
「アクアー家族公認だぞー!」
笑顔でとんでもないことを言い出す硝太にそれが嘘でないとわかったアクアは明確に顔を顰めさせ、他のメンバーはさらに盛り上がりを見せた。
◇◇◇
アクあかと二人の交際で盛り上がり続けた『今ガチ』の打ち上げも終わり皆タクシーや電車に乗って家へと帰っていく。
皆、最後は笑い合いながら再会を誓っていた。
歩いて帰れる距離に自宅のあるMEMちょとアクアと硝太は夜道を横に並んで歩く。
「寂しいなぁ、私この現場めちゃくちゃ好きだった」
「そっか」
夜でも昼のように明るい街を歩きながらMEMちょはふと言葉を零す。あかねの炎上事件はあったものの、芸能界という大人だらけの中で同年代と楽しく過ごす仕事はMEMちょにとって失ったものを取り戻すような時間だったのだろう。
楽しかった時間を振り返って物思いにふけるMEMちょと彼女の隣を歩くアクア。それを見た硝太は近くの建物の壁を走ってスピードと高さを稼ぐとスケート選手のように身体を捻りながら跳び、MEMちょの目の前に着地する。
「MEMさん!姉さん達と一緒にアイドルやりませんか!」
そして少しの緊張とそれを大きく上回る決意を持ってMEMちょに一世一代の気合いでアイドルになる
硝太の前後の展開を無視した急な提案にアクアは口をポカンと開けて足を止めるが、MEMちょは大きく目を見開いて硝太を注意深く観察する。
「え?」
「さっき姉さん達のこと言った時、MEMさんやりたそうな顔してたんだ」
MEMちょが素っ頓狂な声で反応しているのを見ながら硝太はそんな提案をした理由を告げる。
硝太が自身のマネージャー業を明かした時、誰にも気付かれないような反応をしていたMEMちょだったが硝太はそのMEMちょの反応を見過ごさなかった。っというより見逃すはずがなかった。誰より他人の心に機敏に反応する硝太が自分の発言で周りがどんな反応をするか、ということを考えないはずがない。
「無計画にも程があるだろ」
とはいえ、硝太の行動は急なことであることに変わりはなく、ポカンと口を開けて驚いていたアクアも容赦のないツッコミを浴びせる。硝太がこういう時に無謀な策であろうと勢いのまま突っ込むのはあかねの炎上の時もそうだが、あの時は手痛い結果となった。だと言うのにまだ反省していなかったのか、と呆れたアクアに雲の隙間から差し込んできた月光を浴びた硝太は向き合う。
「しょうがないじゃん!だって、本人が一番やりたいって言ってるんだから。諦めてない人が目の前にいたら放っておけないじゃん」
右目からは青い眼光を放っているその姿は打ち上げで男性陣に揉まれて弱気になっていた子供と同一人物とは思えないほどどっしりと構えており、その目は見ているだけであらゆる
『アイドルはお金になんないからさー』
そんな嘘をある時は丁寧に、ある時は乱雑に引き剥がす瞳。物事の本質を見抜く、事実のみを切り取り保存する瞳。月明かりを浴びてその眼光がより強くなる。
「新生『B小町』は今メンバー募集中だよ、MEMさん」
硝太の右目に強く睨まれその眼光にMEMちょは思わず二、三歩後ろに下がる。生唾を飲み込む音が隣にいるアクアにも聞こえた。しかしそれは恐れからだけでは無い。自分が隠してきた思いに気づかれたからだけでは無い。
右目を輝かせながら立つ硝太の姿に何故か全く似ていないはずの自身が憧れたアイドルの姿が重なって見えたのに驚いたのだ。
「私が…『B小町』に?」
MEMちょはまるで恋する乙女のような顔で硝太の提案にゆっくりと、しかし確実に頷いた。
◇◇◇
MEMちょが硝太のスカウトを受け入れた後硝太はアクアとMEMちょの二人を担ぎ夜の街を疾走し、タクシーを利用するよりも早いスピードで苺プロ兼自宅へと帰宅した。
アクアはともかく他人を担いで帰ってきた事に驚いたミヤコは一先ず硝太に二人を下ろさせ、事務室に招くと打ち上げで精神的に疲れ切っていた硝太を自身の膝の上で休ませてアクアから事情を聞く。
「You〇ubeチャンネル登録者数37万人、ティックトックフォロワー数683k。人気ユーチュバー兼ティックトッカー『MEM』アイドルに興味があるとは意外ね」
大型のタブレットでMEMちょの情報を確認しながら膝の上で休みながら甘えてくる硝太の頭を撫でるミヤコ。あかねの炎上騒動の時に一度顔を合わせているとはいえ母としてのミヤコではなく、芸能事務所社長としての面を見て流石のMEMちょも緊張している。
「事務所は…業務提携、ってことは苺プロからは『アイドル業務』を依頼ってことになるわね」
「は、はいっ」
MEMちょは事務所に所属しているユーチュバーではなくあくまで個人として仕事をやっており事務所とは業務提携という形をとっている。その為他の事務所から仕事を取ってきても問題ない契約にしており、アイドルをするのも契約上問題はひとつもない。とりあえず事務所同士で揉めることは回避された、とミヤコは安堵の息を漏らす。事前にフリーだと分かっていた有馬の時とは違い、MEMちょはなんの確認も無しに硝太が勝手に連れ込んできた相手だ。MEMちょが何処かの事務所に所属していたら芸能人の取り合いになるところだった。
MEMちょの人気は勿論だが実質一人で自分のチャンネルを切り盛りしてきたその能力は今後B小町に必要な力だ。その点でもミヤコはMEMちょのことを高く評価している。
しかし気になる点はある。
「何か、貴女隠してるでしょ」
「…」
MEMちょの顔が緊張というよりなにかに恐れている様子だったのでミヤコが追求するがMEMちょは答えない。余程言いにくい理由なのだろう、下を向いているものの口を決して開こうとはしない。
「まぁ、察しはつくけどね。年齢、サバ読んでるでしょ」
MEMちょの顔が分かりやすく変わる。ミヤコの指摘が的中した証拠だ。MEMちょの骨格はだいぶ幼く見えるが、美容に誰よりも気を使っているミヤコの目は誤魔化せない。
「ふふっ、別に怯えなくてもいいわ。個人でやってる子が年齢をいくつか若く言うなんて良くあることよ。気にしなくてもいいわ…で、本当は幾つなの?」
「あのーそのー」
ミヤコの言葉に幾らか安心したMEMちょだが直後に実際の年齢を聞かれて左右の人差し指を合わせて困った顔になる。その顔を見て硝太がミヤコの膝から離れると、MEMちょの頭上を飛び越えて隣に立つ。
「大丈夫だよMEMさん。僕なんて(今ガチのみんなに)10歳ぐらい若く見られたんだよ?見た目と実年齢に相関関係があるわけないじゃん」
「お前は異例中の異例だろ」
実年齢を若く見せているMEMちょに対して実年齢より若く見られることを不服とする硝太の発言は平行線にしかならないので近くで控えていたアクアが硝太の首根っこを猫のように引っ張って大人しくさせる。
その間にMEMちょはミヤコの耳元に寄って実年齢を話す。その実年齢に表情を崩さなかったミヤコも数秒、一時停止したように固まった後急に目を大きく見開きながら立ち上がる。
「ガッツリ盛ったわね!」
「申し訳ございませんー!」
ミヤコが急に怒鳴った為MEMちょも耳を抑えながら悲鳴をあげる。その間も硝太の首根っこを掴んで持ち上げ続け傍から見ていたアクアもMEMちょの様子を伺う。
「いくつ盛ったの?3歳ぐらい?」
「…その倍」
「盛ったなお前!」
MEMちょの告白にアクアもミヤコと全く同じ反応を示す。血が繋がっていなくても親子である。
「って事は24歳か…」
「24、だったよ?春頃までは」
「じゃあ25ですね。四捨五入で30になります」
「硝ぢゃん゛!」
最後まで悪足掻きしていたところに硝太の純粋な言葉にMEMちょはその場で泣き崩れる。因みに硝太は年齢弄りという文化を知らない。ミヤコは歳をとっても大きく見た目は変わらずむしろ歳をとる度に年々綺麗になっていくルビーを見ているため歳をとることとキラキラ輝くことは同義になっている。つまり硝太としては褒め言葉なのだがMEMちょがそんなことに気づくわけも無い。
「やっぱり、ダメですよね。25でアイドルなんて」
ひとしきり泣いたあとMEMちょは床を見つめながら現実を知ったようなことを言う。アイドルはオーディションもほとんど満20歳までとか書かれており現在25歳のMEMちょには入る隙間もない。長年アイドルを続けてきたのならともかく、これからアイドルになるっていうメンバーが25では売れないと判断されて却下されてもおかしくない。そうMEMちょは潔く諦めようとする。
「いや、なんで?やりたいならやればいいじゃん。やりたい理由があってちゃんと素質があるなら、それ以外の事は誤魔化しちゃえばいい」
当然、硝太がそんなことを理解できるわけが無い。それどころかMEMちょをスカウトした時のようにアクアの腕から跳んでMEMちょの目の前に立って手を差し伸べる。
──いや、MEMちょ。そいつ実母をアイドルにしようとした男だぞ?
その様子にアクアは硝太が新メンバーを集める時にミヤコを推薦したことを思い出して苦い顔をするが、流石に今それを言うのは無粋だろうと考えて口には出さないようにした。
「話は聞かせてもらったわ」
「そうだよ!アイドルに年齢なんて関係ない!だって憧れは止められない!」
その代わりに部屋の外で話を聞いていたルビーと有馬が硝太の加勢に現れる。ルビーは硝太と一緒にMEMちょの両手を掴んで引っ張って立たせる。
「ようこそ!『B小町』へ!」
ルビーが笑顔でMEMちょを迎える。ただの笑顔なのに、その笑顔が何よりの励ましになったようでMEMちょは涙目になりながら何度も頷いた。
かくして、B小町にMEMちょが加入。そしてB小町は正式なスタートを迎えた。
やっと…やっとB小町がB小町になった…長かった…本当に長かった…なんで長かったかってだいたい僕の筆が遅いせいなんだが
サブタイトルの『始動』はそういう意味での始動です。ここまではオリジナル展開こそありましたが原作からは何も変わらずに進んできました。JIFからゆっくりと異聞推しの子と化して行きます
では、今回も。
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ちょこちょこ型月ネタとかポケモンネタが入ってくるのはご愛嬌。