未来視のインスタントバレットで見た未来で自分が死ぬ未来を告げられた硝太は自分と共に巻き込まれる《誰か》を助けて自分が死ぬ事で《誰か》を保護してもらう計画を立てた。《誰か》が不知火フリルであり、誰かに襲われていることを知るとフリルを抱えたまま逃走を選択。
その先で物を浮遊させる能力を持つ七辻すいむというインスタントバレットの女性に強襲される。
戦闘を行うかどうか悩むものの、フリルの声で逃げることを選択する。逃げる背を追う七辻すいむの目の前にはカラスを侍させた少女が降り立った
現時刻20時57分。意外な強襲を受けてギリギリの時間になるも硝太はフリルの住むマンションに辿り着き、フリルを中に入れることには成功した。
フリルには中で警察と事務所の人に電話をかけてもらっている。既に対策が取られているだろうが、硝太の作戦ではこの後硝太は刺されて死亡するため、代わりにフリルを守る人が必要となる。まだ対策が出来ていない可能性に賭ける。
「これでよしっと」
対して硝太はフリルの部屋には入らず、玄関前で荷物をおろして適当なバンドで左腕の止血を行う。逃げる時に押さえるなどして出血をしていたががそれでも盛れ出していたので服も左側だけ血だらけになっている。出血死していないのが不思議なぐらいだ。
ほかの箇所もフリルを運んできた時に相当ガタが来ている。ただ運ぶだけならともかく七辻相手に逃げたのが負担になった。
「連絡は出来たよ。少しそこで待っててくれだって」
連絡を終えたフリルが玄関の扉を開けるが硝太は背中を向ける。今は彼女の顔を見れる気はしなかった。
警察と連絡が繋がるのは意外だ。既に対策を取っているのなら事務所に適当な理屈をこねられて警察には言うな、と言われると予想していたがフリルがそれを断ったのか警察は来るようだ。警察が来るのなら遅かれ早かれストーカーは捕まる。問題はそれまでこの場所が耐えられるかだ。フリルのいるマンションは有名タレントがいるだけあって警備がそれなりにちゃんとしている。フリルの付き添いできた自分はともかく、ただのストーカーが中に入れるかと聞かれるとかなり厳しい。だが抜け穴が無い訳では無い。家に帰ったはずなのに安心するにはまだ早い。
「フリル、本当にごめん。本当は君まで巻き込みたくはなかった」
本来硝太が立てた計画は共に巻き込まれることになる《誰か》にスマホでライブ通話をしている最中に刺されることで現場を目撃させる、程度に抑えるつもりだった。その為彼らの自宅から離れていれば《誰か》は正直な話運転中などの理由で電話に出られない可能性の高い吉祥寺とミヤコを除けば誰でもよかった。フリルがこちらの計画に勘づいたのでそれを利用させてもらおう、とまでは思ったものの、実際はフリルの方が狙われていたなんて想像できなかったのは硝太自身の失策と言わざるおえない。
急に撃たれた時と比べるとフリルにも大分余裕がでてきたがそれでもかなり疲れと焦りが見える。ストーカー問題というかなりデリケートな問題になった上に拳銃で近くの人間が撃たれる所を見てしまったので今後芸能界で活動できるかも分からない。
もしかしたら、自分が彼女の芸能人生にどころか人生そのものに決して治らない傷をつけてしまったのではないかと、硝太は考えてしまう。
「私は大丈夫、気にしないで」
「…」
──嘘つき。
そう言おうとした口を必死に閉じる。これはフリルなりの強がりで気遣いだ。これはいい嘘で、今更それを追求する必要性は無い。
だから騙されることにした。
「そっか──じゃあ一つ頼んでもいいかな」
硝太は自分のサングラスとメガネを外して背中を向けたままのフリルの掌の上に置く。金縁に薄紫のサングラスと少し色あせた黒色のスポーツ帽子。幼い頃、ミヤコが記憶を失う前の硝太の持ち物として渡した物で硝太は不思議と気に入っていた。10年以上外に出る時は毎回使い続けてきたものだ。物持ちが悪いわけでなく、身体が成長しないため服は同じものを長年使うことも多いとはいえ、この二つはとびきり長い。
お守りとして渡すのには少しズレているような気もするが何故かそうするべきだと思った。
「お母さんから貰ったものでね、大事なものなんだ。壊しちゃうといけないから少し預かってて欲しい──僕になにかあったら、姉さんに渡しておいて」
硝太はそれをつける度にルビーが物欲しそうな顔でそれを見ていたことを思い出す。僕が死んだ後ルビーにあげたら喜ぶだろう。そんなことを思いながら荷物をフリルの玄関に置く。
「わかった。そうするよ」
硝太の意図を読み取ったのか、フリルは両手で2つを優しく握って頷く。
これから死ぬかもしれない。というのはフリルと硝太の共通認識となっている。ただストーカーに追われていると言うだけならともかく拳銃すら使ったのだ。その上で何かがあったら、というのは硝太が死んだらということ。硝太の遺品を届けるということは硝太が死んだ後フリルに仕事を科すことでルビーとの関係を続けろということ。
「フリルは警察が来るまで中で待機。いい?僕か警察が来るまでどんな人が来ても頭を出しちゃいけないからね」
そう言って硝太は玄関の扉を閉める。フリルからの返答は効かずに鍵をかけたのを確認して歩き始める。隣の部屋などに相手が隠れている可能性を考え、それぞれの部屋の気配を探りながら廊下を渡り、最後にエレベーター前に立つ。
下の階のボタンを押そうとしたその時、感じたことのある気配を感じてその指を引っ込める。
「このまま帰ってくれないかな。彼女さ、疲れてるんだ」
「断る」
亡霊のような男の声と共にエレベーターの扉が開く。
そこに居たのはバスケットやバレーボールでもやっているのかと思うほど長身で大柄の黒人。身長は2m以上あり、硝太とは1mほど身長差がある。筋肉ダルマと言いたくなるほどにガチガチに鍛えられた身体が服越しにもわかる。フードで顔を隠しているため顔は下半分しか見えないが、日本語は達者でまるで大柄の日本人が外国人の演技をしているようにすら見えてしまう。
片手には白い薔薇の花束、もう片手には扉を破る為と思われる大きなハンマが握られている。先程から出している殺気は普段普通に生活をしているのなら触れることは無い本気の殺意。それだけでこの男の「殺すぞ」や「死ね」は冗談や演技では無い、感情任せの言葉とわかる。
──手元に拳銃が無い。置いてきたか、それとも一発しか弾丸が無かったのか。もしくは、二人以上いるのか。
手元には花束とハンマしかなく、ホルスターを隠しているようにも見えない。ポケットはなにかしら入れて膨らんでいるように見えるがサイズからして拳銃では無い。ハンマも強力な武器だが、拳銃に比べれば大したことは無い。
「お前はここで死ね」
そう言って視線誘導の為か花束を投げた途端に大きくハンマを振りかぶる男。頭に当たれば一撃で頭蓋骨は凹み、即死する。風を斬る音と共に遠慮なく振られたハンマをかわすと勢いのまま振り抜かれた影響で廊下の壁にあたり、拳大程の穴を開ける。ハンマそのものの威力もあるが振り抜かれる速度もかなり早い。
「すばしっこい…!」
「取った」
一撃をかわされたことで焦る男に対して硝太はすかさず懐に入り、股間に肘打ちをする。1m以上の身長差があるため目や首といった急所の大半は狙うことが出来ない。その為同じ身長なら首を狙う攻撃でも硝太の場合は股間に目掛けて放つことになる。
それでも先程まで無害だったはずの子供が急に攻撃をかわしたと思ったら肘打ちで反撃したら驚くはず。それに狙ったのは股間。男性ということもあり、股間を殴られれば相当な痛みが発生するはずだが男は怯みもせずにハンマを壁にめり込ませたまま硝太の首を掴んで廊下の奥の方に投げる。
──体格差とリーチ差が大きすぎる。相手反撃も早いし明らかに喧嘩慣れしてるな。っていうかダメージ軽すぎるだろこいつ。ボクサーか?
投げられた硝太は即座に受け身を取りダメージを最小限に抑える。左腕が実質使えない状況なのでちゃんとした受け身は出来ないがそれでも最低限、ダメージを受け流す程度のことはする。しかし距離は確実に開いてしまっている。こういう時、リーチの差が何より重要なポイントになる。拳銃を撃てば即座に硝太を殺せるような状況だが、男は先端が壁に埋まっているハンマを引っこ抜くと迷わず硝太目掛けて振り下ろす。初撃とは違い踏み込むことはせず、落ち着いてハンマの攻撃をギリギリまで引き付けてから避けた硝太は逆に振り下ろされたハンマの上に左足で乗り、残った右足で回し蹴りをして男の顎を揺らす。
ハンマの上に乗ることで体格差を一時的に緩和。顎を揺らすことで自動的に脳も揺れ致命傷になる。と体格差がある相手と戦うなりの手段を用いて攻撃したが男は怯むものの即座にハンマを放棄すると逆に硝太に回し蹴りをする。
丸太のような足が迫る。直撃すればいくらガードを固めたとしても意識ごと弾き飛ばされ、気絶まで追い込まれるのは明白。結局回し蹴りを避けた硝太は即座にバック転をして回避。硝太に当たらなかった回し蹴りは空を切り、勢いで男のフードが外れる。硝太はバックステップを踏んで距離を離しながら自分の体にガタが来ていないかを確認する。
「かった」
「ちっ」
右足の甲にじんわり響くような痛み。間違いなく回し蹴りで顎を狙った時に痛めたもの。このまま何度も蹴り続けていれば硝太の足の方が先に壊れる。
──徒手空拳だと勝ち目がないな。
硝太の体格は小学生並みとはいえ鍛えているので筋肉は同級生達と比べても圧倒的についている。単純な喧嘩なら大人相手でも負けない。そう思っていた硝太だが急所に攻撃しても一瞬怯む程度で即座に反撃されたことで自分の力の限界を知る。肘打ちも回し蹴りも苦し紛れのものでは無い、腰を入れて体重を乗せた一撃。それすら大したダメージにならないのなら単純な徒手空拳なら既に相手の方が大きく上回っている。相手も徒手空拳のみで戦ってくれるのなら制圧する手段も取れるが自身の身長に近いハンマを破壊したり、安全に奪えるほど硝太に余裕は無い。
相手の方が強いのなら勝つのは即座に放棄するべきだ。その上でやるのは逃げるか、時間稼ぎをするかの二つに一つ。当然フリルを残した状態で逃げられるわけが無いので後者を取るしかない。しかしそれも上手くいくとは思えない。マンションの廊下は一般的な成人男性が二人通れる程度しかないがハンマを振るうには十分。その上で相手の男は間違いなくフリルの部屋を知っている。
──なるほど。確かに負け戦だな、これは。
硝太自身、藤波にお前はナイフに刺されて殺されると言われた時点から覚悟こそしていたがここまで差があるとは思わなかった。これでは刺された後にフリルが無事である可能性も低い。あれだけ大きなハンマだとただのマンションの玄関扉の金具など即座に破壊できるだろう。つまり硝太にとっては自分の背後に男が立つ時点で負け。その上で投げられたりしている間に硝太とフリルの部屋まで距離は確実に狭まっている。
そこまで考えて違和感を持つ。いくら子供の力、片腕を負傷してバランスを取りずらい状態とはいえ急所を二度も攻撃されて効果が多少怯む程度なんて有り得るのだろうか。
冷静に相手を見る。謎の多幸感、殴っても止まらないタフネス。よく考えなくても粗がありすぎるストーカー行為。先程の回し蹴りで外れたフードから焦点のあっていない目が見える。
『ココ最近で事件になった薬物、それも噂話として残り続けるほど大きな事件になったものと言えば…MDMAとマリアドラッグか』
「こいつ、ヤク中かよ!」
確定では無いどころかブツが見つかっている訳でもないがそう考えた方が納得出来る。殴っても効かない、というのは単純に身体が硬いとか強いとかそういうものよりドーピングしていると考えた方が納得しやすい。
「うるせぇ──」
考えている間に男はこっちの時間稼ぎという狙いに気づいたのかハンマを持って乱雑に振り回しながら歩いてくる。避けるのは簡単だが相手を止める手段がなく、通り過ぎられたらフリルの部屋に辿り着かれる硝太にとっては死刑宣告に似たようなもの。
──勝つことは出来ない。普通に戦っても時間稼ぎにもならない。なら、やれることは1つ。
「──死ね!」
「断る」
男の口角を上げながら耳につまるような声で言う「死ね」に反抗するようにハンマの攻撃に合わせて左腕を体の間に差し込んで初撃を防ぐ。たった一回しか使えない左腕を盾代わりにした突進。当然無事なはずがなく止血していたはずの左腕の傷が開き骨が折れる音がしたが、残念ながら今更構っていられる余裕は無い。
「が──ああああああああぁぁぁ!」
左腕が壊れる激痛に苦しみながらも残った右腕でハンマの柄を狂ったように全力で何度も叩く。マトモに戦って勝てない相手なら相手の攻撃能力を奪うしかない。全力で殴っている間に右手の肉が潰れて骨が露出する。しかし
フリルは立てこもっているのだから扉そのものを破壊する以外の方法で彼女に危害を与えることは出来ない。よく洋画ではタックルで扉を開いたりするがそれは海外が内開きのドアが多いからで外開きの日本の玄関扉は道具でも使わない限り打ち破れない。当然、ナイフで扉は壊せない。相手がヤク中なら尚更。
男はそれすら準備していたように何処から出したナイフを引き抜くがもう時すでに遅し。薬に犯された廃人に殺せるのは無害な餓鬼一人で限界だろう。
「──勝った」
ボロボロの身体でナイフを捌けるはずも無く、そもそもそれをする気もない。当然のように男の取り出したナイフは硝太の身体を貫通した。
腹から血が吹き出す。アニメや漫画でみる血が噴水のように吹き出す演出はそこまで間違いではなかったらしい──と、硝太はズレたことを考えながら自身の腹に刺さるナイフを見る。
赤い血がナイフの半ばから伝い、持ち手に行く寸前で床に落ちていく。そうして血が床に落ちる度自分の生命力が時間が経てば経つほど消えていくのを感じる。人は腹をナイフで刺されれば死ぬ。そんな当然のことに対する認識が甘かった。
──これは、死ぬね。
男はナイフを一度引き抜くと硝太にまだ息があるのを知ってか一度引き抜くと二度、三度とナイフを突き刺していく。その度に身体が小さくピクっと震え、全身の穴という穴から血が流れ出す。
全身を支えている力を失い、倒れる身体。男に髪の毛を捕まれ、ゴミのように雑に投げ飛ばされる。初撃とは違い、受け身等とることはできず近くの部屋の宅配ボックスに頭をぶつけて近くに倒れる。
左腕は銃創とそれを隠してしまうほどの打撲、右手は肉が削ぎとれ、腹部に三箇所の刺し傷。血を流しすぎたせいで頭をあげることすら出来ず、硝太はゆっくりと瞳を閉じた。
Qやっと謎のバトルパート終わり?
Aすまんな、もうちょっとだけ続くんじゃ
今回はいくら鍛えたとはいえ高校生がドーピングした上に武器持ったおっさんに勝てるわけねぇだろ!っていう回です。硝太も武装していたら結果は変わっていましたが徒手空拳でドーピングしてるようなやつに勝てるわけないのだ。
要するにこの世界では大体
ドーピングして武器持った外国人のおっさん>殴る蹴るしかできない硝太≧格闘技やってる人
となります。あくまで大体ですので前話のように状況次第でかなり変わりますがなんでそこら辺から格闘術学んでる人以上のおっさんリポップするの?となりますがまぁ普通に考えれば武器持ちに徒手空拳で勝てるわけないので…むしろ何回か攻撃当ててる硝太がヤバい。あとこの作品はあくまでバトル主体じゃなくてサスペンス(ミステリー)主体だから。
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その辺の匿名外国人助っ人枠が強い…これはミゲルだな。間違いない