未来視のインスタントバレットで見た未来で自分が死ぬ未来を告げられた硝太は自分と共に巻き込まれる《誰か》を助けて自分が死ぬ事で《誰か》を保護してもらう計画を立て、自分が死んでもいいようにJIFに挑むB小町の応援をしていた。しかし《誰か》が目的で自分が巻き込まれる可能性を考えた硝太の元に謎の車が現れる。警戒し共に居た不知火フリルを逃がそうとするも左腕を撃たれ怪我をしてしまう。
戦闘続行が不可能になりながらも《誰か》が不知火であることを、確信した硝太は残った右腕を使って不知火を担いでその場から逃走を始めた
走り始めて数分。緊張からか、心臓が痛いほどに強く打たれる。血が全身を回る度に周囲の熱が吸われているのかと思うほどに全身が熱くなり、自然と呼吸が荒くなる。左腕の痛みは収まる気配がなく、むしろ走る度に激痛が身体を貫くが残念ながらそれに構っていられるほどの余裕がない。
「はぁっ、はぁっ──」
硬いコンクリの地面を踏みしめる。下半身をバネとして強く飛び跳ね、道路標識や街灯を蹴って空を歩くように道路を渡って車の速度に追いつかれないように走る。片腕が潰れ、もう片手で人を抱えた状態であろうとこの程度パルクールは硝太にとって朝飯前と言っていい。スピードを調整したり、迷うことなく勘と視覚による感覚に合わせてトップスピードを保ったまま走り続ける。それだけの事をしているため、追いつかれない、と言うだけならイレギュラーさえなければ問題は無い。
問題は今走っている夜の街にある。
──向かいを通ってくる人が明らかに少ない。ここは東京、しかもさっきまでイベントやっていたのに。
一人の男が女子高生、それも美少女を抱えたまま走るなんてSNSで人の目を集めそうな話題だ。夜とはいえまだ賑わっていてもいい時間帯、東京の街なら尚更。しかし不思議なほどに人通りは少なく、数少ない人達もスマホを向けることすらせずに歩いている。明らかに異常な状態だ。
そして何より、会場近くにいた時は追ってきていた車がいない。全速力で走ったとはいえたかが高校生の脚力。車で追いつけない訳が無い。信号に引っかかって見失ってくれたか、或いは先回りをされたか。先回りをされたと考えるなら向かう場所、最低でも方向がわかっていなければならない。
──まさか、相手にも未来視の情報が?
有り得ない、と言える話では無い。現にこちらは未来視で見た情報を断片的に知っているものの未来視のインスタントバレット本人には出会っていない。仮に相手に情報が流されていたり、未来視のインスタントバレット本人がいたとしてもおかしくは無い。今回の相手が諸木と藤波の二人の敵組織の人間なら二人の言っていた目的も納得出来る。それに組織的な犯行ならウェルロッドのようなマイナー寄りの拳銃の入手も個人よりは説明ができる。
「見つけた」
不意に聞こえた声に、本能が理性の速度を超えて回避行動を取る。足をかけた歩道と車道を分けるガードレールを残った脚で蹴りながら逃れ、三歩ほど後ろに下がる。その瞬間、そのガードレールに何処からか来た車が突っ込んできた。先程拳銃でこちらを狙ってきた相手の車では無いが明らかに轢き殺そうとしてきた車の動きに新手の気配を感じる。
「ちいっ!」
急な新手に舌打ちをしながらも相手の気配を探す。しかし一番最初に目に入ってきたのは車のドライバーでも指示役でも無く、次の攻撃。どこから外されたのかも分からないマンホールの円盤が三枚ほど飛んできた。マンホールの重さは大体40kg一枚ならともかく三枚も投げ飛ばすのはかなり大変なはずだがその投げられてきたマンホールの投げた相手は影すら見せない。それに対し、身体を勢いよく捻って建物の壁を蹴り飛ばすように蹴って不知火を抱えたまま建物の壁を駆け上がって避ける。
「意外と素早いんですね」
着地と同時に飛んできた先程車に引かれて壊れたガードレールだったものを右脚で蹴り飛ばし、左足で着地する。そこまでしてやっと新手の姿が見えた。
──ソレは浮いていた。
地球の重力に逆らうように、透明なガラス板でも置いてあるかのように自然に空に立っている。細く長い黒髪はスラリとしており、ワンピースの縦セーターと黒タイツは合わせると今時の女性を思わせる。その目は一見優しそうに見えるが死を見た事のある女性のことは変わらない。
高校生の男が美少女タレントを抱えて走り、車がガードレールに突っ込んで上を見れば女が一人浮いている。まるでバグだらけのゲームの世界にでも入ったのかと疑うような現象に尚周りの人は気付いていないかのように通り過ぎていき、遂には誰もいなくなってしまう。
「不知火さん、ごめん。おんぶでいい?」
そう言いながら不知火の許可も得ずに不知火を背中に背負わせ右腕をフリーにする。ただでさえ片腕が実質的に使えない状態、その上右腕も抱えるだけに使う。つまり両腕が塞がった状態勝てるような相手ではないとその瞬間に判断した。
痛みが引かない左腕も使いながら構える。相手は間違いなくインスタントバレットという名の魔法使いの一人。能力はおそらく何らかの制限をかけたベクトル変化。
「私はカラフルの一番槍、七辻すいむ。君を保護しに来ました。斉藤硝太君。さぁ、こちらに」
どこかのファンタジーゲームのお姫様のように余裕そうな顔でゆっくりと降りてきた七辻は壊されたガードレールの間を歩いてくる。
見た目は若いOL(休日のすがた)だが、纏っている気配がその判断を許さない。何より初撃から殺意しか感じない動きをされて保護するなんて言われても信用出来るわけが無い。
──まずいな。敵が多すぎる。
仮に七辻の言葉を信用するとしても先程追ってきていたストーカーと思われる男の対策が出来ない。正直に言うと後にして欲しい。
「断るって言ったら?」
「監禁します♡」
仕事に疲れているのか満面の笑みでとんでもない回答をする七辻。それほどまで『斉藤硝太』という個人が欲しいとなると目的は何となく察しがつく。
──さっき言ったカラフルってのは組織名?だとしたら彼女達が諸木と藤波先輩の敵…なのか?
藤波達と彼女達の関係はよく分からない。インスタントバレット同士の派閥とか、魔法使いには魔法使いなりに不便なところがあるのだろう。しかしこちらまで巻き込まないで欲しいと思うのも本心。
──殺せ、コロセ
痛いほどに打つ心臓が、身体中を駆け巡る血が相手を殺せと訴えかける。殺さなければ殺される。七辻の目的が『斉藤硝太』であるのなら生きている限り、戦わなくてはならなくなる。七辻のような敵が繰り返し来るのなら家族も危険だ。家族に手を出すのなら、安全の為にも殺すしかない。
「はーっ」
熱い息を吐く。何か言葉を発しなければすぐにでもおかしくなってしまいそうだ。そのくせ喉は焼けたように痛く何も言葉を発することが出来ない。
自分は興奮していると、その時に理解した。相手の気配に震えながらそれを排除すれば安心ができる。敵を皆殺しにしてしまえば誰も歯向かえない。そうすれば誰も死なない。お姉ちゃんは死ななくて済む
『コッチ』
何かがヨんでいる。お前もこちらに堕ちろと、その舞台の上から降りてこいと言ってくる。降りる方法は単純。本能のままに相手と殺し合えばいい、それだけで簡単に堕ちる。生きるか死ぬかなんでどうでもいい。どうせ人は生まれた瞬間から死を決定付けられた生き物。長いか短いかの違いなどこの高揚に比べたらなんの意味もない。
『たノしいヨ』
今すぐその背中の重りを落とせ。
武器を握り、目の前の獲物だけを見ろ。
全部殺せば、家族の敵は必然的にいなくなるだろう。それだけで殺す理由としては十分じゃないのか。持ってきた道具を全て凶器にしながら戦えば、決して勝てない相手では無いはずだ。
持ってきたバックへと手が伸びる。中にはルビーに向かって振ったサイリウム等の最低限の物が入っている。それを手に取り、武器として使えば目の前にいるデタラメで、ヒトでは無い
──けど、それはルビーに対しての裏切りだ。
しかし、それはアイドルとして舞台の上で踊るルビーを応援するためにあるものでヒトを殺すためにある武器では無い。
たとえ死ぬとしても、ルビーは裏切れない。夢に向かって努力する大好きな姉を裏切りたくない。
──けど、目の前の相手を殺さないと姉も安心して眠れないはずだ。
「──斉藤くん──硝太」
「あ」
こちらの興奮恐怖が伝わったのだろうか。先程まで黙っていた不知火が顔を上げて名前を呼んできた。
不知火に名前を呼ばれたからか先程までの身体の不調は嘘のように引き、無くなった。むしろ身体は軽くなり余計なモノが頭から抜け落ちる。余計なモノが抜け落ちたおかげで今自分のするべきことがより明白になる。
今やるべきことはここで殺し合いをすることでは無い。不知火を安全な場所へと送ることだ。
「ありがとう。しらぬっ──フリル」
お礼と共に名前を呼ぶと不知火──フリルは首を横に振る。一番混乱している筈なのに強い女性だから安心感がある。背負われているのならともかく相手を背負って盾になるように動いているのに頼りになるとは不思議な感覚になる。
「お願い」
「わかった」
フリルがより強く背中を抱きしめたのを合図に七辻の事を無視して全速力でその場から離れる。
当然七辻が逃がしてくれる訳もなく、持っていた瓦礫を全て解き放つ。一撃当たるだけでも脆弱な人の体は潰れ、圧死するだろう。七辻自身殺す意図は無いので両腕両足欠損程度で済むだろうが、今の硝太はそれすら避けたい。
だが硝太は瓦礫のことを無視して全力で真っ直ぐ走る。このままだと瓦礫はフリルを巻き込み、硝太の両脚をミンチにしてしまうだろう。
──もし、それを止めるものが居なければ、だが。
「行かせな──きゃっ!」
その全てが何処かから飛んできた何羽かの八咫烏に撃ち落とされる。鳥の躯で人をミンチにするような瓦礫を弾いてしまうのだから当然七辻も驚き、次の反応が遅れる。硝太はその瞬間を見逃さずに距離を離す。その時、目が八咫烏を飛ばした白髪の少女を捉えた。
解離性遁走で迷子になった時に出会った少女はあの時とは全く変わらない格好のまま、何故か人通りが止んだ道を支配者のように余裕を持ちながら歩き眷属の烏を飛ばしている。
何故ここにいる。何故今危険だとわかった。
宙を浮いてる女を見てノーコメントなのか。
君の烏、或いは君自身がインスタントバレットなのか。
疑問点は多々あるがそれよりまだ何も知らないはずの少女に強い安心感を覚える。『彼女はこちらを殺すことない』そう確信できるものが、確かにあった。
「ここは私が受け持つよ」
「ありがとう」
余計な言葉は不要。
足を緩めることはなくその少女の隣を追い越していく。これから死ぬ硝太はもう一生会うことの無い存在だろうが、それでいい。彼女の稼いだ数秒を無駄にする方が彼女にとって失礼だと理解していたから。
少女の邪魔をしないように広い道路から狭い道に変更する。
「硝太、何処に行くの」
落ち着いてきたフリルが背負われながら今後のことについて聞いてくる。七辻というイレギュラーがあったとはいえ今の状況に変わりは無い。否、想定より状況は悪化している。少なくとも拳銃を持っている敵が不知火を狙っていることが確定している以上、仮に未来を変えることが出来て21時以降も生き残れたとしても「じゃあもう大丈夫だから家帰るね」と帰ることなどできるはずも無い。
警察へのあの警戒心の無さと七辻の乱入のタイミングの良さといい、確認しなくてはならないことも多い。
「近くのマンションにあのストーカーを誘き出して仕留める!」
せめて、ストーカーだけでも仕留めなければフリルは安心して学校に行く事も出来ない。やれることは作戦通り他のメンバー達の家から離れた建物に相手を誘導してストーカーを仕留める。作戦では自分が刺される予定だったが安全を確保できるまでは刺されたとしても殺される訳には行かない。簡単に命を捨てられる状況下でもない、ということだ。
するとフリルは首に回した腕の力を強めながら何かを決心したように頷く。
「──なら、私の部屋のあるマンションにして。場所は説明するから」
「なんで!?」
「誘うなら、私が逃げ込むだろう場所に行った方がいい」
フリルの提案に驚きのあまり感情的に返してしまうが別にフリルの考えは明後日の方向を向いているような意味不明の答え、という訳では無い。現在七辻の乱入のせいか不明だがストーカーが何処にいるのか分からない。武器を使ってきた以上諦めるという選択はないだろうが、何処にいるのか分からないと仕留めることも出来なくなる。しかしフリルの家なら呼び出さなくても相手が先回りして来ている可能性もある。左腕の出血で長い時間戦えないことも含めると待ちに時間をかけるよりかは悪くない。
──仮に未来視の情報を得ているとしたら、この考えも全て無意味なんだろうけど。
相手には『斉藤硝太』を狙う必要が無い以上それならフリルの家に直接突貫してフリルを襲った方が正確だ。しかし相手はそうしなかった。フリルの家が分からないのか、なら何故今日の──JIFの観客側にフリルがいると知っていたのか。ネットか何かで呟かれていてそれを見たとしても細かい位置を特定することは難しい。一人になる──実際は二人の瞬間を狙うにはどうしてもリスクに対してリターンが見合っていない。
逃げることを最初からわかっていたような行動を見ると未来視の情報を得ていると結論を出してしまいたくなる。その場合どこを選んでも結果は変わらない。
変わる点と言えばフリルの対応だ。フリルの家に行けるのならフリルには部屋で鍵をかけて待機してもらえればバリケードを作る時間が省ける。フリルも芸能人としてそれなりのセキュリティがあるところを選んでいるはずなので侵入対策も出来てる。仮に相手がこちらを見逃していたとしてもその場合はフリルの事務所等を通して動くという第二の手段(本来はこちらをとるべきなのだろうが)が取れる。
「──わかった」
リスクは高いが不安点を少しでも減らせるいい案だ。素直にそう認めてフリルの言葉を聴きながらし調査済みのフリルの住む部屋のあるマンションへと走り始めた。
ツクヨミちゃんとかいう硝太のセコム。原作の悪女系不思議ちゃんとは全然ちげぇ。ある意味一番原作から乖離してるキャラかもしれない。──いや、ないか。流石にアイか。
それはそうとして厄介なタイプの女には気に入られることの多い硝太くん(あれを好かれていると言っていいのかどうかは別として)。普通の女の子からしたらただのヤベーヤツでむしろ嫌われてるのに…
一応紹介したのが幕間なのと結構昔なのでもう一回貼り付けときますね
キャラ解説
七辻すいむ
自称COLORFULカラフルの一番槍。インスタントバレット漫画内では割と損な役回りではあったが貴重な戦闘ができるIBでもある。
漫画での独白シーンからして元々はカタギの人間と思われる。
インスタントバレットの名前は不明。『空鯨』と本人は言っていたが能力名か技名か不明。本作では『浮遊』のインスタントバレットで能力名を『空鯨』とします。
用語紹介
インスタントバレット
個人が持つにはデタラメすぎる魔法の力、またはその保持者を指す言葉。(または彼らの生き様を描いた赤坂アカの作品を指す)
それぞれ型月の起源のような運命の名前と能力名の二つが存在する。(が、大半のキャラは片方しか分からず中には両方とも分からないキャラも存在する。考察しがいがあるね!)
インスタントバレットの名の通り弾丸に例えられることが多い。その魔法は人の『悪意』、それも世界を呪うほどの悪意によって発生する。その特徴からインスタントバレットの多くは人間として大きな欠陥を抱えている。
ちなみに本作では星の目はインスタントバレットの亜種として扱います(全員の能力が同じとは言ってない)
警察庁警備局の組織の一つ。一般人はもちろん、インスタントバレットなら学生ですら雇うコナン世界でも有り得なさそうな節操のない組織。目的は他のインスタントバレットの殲滅とされているが…?
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しれっと互いを名前呼びし始めた硝フリ。フリルさん狙ってたろ