【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
B小町の歌とダンスという問題の為に硝太はアクアと『今からガチ恋始めます』で共演した友人、ノブユキとケンゴを呼んだ。


#31 溝

「硝太、そっちはどうだ?」

 

 B小町の歌とダンスの教育係として今ガチのノブユキとケンゴを雇って数日。手が空いたらしいアクアがB小町のレッスンの見学に来た。

 

「二人が頑張ってくれてる」

「…そうか」

 

 硝太が頼んだだけで契約した訳でもないのに二人は必死にメニューを考えてトレーニングをしてくれている。元々二人の人の良さを知った上での配置だった為問題になるとは思ってなかったがB小町の3人、特に自己流でやってきたルビーにとってはいい刺激になっているようで最初の音痴が嘘のように成長している。

 

「兄さんは?行かないの?」

 

 自分はともかく、アクアは(元)ドルオタとして三人を指導できるモノがあるのではないか。そう思った硝太がアクアに顔を向けるもアクアは小さくため息をつくとわざとらしく硝太から目を逸らす。

 

「…」

「もしかして黙り?恥ずい?」

 

 アクアが恥ずかしがっている、と思った硝太が肘で優しめにつつく。ルビーの兄としてなんだかんだ甘いアクアが、恥ずかしがっているとあって硝太はいつもしっかり者兄をここぞとばかりに揶揄う。

 しかしその直後、顔色こそ変えないが何かを考えている、というより純粋に傷付いてそうなアクアを見て硝太の右目がほのかに光る。アクアは元々表情がすぐに変わるようなタイプでは無い。だが、10年も共にいれば大抵のことは分かる。

 考え事をしているとか、からかわれて表情を殺している、というものでは無い。理由こそ分からないが何か引きずっているようなものがあるように見える。

 

「──何があった」

「大したことじゃない」

 

 硝太の顔色が急に変わる。声も女性のような甘さを孕んだ丸い声から今すぐにでも人を斬り殺してしまえそうな切れたナイフを想像させるドスがきいた声に変わる。

 そんな硝太の頭をアクアは鷲掴みにしてわしゃわしゃと乱雑に撫で回す。そうでもしないと本当に硝太は刃を抜きかねない。

 

「ただ、俺はお前が思うほど強くないってことだ」

 そう言い残すと硝太の頭を撫でるのを止めアクアは自室へと戻る。あからさまに何か問題がありますといった様子で行くので硝太もアクアの様子が気になるがそれよりB小町だ。アクアも餓鬼では無い。むしろ16という年齢が嘘に見えるほど大人だ。なら多少の問題は自分でケリをつけるだろう。もし、つけられなかった時はその原因を殺るしかないが。

 

「ん?お兄ちゃんどうしたの?」

 

 いつの間に休憩時間になっていたのかルビーが近寄って来ると硝太の隣に立ってアクアが歩いた自室の方に顔を向ける。最近レッスンばかりでマトモに話をしていないからか心配そうな表情をしている。

 

「ほっときなさい。あんなスケコマシ三太夫」

「スケコマシ三太夫?」

「女の敵ってやつよ」

 

 そんなルビーに対して有馬はタオルで汗を拭きながら辛辣なコメントをする。アクアからのスカウトで入ってきたアイドルとは思えない言い方に流石の硝太もジト目を向ける。

 

「有馬先輩、兄さんに当たり強くないですか?」

「…何よ。別にいいでしょ?」

「僕としては同じ事務所の仲間なんですから仲良くして欲しいんですけど」

 

 『苺プロは仲間を悪くいう人間を決して雇わない』母がそう言っていたことがあるのを思い出す。昔がどうだったのかは分からないが母は仲間同士の仲はよく見ている。アイさんの件という裏切られたら他の事務所以上に危険な問題があるのがその理由だろう。裏切り、最悪の場合あまり考えたくないことだが記者へのリークがあればそれだけで事務所が終わる。

 有馬とアクアの関係悪化は何がなんでも止めなくてはならない。マネージャーとしてではなく社長の息子として。その為には有馬がそんなことを言う理由を考えなくてはならない。

 

「なんで兄さんのこと悪くいうんです、有馬先輩兄さんに誘われてきたんじゃないですか」

「くっ…無自覚で痛いとこ突くわねコイツ」

 

 有馬はアクアからのスカウトで苺プロでB小町をしている、その前提がある時点で有馬がアクアに悪感情を持つことは無いと勘違いしている硝太。そんな純粋な意見に有馬は歯を食いしばるもそれ以上強く言えない。

 硝太は純粋だがそれ以上に強い共感性を持ちながら肝心な時に役に立たないという悪癖のようなものがある。硝太にとって有馬は『理解しやすい人間』『共感しやすい人間』の為異例の速さで慣れたのだがそれは有馬の抱えるとある感情を無視した場合。つまりそのとある感情が関わった瞬間に硝太の共感性はむしろ足を引っ張る。

 とある感情。つまり有馬かなが持つ星野アクアへの恋愛感情は有馬が正直な人間ではないのもあるとはいえ察しの悪い硝太が気づけるわけが無い。

 

「アンタだって黒川あかねにデレデレしてたくせに」

「え?あかね義姉ちゃんがなんで出てくるんです?」

 

 それを何となく理解した有馬が小さい声で愚痴を言う。もし硝太がラブコメ主人公のような難聴系なら良かったのだろうがそんなことはなく、一字一句聞き逃されずに聞き取り、それ故に首を傾げる。

 元々有馬がアクアに対して辛辣なのはあかねと付き合うことになったことが発端なのだが当然硝太は理解できない。

 

「あー!アンタは!黒川あかねがアクアと付き合うって聞いて何も思わなかったの!?」

「──っ!」

 

 聞かれたのなら仕方がない。半ばヤケになりながら有馬は硝太を指差しながら硝太が考えてもいなかった点を追求する。

 有馬のその発言にヘラヘラしているように見えた硝太の顔が一瞬でひきつく。硝太の胸から肉が溢れるような音が近くにいたルビー達にも聞こえた。硝太自身に自覚がないとはいえ、兄と初恋の人が付き合うのは有馬以上に気まずく苦しいはず。なのに硝太はその苦しみを理解するどころかヘラヘラしている。それが有馬には許せない。

 

「有馬ちゃん!」

 

 この中で一番硝太のあかねへの気持ちをわかっているMEMちょが有馬と硝太の間に入って有馬を止める。

 先程まで黙っていたMEMちょも流石にこれ以上有馬にあかねのことを言わせる訳にはいかないと感じ取ったのだろう。「斉藤硝太は黒川あかねに恋をしている」それを知った上で「星野アクアと黒川あかねが付き合う」結果に導いた一人として。

 硝太のあかねへの気持ちは間違いなくアクアの気持ちより大きかっただろう。肝心のあかねへの心象ではアクアに軍配が上がったので硝太があかねと付き合うのは無理だっただろう。だとしても硝太は自分を切り捨てる覚悟であかねを救おうとした、それがあかねを助けることになんの意味を持たなかったとしても。硝太のあかねへの恋、否。愛は硝太自身を切り裂く刃として十分通用する。

 

「僕は──嬉しかったです、よ。だってそれはみんなが幸せになれる道だから」

 

 硝太が発狂することを危惧したMEMちょと何やら悪い予感を感じたルビーが心配そうな顔で硝太を覗き込む。が、硝太は有馬の問いに対して満面の笑みで『嬉しかった』と返した。

 

「そ、あんたはそう思うのね」

「はい!僕はみんな幸せならいいんです。みんなが僕の唯一の希望。みんなが幸せでいてくれるならもうそれ以上は求めません。だから兄さんと有馬先輩にも幸せになって欲しいんです」

 

 硝太は何より母を始めとした家族の幸せを願う。仮に硝太が自身の恋愛感情を自覚したとしても、アクアも立候補したら即座にアクアにあかねの彼氏を譲っただろう。それが誰もが幸せになる方法だから。どこぞのアニメのキャラクターのような自分の幸せをかなぐり捨てた自己犠牲とはまた違う献身。

 それには流石の有馬も同情した。

──ああ、こいつはそういう生き方しか選ばなかったんだな、と。

 

 そう。選べなかった、ではなく選ばなかった。

 ミヤコのような理想的な母親がついておいて自分を極端に卑下することしか出来なくなったのはまずない。自己愛もそれなりにあるだろう。そういう意味では健全的と言える。普通に誰かを愛して、普通に自分を愛せる。サバイバーズ・ギルトによくある自分にはなんの価値もない、と思い込む時期もあったようだが少なくとも今はそうでは無い。ちゃんとミヤコの教育は成功している。そうでなければ母や姉にあんなに甘え倒す甘えん坊にはならない。その上で硝太は他者の喜びに共感すること、或いは愛する誰かが喜びを得たという結果でしか喜びを得られない。というより、それ以外の喜びを受け入れないようにした。そしてそれは誰かに言われてそうなったとか育て方の結果そうなってしまったとかでは無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは間違いなく壊れている。人としてはもちろん、動物として壊れている。そんな考えにたどり着くはずもない硝太の言葉に流石の有馬も毒気が抜かれる。

 

「…そう。努力するわ」

 

 有馬は硝太に背中を見せると振り向くことはなく明後日の方向を見続けた。

 

 

◇◇◇

「フリルちゃん、あの話聞いた?」

 

 レギュラー番組の出番直前。推しのYouTube動画を見ていると隣から声をかけられる。声をかけて来たのは同じくレギュラーの女性。40代のお笑い芸人のようなタレントで噂話が好きな方。今回のその噂話だろう、と当たりをつけて聞く。

 

「あの話ってどんな話ですか?」

「あのお正月スペシャルの没になった占い師さんのことよ。知らないの?」

 

 お正月スペシャル、占い師。二つのワードを聞いて霊能力者を名乗っていた男を思い出す。

 確かこちらを見て「とんでもないモノが憑いている」と言って逃げ出してしまった占い師がいた。ルビーの弟の硝太が霊能力者のような発言をしていたので最近は何度か思い出す機会があった。が、流石に交友がある訳では無いので彼の噂は何も知らない。しかしその噂がいい話では無いことは、何となくわかった。

 

「彼が、どうかしたんですか?」

「つい最近亡くなったらしいわよ。しかも自宅に入られて刺されちゃったって噂。怖いわねぇ」

 

 女性タレントの話を聞いて背筋が冷える。病死なら兎も角自宅に押し入られて刺された、という話なら間違いなくニュースになるだろう。しかし少なくとも最近、そのようなニュースは聞かない。あくまで噂話だからそんな事件自体ない、と片付けられればそれでいいのだが何故か本当に事件はあるのにニュースになっていない理由があるように感じた。

 

「あのおじさんフリルちゃんになんか憑いてるーって暴れてたでしょ?殺したのは幽霊じゃないかって私思うのよ〜」

 

 女性タレントは形だけ怖がりながらも楽しそうに話を続ける。彼女もまさか本当に占い師の男が刺されてその犯人が幽霊だなんて思ってはいないだろう。そもそも噂話は尾ひれがつくもの。亡くなった、が本当でも「刺された」「自宅に侵入された」が尾鰭の可能性もある。

 しかし私にはその話がまるで真実のように感じられた。

 

『──生霊か』

 

 硝太が何気なく言い放った言葉。嘘を言おうとして出た言葉では無い。今日は晴れか、今日は雨か、と天気を確認するかのように自然と出てきた言葉。生霊、とは生きた人間の霊魂の一部が体外から出て自由に動き回るというもの。種類は色々あるらしいがよく聞くのは人の怨念から作られて祟りを起こすもの。勿論今どき幽霊やら生霊やら話をされて真面目に信じるものは少ない。

 だが生霊を発生させて呪っている、と言われるほど強い意志、その中でも殺意を持った人間が居るという話を真面目に受け取らないものは少ない。呪いがあるかどうかは別として殺したいという意志、呪いたいという意志は間違いなくある。

 

「あれ?フリルちゃん呪いとか信じるタイプだっけ」

「いえ、なんでもありません」

 

 どうやら考え事をしていたのが顔に出てしまっていたようで心配されてしまったが即座になんでもない()()をして乗り切る。

 呪いや魔法などオカルトはこれまで信じてこなかったが硝太の存在で馬鹿な話と否定できなくなっている自分がいた。

 




今回はちょこちょこ描写が省かれてきたアクかなの関係についての話とフリルの不穏回です。
硝太今回君何もしてなくない?ってなりますけど色恋沙汰になるとめちゃくちゃ察しが悪くなるから…あとあかねちゃんに脳焼かれてるから…

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この前のアンケート別ヒロインルート求める声多いな。とは言っても別ヒロインって…今の時点だと頼子ちゃん(吉祥寺)とかあかね(硝太が恋愛で負けなかったルート?)ぐらいしか出来なさそう
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