【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
ノブユキとケンゴの活躍もあり順調にレベルアップしていくB小町の三人。
その中でMEMちょは最近の硝太の不自然な様子を身の上話を交えながら追求する。硝太は隠し事をしていることは認めるもののそのことについて話すことは無かった。


#33 前夜

 JIF一日前。練習最終日最後の追い込みということでダンスと歌の練習も最終調整に入っていた。

 

「バミリ意識して明日に備えておけ」

 

 それが「もう教えることは教えたから本番楽しみにしてるぜ!」と言って今日はケンゴと共に居ないノブユキが最終日の調整として言い残したこと。

 その通りにバミリ(立ち位置をわかり易くするために床に張りつけたテープ)をつけてその通りに踊って確認を終えた後、疲れを明日に持ちこなさないように早めに寝かせる。

 

「いよいよ明日!私達もアイドルデビューだよ!」

 

 当然それはそう出来たらいい、というだけの話で明日は待ちに待ったJIFということでルビーは寝られないようでB小町三人で広げた布団に入っても目をキラキラ輝かせている。まるで遠足の前日に寝れない子供のようだ。

 

「姉さん、早く寝ないと肌にも声にも良くないよ」

 

 隣でくっついている硝太はそんなルビーを落ち着かせるようと、母がやっていたように頭を撫でるがあまり意味は無い。それどころか傍から見るとより盛り上がっているようにすら見える。

 

「…ちょっと、いいかしら」

 

 姉弟で仲良く寝ようとしているのを隣で見ている有馬が耐えかねた様子で硝太に声をかける。いつもは練習後自宅に帰っている有馬とMEMちょも今日は泊まり込み。その為ルビーと硝太は有馬とMEMちょと並んで寝ている。

 

「はい」

「あんた、ここで寝る気?」

「そうですが、何か?」

 

 パジャマ姿でルビーの布団に入って今から寝ますと言いそうな硝太に有馬は白い目を向ける。

 残念ながら年頃の男女が同じ布団に入って寝ることが非常識、ということは知ってはいてもルビーと硝太はそこに『家族は例外』を加えている。そのため二人の認識では家族で同じ布団に入って寝ることなんて何一つ問題は無い。

 

「えっ!?硝ちゃんこの部屋で寝るの!?」

 

 流石のMEMちょも硝太はルビー達を寝かせたら自室で寝ると思っていたようで硝太が三人と共に寝るということに驚く。

 MEMちょが驚きのあまり布団から体を起こすも硝太はなぜ驚いているのか分からないといった様子でアホ毛でクエスチョンマークを作る。

 

「大丈夫、大丈夫。硝太私に甘えたいだけだから!」

「普通にそれ問題でしょ」

「「プクー」」

 

 ルビーが硝太の手を止めさせて両隣の二人を納得させようとするが有馬の的確な指摘を聞いて二人同時に頬を膨らませる。

 

「まぁまぁ、私はいいよ?私の弟も小さい頃はお姉ちゃんお姉ちゃん甘えてきて可愛かったなぁ」

「はぁ。分かった、いいわよ。こいつになんかできるような勇気あるとは思えないし」

 

 顔は似てないながらも全くおなじ反応が面白いのかMEMちょが二人に加勢し始めると流石に有馬もこれ以上言う気を失い大人しく硝太との同衾を認める。

 全員に認められると硝太はルビーの布団の中に入り、頭まで毛布をかぶせる。全身を何かで覆われていると安心する、という大胆なようで臆病な硝太らしい反応にMEMちょと有馬の二人は思わず口角が上がる。

 しばらく経つとルビー布団の動きが収まり代わりに静かな寝息が聞こえてき始めた。ルビーが隣にいるからか異常に寝付くのが早い。

 

「全く…反応がいちいちガキなのよ。ルビーとMEMちょもさっさと寝なさい」

「うう、分かってるけどっ!楽しみすぎるー」

「わかるよぉ、私も眠れる気がしないよー」

 

 すぐに寝付いた硝太に対して明日が楽しみなルビーとMEMちょは暴れだしそうになる自我を抑えながらも興奮して眠りそうにない。こんなことならルビーとMEMちょが寝れるようになるまで硝太になにかしてもらえばよかった、と有馬は数秒前の自分の行動を後悔する。

 

「アンタ達はどうしてそんなに楽しそうなのよ。私達みたいなコネ組はブーイングの嵐かもしれない。そもそも客がいなさすぎて閑古鳥が鳴いてるかもしれないのよ」

 

 興奮が収まらないルビーとMEMちょの様子にすこし羨ましさを感じながら有馬は明日のJIFを想像する。メインステージに出るような有名アイドルならともかくこの新生B小町は事務所のパワーもあまりない、出来て数ヶ月の弱小アイドルと言っても過言では無い。MEMちょの加入で知名度こそあるがそこらの地下アイドルの方がまだアイドルらしいことが出来る、と思っておいた方がいい。

 そんなB小町がライブをするとなればコネと見られても仕方がない。人気がないのなら客がほとんどいない場で歌って踊る、なんて寂しいことになりかねない。

 

 そんな有馬に対してルビーは少し落ち着いた様子で瞳を閉じる。

 

「私さ、昔ずーっと部屋の外に出られない生活をしててさ。このまま静かに死んでくんじゃないかなって思ってたんだ」

 

 ルビーの嘘のような全く嘘では無い話にMEMちょも興奮が収まり聞き入る。

 硝太が寝ているからこそできるルビーの()()の話。有馬とMEMちょはルビーの幼い頃の話と思って聞いているがルビーの経験と言う意味ではどちらも間違いでは無い。

 

「でも、ドルオタになってから毎日楽しくって。もし私がアイドルになったら推してくれるって人も現れた」

 

 ルビーの頭の中によぎる白衣の男。医療の知識は無いが自分がそう遠くない未来死ぬと何となく考えて絶望していた自分に話しかけてくれた男。

 優しくて、弱いくせに強がる。そんな男。

 

 今もきっとドルオタをやってて他の患者の近くで元気にサイリウムを振り回しているのだろう。そんな彼がB小町の名前を見逃すはずがない。このJIFで人気になれば──あるいはJIFの事を毎年調べていれば、B小町の名前から気付いてくれるかもしれない。

 

「…今、何処にいるんだろうなぁ。せんせ」

 

 落ち着いて自分の話をしたからか、その前に騒ぎすぎたからかルビーは話をしながら寝落ちしてしまった。話は途中だが、ルビーを起こしてまで聞くような話では無い。ルビーが静かになったからかMEMちょもいつの間にか寝落ちする。その中で一人取り残されたのは今まで1番静かだった有馬。一番静かにしていたのに最後に取り残されるのはかなり皮肉が効いている。

 

 それでも有馬は体を起こすと楽しそうに過去を語っていたルビーとその隣でうずくまって寝る硝太の頭を撫でる。

 

「良かったわね、アンタには推してくれる人がいて」

 

 登録者数の多いMEMちょはもちろん、アイドルとしての活動がYouTubeでほんの少し動画を上げただけなルビーにも推してくれる人がいる。しかし有馬にはそれが居ない。皆子役時代の有馬しか見ておらず高校生となった有馬を推す人はいない。

 

 眠れなくなってしまった為気分転換に有馬は一人布団から抜けると三人が寝ている部屋から抜け出して1階に戻る。

 

「…」

 

 気分転換、とは言っても特別やることがある訳では無い。何となく台所まで行くが腹が減っているわけでも喉が渇いている訳でもない。なにか適当に時間を使って眠くなったら寝室に戻ればいい。そう思って食事に使う椅子に座り、スマホを取り出す。

 

「眠れないんですか?」

 

 声をかけられ、反射的に声がかけられた方向、上を向く。そこには某蜘蛛の能力を持つアメコミヒーローのように天井に張り付いている硝太がいた。こちらが気付いたのを確認した硝太は脚で天井に張り付いたままつららのように身体を垂らすと、片手を床に伸ばし音も立てずに着地する。片手で着地後、身体を海老反りにしてまるで身体の柔らかさを自慢する体操選手のように立ち上がる。

 

「アンタ何してんの?」

「それはこっちのセリフです、有馬先輩お疲れなのに眠らないんです?」

 

 非現実的ながらも何度も見た硝太の異常な体幹能力を発揮している動きにはもう驚きはもちろん、呆れも通り越して感心するようになってしまった。

 それより先程までぐっすり寝ていたはずの硝太が起きてきていることの方が気になった有馬は硝太に問いかけるものの、硝太は痛い所をついてきた。

 

「怖がらなくても大丈夫です。B小町は──」

「それはもう聞いた。そもそもアンタに何がわかるの?」

 

 有馬のJIFへの恐れを感じ取った硝太が取った有馬が苺プロに入った時と同じような自信たっぷりの対応は有馬に即刻切り捨てられる。

 アイドルどころか芸能界を何も知らない硝太の気楽そうな態度は有馬の神経を逆撫でしているようなもので有馬の言い方はかなり怒りを含ませている。

 そんな有馬に対して硝太の雰囲気が一気に暗くなる。

 

 

「──確かに、僕はアイドルのことも、芸能界の事も、何も知りません。有馬先輩とだって出会ってせいぜい数ヶ月。僕のことを信頼して貰うには働きも時間も何も足りないと自覚しています。今だって有馬先輩の気持ちを全て理解しているわけじゃありません」

 

 共感体質、エンパスやHSPと言われる能力はあくまで誰もが持つ共感能力が比較的高いだけであり、漫画やアニメのテレパシー能力や読心術とは違う。あくまで相手の感情の変化に敏感だけでその精度は人や環境によって大きく変わるしそう思った理由もその場で推理するしかない。硝太のエンパス能力は精度が高いと言われるが実際は多くの情報を頭につめこめるだけ、そこから導き出す推理力が高いだけでその能力も特に日常生活などで使うには必要のないもので『人混みに弱い能力』『刺激に疲れやすい敏感な能力』でしかない。

 

 結局のところ、硝太が有馬の気持ちを完全に理解することは不可能。明日に悩む有馬が何も分からないくせに気楽でいる硝太に怒るのも当然の話。

 

「でも、考えることは出来ます」

 

 だからと言って何もしないという選択肢は硝太には無い。一度地獄を見た少女を見捨てた記憶が脳に刻まれている以上、有馬を放っていくことは無い。

 表情を暗くしながらも「このまま辞めたくない」と宣言したあかねの顔がずっと離れない硝太は有馬の正面の椅子に座る。

 

「ちょっと話しましょうか。なに、眠くなったら無視してベットに戻ってください。聞きたくなくなったら僕を殴り倒してもらっても罵倒してもらっても構いません。仮に殺されても僕は決して貴女を恨みませんから」

「アンタが言うと冗談に聞こえないわよ」

「ええ。冗談じゃありませんから」

 

 気楽に笑うことが出来ず、パジャマ姿ながら面接官のように背筋を立てて有馬と向き合う。

 

「まず、有馬先輩は自分を卑下する必要はありまん。だって凄い人ですから」

 

 有馬の悩みの本質を推理できるだけの情報を既に硝太は手にしている。努力家で責任感が強いくせに口が悪く自分を卑下する。それは子役として売れなくなっていたトラウマに対する防御行為。硝太が友達を作らない理由と全く同じもの。

 つまり有馬は怖いのだ。売れない自分、落胆するプロデューサー達、離れていくファン。子役の彼女が愛されていたからこそ、余計にそのギャップは大きく彼女に深い痛みを伴う傷となる。

 

 硝太の言葉に有馬は見るからに退屈そうに頬杖をつく。彼女からすれば硝太の言葉は身のない、おだてているだけの言葉。やっていることは詐欺師と変わらないという認識を持たれてもおかしくは無い。

 

「怖かったんですよね。自分は頑張っているのにみんなが離れていくのが、だから先輩は自分を守るために卑下して、馬鹿にしてネガティブな言葉ばかり並べた。でも先輩頑張ってるじゃないですか。頑張ってるなら誇ればいいんです」

「証拠でもあんの?」

 

 落ち着きを感じさせる口調ながら表情は暗い。まるで昔所属していた事務所のマネージャーみたい。落ち目の役者のメンタルを何とか保つために思ってもないことを言ってとりあえずやる気を出させる。

 そんなやり口を想像した有馬に対して硝太はスマホの画面をつけるとエクセルのデータを表示させる。そこにはB小町の三人の体力等のデータがこと細かく書かれていた。坂道ダッシュのタイム、疲れた後のダンスのブレ等ずっとB小町を見ていただけありデータも細部まで書かれている。むしろ細すぎて気持ち悪い。まるでストーカーにつけられているような気分になりながらも硝太はその中でスタミナや呼吸回数、その深さなどをまとめたデータを見る。

 

「僕が纏めた体力のデータ、誰にも見せてなかったけどスタミナは先輩が一番でしたよ。普段から有酸素運動を継続的に行っている証拠です。僕、ほんと筋トレとかトレーニングとか大っ嫌いで。必要だと思った時にしか鍛えないんですけど先輩は継続的にやってますよね。呼吸器官と発声器官がかなり強い」

 

 毎日の走り込みがこんなとこほでバレるなんて。隠していたわけではなかったが硝太に見られただけでバレるとは思っていなかったのもあり、少し恥ずかしくなる。

 が、その直後硝太の発言の異質さに気がついた。

 

「はぁ!?アンタ筋トレ嫌いなの?それであんなこと出来るわけ!?」

 

 硝太は筋トレが嫌い。壁や天井を這い回れるだけの体幹や体力を持つならボディビルダーみたいに鍛えるのが趣味っていう程運動が好きなのだと思っていた。が、ただの才能溢れるだけの馬鹿だったらしい。思い出してみれば硝太が筋トレをしているところはトレーニング中同じメニューをやっていたのを除けば一度も見ていない。

 

「何を言うんですか、ヒード〇ンだって壁や天井を歩きますよ?あいつ素早さ種族値77ですからね…あれ、意外と早いぞ」

 

──あいつあんな面しておいてポ〇ゴン2はともかくハ〇サムとかキ〇ガッサより早いぞ。リ〇クラゲのきんし〇ちからって菌糸じゃなくて禁止の力だったのか?

 

 ただでさえ筋トレの話題になって話が逸れたのに、ゲームの話題という余計に無関係なことを考え出す硝太の頭に有馬はチョップをする。

 

「ポ〇モンと比べるんじゃないわよ!」

「まぁ、僕の話はどうでもいいんです。先輩は誇ったいいんです。それに転ぶのを恐れたらもっと転んじゃうものなんですよ。もっと堂々と、胸を張って立ってください。大丈夫。僕を信じて」

 

 言葉は下手だし、励ましているように見えないし、大切な話をしたと思えば余計なことを考えるし、マネージャーとしてもトレーナーとしても下の下。正直そこら辺の一般人に仕事を丸投げした方がマトモな結果を出すだろう。そんな硝太の下手な励ましに有馬は思わずため息が出る。

 

──何が僕を信じて、よ。信じれないから不安なんでしょ。

 

 話が脇道に逸れすぎて結局硝太は頑張ってるから自信持てとしか言ってない。それで納得するわけが無いだろう。なのに有馬の心の中でなにか解決したような気がした。

 

「もういいわ、寝る」

「はい。おやすみなさい。有馬先輩」

 

 聞くにも堪えない話に飽きた有馬は硝太から踵を返して元いた寝室へと足を向ける。当然、一緒に寝る硝太もついてくるがそれ以降硝太は何も言わなかったのは有馬にとって唯一好感が持てるポイントとなった。




ゴキブロスことヒー〇ランのSは調べてみたら意外と早くてびっくり。(正直微妙ではあるけど)お前4倍タイプがメジャーだから使いにくそうな面しておいて最近の環境に割と刺さらない?

っと言うわけで今日は硝太と有馬のお話回でした。こういう仲間を励ましたりするシーンはミヤコさんを強く意識して書いてます。有馬にちょっと言われたぐらいで暗くなっちゃうものの、それでも褒めるところは褒めるを徹底させてます。何年も身内の理解者面してる男ですから、こういうのは得意なんです。きっと


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有馬はナチュラルに硝太を実弟扱いしてると思う
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