B小町の初ライブは成功。
今回はその裏側っす
B小町ライブの直前。時間潰し代わりに5人で遊んでいた今ガチのメンバーは最初に集まった会場近くに来た。そこには出番を終え、帰宅を始める他のアイドルやこれから出番のアイドル達の多くのファン達、そして道を外れた場所に硝太達が揃っていた。
「あ、いたいた。兄さんー」
硝太の周りには三人の女性が立っており全員の知り合いであるアクアは思わず眉を細める。
一人目はピンク色の髪に胸の大きいグラビアアイドル。硝太にとって人生初めての友人の寿みなみさん。
二人目は黒い髪をたなびかせている国民的美少女。変装はしているもののそのオーラは隠しきれていない。不知火フリルさん。着ているTシャツの柄がMEMちょの角っぽいカチューシャなのは変装の一環だろう。
この2人はまだわかる。硝太の数少ない友人で同時にルビーの友人でクラスメイトでもある。昼休憩時には硝太が毎日のように芸能科へと行って食事するほどの仲だ。連絡先の交換もしているだろうしルビーの初ライブとテンションが上がっている硝太が誘うのは自然。不知火は特に忙しい中呼びつけていそうだが、それは個人的な問題であってアクアもそこまで追求する気は無い。問題はもう一人。
特徴的な丸眼鏡にふわふわした雰囲気を持った少女漫画家。吉祥寺頼子。いつの間に連絡先を交換したのかは分からないが
──とりあえず話したことあるメンバー全員呼ぶのかよ、お前。
いくら友人が少ないとはいえ繋がっている訳でもない話し相手、というより話が成立する人を全員読んでくる硝太の勢いにアクアは目を細める。寿と不知火のような元から友人関係を築いているのならいいが硝太の行動は小学生の頃の友人と
「硝太」
「みなみさん達呼んできた。姉さん達の晴れ舞台だしね」
硝太が手を振って来たのでその場所に集まる。一度別れる前はルビーが心配そうにしていたがその心配が嘘のように余裕そうにしている。
「アクアさんお久しぶりですー」
「お久しぶりです」
硝太の後ろから吉祥寺達も集まってきて総勢9人の集まりとなる。アイドルファンの集まりとしてはそれなりに多い。最初は硝太と二人で並んで応援するつもりだったアクアにとっては意外ではあるが9人という人数に囲まれても特に気分を悪くしていない硝太を見て安心する。思い出してみれば『今日甘』と『今ガチ』の打ち上げにもついてきたが特に気分を悪くして倒れたりすることは無かった。飯など別のことに集中するか慣れた人間で囲めば気分を悪くすることは無いようだ。
「集まったみたいだし行くか」
「そうだね。あっ、みんな!サイリウムは持った?」
ライブ会場に行く前に、硝太はバックから液体の入ったプラスチックの棒を取り出す。サイリウム、ケミカルライトとも言われるその棒は内部のガラス管を折って割ることで2種類の薬剤が混ざり光る棒だ。使い捨てだが安価でありアイドルのライブによく使われる物だ。硝太は姉のルビーの色の赤色のサイリウムを6本、指の間に挟んで持っている。少し特殊な持ち方も硝太がやっているとどっかの武器を持っているように見えてしまう。
硝太の持ち方はさておき、サイリウム自体はアイドルのライブに行くというのなら誰しもが持っている代表的なアイテムだろう。
「まぁ、一応」
硝太に言われてアクアは懐から三本のサイリウムを取り出す。ルビーの赤色、MEMちょの黄色、そして殺す有馬の白色。合計三色のB小町全員のサイリウム。細かく言うと硝太が持っているような使い捨てのサイリウムとは違い、電池式のペンライトなのだが、両者には繰り返し使えるか否か程度しか違いは無い。
それを見て硝太の顔色が一瞬で変わる。
「兄さん何それ、三色全部とかズルじゃん!」
箱推しという文化を知らない硝太が音も立てずに一瞬で背中に周り腕を回しながらポカポカと叩いてくる。当選ただ遊んでるだけなので痛くない程度には抑えられているがギャグのような音だけは鳴っている。
「ズルじゃねーよ。そんなに言うならお前も次からそうすればいい」
「次、次かぁ。…うん、そうだね」
少し寂しそうな目をする硝太。そんなにやりたいなら今からでも白と黄色のサイリウムを買えばできる話だろうに、硝太は行動に移すことはなく大人しくなる。
「もうそろそろ始まる。行くぞ」
「そーだね」
他の人達もそれぞれサイリウムを持っているのを見て硝太は覚悟を決めた様子でヘッドフォンを外して代わりに取り出した帽子を深く被る。
アクアはゴローの頃の経験があるので慣れたものだが硝太にとっては人生初めてのライブ。ルビー達同様緊張しているのだろう。その新鮮さが見ていて面白い。他の人達もライブ楽しみにしているのを見てアクアは思わず張り詰めていた緊張を解き少し満足気なため息が出た。
◇◇◇
アクア達はB小町の前の他のアイドルのライブを見終わったファン達の隙間を歩きながら観客席の一番前に陣取る。最初に動き出したからか、タイミングよくステージと目の鼻の先という近距離につけた。そこまでは良かったのだが、ファンの数が多いからか硝太が顔色を悪くする。普段から外に出る時と同じように余計な情報を入れないサングラスとヘッドフォンをしているが人が多すぎるからかそれでも気分を悪くするほどのファンの数。インフルエンサーのMEMちょがいるからと言っても始まってからまだ数ヶ月のアイドルグループとして考えると異例と言ってもいい数である。
「う゛ー」
「斉藤くん、人酔いしやすいってホントだったんだ」
小さく呻き声をあげる硝太の隣に立ったフリルは硝太の顔を覗き込みながらペンライトの電源をつける。
実は今ガチからMEMちょ推しな不知火フリルのペンライトの色は黄色。アクアは変装の一環として触れなかったがMEMちょの角のようなカチューシャが描かれたTシャツ等々、かなりはっちゃけた服装をしている。サングラスなどで顔が分からないようにもしているのもあって声を聞かないと誰だかすらわからない。実際、クラスメイトのみなみと友人の硝太、アクア以外は不知火の正体に気づいていない。こんなところに不知火フリルがいる、となったら大騒ぎなのでそれが一番都合がいいのだが。それはそれとして不知火が芸能人として作っているキャラを壊しに来ているような変装にはアクアも引く。
「大丈夫なの?」
「硝太の事だしほっとけば治る」
「前から思ってたけど弟の扱い雑だな…」
面白いことになりながらも硝太の隣にいる不知火に対し、硝太が人酔いすることを知らない今ガチのメンバーが詳しそうなアクアの周りに集まって心配している。しかしアクアからすればほっとけば治るものなので特に心配はしていない。B小町のライブが始まればそちらに熱中するだろうしそれまでなら特に問題になるような行動もしない。何より、これぐらい耐えなければ今後B小町がもっと大きなハコでライブをした時、例えばドームでライブをした時に大変なことになる。
硝太自身もそれは分かっているようでステージ袖を向くと手を大きく振ってサイリウムの光をつける。始めてサイリウムを握るとは思えない無駄のないスマートな動きには正直に驚くがそれよりも硝太のサイリウムの持ち方を見て(おそらく世代の)吉祥寺が吹き出す。
親指を除く指の間にそれぞれ1本ずつサイリウムを入れて持つことで一人で六本のサイリウムを光らせている。その為硝太の周りだけ異様に明るい。そのサイリウムが全て赤、ルビーの色なのだからシスコンここに極まれり、といった様子だ。
しばらく待っていると「B小町の皆さんです」とライブの関係者が紹介する。B小町の三人がステージ袖から三人同時に出てくる。センターのルビーが目立つタイミングで出る、ということではなく三人一緒でB小町だと決めた三人で考えた登場。B小町の中でも人気のあるMEMちょの黄色のサイリウムが一斉に振られ観客席が黄色に染まる。
天才子役に元が付けられてしまう有馬と芸能人としての経験が実質ゼロのルビーと比べたら当然MEMちょが一番人気。MEMちょが手を振った方向のサイリウムがより激しく振られる。
「姉さーん」
その数に負けないようにと考えているのか、周りのオタ芸を見様見真似で模倣しながら行う硝太。下手なクセに無駄にキレがいいので目に入るみなみ達は笑いを堪えており、名前を呼ばれたルビーはもう笑っている。歌やダンスに支障が出ていないのは奇跡としか言いようがない。
なんか増えてるように見えるのは見間違いだろう、とアクアは考えないことにした。
「アクアくん?」
アクアも三色のペンライトをつけると澄ました顔のままオタ芸を始める。
目立つ兄弟のオタ芸に影響を受けたのかルビーの様子が少し変わる。動きは最初からいい、歌もダンスも最初から完璧にこなしているはずなのに、明確に何かが変わった。オーラというか、気配というか。言葉にすることは誰にも出来ないがその場にいる全ての人の目線を集める。
「凄い…」
誰かが呆然としながらつぶやく。事務所の人間が仕組んだような計算高さはなく、歌もかなり改善されたとはいえ隣にいる有馬と比べるとどうしても見劣りする。それでもルビーはこの時間帯、世界の誰よりも輝いていた。何処か遠くにいる誰かに届けるような歌とダンスは別ステージでライブをしている有名アイドルグループですら霞んでしまうに輝いている。
最後の決めポーズを行う三人。肩で呼吸しながらも三人がみせている表情は今日一番のものだった。
ルビーすら自覚していなかったアイドルとしての才覚。
それを肌で感じるアクア。
一方その頃硝太はサイリウムを両手に下手なオタ芸をしていた
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