昼放課の時間、久しぶりに芸能科に行こうとした硝太の前に威圧的な二年生、藤波木陰が現れる。インスタントバレットという名の魔法使いの一人と言う彼女に連れられた硝太は誰の目にもつかない物置部屋まで呼び出される。
しかしその中に入るとそこは物置部屋ではなく物置部屋の扉と繋がった異空間だった。そこにいた諸木亮太という男と藤波木陰に硝太は驚きの事実を告げられる。
──未来をみるインスタントバレットという能力のこと。完璧であるはずの未来視のインスタントバレットで見た過去で硝太は既に死んでいることを。
──死んでこい、お前。
冗談を除けば普通の女子高生が言わないような衝撃的な言葉に納得しながらここまでの状況を振り返る。
有馬曰くクスリの売人だったと日本の芸能科のある学校とは思えないほど相当危険な噂を持つ女子生徒、藤波木陰に
諸木との挨拶もそこそこに藤波が言ったのは決定論を前提とした未来視のインスタントバレットの存在。初めから筋道がマクロな世界に限らずミクロなかさ世界で見てもあらゆる現象を見て当てるさことの出来るという言葉にすれば強いが考えてみると見た未来はあらゆる方法を使っても変えられないという決定論は自分に損害がある未来を見たとしてもそれを変えられない大きなデメリットが付きまとう。変えられない未来ほど残酷なものは無いだろう。見ても見なくても変わらないのなら、その能力に意味があるのかすら疑ってしまう。しかし藤波曰くそれに例外があった。それは旧B小町のセンター、アイさんの死を見た時のこと。アイの死は未来で見た通りだったがその場にはもう一人死んでいた人物がいた。それが斉藤硝太だと藤波は言った。
「なるほど。そんなに未来視のバグは許せませんか」
袖首に隠したシャーペンの感触を確認しながら二人の目線を確認する。藤波と諸木の二人は視界に入っており、ほかの仲間がいるような様子は見られない。二人とも何をしてきてもおかしくない状況かつ、こちらの手札はバレてる。その上この場は相手のホームグラウンドと最低の状況が揃っているが別に勝てない相手では無い。
この空間が諸木のインスタントバレットで作ったという言葉を信用するならここでは何が起こってもおかしくない。本当なら諸木を初撃で仕留めたいが諸木の死亡後この空間が維持できる保証は無い。諸木の機嫌次第で消されてしまう可能性もある。藤波を無力化してから諸木を何とかするしかない。そう思うこちらの動きに対応するように藤波は無言で巨木に手を伸ばす。得物にするのか、魔法の発動に使うのか、考えられる行動は多くて絞りきれない。
──なら、何かをする前に脳を潰す。
「ちょっと待てって!木陰ちゃんも!」
ただならぬ雰囲気を感じた諸木が間に入って止める。普通の人間と外れた能力を持ちながらも少なくとも諸木に殺し合いをする気は無いようだ。
「別に殺り合う気はねぇよ」
「じゃあなんでそんなこと言ったんだよ」
「こ、こいつが死ぬことにはなんの代わりもねぇだろ」
「それを避けられるかもしれないから魔女さんは言ったんじゃないか」
「あの子はそんなの望んでないよ」
諸木には強く言えないらしい藤波は少し押されながらも再びソファに座らせられる。二人の口調や態度からアクアマリンとルビーの関係性が見えてくる。きっとこの二人は本当の家族のような関係でここは彼らにとっての家なのだろう。
しかし硝太はそれより諸木の言った言葉が気になった。『それを避けられるかもしれない』というのは理由はどうあれ、死ぬはずだった斉藤硝太という人間が今も生きていることから未来視の結果をまた切り替えることになるのも不思議では無い。未来視のインスタントバレットが再び斉藤硝太の死の未来を見たのなら尚更だ。気になったのはそこでは無い。
「…魔女」
諸木の言った第四の登場人物。文脈から考えて未来視のインスタントバレットと同一人物と見るべき。魔女という呼び方からして女性だろう。魔女が本名なわけが無いので自分から名乗ったあだ名だとわかるがそう名乗った理由は分からない。
魔女というと一般的に思い浮かべるのは魔女裁判だろう。魔女狩りとも言われるそれは簡単に言えば法的措置を取らない私刑によって決められる事実上の死刑や迫害。建前としてはキリスト教社会を企む悪魔と契約した魔女を炙り出すというものがあるが実際は気候不順や疫病の流行などと言った不安心理から溢れたものを悪者にすることで安心しようとしただけのもの。皮肉っているのか、それとも単に魔法使いかつ女性だからそう名乗っているだけなのか。少なくとも未来視で見た情報を渡すような仲間相手にも本名を隠す間柄とみて間違いは無さそうだ。
「ったく…わかったよ。で、どうすんだ」
諸木の必死の説得は藤波も堪えたようでソファでくつろぎながら両手をあげる。両手をあげて降伏の意思を示しながらも問題を投げ出したりはしない。最も議論を投げ出して解決するような問題では無いが。
「そもそも、そちらの目的を教えて貰えないと」
「ああ、それはそうだね。」
今一番気になるのは二人の目的。おそらく未来視のインスタントバレットを含めた三人、もしくはそれ以上の人数のグループの目的。人が集まるのなら当然そこには共通の目的がある。敵の打倒なり、金稼ぎなり。敵対組織があることは藤波の言葉からわかるのでその組織と何らかの方法で争っているのは間違いないが出来た理由すら分かっていない。能力の詳細は不明ながらインスタントバレットという個人が持つには強すぎる強さを持った人が集まるなら傷の舐め合いや友達付き合いだけの意味のグループとは思えない。もしそうだとしたら
「俺らの目的は──未来視の否定なんだ」
「は?」
殺しか、金か──二人の印象から絞り込んだ犯罪組織のような二択とは全く別方向からの言葉に思わず硝太は敵陣の中にいながら素っ頓狂な声を上げる。
未来視は決定論の具現化のような存在で抗うことは出来ないと言ったのも、それを覆せるかも知らないこちらに死んでこいと言ったのも話がズレる。未来視で余程都合の悪い未来が見えたのだろうか。もし仮にそうだと仮定しても藤波が死んでこい、という意味が無い。そもそも、藤波達を含めてこの場に斉藤硝太のインスタントバレットを知っている者はいない。確定していない情報を前提として語るのは信用しろと言われても相当無理がある。
「俺らってのもおかしな話だけどな。まぁいい。少なくともお前をここまで呼んできた目的はそれだ」
諸木の直球すぎる言葉を藤波が補足するが余計に意味がわからなくなる。諸木と藤波で意見が別れているというのならともかく『未来視の否定』という目的は合っているとすると二人の対応の違いがおかしくなってしまう。
──わざわざ?何故?
「これは話せば長くなるんだけど…」
「そんなことはいい。本題に戻るぞ」
少し目線を外して気まずそうにしながらも喋ろうとする諸木に対して話が長くなって余計にややこしくなると感じた藤波はソファを力強く叩いてその反動で立ち上がる。
「さっきも言ったがお前が今も生きてる理由として考えられるのは二つ。お前が死んでも蘇られる化け物か未来視のインスタントバレットを書き換える化け物かどちらかだ。私達にはその違いがわからない」
藤波は人差し指と中指を立てながら話を元に戻す。未来視で見た斉藤硝太が死ぬ過去がありながら現在の斉藤硝太が生きているのに考えられる可能性は二つしかないです未来視で見た現実が変わっていないが何らかの手段で蘇生などして生き返ったか、未来視が壊れたか。
最初は藤波が1つ目であって欲しいと思っていると思ったが、諸木の言葉から藤波は二つ目の可能性に期待していることがわかった。
「だから死んでこい」
「作戦雑だな」
だからっていくらなんでももう一回同じ状況を作ろう、では実験にならない。せめて未来視で斉藤硝太が死ぬ未来を見なければ実験として成り立たなくなってしまう。
そこまで考えてハッとした。先程まで未来視のインスタントバレットからの新情報がないことから未来視のインスタントバレットは既に死亡、もしくは話すことが出来ない環境下におり、この場にいないのだと思っていた。もし仮に未来視はまだ使えるが不都合な未来ばかり見るからと能力を自発的に封じたとしたら。諸木の考えにも一貫性が生まれる。
変えられないことが前提の未来なんて見たって恐怖を先に感じるだけ、それは間違いでは無い。しかし限定的に変えられる方法がそこに付与されたら意味が大きく変わる。変える権利が手元にあれば尚更だ。それだけで不幸な未来があったらそれを否定して楽しい未来だけ受け入れる、ということが出来てしまう。未来視を使う精神的負担が激減するのは間違いない。
「そう。魔女が見た最新の未来、それがお前の死だ。良かったな斉藤。二度目はすぐにくる」
藤波もこちらが考えたことはお見通しのようで一昔前のギャングのような残虐な笑みを浮かべる。殺意こそ感じないものの、諸木にあれだけ詰められていたのを忘れたような姿勢を見ると辻斬りか何かしていたのではと思ってしまう。当然、未来視でみた事実にそんなことは関係ないのだが。
「具体的な日時は」
「今年の八月の第一週目の日曜日。21時過ぎ。場所は不確定。おそらく高層マンションかアパートの廊下だってあの子は言ってた」
又聞きの話なので確実という訳では無いが諸木達の目的を踏まえたら少なくとも彼ら視点では嘘はつかない。と、なれば聞きたい情報は基本的には答えてくれると思って間違いない。
「殺され方や僕を殺す人は絞り込めますか」
「殺され方?ナイフで腹を一刺し。出血多量か臓器不全かどれかだろ。殺してくるやつ…ガタイのいい男としか。フードを被って白い薔薇を持ってるらしいが」
未来視を避けることが目的なら警戒するべきはナイフということになる。逆に言えば未来視だけを警戒するのならナイフ以外の攻撃は受けても死なない可能性が高い。同時にガタイのいい男。ガタイのいい男なんて基準しだいでいくらでもいることになる。未来視を実現させたくないと思う割には情報が欠けていて絞り込むには厳しい。
「では最後に一つだけ。僕以外に巻き込まれる人はいますか?」
「…」
諸木と藤波が同時に黙って目を合わせる。
明らかに『この質問にはどう返していいのか分からない』と言っている顔だ。
斉藤硝太という個人を特定するのにアクアマリン二択になっている時点で二人は魔女に斉藤硝太という男について聞いているのは住所や学校等調べればわかる情報で見た目や能力と言った深掘りできる詳しいことは聞いていない。それでもこの質問が地雷になり得る可能性があるのを感じ取っている。
つまり、誰かが巻き込まれるのは確定した。
「ノーコメントだ」
「──そういうことかよ」
藤波の責任から逃げたような発言に思わず殺意が漏れ出る。
誰か、が分かればその人を守りきるだけで未来視は否定できる。仮に斉藤硝太が死んでも未来視の完全性を破壊できる。しかし二人はノーコメントと言葉を濁した。その『仮』を実現されては困る事になる。藤波は最初敵にならなければいい、仲間にする気は無いと言っていた。つまり欲しいのは戦力でも恒久的に未来を変えられる存在でも無い。未来を変えられると証明されたものだ。何度でも言うが点を1つでもずらせば未来視の完全性は無くなる。それ以降魔法などを使わなくてもそれを一度でも証明した生き証人が一人いれば十分ということだ。もし誰かが巻き込まれようと仕方がないで通すつもりだろう。巻き込まれるのが兄姉や母の可能性もあるというのに。
その時点で二人のために動く気は失せた。回れ右をして来た道を戻ろうとする。
「ちょっと待てって。君はどうするんだ」
「──未来視は否定する。そっちの思惑には乗ってやる。だけど、やり方はこっちで決めさせてもらう」
諸木に止められるがもう二人と馴れ合うつもりは無い。どちらにしろ二人の思惑に乗せられる形となるがそんなことはどうでもいい。兄姉や母を巻き込んでもいいと考えるような奴らに協力する筋合いは無い。
「どういうことだ。」
「別に生き残るのは僕じゃなくてもいいってことだろ」
藤波も振り切り不思議な異空間から出る。出た先はこの空間に入る前の物置の前の廊下。振り返って物置を見てみるが先程の異空間があるとはとても思えない、普通の物置にしか見えない。試しに
「やっぱり…」
諸木は魔法で作った空間を物置の入口と繋がるようにセットした。そして何らかの手段を用いた場合のみ異空間に入れるようにした。そう考えるしかない。考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しい話でアクアマリンやルビーに話しても笑い飛ばされるだけで終わりそう。
「とんでもない力だな、魔法って」
それほど現実離れしているがもうそういうものとして納得するしかない。実際に見てしまった以上夢と思うことも出来ない。つまり未来視のことも現実の話だと思うしかないということだ。
今わかる情報は以下の三点
・八月の第一日曜日の午後九時すぎ。斉藤硝太は何者かにナイフで刺されて死亡する。
・場所はマンションかアパートの廊下と見られる場所
・そこには斉藤硝太に近い誰かがおり、その人物も巻き込まれる可能性が高い。
ここで問題は共に襲われることになる
彼らの視点に立って考えるなら無理もない話である。魔法の話なんて眉唾もので信じられるわけが無い。仮に信じたとしても自分達で守り切らなければ敵組織に利用される可能性が高い。二人の敵組織も未来視のことをわかっているかどうかは不明だが、もし知っていると仮定した場合利用価値がないわけが無い。未来視から外れた存在なんて使い道次第では未来視の効力をゼロにすることも出来る。そう考えるとある程度話を知っていて再び未来を変えられる可能性の高い斉藤硝太のみが生き残りその《誰か》は死亡した、が二人にとって望ましい未来であることになる。
──だが、こちらは違う。《誰か》を守る。
その場合望ましい未来はただ一つ。斉藤硝太が殺され、《誰か》が生き残った未来。そうなれば未来を変えられる可能性のある人物がその《誰か》に絞られるため諸木と藤波も本気を出して守らなければならない。二人が敗北し、敵組織に利用される可能性もあるが個人で守るよりかはグループ単位で守られた方が守り切れる可能性は高い。
やるべきことは二つ。自分と共に襲われることになる《誰か》を特定すること。そしてその《誰か》を守り切り、自分はガタイのいい男にナイフで刺されて死亡すること。
「やるしかない」
貯めていた息を吐いて深呼吸をする。やることは難しいし、もし成功したとしても自分は死ぬ。自分が死ぬだけならまだいい。仮にそれがB小町の活動に影響が出るようなら改善しなくてはならない。そして何よりそれを誰にも気づかせずに隠し通さなければならない。諸木と藤波を含めて。当然協力者もいない。
自分以外誰も死なず苺プロがこれからも普通に活動ができる。それが最高のハッピーエンド。
「しっかし、お先真っ暗ってのも僕らしい話だな。」
意識を強く持ちながらルビーたちのいる芸能科の教室に向かって走り出した。
最高のハッピーエンド=僕以外の犠牲がない世界
本当に母兄姉に危害が加わる可能性考えた途端にキレたナイフと化すなこの末っ子…諸木と藤波がその場で首を跳ねられなかったのは奇跡である
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硝太の亡くなる日時と犯人。これは覚えておいてください。テストに出ますよ