JIF開催
最後の不穏描写?知らんな
藤波木陰から逃げた後、硝太は事前にルビーに言った約束通りライブに呼んだみなみ達との合流を始めた。合流と言ってもやってることはただの待ち合わせ。昼時の東京の街ということもあり人通りが多い道の隅で硝太は帽子を深く被ってまるまる。
「あ、いたいた硝太くん」
そんな硝太の元に最初にやってきたのは寿みなみ。初めてみる私服姿ながらも寿は色んな意味で目立つ硝太に気付いてすぐに声をかける。
寿の服装はイマドキの女子を象徴するようなレースの涼しそうな服で無地のTシャツの硝太とは明らかに違う。
「みなみさんおはよー。結構早いね、まだ1時間はあるよ」
「準備がはよぉ終わってな。せやったら直ぐに合流しようおもて」
硝太はスマホの時計で現時刻を確認して驚く。寿が来た現時刻は硝太が決めなたB小町の観客席に入れる時間から決めた時間より一時間以上早い。
「不知火さんはまだみたいやな」
「そうだね」
寿が来たので硝太は寿を日陰に入れるように誘導して近くの建物の壁にもたれ掛かる。夏の暑さの前では日陰でもそれなりに辛い。
今回硝太が誘ったのは今ガチの四人と友人三人。今ガチを除く三人は事前にルビーとも誘っていること共通認識となっている寿と不知火の二人ともう一人硝太が独自に誘った人物もいる。集合場所と時間は揃えているので近づいてきたら話しかける予定ではあるが来るまでは素直に待つしかない。因みに、友人同士が知り合いですらないことから発生する問題を考慮できるほど硝太は人付き合いの経験はない。
暑さを紛らわすために最近の話、夏休みの話が始まる。グラドルは夏が本番だとか、水着の撮影があったとか。そんな話をしていると話題は自然と今日、JIFに変わっていく。
「他にも人を呼んどるん?」
「まぁね。女性が一人。もうすぐ来ると思うよ…ほら、噂をすれば」
硝太がその人の気配に気付いてその方向を向くと曲がり角の方から女性が出てくる。
それに合わせて硝太が手を振ると、その女性は硝太の存在に気づいてそちらまで走る。印象的な丸眼鏡に硝太に似た茶髪の髪。
「今日決まってるね、頼子ちゃん」
「有馬さんの晴れ舞台って聞いたらね、隣の子はお友達?」
頼子ちゃんこと、吉祥寺頼子は『今日甘』の打ち上げ時のようなまとまっていながらもカジュアルな服装をしている。『今日甘』でヒロイン役をしていた有馬の晴れ舞台、初ライブということもあり呼んでみたが予想通り来てくれた。もし断られたらどうしようかと頭を悩ませたが来てくれて一安心する。
「うん、紹介するよ。友達の寿みなみさん。姉さんのクラスメイトでグラビアアイドルをやってるんだ」
「寿です。よろしくお願いしますー」
吉祥寺の視線が隣にいる寿に向いたのに気付いてみなみを紹介する。因みに吉祥寺は硝太の事をアクアと
みなみが芸能人らしい笑顔で頭を下げる。初めて会う人に対し芸能人としての側面が見えるが学校でも出しているふわふわした綿毛のような気配は変わっていない。入学式でもそうだったので彼女の素がこれなのだろうと硝太は初めて会った時から寿が別人格を被せていないことに安堵した。
「んで、こっちの女性が頼子ちゃん。『今日は甘口で』の作者さん」
「『今日甘』の!?す、すんませんウチ小さい頃読んでました!」
「ありがとうございます」
吉祥寺を紹介すると『今日甘』の作者ということで興奮気味に話しに行く寿。ファンと接する機会が多いのか吉祥寺は大きく驚きもせずに笑顔で返す。『今日甘』自体数年前に完結した作品で硝太はアクアマリンが仕事を受けるからと読んだ作品で根っからのファンという訳では無いがルビーや不知火の反応から『今日甘』の人気の高さを改めて実感する。
「友達呼んでくるとは言ってたけど…お姉さん繋がりなんだね」
「うん」
硝太のことを未だに小学生だと思っている吉祥寺にとって硝太が連れてくる友人、同年代は小学生ばかりで引率の先生代わりをすることになる。と思っていただけに自分で判断できる能力のある女子高生が出てきたことに吉祥寺は「この前も塞ぎ込んでいたみたいだし学校で友達いないのかな」と思いながら硝太の方を少し可哀想なものを見る目で見る。実際高校生になるまで友人には恵まれなかった硝太なので子供の友人などいるはずもないことには気付いていない。
何はともあれ初めて会う二人が仲良くなれそうだと安堵していると背後から感じたことのある気配を感じる。只者ならぬ気配だが、藤波のような人外の領域に足を突っ込んでいるものでは無い。例えるなら光り輝く宝石に厚い布を何枚も被せたような薄く、しかし残るような気配。そんなものが出せるのは硝太が知る中では二人。黒川あかねと──
「や、不知火さん」
話している二人から視線を外して少し離れてから振り返ると一般の人に混ざって日本が誇る美少女マルチタレント不知火フリルが変装をしながらこちらを見ていた。
名前を呼ばれた不知火は周囲の人に気付かれぬまま近くまで歩いてくる。歩き方一つ取っても綺麗に洗礼されている、パリコレモデルですら見劣りするものであるが念入りな変装と一般人という役を羽織っているのかこちらを見る者すら少ない。
「驚かそうと思ったのに、よくわかったね」
近づいてきた不知火は少し残念そうな顔をしながら変装のサングラスを外してこちらの顔色を確認してくる。
それに倣って硝太もサングラスを外してお互いの顔を確認する。特に日本では着用するものの少ないサングラスをつけた男女がサングラスをずらしてお互いの顔を確認するという不思議な光景を作る。
「ふふん、僕の背後を取った程度で驚かそうだなんて1年早いよ」
「意外と行けそうだね」
そう言うと不知火は今度は驚かせて見せるね、と続けそうな笑みを見せる。話し方や態度からクール系な印象は未だに抜けないがその上から面白い発言のする面白系の要素に上書きされていく感覚は彼女のファンでも味わえないものだろう。
「それにしても、すっごい格好だね」
「うん、MEMちょのファンクラブの服買ったんだ」
その要素の一つが今の不知火の格好にある。白の下地にMEMの文字とその上にMEMちょがつけているカチューシャのシルエットがついたTシャツ。帽子にも同じマークがつけてありパッと見ではMEMちょの古参ファンの面白女にしか見えない。出番直前に着替えてくるならともかく会場から離れた場所からMEMちょのファンを公言する格好に流石の硝太も少し引く。
「そっか、不知火さんはMEMちょファンだったね」
「『今ガチ』からだけどね。驚いたよ、斉藤くんのところでアイドルやるって聞いた時は」
「MEMちょは楽しそうにアイドルやってるよ」
MEMちょは夢だったアイドルになれてからはセンターの座こそ逃すも持ち前の器の大きさと柔軟さ、そしてアイドルをやっていて楽しそうな振る舞いで人気を得ている。元々インフルエンサーとして人気だったのもあり、今回のライブはMEMちょのファンが1番多いとアイドルに詳しくない硝太でさえ予想できるほど。
同じドルオタのルビーとも波長が合うのかすぐに仲良くなってB小町に入って数日もする前に馴染んでいた。
「お、不知火さん来てんやん。おはよー」
「おはよう」
硝太と不知火が話しているのに気付いたみなみが学校の時と同じように挨拶をする。因みに不知火の格好についてはスルーを決めたのか硝太のような反応すらしない。
「あ、紹介するよ頼子ちゃん。彼女は不知火フリルさん。みなみさんと同じ姉さんのクラスメイトなんだ」
「不知火…?えっ?ほん、もの?」
「はい」
硝太はみなみに釣られてこちらを見た吉祥寺にみなみの時と同じように不知火を紹介する。しかし同じ学校で一緒に食事をしたり仲良く話していたせいで不知火が今や国民的美少女マルチタレントということが頭から抜け落ちている硝太の紹介は友達自慢でしかない。急に国民的美少女が来たという事実に吉祥寺は驚きのあまり思考を停止する。この時吉祥寺が女子高生のような黄色い悲鳴をあげていなかったのは運がいい。そうでなくとも驚きのあまり大きな声でも出した途端に騒ぎになりかねない。なんて言ってもこれから見に行くJIFに出演するどのアイドルより人気のあるマルチタレントが変装しているとはいえその辺を歩いているのだ。そしてその変装が特定のアイドルを推していることがひと目でわかる、色んな意味で目立つ服装なのだから芸能界に明るくない人物であろうと驚きのあまり思考停止するのは無理もない。
「すみません。私がいるってことは黙って貰えると。あくまで今日は斉藤くんの友達として来ているので」
思考が追いついていない吉祥寺に不知火は先程硝太にやったようにサングラスを少し外して目を見せてお願いをする。動きがかなりこなれているので同じようなことを何度かした事があるのだろう。
「は、はぁ…硝太くん。君って実は凄い子?」
「頼子ちゃんの方が凄いよ」
友人として紹介されたのが二人の女子高生でかつ芸能人、そして片方は国民的美少女。二人共硝太の姉、つまりルビーの友人ではあるものの硝太とも仲がいいことが伺える。同年代とつるむだけの小学生として考えるとかなり珍しい例。出会った当初から芸能人では無いが、芸能界に関わっている子供という認識はあったがそれでも有名人を出されると実は凄い小学生なのでは、と考えてしまうのも無理は無い。
「みんな揃ったみたいだし早く行こ、兄さん達が先についてるかもだし」
硝太が呼んだメンバー全員来ていることを確認してB小町の皆と別れたJIFのライブ会場の方を指差す。
先に別れたアクアマリンを含めた今ガチの五人はその辺で遊んできてから再集合するという話になっている。B小町のライブまでまだ余裕はあるがここにいても何かやることがあるわけでもなし、ライブ会場に集まってアクア達と再合流を早めにしたい。
「せやね、アクアさんたちもおるんやろ?」
「うん」
みなみ達も同じ考えのようで硝太が指で示しただけのJIFのライブ会場へと歩き始める。
「斉藤くん」
四人で歩いている途中、硝太は後ろにいる不知火から声をかけられる。前を歩く吉祥寺と寿の二人が気付いていない、ギリギリ硝太だけに聞こえる声量。そして不知火の声色から他言無用の内容だと硝太は理解する。今二人に聞かれてまずいような話は思いつかないため意図は不明。とりあえず歩くスピードを変えて不知火の隣に並ぶと前を歩く二人との距離を目視で測りながら不知火に無言で耳を貸す。
「今度は何を内緒にしてるの?」
「…」
不知火が腰をかがめながら耳打ちしてきた言葉に硝太は分かりやすくげんなりした表情を見せる。前の二人が気付いていたらその表情から硝太の考えていることを見抜いただろうことを踏まえると不知火の配慮は正解だったことになる。
しかしそんなことにも気づかない硝太は頭を軽く振って言う言葉を考えてから不知火に向き合う。
「一応聞いておくね。いつ気付いた?」
「今日のライブを誘ってくれた時から。斉藤くん、わかりやすすぎるよ」
──結構前じゃん。なら最後まで黙っておいてよ。
硝太は内心でそう愚痴りながら頭を抱える。不知火の言っている隠し事は十中八九MEMちょとMEMちょの言葉を信じるならルビーに隠し事をしていることがバレている内容だ。一応その内容自体がバレていなければ隠し事をしている事がバレるのはどうでもいい。
しかし、不知火には黒川あかねの炎上を収めるために硝太が動いたことをルビーにバレないようにしてもらった仮と硝太の隠し事を暴いた前科がある。MEMちょのように聞き分けは良くない。
「気付かなかったことにしてくれって言っても、君は聞く?」
「わかってきたね、私の事」
満足気に言う不知火に硝太はため息をつきそうになるのを抑える。ため息をついて二人に気づかれてしまえば不知火の配慮が水の泡だ。
不知火は我が強いのか全く引く気を見せない。配慮は行き届いているし愉快犯という訳では決してないが硝太が勝手に動くのを何がなんでも止めようとする意志が汲み取れる。
──覚悟をするべきだな。
今回の隠し事の内容はまだ確定していないとはいえ不知火も
「──ライブの後、時間空いてる?」
「いいね」
頭の中からなんとか出した妥協案に不知火は笑顔で頷いた。
フリルさんはさぁ…硝太のことなんだと思ってるの?
勝手に動いて無理する危ない子?困った、全く否定ができない
それはそれとしてJIFに呼ぶメンバーとして吉祥寺先生こと頼子ちゃん追加!
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増えろ〜増えろ〜増えろ〜