【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
JIF前日。B小町は苺プロで寝泊まりすることになった。
一方その頃硝太は4本の手足を吸いつかせて壁や天井を這い回っていた


#34 真面目な奴

「さてさて、やってきました!ジャパンアイドルフェス!」

 

 元気のあるルビーの声と共にJIFことジャパンアイドルフェスの会場が見える。名前を想像した時は東京ドームが会場かと思ったがそんなことはなく母の夢が叶うまでまだ時間がかかることを証明される。しかしルビーやMEMちょにとって夢の舞台。今からでも踊り出してしまいそうな程にはしゃいでいる。隣で日傘の影に隠れているミヤコも楽しそうに口角を上げている。

 

 B小町の出場するのは幾つかあるうちのスターステージ。アイのことを知っている鏑木が便宜したのならメインステージになるかと思いきや地下アイドルが多いスターステージ。一番組プロデューサーでしかない鏑木ではJIFに振るえる権力がそこまである訳では無いらしい。

 それでもその辺のコンサート会場と比べると箱が大きいのは間違いない。名前が売れているのがメンバーのMEMちょ位で事務所の規模もそこまででかくない苺プロのアイドルとして考えると最初の会場にしては大きいことになる。

 

「──本当に、何が狙いだ。あいつ」

 

 JIFに誘致という大きな恩を売るようなことをした割にアクアマリンには挑発的に接している。やることなすこと全てが嘘、という訳ではなく交渉はちゃんと守る。嘘をつかれているなら適当に制裁を与える理由になるが、ちゃんと守っている以上こちらからは何も言えない。

 

──だが、仮にアイさんとアクアマリンとルビー(二人)の関係に気づいたら。余計な口を開く前に鏑木を殺さざるをおえない。無論、それが出来ればの話だが。

 

 物騒なことを考えながらもミヤコの隣で日傘をさしているのが異様に楽しくルビーとMEMちょの楽しそうな笑顔が移ったのか硝太も笑みが零れる。

 

「どうした、硝太」

 

 その笑みに気付いたアクアが後ろからきょとんとした顔で聞いてくる。今のアクアは変装用に硝太と同じようなサングラスに大きめの帽子をつけているが異様に怪しく見える。

 硝太の立ち姿が隙がないことから、硝太の背さえ高ければミヤコがSPを二人もつけている海外セレブに見えただろう。なんてことを思ったがアクアは口を出さないでおいた。

 

「あ!いたいた!MEMちょー!」

 

 そうこうしていると別の方向から少し懐かしい声が聞こえてくる。その声を一番聞いたMEMちょが振り返るとその方向からゆきを始めとしてあかね、ノブユキ、ケンゴと『今ガチ』メンバーがやって来た。ノブユキとケンゴはB小町のダンスと歌を見てもらったので久しぶり、という感じでは無いがゆきとあかねはしばらくあっていなかった分再会に喜んでいるのが見て取れる。

 

「ゆきー!あかねー!あとその他男子」

「その他言うな」

 

 ゆきが声をかけられMEMちょが駆け寄る。数秒遅れてアクアもその後について行き『今ガチ』のメンバーが揃う。

 感情表現が直接的なMEMちょはともかくアクアも表情こそ変えていないものの誰かに言われるまでもなく集まっていることからそれなりに再会に喜んでいることが遠くから見ているだけで伝わる。

 

「呼んだの?」

 

 隣に立つミヤコの言葉に硝太は無言で頷く。正直何日も前から宣伝しているMEMちょの晴れ舞台とあれば呼ばなくても来ただろうが少なくともB小町のライブとの前後には今ガチのメンバーは全員()()()()()()()()()()()()()()。ミヤコの影に隠れながら硝太はサングラスから漏れだしそうな程右目を青く光らせて来た今ガチメンバーを見る。

 

「わー本物だー!可愛いー!」

 

 ミヤコの影に隠れた硝太と何やら気まずそうに離れる有馬とは対照的にルビーがアクアの背中に飛び付いたあと近くにいる今ガチメンバーに話しかける。

 

「改めまして。アクアの妹のルビーです!よろしくお願いします!」

 

 背後につきながら元気なテンションのまま名乗るルビーを見てアクアは黙って見守る。今ガチメンバー、特にゆきとあかねはルビーの姿に硝太を重ねたようで分かりづらそうですぐに分かる変装をしながらミヤコの影に隠れている硝太の方向に目がむく。

 

「あかねさん、お姉ちゃんって呼んでいいですか?」

 

 アクア達から視線を外したあかねにルビーが近づくと少し照れながら「お姉ちゃん」と呼んでいいか聞く。硝太の場合はなし崩し的に姉と呼ばれたが今回妹のルビーにも姉と呼ばれたことでアクアとの交際関係をより強く感じて頬を赤らめる。

 

「私お姉ちゃん欲しかったんです!お兄ちゃんと結婚するんですよね!お姉ちゃんになるんですよね!」

「あっ!そのー」

 

 あかねが戸惑っているのにルビーは構わずグイグイ推していく。前世を含めて姉にはなっても姉がいたことは無かったルビーにとって姉という存在は憧れに近い。姉が増えて喜ぶ硝太に対して初めての姉に喜ぶルビー。新しく出来た2人の甘えん坊弟妹を見てアクアの大変さと包容力が何処から出てきたのかが分かりケンゴはアクアの側まで近寄り耳打ちをする。

 

「…今更だけどルビーって硝太似だな」

「あ、ああ。って言うより硝太がルビー似なんだよ」

 

 ケンゴがルビーを呼び捨てにしていることに疑問を持ちながらもアクアはルビーのやっていることを真似して色んなことを覚えた末弟の方に目を向ける。

 しかし友人と呼んでくれた間柄であろうと久しぶりの相手に踏み込めない為硝太は日傘を持ったままよりミヤコの影に身体を隠す。

 

「あんた、結構友達多いのね」

 

 ルビーとMEMちょが今ガチメンバーの元まで行ったことで手持ち無沙汰になった有馬が恥ずかしがっている硝太に話しかける。有馬が話し相手となったことにルビーとアクアが驚くほどに対人経験に欠けていることを直接聞いた事は無いが、雰囲気から人馴れしていないのはすぐに分かる。今恥ずかしがっているとはいえ、今ガチのメンバーを呼び出せるほどの関係性を築いているのを見てノブユキとケンゴを呼んだのが硝太だったのを思い出して認識を書き換える。

 

「いえ…姉さん達の晴れ舞台だから。色んな人に見て欲しいんです」

「生意気」

「イテ」

 

 少し遠い目で兄姉と友人達が仲良く話しているのを見ている硝太の姿を見て有馬は横から小突く。事務所に入った当初は「お姉ちゃんじゃない」と言い放った有馬だがいつの間にか硝太の姉のような反応をするようになっていた。互いに自覚は無いが姉弟のようなやり取りをミヤコは微笑ましそうに眺めながら硝太の頭に手を乗せる。

 

「もうそろそろ楽屋に入った方がいいわね。ルビーとMEMちょ、呼んできてくれる?」

「ん」

 

 懐かしい友人達と話すのを恥ずかしがる硝太もミヤコからの頼み事とあらばなんでも行う。日傘をミヤコに差し出すと硝太ルビーの場所まで跳び、着地と同時にアクアとルビーの首元に腕を回してぶら下がる。

 

「姉さん、MEMちょ。もうそろそろ楽屋行くよ」

「えーもう?」

「じゃあ俺達はMEMちょ達の出番までそこら辺で時間潰すよ。アクアも来いよ」

「ああ、まぁいいぞ」

 

 どうやら今ガチのメンバーはB小町の出番までその辺で時間を潰すらしい。B小町の出番はスターステージでも後半、18時半にあるので出演するB小町はともかくアクア達が今から準備することは無い。近くには商業施設も多いので時間潰しに困ることは無いのでMEMちょの出番まで皆で遊ぶことにするらしい。アクアも同行するようでスマホで周辺の地図を調べながら話し合いが始まる。

 

「硝太も来るか?」

「……ごめん、ちょっと先約があってね。姉さん達の出番までには戻るよ」

 

 その中でノブユキがひょっこり顔を出してきて誘ってくるが硝太はそれを断りルビーとMEMちょとも別の方向に足を向ける。

 

「硝太、一人でいちゃダメだよ」

 

 そんな硝太の腕をルビーがとる。つい最近硝太は解離性障害による失踪、今ガチを見ていく中で疲れが溜まりあかねの演技を見た事によるパニック障害とおぼしき状態で日帰りとはいえ入院と散々な目にあっている。どちらとも一人でいたか、もしくは一人でいたらもっと酷いことになっていた可能性が高いことでありルビーは硝太が一人にならないように手を握る。

 楽屋ならマネージャーである硝太が入ってきても大した問題では無い。今更異性だからどうとか関係ないし、他のアイドルグループだって男のマネージャーの一人や二人連れてくるだろう。

 

「…ごめん。まだ姉さん達のライブに連れてきたい人がいて、待ち合わせするんだ」

 

 ルビーの頭の中にみなみとフリルの顔が浮かぶ。二人なら硝太を任せることが出来るし、硝太が一人でブラついている危険度もなんとなくわかっているはず。すぐに会えるのならまだ許せる範囲。

 

──だが、硝太はルビーに隠し事をしている。それが今関係することなのか分からないがどうしても怖い。

 

 硝太だって見た目は小学生低学年でも中身は思春期の高校生。ルビーも硝太の隠し事を全て暴く気もないし教えろという気もない。しかし、硝太の隠し事は思春期だからと言って許される範囲をおそらく超えている。

 

「大丈夫。ライブ始まる前に最前列にみんなを連れていくから」

 

 問題ないと笑顔を作る硝太。しかしその笑顔が下手でルビーは余計に心配になってしまう。そんなルビーの手を取ったのはMEMちょだった。ライブ練習の時に硝太と交した言葉からその大切な意味を想像は出来なくてもルビーに隠したいということを知っているMEMちょは大人しく首を横に振ってルビーを連れていく。

 

「ルビー、行くよ」

「…硝太。うん、またね」

「またねー」

 

 MEMちょに引っ張られて楽屋の方へと歩き出すB小町とミヤコ。その背中をしばらく眺めた後硝太は黙ってスマホを取り出すと来た道を戻り始めた。

 

◇◇◇

 ルビー達B小町とも、アクア達今ガチメンバーとも離れ都会のビル群の隙間に入る。日陰でも暑いこの季節、ビルの隙間に人影は無い。しかし気配だけは残っている。人のものではなく殺人鬼のものが。

 

「人払いは済ませましたよ…隠れてないで出てきたらどうです」

 

 ある程度入った後来た道を振り向く。サングラスを外して待つとと隠れる物の多い場所から両手をあげた一人の女性が現れる。

 うさぎ耳のパーカーに目つきの悪い目。威圧的な様子は前に見たときから変わっていない。

 

「お疲れ様です藤波先輩──それで、何しに来たんですか」

 

 藤波木陰。陽東高校普通科二年生の女生徒でインスタントバレットと言われる魔法使いの一人。

 硝太にバレたとはいえその他のメンバー、アイのストーキング対策をちゃんとしているミヤコにすら気付かれずに彼らの後ろにいた事になる。硝太は自分が狙いだとわかっていた為気付いた後先約と言って一度皆と離れることにした。しかし、守るべき母や兄姉の後ろに付かれているのはいい気がするはずもなくその声には多少の苛立ちが見える。

 

「一応お前が()()()()()()()動いてるかの確認だ。」

 

 そんな硝太に対し藤波は悪びれもせずに手元でナイフのような物を遊ばせる。硝太も警戒心は強く持っているがこの前の時のように即迎撃できるような体勢は取っていない。

 

「やれって言うならやります。けど、二度と家族に近づかないで下さい。それが出来ないなら、今ここで。」

「別にお前の家族に興味はねぇよ」

「…そうですか」

 

 今の藤波木陰に殺る気がないと知ると硝太は直ぐに彼女の隣に並ぶ。無言で藤波木陰が差し出したナイフを叩き壊すと顔すら向けず冷たい声で「家族に近づくな」と釘を刺す。藤波木陰から何もしないという言質をとると追求することなくそのまま大通りの方へと行ってしまった。

 

 来た道を戻っていく硝太の後ろ姿を見ながら小さな声で藤波木陰は愚痴を言った。

 

「真面目な奴」




久しぶりのインスタントバレット面子の再登場。ちょこちょこ匂わせる要素こそありましたが本格登場は#16ぶりとなります。
…え?マジかよ。この際ですしかぐや様は告らせたいとか恋愛代行のキャラも出したいですけどかぐや様はともかく恋愛代行のキャラとかどうすればいいんだ?

というわけで高評価、お気に入り登録、感想よろしくお願いします!
さて、硝太は本当に真面目な奴なのか
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