硝太「こい!俺の友達!みなみさん!頼子ちゃん!不知火さん!」
まず初めにJIFは限られたアイドルしか出ることの出来ない、夢の舞台だ。影響力のある大手ならともかく普通のグループなら何年も活動してやっと出れるような舞台であり、出来たばかりのB小町にとっては力不足と言われても仕方がない場所である。
しかしそれでもJIFに出るのはB小町だけでは無い。いくつかのステージに別れて多くのアイドルが出演する。そしてそのアイドル達それぞれに専用の楽屋を用意出来るわけが無い。専用の楽屋があるのなんてそれこそメインステージに立つようなアイドル達のみだろう。ならば他のアイドル達はどうするか、簡単である。大きな楽屋にすし詰め状態となる。
「ちょっと!荷物そっち寄せてよ!」
「誰かライナー持ってない!?」
所々から様々なアイドルやマネージャーの声が聞こえる地獄のような光景にB小町の面々は顔面蒼白、唖然とする。事前にこの事を言っていなかったミヤコはイタズラっ子のような笑みを隠しきれていない。と、いうより隠す気もないのだろう。
こういうところが硝太に引き継がれているのかも、と有馬はしっかり者のミヤコと甘えん坊の硝太の親子の繋がりを意外なところで感じる。
「なんです?これ。とんでもないことになってますけど」
「楽屋よ?硝太を連れてこなくて良かったわ。あの子、こんなところに来たら5分とせずに気分悪くしちゃうから。貴女達も気分悪くなったらすぐ言いなさい」
ミヤコは少しだけ身体を伸ばすとすぐに荷物を置いてB小町の場所を作る。アイがいた旧B小町の頃からマネージャーをしていたのもあってかなり手馴れているようだ。
ミヤコが打ち合わせの為一度抜けるがガヤガヤ騒がしい楽屋は変わらない。その間準備された弁当を食べたりしてるだけで時間はすぐに過ぎていく。
ルビーはいち早く空になった弁当のゴミを捨てに行きながら少し手が空いたので物思いにふける。
アイドルを夢見た前世。病室のベットの隣にある小さなテレビに映るB小町を何度も見ていた。ライブはもちろん、トークだって二時間の傑作集を作ってUSBに纏めた。それを
さりなとして死に、ルビーとして産まれてからの4年間は本当に楽しかった。アイの娘として産まれ推しの子供として生まれて甘えるなんて全オタク、否全人類の夢を叶えた。アイが亡くなった後もアイドルの夢を諦めず、精一杯努力してきた。それが今日、叶う。
「先生ーどう?」
物思いにふけていると、どこかの知らないアイドルがマネージャーだろう男を呼ぶ声が聞こえた。その方向を向くと私達と同じ年頃のアイドルの少女が30代程のメガネの男性に自慢するように衣装を見せていた。ガヤで先生と呼ばれた男の声は聞こえないが男は軽く笑いながらそのアイドルの頭を撫でる。
まるで
「せんせ、来てるかな…」
名前こそ受け継いでいるものの今の衣装は過去のB小町のものとは違う、今にあった衣装でメンバーも当然違う。それでもB小町という名前をゴローが見逃すはずがない。JIFに来る機会さえあれば必ず気付く。
しかしまだ彼がドルオタである保証なんてない。アイはストーカーに刺されて亡くなりその二年後にはB小町も解散。この時点でゴローはドルオタを辞めてしまっても特に不思議では無い。ゴローがドルオタなのはさりながB小町を進めたからであって別のアイドルを推せるか、と言われるとかなり厳しい。何より大きな問題が1つある。
『ゴロー先生は何年か前急に連絡がつかなくなってしまって…』
ゴローがいるであろう前世の自分が亡くなった病院に電話をかけた時帰ってきた答え。他の病院に転勤になった──とかではなく連絡がつかない。つまり失踪してしまったと聞いた時、地獄に落ちたと錯覚した。
しかし考えてみればゴローは女性関係はかなりだらしなかった記憶があるし多分女性トラブルでトンズラこいたのだろう。だとしたら違う場所で元気にやっていると思う。
「…」
嫌なことを思い出してしまったが、頭を振ってその考えを振り払う。弁当を捨て終わりMEMちょと有馬の元まで戻りメイク道具を出す。
メイクをして、衣装を着てライブをする。B小町という名前を使っているのだ。もしかしたら集まってくれる人達の中にゴローの姿があるかもしれない。そう思い続けることにした。
そう考えるとは先程の悪い妄想はどこへやらだんだん楽しくなってきた。裾調整などはしたが、実質今日初めて袖を通すキラキラのかっこいい衣装。
「三人とも、もうそろそろ出番直前よ」
JIFのスタッフと思われる人と話をしていたミヤコが戻ってくる。出番すぐだと数百人の出演者やスタッフを詰め込んだ多頭飼育崩壊を起こしたブリーダーような楽屋から場所を移る。
「うわぁーもうドキドキしてきたー!」
「私もすっごい緊張してきたー!」
MEMちょと一緒に抑えられない興奮を言葉にする。緊張もしてきたが今はそれすら心地いい。
「アンタ達ついさっきまで元気で余裕そうだったのに」
それに対しすぐに荷物を持って移動の準備を終えた有馬は平然としている。流石、哺乳瓶吸ってる頃から芸能界にいると自称するだけの事はある。
「ついでに硝太達の方も見てきたけどあの子、結構人連れて来てたわよ」
移動を始めると同時にミヤコが嬉しそうに硝太の事を話題に出す。アクアは今ガチの人達と遊びに行ってから来るが硝太だけ一人で行動していたのでミヤコも心配だったのだろう。
つい最近失踪したり、パニック障害を引き起こしたような子がまた一人で行動するとなれば当然心配だろう。しかしその声色から硝太の無事が分かりルビーも胸を撫で下ろす。
「硝太がそんなに沢山の人に声かけるなんて」
「私も驚いたわ。あの子も、やっと人に馴染めるようになったってことかしら」
アクアほどでは無いが闇系でコミュ障の硝太がそんなにすぐ友達を作ったというのは信じられないが今ガチの人達とも付き合いが長い訳でもないのに仲が良さそうだったので硝太なりに人に馴染もうと頑張っている、と思うと姉として喜ぶルビーの顔がニヤける。
「あの子そういうとこあるわよね…」
対して有馬は「世話がやける」とでも言いたそうに形だけため息をつく。硝太なりにB小町のライブを祝福しているのだろう。これが僕の姉達だ!と自慢しているようにも受け取れる。お節介にも思えるがその気持ちは素直に嬉しい。
楽屋の移動を済ませメイクと衣装の着用を行う。初めて着る衣装はフワフワしていてまるで一国のお姫様になったような気分にさせられる。大まかな基本だけ保持してアクセサリー等はそれぞれの個性が出るように頼んだ。
先に衣装を着終えたルビーが呼吸を整えてステージ袖から観客席を覗く。そこには楽屋に入る前に見かけたアクアやあかね達の『今ガチ』メンバー、硝太が事前に誘っていたみなみとフリル。他にも病院で硝太と仲良く話していた大人の女性に事務所の人を始めとした硝太やアクア達が呼んできた人達はもちろん多くの人達が狭い観客席を埋めつくしている。閑古鳥が鳴く、なんてことはこの時点でなくなった。
──その中にルビーが見知った医者の姿は無い。少し寂しいが、これからの活躍こそが本命だったのでそれでいい。
人が集まった場所が苦手な硝太もお気に入りの帽子を深めに被りサングラスをつけたままぼーっとステージを眺めている。視線に気付いたのか顔を輝かせると手を振ってきた。手を振るのが早すぎて少し早めにサイリウムがついた。
他の観客に気付かせてしまうなんて考えていない無邪気な硝太をみなみちゃんが落ち着かせている。
「さて、私は舞台裏から見てるから」
「はーい」
ミヤコはステージ袖から見守ることにするらしい。後方彼氏面ならぬ広報母親面だ。実際にそうなので何も言えない。
「B小町さん、どうぞ」
奥からスタッフが開始の合図を告げにやってくる。ここから始まる私達のアイドル。スタッフの人達も他のアイドルと同じように流していくのも今だけ、B小町はドームでライブできるぐらい凄いアイドルになってアイの夢、そしてみんなの夢を叶える。
「はい!」
三人同時にステージに駆け出す。誰が前とか最初とかは無い、三人一緒。これはセンターが決まった後三人で決めたことだ。センターという象徴はいてもこの3人に優劣は存在しない。この三人で新生B小町。
登場と共に観客席からMEMちょを呼ぶ声が聞こえる。インフルエンサーのMEMちょは当然ながら3人の中で最もファンが多い。ついているサイリウムの色もほとんどがMEMちょの色である黄色だ。しかしポツポツと光る赤のサイリウムも目立つ。
ステージ中央に立ち三人で並ぶと最初の曲が流れる。センターとして立つルビーは楽屋にいた頃から貯めていた興奮が溢れ出すように身体が熱くなる。ダンスも歌も既に身体に刻み込まれているため特に意識するところは無い。むしろアイドルとして立てる興奮と嬉しい気持ちと気持ちが強すぎて倒れそうになるのを踏ん張ることに意識が向く。
「姉さーん!!」
登場と共にサングラスを外したのだろう、硝太が一際大きい声で赤色のサイリウムを振る。オタ芸のつもりなのだろう。某カレー好きの代行者のように指の間に赤く光るサイリウムを挟みめちゃめちゃくちゃに振っている。オタ芸として、というよりダンスとして下手な割に動きのキレだけは恐ろしく良く武芸の達人すら裸足で逃げ出すほどに冴えている。それほどの動きをしていながらこっちのダンスと歌を見聞きすることに神経を集中させているのかずっとこっちを見てくる。早すぎて分身しているように見えるのは目の錯覚だろう。その隣にいるみなみ達がそれを見て必死に笑いを堪えている。アクアも自己主張が激しくイケメンフェイスで澄ましたまま箱推しを明言する三色のサイリウムを持って同じくキレッキレのオタ芸を踊っている。こちらはキレも良くオタ芸として完成されている。アイのいた頃のB小町にオタ芸をしているところは見たがまだ忘れていなかったようだ。
──私の兄弟、目立つなぁ。
二人とも別方向に突き抜けているためファン達も横目で見て驚いている。おそらく今日か明日のXで何人かが呟くことだろう。
硝太の意味不明な動きに影響されたのか、赤いサイリウムの数がどんどん増えていく。そのサイリウムに影響されて動きがどんどん良くなっていくのをルビー自身も肌で感じる。
凄く気持ちがいい。さりなとしての12年。ルビーとしての16年が今この瞬間に集約されている。
最初の曲が終わる頃にはB小町の三人も観客席も今日最大の盛り上がりを見せていた。最初は少なかった白色のサイリウムも点々と光り、その存在感を見せつける。
「次はみんなお待ちかねの大ヒットソング!『サインはB』!」
センターのルビーが二曲目のタイトルを言う。三人で組み始めた時はカラオケで43点という誰もが認める音痴だったルビーも今となっては安定して80点以上を取れるほどになった。実質ケンゴが付きっきりだっただけあり、目覚しい成長を遂げている。B小町の曲だけに搾った結果なのでそれ以外は未だに壊滅的なのだが、今はいい。
今のこの瞬間。世界中で最も輝いているのはこの三人なのだから。
「ア・ナ・タのアイドル〜サインはB!」
最後のキメまで完全に決まる。センターの立つ中央でライトに照らされながらルビーは観客席にいる笑顔の観客を見て大きな達成感を得る。
──今の私、アイみたい。そう思ったのと同時いつまでもオタ芸を続けている硝太の影に夢にも望んだ白衣の男性の影がチラリと見えた。時間にしてほんの2、3秒。単なる見間違いかもしれないし、そもそも影しか見えなかったので人違いかもしれない。それでもルビーはその姿を見れたことがJIF成功の一番の報酬のように思えた。
JIFのルビー視点!ずっとこれが見たかった!…まぁなかったので自分で書いたんですけどね。
原作にあるストーリー+オリキャラ無しという原作丸写しになりそうな展開を視点の変化で乗り切る!今後は裏方のミヤコさん(ともしかしたら吉原)がひたすら頑張るだけの章とかあるかもしれない…無いかもしれない
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