まぁ本当はこの辺りで〇〇の話ぶち込みたかっただけなんですけど
あの子に初めて出会ったのは秋のはずなのに夏のように暑い、残暑が厳しい日だった。
社長は仕事と言って会社に籠って出産の立ち会いには来ていない。恐らくだけど、社長が会いにこないのはそんな理由では無いと思うが今はどうでもいいだろう。そんな社長の代わりとして先に生まれた双子の我が子達を預かっている上の子達と言って抱っこしながらその時を待っていた。ミヤコさんの傍で出産を待とうか、と思ったが子供達の負担にもなると言いくるめられ看護師に言われた休憩室で休む。先に寝かせたアクアとルビーの頭を撫でながら壁につけられたテレビを見る。休憩室には私達しかいないので帽子を外して変装をとく。別に変装が無くともアイドル活動を止めているその辺のアイドルに気付く人などいないだろう。
もうそろそろ日が落ちる、という時間にニュースでどっかの殺人事件がどうとか、綺麗な顔をしたニュースキャスターが無感情に言っている。テレビ画面にいる人達にとっては事件など出てくる文字を読み上げるだけで事情を深くも知らないしどうでもいいことなのだろう。きっと犯人が捕まらなくても気にしない、遠い世界のことのように考える。
ニュースをボーッと眺めながら私もそうなのかな、と物思いにふける。家族が欲しいと言って産んだ双子の子供達と違い、弟は血も繋がらないし知らない間に堕ろすだとか堕ろしないとか勝手に話が進んで産まれることになった子供だ。そのくせ社長は「お前の為に産まれる子供だ」と言うので正直なところあまり受け入れられない。私の為に産むぐらいならミヤコさんの為に産ませてあげればいいじゃん、と言おうとしたがその時の社長が相当思い詰めた末出した苦肉の結論に見えたので流石にアホと言われている私でも何も言えなかった。
「けど2人にとっては弟なんだよねーあれ、叔父さんだっけ」
私の戸籍は既に斉藤家に入れられている。苗字は変えていないものの、子供たちも同様。なので新しく産まれてくる二人の実子は血縁関係として見るなら赤の他人だが戸籍上では三人全員の弟となる。二人にとっては産まれてすぐ近くにいる同い年の弟、という不思議な存在になる。
「斉藤さん!赤ちゃん産まれましたよ!」
そうこうしていると急いだ様子で走ってきた看護師が肩で呼吸をするように上下させている。そんなに急がなくてもすぐに会えるだろうに。
「はーい。行くよ、二人とも」
しかし私はそんな気持ちに嘘をついて年の離れた弟妹として預かっている二人のベビーカーを押しながら病室へと行く。その間も特にこれといって考えることはなく、病室前でベビーカーを看護師に預けて病室に入る。
中に入ると、一人の赤ちゃんがミヤコに抱かれて眠っていた。アクアとルビーに初めて会った日はぎゃーぎゃーと元気な産声をあげていたのだが始めて見る弟はミヤコさんの胸をペタペタ触りながらぐっすり眠っている。
「あら、遅かったわね。もう眠っちゃったわよ」
こちらに気付いたミヤコさんが仕方ないわね、と笑う。あれだけ看護師が急いでいた割には来てみたら泣き疲れて寝てしまったらしい。
「貴女の弟よ、アイ」
「私の、弟…」
体を少しだけ起こして弟を差し出してくるミヤコさん。先に出産を経験した先輩ママとして言えることだが出産後はかなり身体がキツい。とにかく痛いのが長時間続いたせいで非常に疲れて子供達が産まれてすぐはそのまま眠ってしまったほどだ。きっとミヤコさんも疲れきってしまったのだろう。ミヤコさんから赤ちゃんを受け取る。
「…重い」
産まれてきた子供を抱き上げて最初に持った感想が「重い」だった。重さは今のアクアとルビーより重い気さえする。大きさも見た目でしかないが産まれてすぐのアクアとルビーより大きく見える。一人っ子だから栄養が沢山届いたとか、そういう理由があるのだろうか。この調子だと大人になったら二人より大きく育ちそうだ。
ほっぺたはぷにぷにしており、両手足はグミのような触り心地。身体が柔らかいのかしっかり抱いてあげないと滑り落ちてしまいそうだ。髪の毛は髪質としては薄いものの、色は明るめの茶髪でミヤコさんそっくり。アクアとルビーはあの人寄りの金髪だったが、この子は母親似らしい。
「まだ首が座ってないから気をつけてね」
最近首が座って自分で動き始めるようになったアクアとルビーとは違い、産まれたてのこの子は自分で頭を動かすことすら出来ない。ここぞとばかりに体を堪能するが気を抜くとすぐに死んじゃうような子であることも忘れてはいけない。
「んみゅ」
「あれ?起きちゃった?お姉ちゃんだよー」
抱いている対象がミヤコさんから変わったからか赤ちゃんが目を覚ます。泣き疲れてもお母さんから離されて不服らしい赤ちゃんに自己紹介をする。お姉ちゃん、なんて自分の子達には言えない言葉だ。
瞼から見えた目はミヤコさん譲りの若干赤い瞳は涙を含んでいるからかまるで紅の硝子玉のよう。
「キレー…」
あまりにも綺麗な瞳をしていてその瞳に心が吸い込まれる。子供たちは名前通り宝石のようにキレイだがこの子は芸術品のような存在感を放っている。
思わず指を伸ばす。赤ちゃんはその指に向かって手を伸ばすと──有無も言わさずに噛まれた。
いや、噛んだというのは間違いだろう。この子はまだ歯が生えていない。なので噛んだというよりくわえたが正しい。指を胸と勘違いしたのだろうか。そういえばこの子、眠っている間もミヤコさんの胸をペタペタ触っていた。どうやらもうお腹がすいたらしい。
「ミヤコさん、この子もうおっぱい欲しいみたいだよ」
「私はまだ出ないわよ」
母乳は産後二、三日経ったら出るものなのでミヤコさんの指摘はその通りなのだが、この子はそんなことを知るはずもなく今にも泣き出しそうな顔で指を咥えている。どうやらかなり元気な子らしい。
「そうだ!私のあげよっか」
丁度アクアは母乳を吸わないので、一人分母乳が余っている。ミヤコさんからでなくても先輩ママの私ならこの子に母乳をあげられる。近くにいる看護師さんが明らかに動揺している。
「アイ」
「むー」
ミヤコさんはため息をつきながら首を横に振る。どうやら初授乳は自分でやりたいらしい。いくらお腹が空いているとはいえこの子の母親はミヤコさんなのだから私がしたいと食い下がることは出来ない。
「そうだ!この子の名前決めたの!?」
ふと、この子の名前が気になった。愛久愛海に瑠美衣とかっこいい名前をしてる子達の叔父に当たる子には2人と同じぐらいかっこいい名前をつけたい。
赤ちゃんを抱いたままミヤコさんのベットの隣に置かれた椅子に座り未だに指を咥えている赤ちゃんの顔を二人で眺める。
──
しかしミヤコさんは苦笑いしながら首を横に振る。
「もう社長が決めちゃったわよ」
「え?そうなの?何ちゃん?」
出産にも来ないくせに名前はちゃんと決めるんだ。そんなことを思っているとミヤコさんはスマホを手に取り画面に二文字の漢字を表示させる。
「硝太。硝子の硝に太いで硝太」
硝太、斉藤硝太。それがこの子の名前。
なんとも普通というかインパクトがないというか、平凡だけどこの子らしい名前のように感じた。産まれたばかりでそんなことを思われるのはこの子──硝太も不服だろうが、これは私の感覚の話なので許して欲しい。
「──じゃあ、硝ちゃんだね!」
「間違って覚えちゃうからすぐにあだ名で呼ばないでね」
◇◇◇
その後も、硝太こと硝ちゃんはすくすく大きくなり双子の子供達にも弟としてすぐに受け入れられた。特にルビーはお姉ちゃんぶるのが楽しいのか硝太を甘やかしているように見える。
しかし硝太は予想以上に活発な子だったようで少し目を離すとすぐに変なところに行ったり行方不明になったりした。そういう時は声を出せばトコトコ歩いてくる。来ない時は大抵高いところか狭いところにいる。狭いところにいるなら探し出せば済む話だが高いところにいる時は中々骨が折れる。
「ママー!また硝太が木から降りれなくなってるー!」
公園に遊びに行く時に最も気をつけなければならないのは木だ。一際お姉ちゃんらしくなったルビーに連れられて公園の木を見上げると太い枝に硝太がしがみついている。高さも高く、登るのは大人でも苦戦する。そんなところまで一分も経たずに登り切る硝太は本当に身体能力が高いと思う。まだ一歳になってすぐとはとても思えない。あとは素直に降りられれば完璧だ。
「あーあー。硝ちゃん、降りれない?」
「おりれるもん」
嘘だ。猫のように枝にしがみつきながら風に揺られる硝太が降りれるとは思えない。しかしこの子は無理をしがちなので目を離した隙に手を離してそのまま落下してしまうので人を呼んだり何か準備することは出来ない。
「落ちておいで、大丈夫。おねえちゃんが受け止めてあげるから」
「ん」
なのでこういう時は下で構えて受け止めるのが一番早い。硝太はすぐに納得すると枝を折ってこちらに飛び込んでくる。移動しなくても胸の中に飛び込んでくるという確証はあるので素直に手を伸ばすと百発百中で硝太は胸に向かって飛び込む。
日に日に重くなっていく身体を受け止めるのは大変だけど、ちょっと楽しいのでヨシとした。ミヤコさんが聞いたらすごく怒るだろうけど。
「危ないから変なとこ登らないでよ硝太」
「あぶないくない」
「危ないよ」
いつも通り落ちてきた硝太を下ろすとルビーが寄ってきて硝太の手を握って変なところに行かないように引っ張っていく。男の子だからか、成長が早いからか硝太の体は既にルビーより大きいがこういうところを見るとやはりルビーが姉で硝太が弟なんだと感じる。いつの間にか私が教えることよりルビーが教えることの方が増えてきた。
「硝太、また変な所行ってたのか」
騒ぎを聞き付けてかアクアが太い本を持ちながら歩いてくる。アクアは親譲りの才能を持つからか頭が良く、私も理解できない難しい本を当然のように読んでいる。内容を理解できているかどうかは、本人にしか分からない。
「あくあまりん」
「怪我するから高いところはダメだってミヤコさん言っただろ」
「うー」
ルビー一人だとまだ抵抗していた硝太だが、アクアが加わると抵抗出来ないのか何か言う訳でもなく唸るだけで頬を膨らませる。目も潤んできて半泣きだ。可愛い。
「まぁまぁ、硝ちゃん一人で寂しかったんだもんね、三人で仲良く遊んでね」
硝太が悪いのは疑いようの余地もないが言われてばかりの硝太が可哀想なので硝太の頭の上に手を置いて頭を撫でる。
二人とも硝太が嫌いな訳では無いのでそれに納得すると硝太を両脇で挟んで公園の方に行く。しかし歩き始めたと同時に硝太はこちらを振り返り、手を伸ばす。
「…
「えーいいの?じゃあお姉ちゃんも一緒に行こうかなー」
可愛い弟にお姉ちゃんと呼ばれてしまった為、硝太の近くまで寄ってその手を掴む。産まれてからすぐとは違い、握られているとすぐに分かる力が入った手。細身で可愛い見た目の男の子だが、それだけでこの子もちゃんとした男性なのだとわかる。
「硝太ずるい!ママ、私も!」
「ルビーも?仕方ないなぁ」
ぴょんぴょん跳ねて自己主張するルビーの手を残った手で握る。硝太に対してはちゃんとしたお姉ちゃんであるルビーも私に対してな甘えん坊の可愛い娘だ。手を握ることが出来なくなってしまったアクアの手も硝太が有無も言わさずに握る。アクアはため息こそつくも嫌な気を一切見せずに硝太の手をちゃんと握る。
甘えん坊二人とツンデレ一人の可愛い子供達のやり取りに思わず頬が緩む。同時に内心でこういう家族を求めていたんだ、とわかる。まだ怖くて『愛してる』とは言えないけど、この子達にならきっと言えるようになる気がする。そう思った。
だから、三人のことは私が守らないとね。私はこの子達の母親で、姉だから。
仲良い三人兄弟が実は双子の兄妹+叔父とは誰も思うまい…しかも一番年下で木に登って降りれなくなってる猫みたいなやつが叔父なんだぜ?嘘みたいだろ?
因みに硝太の生まれた月ですがアクルビが6月生まれという考察が多いのでアクルビは6月、硝太は9月生まれとしました。みなみちゃんとかフリルがワンチャン硝太より遅く生まれた可能性があるとか嘘だろ!?とはなりますが硝太は一度部分的では無い完全な記憶喪失になって精神年齢もリセットされてるので本編硝太の精神年齢は実は10歳です。
それはそれとして今回の話はいつもおふざけ(「教えて!アイ先生!」)でしか書いてなかったアイを本編仕様でちゃんと書いた話です。実はフリルが見たビデオを除くとキャラの話にしか出てこなかったアイである。マジか。ミヤコさんに先輩ママとしてマウント取ったり硝太をちゃんとキャッチするの可愛い。