【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
未来視のインスタントバレットで見た未来で自分が死ぬ未来を告げられた硝太は自分と共に巻き込まれる《誰か》を助けて自分が死ぬ事で《誰か》を保護してもらう計画を立てた。《誰か》が不知火フリルであり、誰かに襲われていることを知るとフリルを抱えたまま逃走を選択。不知火フリルの住むマンションへと逃げ込む。しかし未来視で自分が刺される未来を知っている硝太は不知火フリルを部屋に入らせて廊下で一騎打ちを選択する。
しかしストーカーと見られるフードの男の圧倒的な強さに為す術なく敗北する


#45 悪足掻き─vain resistance─

──僕が死んだら、お母さん泣いてくれるかな。

 男にナイフで突き刺された時にふと、そう思った。

 あの日。斉藤硝太という人間が失った自我を確定した、もっとわかりやすい簡単な言い方をすると生まれ直した日。誰かの為じゃなくて自分の為だけに泣いてくれて抱きしめてくれた母の為にこの命を使うと心の中で宣言した。子が親の為に生きるのは何も不思議なことでは無い。産まれてすぐ何も出来ない命に生きる希望や力を与えたのは親の力だ。問題は自分にはその恩返しが少しでもできたかどうか。母はそんなものはいらないと言うだろう。優しい人だから。ただ自分が与えるだけで満足してしまう。でもそんなもので満足して欲しくない。これまで沢山与えたのだからそれをチャラにしてしまえるほど大きなものを貰えなければただ多くの人の負債を背負うだけで終わってしまう。

 だから分からない。これが正解なのか。少しでも母に喜んで欲しくて。少しでも母に自分自身の幸せを考えて、それを得て欲しくて。少しでもこんな子供を産んでも良かったと思って欲しくて頑張ってきたが、振り返ってみると好き勝手やってばかりの人生で彼女を楽しませられたかどうかなんて分からない。

 

──少しでも泣いてくれたらいいな。けど、泣きすぎて仕事に支障が出ても困る。

 

 彼女の夢、自分で育てたアイドルがドームでライブをしてドームがサイリウムの光で埋め尽くされる。その夢の為にはまだまだ長い道のりが必要。ルビーたちは当然のこと、母も頑張らなければならない。ならこんな子供の死に構っていられる時間は少ない。ルビーとアクアマリンのためにも頑張って欲しい。

 

 そう思っている間に男に身体を投げられ、地面に叩きつけられる。受け身をすることなど当然できず骨が軋む。傷口に余計な負担をかけたのか血が吹き出す。全身に傷を負ったせいでもう何処が痛いのかすら分からない。

 目に血が入ったのか視界が赤い。意識も強く持てずゆっくりと瞳を閉じて最後の瞬間を待つ。その間に考えるのは残される家族のこと。

 

 ルビーは、大丈夫だろう。アクアマリンがいて、有馬とMEMちょというアイドルの仲間がいるなら心配する必要は無い。二、三日泣くかもしれないがすぐに立ち直れる。最後の日に彼女のアイドルとして輝く姿を一度でも見れて、素直に嬉しかった。このまま高みに昇って母の夢を叶えて欲しい。

 アクアマリンは傷ついても顔にも出さずに淡々と処理してくれるはずだ。ほかの人たちのサポートに回って欲しい。

 有馬も彼女に仕事が来なかった時の頃を思えばこの程度のことで仕事に支障をきたすとは思えない。芸能人生が長いので、遠慮しがちなMEMちょの補助に入って欲しい。MEMちょはきっと自分が死んだ後、勝手に落ち込んでしまうだろうから、折角叶えたアイドルという夢をみんなの為にも手放さないで欲しい。

 あかねも心配することは無い。一度死ぬほど追い詰められても立ち直れた彼女ならきっと大丈夫。たかが無能な弟分が一人消えた程度で支障はない。結局自分は彼女のように戦うことは出来なかったし、隣に立てるような人間でもないがあかねにはアクアマリンがいる。願うなら彼女のような人間になりたかったが、それは高望みと言うものだ。願っても許されるのなら未来永劫に二人で幸せになって欲しい。

 MEMちょの他に心配なのはゆきだ。あかねの時も自責の念にかられているように見えた。誰かがちゃんと気付いてフォローしてあげないといらない負債を背負おうとしてしまいかねない。こういう時はノブユキに頼るのが一番だと思う。二人は仲が良かったし、フォローの手が足りなくなったらもう大人になったケンゴもいる。二人がゆきのSOSを見逃すはずがない。放っておいても平気だろう。

 みなみさんは少しショックを受けるだろうが、そこまで弱い人にも見えない。少し経てば刺された現場に花を添えるぐらいのことはしてくれそうだ。

 頼子ちゃんこと吉祥寺も大人として死に別れは経験済みだろうし初めてだとしてもこの経験を創作に生かす位はできる。病院で話した時に感じた優しさがあるから倒れそうになっても周囲が助けに来てくれるはずだ。

 フリルも、大丈夫。巻き込んでしまったが彼女は強い女性だ。芸能活動にさえ支障が出なければ普通に仕事を続けられる。───本当に、安全なのか

 

 皆斉藤硝太が死んだ程度で地獄に落ちるような人間ではない。斉藤硝太のことはさっさと忘れてそれぞれ幸せになって欲しい。

 

「本当に?」

 

 そこまで考えた時に誰かに声をかけられる。こんな時に誰だろう。そう思って落ちかけた意識を掘り起こす。力なく横たわった骸に顔を動かす機能はない。

 仕方が無いので動かない体に無理をさせて瞳を開けて目だけを上に向けて相手の顔を確認する。そこに居たのは金髪の男だった。背は高く、年齢は約30代前半。目には黒い星がうかんでおり、強くこちらを見てきている。もう睨んでいると言ってもいい。浮世離れしたその立ち姿は亡霊に似ているが血が滲んだ視界では生きている人間にしか見えない。見た目の特徴を上げて考えてみると兄である星野アクアマリンによく似ている。

 

──アクアマリン?いや違う。誰だ?

 

 こんな場所に、誰かがいる。人が刺されて、刺した犯人がすぐそこにいる事件現場だと言うのにその男は犯人からは背中を向けてこちらをじっと見ている。

 

「君は本当にそうなると思っているのかい?無能で、有害で、役にも立てない君が少しでも家族に喜ばれたと思う?」

 

 男は無情に現実を突きつけてくる。犯人から全く気にされていないことからマトモな人間では無い。おそらく共犯者なのだろうがなぜ僕に声をかけるのかが分からない。僕は金髪の男もフードを被った外国人と見られる男の事も知らない。初対面で彼らの狙いは有名マルチタレントである不知火フリルのはずだ。もうすぐ死ぬその辺の人間に興味を持つとは思えない。

 

「君はせいぜい与えられた餌の分芸を披露するだけの飼い犬。いや、可愛げもないしそれ未満か。使えなくなったら殺処分されるだけで元より何か出来るなんて期待すらされていない」

 

 男が言う言葉は全てその通りで反論出来ないはずなのに家族が愚弄されているようで怒りが湧いてくる。とは言ってもどれだけ怒ろうが体が動かなければ死人と大した違いは無い。ただ、次意識を落としたら死ぬと思いながら男を見上げるのみ。

 

「だから何も守れない。元より守る権利もない。だって───アイを殺したのは、君じゃないか

 

──は?

 

 アイ、星野アイ。アクアマリンとルビーの母親である彼女を、僕が殺した。先程までの男の真理を着いたようなセリフとは違う、意味不明の言葉が出てくる。記憶喪失でアイさんがどんな人だったかなどは全て忘れているがそれでも兄や母に聞いていない訳では無い。アイはドームライブの日に自宅に強襲したファン、ではなくストーカーに刺されて死亡。アイを刺したストーカーは()()()()()()()し、身元がわかった現在でも()()()()()()()。アイを刺したストーカーは当時大学生の男で名前も既に公表されている。当然斉藤硝太とは別の人間だ。

 星野アイを殺したのは僕では無い。そのはずなのに男はその言葉をまるで正解であるかのように語る。男にとってはアイを刺したストーカーのことなどどうでもよくて斉藤硝太という男こそがアイの殺人犯として映っている。

 

「君がアイを狂わせた。君がアイを死へと導いた。君がアイの永遠を奪った。そして──君がアイを僕から奪った。これは報いだ。罪人である君への報い。君には生きて、ここで見てもらわなければならない。友達があの日と同じように。いいや、あの日より酷く死ぬ様を」

 

──何を、するつもりだ。

 

 狂気の笑みを浮かべながら男は刺された腹を撫でる。腹の中をまさぐられ、全身の神経が引きちぎられるような痛みが襲う。しかし身体は人形のようにピクリとも動かない。ただ意識だけが保たれる。痛みでそのまま死なないのは幸運なのか、或いは男の計算通りなのか。おそらく後者だろう。

 

 今わかるのはこの男はアイに対して異常な執着心がありそれを利用して『斉藤硝太』と『不知火フリル』を同時に殺す計画を立てた、ということだけ。しかし『斉藤硝太』と『不知火フリル』の両名を同じ場所に呼ぶのは簡単な話では無い。何せ僕は未来のインスタントバレットで自分が死ぬ未来を見て───

 

 そこまで考えてハッとした。最初のフリルを狙ったとしか見えない射撃。逃げた先の七辻すいむの強襲。そして、不知火フリルの住むマンションに入ってからの戦闘。全て仕組まれていた。逃げている間に考えていた相手にも未来視の情報が渡っている、というのは確定情報と見ていい。もしそれが違うのだとしたら未来視の存在自体が危うい。七辻達は藤波や諸木と組んでこちらを騙した──と考えることも出来るがそれにしては無駄な工程も多く逃げ道も生まれてしまうのでそれは違うだろう。何はともあれ相手の手のひらで踊り続けた結果大切なものを失う。

 

 もう指の一本も動きはしない。もう男の言う通りフリルが殺される様を見ることしか出来ない。それが斉藤硝太の最期。

 

「君の大事な友達が身ぐるみを剥がされ汚物に汚され、尊厳を全て奪われその上で希望もなく殺される。君がアイにやった事を、僕が君に見せてあげよう。これが僕の復讐だ」

 

──殺される。

 目の前の男たちの手によってフリルが殺される。アイと同じように殺される。理由は分からないが固く閉ざされたはずの玄関が開けられる。扉を破壊されなければ安全という見込みも外れた。

 もうフリルを守るものは無い。家の中で逃げ込んでも結局は同じ。上手く回り込んで家から出たとしても唯一の逃げ道の廊下はこの男に塞がれている。フリルでは力勝負で勝てるわけが無いので捕まればナイフで刺されて殺される。

 

 アイのように。

 

──ダメだ。それだけはダメだ。また彼女(アイ)を見捨てることなど。また、あの日を繰り返す事など。たとえ、世界を滅ぼすことになろうとも──!!

 

◇◇◇

 

 ガッ、と音を立てて死んだはずの肉体が跳ねる。その異質な気配に男は本能的にその躯から手を離す。生物なら誰しもが持つ純粋な畏れによる退避に男は身体を震えさせる。

 躯は魂が紐づけられているせいで意識こそあるものの、それすらもう長くない。実年齢が高校生程だとしても肉体は小学生並みの子供。ショック死だけを防いだだけで何かができる訳でもない。そんな死人と言ってもいい状態のモノに震えた事実に男は歯噛みする。もう動かないはずだ。驚異など欠けらも無い、そう思いながらも本能が逃走を選択し続ける。

 その間も数秒ビクついたその躯は急に止まるとまるで糸に吊り上げられているようにゆっくり立ち上がっていく。膝まで立ち上がった後腰、胸、首と順々に持ち上がっていくのは機械のようで気持ちが悪い。

 

「──おまっ」

 

 激しく動くだけで何も出来ない心臓が止まる。生きるためにだけしか使えない無駄な臓器は意志を持ったように血やら様々な液体をを吐き出して萎む。その瞬間その躯は『人』としてどころか『生物』としてみることの出来ない。役目を果たすためだけに存在する『道具』となる。筋肉は凡そ生物が使えない力を溜め込み、役目を終えた臓器に回していた力を筋肉と骨に集中される。もはや理性などない。一から百まで全て制御された戦闘システムが本能として構築されていく。邪魔をするのは全て敵。

 当然、近くで見ている男も例外では無い。

 

 瞬きよりも早い速度で何からが振るわれる。バン、という拳銃の発砲音にも似た音が遅れて響くと男の体は近くの壁に勢いよく叩きつけられ、膝から崩れ落ちる。先程まで余裕を保っていたはずの男はそれだけで全身の感覚を失った。その場で座り込んだ男はそれでやっと身長が揃った子供をただ呆然と眺める。

 何をされたかすら、男には理解できない。わかるのは状況が完全にひっくり返された。腹を刺され頭部に打撃を受け意識レベルが明らかに低かった子供とそれを追い詰めていた男という構図が何かの攻撃を受けて身体が動かない大人とそれを行った子供という構図に切り替わる。

 

 しかしその子供は男にそれ以上何もせず簡単に見捨てた。もう脅威では無い。それは立ち上がる前の子供を見た男と全く同じ判断。違うのは男には文字通りこれから意識を失うまで何も出来ないという事のみ。男は壁にもたれかかるも、力なく滑って地面に倒れる。

 何が起こったのか何一つも分からないまま、絶望的な状態だと言うのに男は狂気的な笑みを浮かべる。

 

「──アイ、そんなところにいたんだ」

 

 金髪の男が意識を失ったのを確認もせずに子供はこれまでの動きが準備運動だったのかと思うほどのスピードで廊下を駆け抜ける。10mほど離れた不知火フリルの部屋まで辿り着くのに1秒もかからない。

 逃げるように不知火フリルの部屋に入ったフードの男をその視界に捉える。フードの男が振り返ると右目が青く光る子供が死神のように立っている。そのまま人を飲み込んでしまいそうな青い光に不吉なものを感じた男は舌打ちをする。

 

Fekkyu!

 

 その声は近くにいるであろう不知火フリルに向けられたものか、それともナイフを振り下ろすどころか目の前に出るより前に背中にくっついていた子供に向けて言われた言葉か。

 フードの男は即座に攻撃対象を不知火フリルから死にかけの子供に向ける。近くにいる攻撃目標でありながら戦闘能力のない不知火フリルより、いくら死にかけであろうと──否。死にかけであるが故に恐ろしい子供の方が危険だと判断した。これは殺意ではなく、本能と経験に染みついた身を守る攻撃。身体は子供から逃げながら、振り返り様に横なぎに剛腕とナイフを振るう。いくら早くなろうと強くなろうと所詮身体は子供。圧倒的なリーチ差のせいで男の剛腕から逃げて攻撃をすることは出来ない。

 しかし子供はハンマに押しつぶされてボロボロになった左腕を再び盾にした。ナイフが肉を裂き、剛腕が骨を折る。それでいて、少年の体は男から離れない。自分の身を投げ出した自爆覚悟の特攻であることなどフード男もわかっていた。最初の部屋に入る前の戦闘から子供は自爆をしてでも止めようと立ち塞がっていたから襲いに来る時は確実に自分犠牲にしてでも殴り込んでくると確信はしていた。しかし、流石に壊しながらも全く速度を緩めずにゼロ距離まで接近するのは考えていなかったのか、フードの男の顔がより歪む。

 左腕が壊れた子供は躊躇せず余った右腕を男の腹に勢いよく叩き込む。いくら鍛えているとはいえ、所詮子供の打撃。右手の骨が見える程の負傷もしている。元気な状態で急所に打ち込んでも止まらなかったのだ。効くはずがない、と先程までの勝負を見たなら判断するだろう。

 しかし、そんな予想とは裏腹に弾丸のような勢いを乗せられた拳はフード男の意識を瞬時に奪う。力ない子供の一撃は瞬間的な破壊力だけならボクサーのボディブローを超えた。泡を吹きながらその場に倒れたフードの男を見下ろすと役目を終えた子供は電池が切れたおもちゃのようにその場に倒れた。

 

 数分後、通報を聞いて現れた警察官は不知火フリルを保護。その場にいたフードの外国人の身柄を拘束し、心肺停止状態の子供を病院に搬送。病院で身元を調べたところ斉藤硝太という名前と電話番号が判明し、斉藤宅に電話がかけられた。




今回のまとめ
止 ま ら な い か ら(爆発と共に出てくるビルドブースター)(急いで援護に回るディスティニー)(なんでかボコボコにされるディスティニー)(知らん間に敵の攻撃全部避けたビルドブースターの一撃で勝敗が決まる)

元スレ内で硝太がファイズだとか言われてるので硝太にはグランインパクトしてもらいました。なんでファイズになってんだこの子。それはそれとして次はちゃんとエクシードチャージさせます(嘘)
今回はちゃんと金髪の男が「もういい、もういいだろ!」しなかったせいで硝太が再起動しちゃいました。本当にやるべき事だけはやる男。意志を失ったくせに完全に制御された身体だけが動くという意味で立ち上がるシーンはまんまG4オマージュ。あそこ本当に気色悪くて大好き(褒め言葉)

ここまでがミヤコさん達一行が家に帰ってから電話がかかってくるまでの話ですね。長い…ひたすらに長い…けどこれ一時間の話なんだよな。


では高評価、お気に入り登録、感想よろしくお願いします!
硝太に声をかけた金髪の男…一体何キ何ルなんだ…なんでいるんだ…(純粋な疑問)
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