【硝子玉の子】   作:みっつ─

48 / 149
前回のあらすじ
B小町のライブでルビーは覚醒した。
アクアは箱推しの三色のサイリウムを持ってすました顔でオタ芸を踊った。
誰もがルビーに目を奪われる中硝太は寝惚けた分身をしていた


#38 別離

ライブ後。

 

「みんなー!お疲れ様ー!」

 

 明るく照らされてキラキラしていたステージから降り、楽屋で着替えを終えた三人に一番最初に会いに来たのはマネージャーの硝太だった。楽屋の出入口にいたのだろう。サングラスと帽子、ヘッドフォンといつもの不審者スタイルながらその顔は今までに見た事のない満面の笑み。

 両手を大きく広げて跳んできた硝太をルビーが勢いをつけて抱きしめる。硝太の勢いが強くルビーは硝太を抱き締めると硝太の身体が少し浮き、その場でぐるぐる回る。ライブ後の疲れた状態でも成人男性に近い体重の硝太を勢いをつけているとはいえひょいと抱き上げ、笑顔を崩さないルビーの姉としての底力を感じる。

 

「みんなね、すっごいキラキラしていて、踊りも歌も1番上手くなってたよ!」

「やっぱりねー、私もそう思った!」

 

 回転が収まると硝太が初めてのアイドルのライブに興奮したのか語彙力が追いつかない状態で何とか褒めている。こういうところは見た目通りの可愛らしい子供に見える。その様子を見て精神年齢は肉体に引っ張られる、と誰かが言っていたことを思い出す。その理論に当てはめるとある時からほとんど成長しない硝太の場合、あの時から精神年齢がほとんど変わっていないと言える。普段はアクアやルビーを見習って大人らしくしているのだろうがこういう場面では根の子供っぽい一面が見える。

 そこに待ちくたびれた様子のアクアも歩いてくる。おそらく今ガチのメンバー、特に恋人のあかねと今後の事などを話していたのだろう。遠くの方ではアクアと硝太が連れてきた今ガチのメンバーや不知火達がいる。『今ガチ』の4人はアクアがいなくなったことでお開きになったのかこちらに手を振って帰ろうとしている。

 

「お疲れ」

「えへへーどうだった?」

 

 抱っこしていた硝太を下ろしてミヤコさんの方に行かせたルビーはアクアの方に駆け寄る。硝太と比べて落ち着いているアクアだがライブ中は決まったオタ芸で硝太以上に目立っていたのを見るとそれなりにライブは楽しんでもらえたようでルビーもニヤケながらアクアを軽くつく。

 アイの死後変わってしまったアクアもこういう時は昔の通りに戻ってる。ルビーもアクアが元々ドルオタ、というよりアイのオタク、B小町のオタクなことは知っている。なので意識的なものではなく、新生B小町でアイの面影のあるルビーがステージで歌って踊るのを見て幸せな頃を思い出したのだろうと考えて嬉しくなる。

 

──アクアのこういうところ、なんかせんせと似てるなぁ。二人は似たもの同士で仲良くなれそう。

 

 いつかアクアと彼にとって年齢が一回りも二回りも上の弟になるであろうゴローの関係を考える。さりなとしてしか会えていないゴローは今回のライブでは少し影が見えた程度。見間違いかもしれないが、ルビーはゴロー確実にいたと感じた。アイと同じ名前のB小町のライブを見てくれたのだ。これから推してもらえれば握手会とかで直接会える機会も生まれるだろう。その時に言うんだ。「私はさりなだ」と。

 それからのことを考えると硝太とは仲良くなれるか不安だがアクアとは仲良くなれそうで安心する。やはり家族になるのだからみんな仲良くが1番である。

 

「まぁ、初めにしてはよくやった方じゃないか?」

 

 ルビーが新しい家族になるかもしれない男の妄想をしているとはいざ知らず、アクアは聞かれたライブの内容を思い出してぶっきらぼうに言う。

 

──全く。素直では無い兄を持つと妹は苦労するよ。

 

 反感を抱かれやすい言い方だがルビーはニヤニヤしながらアクアをもう一度つつく。

 

「何それ。もっと褒めなさいよ」

「それは出来ない。ルビー達はこれからもっとすごいライブをやれるだろうし。それを考えたらここで高得点を出すのはもったいない」

 

 そんなアクアの返答に対していつの間にかルビーの横に並んでいた有馬が文句を言う。が、即座にアクアが食い気味で『次』のステージ、『次』のライブの話をする。

 そう、B小町のライブはこれで終わりでは無い。むしろこれからだ。これからもっと大きなハコでライブをしたり今回のような合同ライブでは無い単独ライブもできるようになる。これからアイドルとして力をもっと伸ばしていつかはドームでライブをするようなアイドルになるのだからここで満足はできない。

 

「そうだよ!私たちはドームをサイリウムで埋めつくすアイドルになるんだから!ね、MEMちょ」

「ド、ドーム!?そ、そうだよね。アイのいた頃のB小町はドーム直前まで行ったもん。私達もそこまで頑張ろう」

「おー!」

 

 MEMちょにはドームの夢は言っていなかったが流石ドルオタのアイドル。すぐにB小町がアイの死の直前までドームライブを計画されていたことを思い出してB小町の目標をドームライブとすることに賛成してくれた。

 その難易度の高さを知っている有馬は少し引いてはいるが明確に否定することはせずに諦めたように頷く。

 

「じゃあとりあえず今日は帰ろっ!硝太ー」

 

 これからのB小町にワクワクしながらも今日はJIFという大きな箱での初めてのステージに疲れたのは誤魔化せない。早く帰ってお風呂に入って寝たい。

 硝太もそれを理解しているからか目にも止まらぬスピードでこちらに来る。硝太はあれだけ動いたのに全く疲れが見えないのは超人的なスタミナを持っているとしか思えない。

 しかし近づいてきた硝太は少し気まずげに首を横に振った。

 

「先に行ってて。僕はちょっと用事があるから」

 

 硝太の言う用事というのは呼んできた『今ガチ』のメンバーや不知火たちのことだろうか。別に彼らも子供ではないしここで解散、としてもいいはず。実際もう帰り始めている。だが硝太はそれを許さないだろう。呼んだのだから最後まで見送るべきだ、と言い切っても不思議じゃない。特に硝太は有馬達が夜道を一人で歩くだけでも反対して送ろうとしたぐらいだ。なんなら全員背負ってそれぞれの自宅まで走るなんてことをしかねない。

 

「なら私達も──」

「駄目。みんな疲れてるでしょ。大丈夫、()()()()()()()()()

 

 MEMちょがみんなで送ろうと言ったがそれも硝太が遮って先に行くように促す。確かに硝太の足ならここから自宅まで帰るのに特に問題は無いだろう。別に硝太も極度の方向音痴という訳では無いので放っておいても一人で帰って来れる。

 その筈だ。その筈なのに。

 ルビーは硝太をこれ以上行かせてはならないような気がした。特に理由は無い。つけようと思えばいくらでもつけられるがそういう意味ではなくもっと第六感的なものが硝太を心配している。まるでこれ以上硝太を行かせたら二度と硝太と会えなくなるような気がした。

 

「硝太──」

「みんな、キラキラしてて可愛くて、凄かったよ。アイドルとかオタクとかそういうのよくわかんないけど多分これが『推し』って言うんだろうね。うん、みんなが僕の『推し』だ。これ言葉は絶対、嘘じゃない」

「───だめ

 

 硝太を止めようとしたルビーだったが直後に硝太に抱きつかれる。感情が溢れ出してしまったのだろう。ルビーに抱きつきに行くことは別に少なくない硝太だが、抱きつかれたルビーは先程感じた第六感的な心配が確信に変わっていく。血がつながっていないはずの弟と亡き母の姿がルビーの中で一致した。

 硝太は言いたいことだけ言うと腕を解いて大きく一歩下がる。硝太の小さな足での1歩分なんてすぐに詰められるはずの距離が、この時点のルビーにとっては何よりも遠く感じた。

 

「じゃあ、お母さんには言っといて!僕は大丈夫だから!」

「行くならさっさと行きなさい」

「またねー硝ちゃん」

 

 有馬とMEMちょに手を振られ硝太はその場から駆け出していく。遠ざかっていく弟の背中をルビーはただ見守ることしか出来なかった。

 

「硝太」

 

 

◇◇◇

 

 硝太が一人離れた後ミヤコの運転で有馬とMEMちょを自宅近くで下ろし自宅へと帰る。その間はライブの疲れか皆何かを話そうとすることすらせず黙っていた。直前の硝太の動きを心配したルビーですらも疲労には抗えず目を閉じて眠ってしまう。自宅兼苺プロの事務所に戻った後アクアに起こされる。

 

「おいルビー、起きろ」

「お兄ちゃん?…硝太は?」

 

 アクアに起こされたルビーは寝起きの状態で近くの座席に手をやって甘えん坊の弟を探す。しかし座席のどこを触っても赤ちゃんみたいな肌をした末っ子は見つからない。

 

「寝るならせめてメイク落としてシャワー浴びてからにしろ。硝太はみんなを送りながら一緒に帰るって言ってた」

「大丈夫かな、一人にしちゃって」

「硝太だってガキじゃないんだ。最悪ミヤコさんに連絡をよこすぐらいはする」

 

 アクアの最もな言い分にルビーは一先ず頷く。見た目は小学生な末っ子も中身は高校生。一人で帰ってくるぐらいのことは出来るだろう。人が集まるところが苦手なため電車は極力使わないが、使えない訳でもないので友達と一緒に乗って帰ってくるかもしれないし、最悪走って帰ってくる。それも出来なければミヤコさんに連絡するだろう。その判断もできないほど馬鹿な子では無い。なんならみなみちゃん辺りが心配して一緒に帰ってきてくれるかもしれない。

 車から降りて三人で玄関から自宅に入る。帰ってすぐ仕事を始めるためにパソコンを起動するミヤコを見ながらアクアとルビーの二人はリビングの椅子に座って向かい合う。

 

「そうだね。んー今回盛り上がってたしこれから私たちソロライブとかできるかも!」

 

 ルビーは椅子に座って休んでいると胸の奥で何か引っ掛かりを感じたが、大丈夫だろうと考え、『次』に視点を移す。JIF程大きなライブをするのはすぐには厳しいだろうが、他の地下アイドル等のアイドルより盛り上がっていたので大きな会場でなければソロライブも出来るかもしれない。

 

「その前に宿題がある。どうせライブの練習で手をつけてすらいなかったんだろ?」

「今楽しいところなんだから、それは言わないでよお兄ちゃん」

 

 JIF成功をきっかけに夢が膨れ上がる『次』を見ているルビーに対しアクアは現実的な『次』である夏休みの宿題を提示する。アクアの言う通り、ルビーはJIFのレッスンで夏休みの宿題に手をつけていない。陽東高校は進学校では無いため相当数の宿題に追われる、なんてことは無いがそれでも中学生の頃と比べると目に見えて増えている課題は並べるだけでうんざりする。

 芸能科の他のクラスメイトも仕事をしながら宿題をするのだから大変だ。特にフリルのような売れっ子のタレントはやっている時間なんてほとんどないだろう。

 

「あーあ、お兄ちゃん宿題手伝ってー」

「まだ夏休み前半なんだから巻き返せるだろ」

「そうはいかないよ。硝太がすーぐYou〇ubeのコラボ動画の予定入れちゃったし」

 

 夏休みの宿題を貯めるタイプのルビーは毎年夏休み後半、具体的に言うと最後の一週間に先に終わらせているアクアと硝太を加えた三人掛りで宿題を終わらせている。今年もそうなりそうな気もするがまだ夏休み前半というアクアの言い分も間違っていない。

 何はともあれ今日ライブで疲れたルビーに宿題をやらせようとするほどアクアも鬼では無い。今日はもう汗を流して寝かせるべきだろう。そう思ったアクアは風呂洗いの為に席を外す。

 

 それから数分後、アクアが戻ってくるより先にミヤコの携帯から着信音が鳴った。硝太が一人で迷子にでもなって連絡してきたのだろうか。そう思ったルビーはミヤコの元に無言で駆け寄る。

 それに対してミヤコはスマホから電話を流しに来た相手を確認すると表情が固まる。

 

「ミヤコさん?」

 

 硝太からかけてきたのなら呆れ顔か困ったような顔をすると思っていたルビーの想像からは外れ深刻そうな表情をした為ルビーは心配そうにミヤコの表情を再確認する。しかしミヤコはそれより早くスマホを引っ込めるともう一度相手の番号を確認すると席を外して電話をとる。

 

「大丈夫。──もしもし、斉藤です。…はい、そうですが。はい───え」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながらその場で止まるミヤコ。それだけでルビーは硝太が離れる前に感じた嫌な予感が再び襲ってくるのを感じる。

 

「どうしたの?」

 

 嫌な予感を感じたルビーが近付くとミヤコはスマホを握る手を震わせながら通話を再開する。急に呼吸が安定しなくなってきたのが近くで見ているだけのルビーにもわかった。

 

「はい、もしもし。すみません。その、本当なんですか?硝太が───はい。わかりました。直ぐに行きます。はい、失礼します」

 

 通話が終わり、ミヤコはスマホを机の上に置くと、頭を抱えてその場で崩れ落ちてしまう。呼吸は荒く、電話をしていた時間は数分にも満たないだろうに真夏の太陽の下に何時間もいたのではと思うほどの汗を流している。たった一本の通話でこれだけミヤコの余裕が無くなるなんて普通ならありえない。演技では無い素で心神喪失手前まで追い込まれている。

 ミヤコは電話中、硝太の名前を言った。そのことからルビーは最悪の予感が当たったことを感じながらミヤコの前に立つ。

 

「ねぇ、ミヤコさん。硝太が、どうしたの?」

 

 震える声でミヤコに問いかける。ただ迷子になったとかその程度ならどれだけいいことか。そう思いながらミヤコの肩を掴む。

 しかし現実は非情なもので今にも泣き出しそうな声でミヤコは硝太の状態を告げる。

 

「──硝太が刺されて今、危険な状態って」

 

 その瞬間、ルビーは自分が地獄に落ちたように錯覚した。




原作沿いの物語は一先ず中断。次回からはオリジナル展開となります。原作で言うと四巻から五巻の間の四ヶ月の物語。
硝太を刺したのは誰か、何故硝太が襲われたのか。そして、硝太は無事なのか。

これからの展開を楽しみに!
感想、高評価、お気に入り登録を忘れる前によろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。