『今ガチ』撮影終了、B小町始動
MEMちょ加入によってB小町の動画の登録者数は爆発的に増えて1万人を超えた。動画もとてもそれっぽいものへとなった。楽曲も《新生》B小町としてのものは無いものの、《旧》B小町としてのものがあり、順調にダンスの振り入れを行っている。そんなアイドルとしての地盤を作ってる時だった。
「ジャパンアイドルフェス?」
「そ、MEMちょ宛てに『今ガチ』の頃のプロデューサーがコネがあって、ねじ込んでくれるんだって」
MEMちょ、というよりB小町宛てにメールが届いていた。その内容はジャパンアイドルフェス、略してJIFの参加を誘致してくれるというものだった。
先に話を聞いていたルビーは楽しそうにMEMちょと手を合わせて仲良く飛んでいる。入れる理由は実力を評価されて、ではなくコネと分かっているのに何故そんなに喜んでいるのか硝太にはよく分からない。
「『今ガチ』のプロデューサー…ちっ、アイツか。今度は何考えてるんだ、あのおっさん」
楽しそうに跳ねてる姉を見ながら硝太は『今ガチ』と『今日甘』のプロデューサー、鏑木勝也の顔を思い出して顔を顰める。普段ならやらない舌打ちまでしてかなり機嫌が悪い。
「硝太って男の人に口悪いわよね」
「硝太は男の人大っ嫌いだから。ピエよんとか特に大変だったんだよー」
普段は温厚な硝太が急に舌打ちまでし始めるのを見て有馬は記憶の中でピエよんの扱いが雑だったことを思い出す。
幼少期からミヤコに近づこうとしていた男を殴り殺そうとする硝太を宥めていたルビーは昔のことを思い出して感慨深くなる。実際は男嫌いというより身内に不幸を呼ぶ存在が嫌いなだけなのだが硝太はそれを訂正する気すらない。
「まぁいいや。それって来月だっけ。確か8月の…」
「そうだよー最初の日曜日だねー」
「…そんなに遅くならないならいっか。18時半から──うん、平気だ」
JIFは8月の第一日曜日。もう一ヶ月もないが、残りの時間より出演時間の方を気にする様子の硝太にルビーが首を傾げる。が、すぐに硝太が頷いたことでその事はどうせみんなで帰りにご飯でも計画しているのだろうと思って考えないことにした。
「硝ちゃんもやる気になったところで!もうそろそろアレを決めないとね!」
「アレ?」
硝太に説明を終えたMEMちょが立ち上がり、年長者として話し合いを始める。ルビーは待っていましたと言わんばかりに顔を輝かせるが、そんな2人に乗り切れていないようで有馬はため息をつく。それを見て硝太は何となく「アイドルに関することだな」と適当に当たりをつけた。
「ふふんっ、B小町のセンターを誰にするか!」
「センター?」
センター。中央、中心などを現す言葉。アイドルにおいてはセンターポジションと呼ばれ、複数人グループのアイドルをやる時一番『いい位置』を陣取っているメンバーの事を示す。
当然そんな知識があるわけのない硝太にアイドルオタクのルビーが後ろから抱き上げながら説明する。
「センターってのはね!アイドルの花形!歌って踊れて可愛い子が立つグループの顔!」
ルビーの説明に目をキラキラと輝かせる硝太。今の説明でアイドルにとってセンターがどれだけ憧れの場所か、まで理解した。B小町の顔として1番目立つ位置にいるセンターの重要性はほかのメンバーより大きい。当然音程を外しまくったり、ダンスが下手だったりしたら悪目立ちしかねない。ただでさえコネでねじ込まれるのだ。ファン層をガッツリ掴んでおきたいB小町側としてはこのセンター選びは簡単には済ませられない。
「歌って踊れて可愛い…つまり姉さんだね」
「硝太〜!」
「うっわ、このシスコン議論する気ないわよ」
「流石ルビーは硝ちゃんからの信頼勝ち取ってるねぇ〜」
ルビーに抱き上げられた硝太はセンターの説明を聞いて自然と姉のルビーを推薦する。ルビーは嬉しさのあまり強く抱き締めるが、残りの2人は死んだ魚のような目でそのやり取りを眺める。
硝太が来るまでにB小町の三人はセンターを決めようという話まで言っていたのだがやりたいルビーとMEMちょとそこまで興味のない有馬で平行線となっていたのだが、ここで一応関係者の硝太が迷わずルビーを推薦したことでルビーが調子に乗り始める。
「やっぱりぃ、硝太も一番私が可愛いって思ってるみたいだね!」
「うん、それもあるけど。三人の中で姉さんが一番おっぱい大きいから」
「………」
「…アンタね。もう少しデリカシーってのはないのかしら?」
「
硝太を抱き上げながら調子に乗っていたルビーも硝太の言葉に身体がピタリと停止する。三人のアイドルからセンターを選ぶ時何処の誰がバストサイズを規準にするのだろうか。仮に思っていたとしても口に出すなど有り得ない。──のだが、硝太はルビーに抱き上げられながら恥ずかしがることなく自然に言ってしまうのでルビーはその場で停止し、代わりに有馬がルビーに抱き上げられている硝太の頬を引っ張りながらルビーから硝太を受け取る。
「ほ、ほら!でも硝太も私がいいって言ってるみたいだし?私で良くない?」
「さ、流石にそれは早計なんじゃないかなっ!ほ、ほら今の視聴者人気だと!私の一強だし!」
有馬から硝太を掻っ攫われてルビーが少し興奮状態になりながらも再びプレゼンをするが、MEMちょも今の人気という硝太の判断より信憑性のある案を出して自身のプレゼンを始める。
その影を硝太の頬を引っ張りながら有馬が歩いて近くの椅子に座る。その間も頬を引っ張り続けているが硝太は全く痛がっていない。
「
「悪いけど私はパス、二人のどっちに決めるかならともかく私がセンターになる気は無いわよ」
「…
一度有馬にもセンターを進めるものの、有馬の目を見てなんとなくの事情を察した硝太は大人しく議論という名の仲のいいだけの言い合いになっている二人の様子を見る。
「あんたは素直で純粋ね。ほんっと(見た目以外は)ルビーそっくり」
二人の様子を見て有馬は硝太の頬を離して代わりに頭に手を乗せて撫でる。子役時代、『10秒で泣ける天才子役』とおだてられていた頃出会った姿と変わっていない硝太を見ていると何故か有馬自身もその頃に戻ったように錯覚してしまう。
しかし現実はそんなはずは無く硝太の見た目が成長しないだけで有馬も硝太も歳を取り大人とはまだ言えないながらもただの子供とも言われない年齢になった。
「有馬先輩だってそうでしょう。ただ自分に自信が無いだけです」
有馬の雰囲気を感じ取り、撫でられながらも硝太は強めに言い返す。
「言ってくれるわね」
「ええ、僕は心配なんてしていませんから。三人とも誰よりも輝くアイドルです。ただそれが証明されていないだけ。だから僕が証明して見せます。──B小町はドームをサイリウムで埋め尽くすアイドルです」
自信あり気な硝太の言葉に有馬は撫でる手を止める。硝太の有馬達への期待は相当なものでまだデビューしたてのくせにドームライブに行けると本気で思っている。その期待が、有馬にとっては重すぎる。自分は売れないと分かっているだけにその期待を裏切るのが怖い。
「よしっ!それじゃあカラオケ行って決めよう!先輩も硝太も来るよね!」
その間も仲良くプレゼンしあっていたルビーとMEMちょはカラオケに行ってその結果で決めると落ち着いて近くで座っていた有馬と硝太にも声をかける。
「悪いけど私は…」
「善は急げです。行きましょう」
センターになる気のないのになぜ連れていかれるのか、と有馬は口篭るが続きを言う前に今度は硝太が有馬の手を取って立たせる。そのまま残りの二人と目の前に立たされると硝太は手を離して有馬の後ろに回る。
「よし、じゃあ行きましょうか!」
絶対逃がさない、と言わんばかりの顔をした三人に囲まれて有馬はため息をついて逃走を諦めた。そのまま四人でカラオケに行った。
───そこまでは良かったのだが。
『サインはB』
ルビー 43点
MEMちょ 57点
硝太 63点
かな 97点
「…マジか」
とりあえずB小町の代表曲、『サインはB』を一人ずつ歌ってみたところこのような結果となった。まさかの結果に有馬は半分放心状態で呟く。ただの一般人でしかない硝太がヘタウマの部類なのはともかく二人がアイドル志望ならそれなりに練習しているだろうという予想は変な方向性に外れてその場にはヘタウマとオンチが誕生していた。
「…ヘタウマ二人とオンチ一人。アンタら何やってきてたの!?っていうかアンタら
「アイドルは個性!ヘタウマでも商品価値はあるしぃ下手なのはもうどうしようもないじゃん!」
「下手な子がちょっとずつ上手くなっていく喜びをファンに提供するんですー!そもそも硝太は声変わりしてないんだから女の子の曲の方が合わせやすいんですー!」
「まぁまぁ、これからです。これから」
三者三様にマイクを握りながらまたしても言い合いが始まる。なんなら苺プロにいたときと違いマイクを持ちながら言い合っているため耳によく響く。言い合いは硝太がなんとか収めるが有馬はその場で頭を抱えてしまう。
「とりあえず、姉さんとMEMちょはセンターやるなら歌の練習をしてかないとね。有馬先輩はその間に基礎体力をつけましょう」
硝太は三人の音声データとそれぞれの点数を記録してパソコンで何らかの作業をしながら今後のメニューを組み始める。黒川あかねの誹謗中傷したアカウントを数日で調べ尽くしたように硝太は元々データを纏めたり整理する仕事は得意。アイドルやダンス、歌に対して大した知識がないためそのデータを活かしたアウトプットが出てこないのが難点だが、逆に言えばそれを仕入れながらやるだけで追い込みとしては十分機能する。
「練習メニューは僕が組みます。有馬先輩は体力増強から集中的にやりましょう。B小町のダンスは姉さんが一番上手いし合わせ以外はボイストレーニングに時間を使える。MEMちょは…データが少なすぎる。とりあえず体力測定からだね」
「おお…本当にマネージャーみたい」
「マネージャーというよりトレーナーね」
データを入力し残り日数から出来ることを纏めている硝太の画面を見ながらルビーと有馬は感心し、MEMちょはあかねの炎上の件を思い出してまた気難しい顔になる。
「──で、結局センターはどっちがやるの?」
硝太がデータ整理をしてる間有馬がカラオケに表示されている点数を見て思い出したように当初の目的であるセンター選びを思い出す。すると二人はお互いを見合う。
カラオケの点数が1番高いのは有馬だが有馬にセンターのやる気は無い。とはいえMEMちょとルビーのどちらともセンターとすると歌が下手なのが足を引っ張る。点数自体はMEMちょの方が高いがど素人の硝太の方が点数が高い事を考えるとどんぐりの背比べのようなものだろう。
「どっちにしようって」
「言われてもねぇ…」
結局ここまで来ると2人とも及び腰になってしまっている。まだカラオケに来る前の仲良くプレゼンしあっていた頃の方が良かったと思えるほどに議論は停滞してしまっている。
「…有馬先輩」
停滞している状態を見兼ねた硝太がパソコンに向かい合いながら有馬に声をかける。その一言で有馬もなんとなく状況を察した。
お互いに手札がない状態の議論など仲良く話しているだけに過ぎない。それでは意味が無い。センターがいいポジョン、アイドルの顔となるなら尚更自信があり「自分がセンターになるんだ」「自分がB小町のセンターなんだ」と強く言えるメンバーにしたい。
今の状態はどちらかと言うと全員やる気無し、このままだとクラスで委員会を決める時のような擦り付けあいが始まる。それなら外部から「彼女がセンターです」と決められた方が収まりがいい。
「私が決めろってこと?」
「そこまでは言いませんが、このまま有耶無耶にされるのが最悪の展開であることはかわりありません…僕が決めていいならそうします」
「アンタが決めるならルビーか…悪くは無いと思うわよ。顔はいいし」
若干、もう自分が決めてしまいたいと思った硝太の気持ちに有馬が乗っかる。MEMちょには悪いが二人ともルビーとの付き合いの方が長いのでルビーを優先したくなってしまう。
有馬はその本心を理解しながらも内心「でも胸の大きさで選んでるようなもんだからな…」と硝太の変な側面が見え隠れしてる事実に余計なことは言えない。
「姉さん」
硝太がルビーに声をかける。
ルビーの星の輝きを持った左目に硝太が映る。
「歌の特訓は策があるから本番までには間に合わせられる。けどダンスの練習もしなくちゃいけないし体力だって必要だ…正直いってこれから辛くなる。僕も出来るだけ限界を越えないようにしてみるけど時間的にも厳しいところがあるからそれもできないかもしれない。…それでもやりたい?」
硝太は少し言いにくそうな顔をしながらもルビーに正直な事を言う。いくら上手くなっていく喜びを与えるだの言ったとしても歌は改善しなくてはならない事に変わりは無い。そしてそれに加えてダンス等やらなくてはいけないことの詰め合わせだ。ライブ当日という期限が決まっている以上余裕を持って練習とはいかない。
ルビーやアクアは硝太に甘いのはその通りとして、硝太も二人に甘い判断をすることが多い中ここまで厳しい言葉を突きつけるのはそうそうない。しかしセンターになるならどうしても必要なことになる。
残念ながら、もう遊びでは無い。
「…やる」
硝太の本気の目を見てルビーは茶化すことなく真剣に答える。「やりたい」ではなく「やる」、と強く答える。苺プロのアイドルとなる以上、手を抜くことを硝太が許すはずがないことはルビーも十分承知している。硝太が真剣にB小町のことを考えて行動するならそれに答えるべき。ルビーの夢の為にも、ミヤコの夢の為にも。
「わかった。…ごめんMEMちょ、今回ばかりは譲って欲しい。今後はそれぞれの人気からその時その時で考えるようにお母さんには言っておくから」
「いいよ〜。今のルビーめっちゃ本気だもん」
「ありがとう」
ルビーと硝太の本気度に、プレゼンをしていたMEMちょもルビーのセンターを認める。MEMちょの了承を得られた瞬間に硝太は再びパソコン作業を再開する。そんな硝太を微笑ましい目で見たルビーはカラオケのマシンに手を伸ばすと曲選択画面に移り、もう一度B小町の『サインはB』を入力した。
っと、言うわけで新生B小町のセンターはルビーとなりました。歌は何とかします。
これはフリルルートだけの要素っすね。この辺りから原作とは違う方向性へと行くのですがその一環ですね。まぁメタ的にB小町メインで進める時はルビーメインになりますしね。
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