MEMちょを加えた三人で新生B小町を始めることになったルビーと有馬。MEMちょの加入によりYouTubeもソレっぽいものとなり登録者数も増え始める。そんな中『今ガチ』のプロデューサー鏑木勝也からB小町へJIF(ジャパンアイドルフェス)への誘いが届く。
JIFへの参加を決めた三人はアイドルのセンターを決めることとなり、協議の結果ルビーがB小町のセンターをすることとなった。
芸能科の昼時。JIFの準備に忙しい硝太の数少ない憩いの時間。いつも通り硝太がやってきてルビー、寿、不知火と共に昼食を食べる。いつもなら喋りながらゆっくり食事している硝太もJIF前ということで食事を手早く済ませて机の上で何かの情報をまとめている。
「最近の硝太くん、なんか変わったなぁ」
普通に会話しながらも手元を止めない硝太を見ながら寿がポツリと言葉を零す。
最近、というのは黒川あかねの炎上騒ぎの件もあり硝太が芸能界に来ない日が増えたここ数週間のことを差す。当然硝太が黒川あかねの炎上に対して行動したことはルビーに対して嘘をつくことにした不知火以外は知らない。他人から見れば硝太が急に芸能科に来なくなり、来たと思ったら明確に疲れを見せるようになったと言うだけである。その後疲れは無くなったものの、黒川あかねを救えなかったという事実を硝太は引きずり続けているため人が変わったように見えてしまう。
「変わった…って何が?」
そんな自覚もない硝太は手元でスマホを叩きながらアホ毛でクエスチョンマークを作る。
ルビーと不知火の二人も硝太の顔や体をじっくりと観察してその理由を判別しようとしている。
「んー言葉にするのは難しいんやけど、なんて言うか。男らしくなった?」
「僕は普通に男だよ?」
「せやけど…んーなんかちゃうねん。ただ男の人ーと言うんやなくて…なんやろな」
硝太の純粋な質問に寿は首を横に振る。寿自身も硝太の何が変わったのか、と聞かれると言語化出来ずに言葉が詰まる。
「大人っぽくなった?」
「んーそれもちゃうなー確かにマネージャーさんみたいになってはおるけど」
寿の正面に座っているルビーが言い当てようとするも反応はよろしくない。まさかルビーも寿も姉に重ねた女性の心も体も救うことが出来ず、ただ無駄なことに時間を費やしただけなんて予想をするはずも無い。
「まぁ、確かに変わったよね。前より二割増くらいでイケメンに見える」
「どーいう基準?」
唯一それを知っている不知火もズレた発言をするので硝太は美人相手にするとは思えない白い目を向ける。
実際、言動と見た目が幼い為気にされていないが顔だけを見れば硝太はそこまで悪くない。芸能科の美男美女に囲まれても身長を除けば見劣りはせず、普通科の中ではアクアのような存在を除けばトップクラスだと言ってもいい。硝太自身もミヤコの息子として自分の顔にはある程度自身はある、あるのだがそれはそれとしてこの短時間で二割増で変わる理由がわからない。
「まっ、マネージャーとして仕事してるから仕事をしてる大人の男の雰囲気を醸し出しててもおかしくないよね」
「おー言うねー」
B小町のマネージャーとしての初仕事はピエよんとのコラボ動画の編集、と凡そマネージャーが取るような仕事では無かった分、ライブまでの日程を考えて練習時間とメニューを作るというやっと『マネージャーらしい』仕事が来たことで硝太もテンションが上がっている。
「あ、そうだ。二人共、JIF見にこない?B小町の出番限りだろうけど最前列で見られるチケット買っておくよ」
何かを思い出したように硝太はポケットから何回も折られて折り目だらけになったJIFのチラシを出す。B小町の出番はかなり遅い時間だが舞台に立つアイドルがすぐ見える最前列となればその価値はかなり高い。
「姉さんもいいだろ?」
「もちのろんだよ!」
その為か硝太はルビーに承認を取ると少し強引に決定する。その時何処か安心したように硝太の口角が上がるのを不知火は見逃さなかった。
「斉藤くん…?」
「ん?あっ失礼」
何か見落としているような気がした不知火が追求しようとするも直後硝太のスマホに着信が来たことで硝太はスマホを持って教室の外へと出ていってしまった。
◇◇◇
B小町のセンターも決まり、JIFに向けた練習が本格的に始まる。──とはいえ、学校には変わらず行かなくては行けないもので。唯一学校に行っていないMEMちょも自分のチャンネルの動画を撮るなり編集する作業があるため全ての時間を自由に使える訳では無い。
一応夏休みの時間があるので直前の追い込みには問題ないがそれまではどうしても学業に割く時間が長すぎる。その為休み時間や授業中に隠れて課題を終わらせ、出来るだけ時間を作っているのだが、いくら時間を作ったとしてもどうしても足りないものがある。
「それは…指導者!やっぱりプロの手を入れたいよね!」
放課後B小町の3人と合流した硝太はホワイトボードにでっかく『JIFで成功する為には』と書いてその下に『歌』『ダンス』『合わせ』と書いてそれぞれに問題点を書いてある。特にセンターのルビーが絶望的にオンチなのは至急に対応しなくてはならない。
「MEMちょの体力は二人とほぼ同じ。体力面は僕が何とかするとして歌とダンスはどうしてもセンスとプロの視点がいる」
「って言っても外部から講師の人雇う時間もないでしょ」
B小町の当面の目標が、体力をつけるだけなら硝太一人の指導でなんとでもなるがダンスと歌は硝太にその能力がない為なんともならない。その為どうにかその2点を解決できる人材が必要だった。
そんなことはルビー達も十分分かっている事。しかしアイドル事業を10年近くやっていない苺プロがそんな短期間で講師を探して雇うだけのコネや資金があるとは思えない。
「──という訳で、助っ人を呼んで来ました!じゃ、入ってきてー」
硝太が入ってくるように促すと部屋に二人の男が入ってくる。帽子やマスク、サングラスなどを片手に持って直前まで変装していたのだろうと思わせる格好。助っ人、講師の人という言い方から大人を呼ぶと予想していたB小町の面々の予想からは外れて呼ばれたのはどう見ても高校生。
「ええっ!?」
最初に反応したのはその二人と顔馴染みどころか数日前まで会って共に仕事をしていたMEMちょ。
「おっ、久しぶりMEMちょー」
「本当に大丈夫なのか硝太…」
入ってきたのは『今からガチ恋始めます』に出演していた《ダンサー》熊野ノブユキと《バンドマン》森本ケンゴの二人。ダンサーとバンドマンと今回のライブに必要な能力を持つお誂え向きな二人。
「アンタ…やったわね」
二人の肩書きだけを見たら講師としては悪くない。現役のダンサーとバンドマン、ただでさえセンターのルビーのオンチの対処法が無い上にフリ入れも完璧でない時に二人の助っ人は確かにルビー達から見ても有難い。他人への警戒心の強い硝太が呼べる講師も彼ら二人ぐらいなものだ。
とはいえ彼らは二人とも別の事務所の人間であり、MEMちょのように業務提携という形ではなくちゃんと事務所と契約している。その契約を無視して仕事を受ける、なんてことになったら最悪事務所同士で喧嘩に発展しかねない。
「なに、B小町のライブを成功させるためです。大抵の無理は押し通す」
多少強引でもB小町のライブを成功させたい硝太にとって外部の講師を雇うという選択肢は分の悪い賭けになる。それは講師の指導力の問題というより信用出来ない相手にB小町の姉達を任せられないという理由から。逆に言えば最低限B小町を任せられるだけで講師に必要な能力面が多少低くても硝太は講師として候補に入れる。
ライブを成功させたいのは当然だが何より彼女達の事が心配だし気にならないやつには目の前に出したくもない。そういう意味では事務所間のイザコザを発生させる可能性があるとはいえ契約では無いので黙っていればバレにくく信頼できてそれぞれ能力のある二人は最良の選択と言ってもいい。
「一応事務所とゆきには黙っておくけどよ…本当に大丈夫かよ」
「大丈夫、大丈夫。何かあっても僕の方が強いからなんとかなる」
「1番ダメなヤツだ」
ノブユキの常識的な指摘に対して握った拳を突き出す硝太を白い目で見るルビー。実際下手に喧嘩をさせたら硝太が全員殴り倒してしまうがそれで解決するのはヤンキー漫画と格闘漫画の世界だけなので白い目のままルビーは硝太の突き出した拳の上に手を重ねて強引に下ろさせる。
「まぁいいや。で、オンチだって言ってたセンターの子って誰?メム?」
そんな硝太とルビーのやり取りを微笑ましく眺めていたケンゴが(本人の認識では)最年長として仕切り始める。ケンゴとノブユキは硝太に
『B小町の歌とダンスの講師役をやって欲しい』ことと『特にB小町のセンターはダンスは上手いが歌が不安なのでケンゴにほぼ付きっきりの可能性が高い』ことのみを伝えている。二人がB小町にMEMちょがいることを知っているのはあくまでMEMちょの動画を見たからであり、硝太からはそれぞれのメンバーの諸事情やセンターが誰かすら伝えていない。
そのケンゴの言葉を聞いて硝太の拳を下げていたルビーが勢いよく手を上げる。
「はい!私です!」
「うわ、可愛い子」
「ケンゴお前…いや、ごめんな。僕がMEMちょをアイドルに誘ったからケンゴだけ独身確定させちゃって」
「硝太…?」
ルビーがあまりにも顔が良い為決まった相手のいないケンゴが鼻の下を伸ばす。それに硝太は右目を青く光らせて応戦するも突如咳払いをして怒りを収める。
あの硝太が友人とはいえルビーに鼻の下を伸ばした相手に何もしないどころか怒りを収めて謝るような事を言うなんて考えてもいなかったルビーは別人が変装しているとしか思えない硝太の反応に首を傾げる。
硝太は身内に鼻の下を伸ばした男なんて要注意対象にしてすぐに殴り殺せるように対応するものだと思っていた為予想との大きなズレを感じざるおえない。そんなルビーの脳内にみなみが言っていた言葉が響く。
『最近の硝太くん、なんか変わったなぁ』
何が変わったか、寿みなみもルビーも言葉には出来ていなかったがこうしてみるとそれは勘違いではなく確実に変わっているとわかる。
「待て待て待て勝手に独身確定すんな。ってか前より…いいや。えーっととりあえずダンスも混じえて一回やって貰った方がいいか、ノブもそうだろ?」
「おー、そーだな。俺は基本ノリでやってるから教えるのってそのは当然としてこまで得意じゃねぇけど」
ケンゴもケンゴで少し気になるところはあるもののすぐに切り替えてノブユキと共に一回見ることにする。
「じゃあ一回見てもらおっか」
横から硝太がカメラで録画したB小町の動画を見せる。
ダンスの完成度も華やかさもその辺の地下アイドルと比べれば相当高いレベルであることには変わりは無い。歌が下手と言われてるルビーもダンスの完成度は大手事務所のアイドルと比べても遜色ない。
問題があるとすればダンスをしながらの歌。普通に歌うだけでも辛いのに、ダンスをしながらだと息切れ等も目立つ。
「…うん、悪くないんじゃねぇの?」
「とりあえず体力つけた方がいいな」
「体力もそうだけど下半身の筋力問題だって──」
「流石に本番までにそれは──」
二人ともアイドルに詳しいわけではないが反応はそこまで悪くない。冷静に分析する男三人組。時間が圧倒的に短い中で本物のトレーナーのように意見を出し合う姿は事務所すらバラバラな高校生とは思えない。
ケンゴとノブユキに挟まれる事で硝太の身長の低さが余計に際立つのはB小町の三人とも見えないことにした。
「硝太ー!私も入れろー!」
そんな三人の中心にいる硝太に向けてルビーが飛びつくように抱きしめながらケンゴとノブユキの間に入る。
自分より圧倒的に大きいルビーの体を難なく抱き止め、ルビーを落とさないように抱っこしながら硝太は動画を記録しているカメラをノブユキに手渡す。
「んじゃ、二人とも頼むわ」
まるでクラスメイトに『ノート写させてくれ』というように気楽な様子で頼む硝太。その様子に二人とも苦笑いするものの、あかねの時の硝太を思い出して快く頷いた。
「了解」
「任せろ」
すまんなアクア、ぴえヨン…ここに君たちの出番はないんや。というわけで降臨させられた今ガチメンバー、ノブユキとケンゴ。ギャルゲの主人公になった場合の硝太の親友枠とも言う。正直原作読んでた時は二人の職がおあつらえ向きすぎてこうなると思ってました。まぁならなかったんですけど
ケンゴの落ち着きとお兄さん感とノブユキの悪友感。硝太にとって人生で初めての同性の友達…なんだけど扱い雑だなおい
では感想、お気に入り登録、高評価、よろしくお願いします!
二割増でイケメンって本当にどういう意味だ?