【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
アイドルのオーディションに落ちてしまったルビー。
硝太は母のミヤコを傷つけるかもしれない選択に迷いながらもそれでも姉の為に苺プロにアイドル部門を立ち上げてルビーを所属のアイドルにすることを決める。
──ついて来れるか
「いや僕アイドルにならないし」


#3 試験のち元天才子役

 後日。

 陽東高校、面接試験日。

 あの後無事書類を書いて苺プロ所属のアイドル(ただし仕事無し)となったルビーは芸能科、アクアマリンと僕は一般科の面接を受けた。

 

「二人は大丈夫かな」

 

 アクアマリンは偏差値70という天才と言ってもいい頭脳を持っているし人当たりが悪い訳では無いので変わった名前で落とされることさえなければ大丈夫だろう。

 ルビーもアイドルとして苺プロに所属している証明書はあるしルビー曰く芸能科は面接重視らしいので人を惹きつけるような瞳と所作が身体に染み付いていて意識しなくても自然と出てくるルビーなら面接は問題ないだろう。

 

 問題は僕だ。とはいえ全てに問題がある訳では無い。成績はアクアマリンほどではないとはいえ、学力は学校の中でもそれなりに高い自信があるので偏差値40の高校なら学力レベルは問題ない。正直受験勉強を行わなくても合格ラインを余裕で超えている。問題があるのは...面接だ。

 所作や礼儀は母に仕込まれているのでそこまで問題では無い。問題は質問に答えられるか、というより相手の求める答えを出せるかだ。面接はある意味演技の場と言える。相手の質問に対し、相手が内心期待している答えを自分の中で導き出して答える。それが自らと乖離しすぎているとバレるし定着しすぎていると嫌われ落とされる。ルビーのように面接官をこちら側に引き込めたり、元々の人間性や能力が面接官のお気に入りならともかく、そういう人間はそう多くない。自分も残念ながらそんな聖人君主であるはずもなく、とても人に好かれるような性格や能力をした人間でもないのでその中には入れない。だから言葉を偽り続ける必要があるが残念ながら自分には面接官を黙せるようなスキルは無い。中学三年間、ただそれを磨き続けたというのにその能力はお世辞にも出来ているとは言えない。

 そもそも知らない大人達に囲まれて質問されるというシチュエーション自体が自分にとっては動かない満員電車にずっと敷きつめられているのと同じぐらいキツい。まず面接官を始めとした大人が、「さてこいつはどうだ、あいつはどうだ」と感情を隠さず表現してくる。その上に待っている僕を含む受験者が怯えや混乱、迷いなどを持っており、それが想像しやすいどころかわかりやすいのでそれを感じる度に酔いが回ったように自分と自意識にズレが生じてくる。それが長時間続けば当然のように頭痛や吐き気に繋がる。そしてそんな自分の体調を学校側が気遣ってくれるはずがない。コミュニケーション能力が低い奴がいるな、で終わりだ。成績でその辺りのマイナスを補えればいいのだが、上手くいくだろうか。

 

 無論三年間も対策を考える時間があったのだ。対策がゼロという訳では無い。だがそれが通じたかどうか自信はない。せめて簡単なものでも嘘がつけたらいいのだが、どうしても顔や喋り方ですぐにバレる。世の中正直者が損をするように出来ているということをもっと小さい頃から知っていれば訓練期間を伸ばせたかもしれないのに。

 

「はぁ...」

 

 面接はもう終わり、結果を覆せるものは無い。テストはともかく面接は受験者の中でも最低ランクだろう。あとは面接のマイナスをどれだけテストで補えるかだが、それは最初からわかっていたこと。現実が夢に反転するはずもない。

 頭を切りかえて試験を受けるために別れた兄姉を探す。結局のところ、心の中で決めたはずの二人で話し合いの場を設ける、は失敗した。自分はもちろん二人も余裕があるとはいえ受験生なので受験勉強の時間が必要だったり、アクアマリンが五反田という監督さんの家でバイトしていたり、何より自分の面接が酷すぎて学校で居残り練習を何度もやられたことが原因になっている。せめて筋は通そうとアクアマリンにルビーがアイドルになったことを言っても「別に反対していない」「何処の馬の骨ともわからんグループでやられるよりはマシ」という反応しか返ってこなかった。確かに母はもちろん苺プロの人達とは言葉も喋れない小さい頃から一緒にいたので彼らの中に悪人がいないことは分かる。少なくともルビーが事務所の中のゴタゴタに巻き込まれてファンを失うとか、世間のバッシングで自殺するとか、そういう最悪の事態にはならない。

 もしかしたらアクアマリンもその方法で解決するように誘導していたのだろうか。それならそれで一言でも言って欲しかった。

 

「全く、兄さんは器用そうで不器用なんだから」

 

 そう呟くとなんだか兄の変わった一面が見れて楽しくなってきた。いつもはいじられ役なのだ、たまには弄ってやるのも悪くは無い。そう思いながら先に試験を終えたはずの兄姉に合流する。

 

「ああ、やっと見つけた」

「硝太」

 

 面接会場から出てすぐの所にアクアマリンとルビーが二人で話をしていた。大方試験に問題ない二人なので世間話でもしていたのだろう。少なくともルビーがアイドルになることについて話し合っていたようには見えない。

 

「面接どうだった?」

 

 ルビーの言葉に首を横に振って応じる。

 自信無し。これについては最初から分かっていた事とはいえやはり考える度に人と話すのは駄目なんだなと言われているようで少し凹む。

 ルビーはあちゃーと頭を抱えるがアクアマリンは片目を閉じながら冷静に分析を始める。

 

「硝太の成績なら多少面接悪くても余裕だろ」

「それならいいんだけど」

 

 アクアマリンの言う通り面接重視の芸能科はともかく一般科なら面接のマイナスを取り戻せるだけの学力はあるだろう。実際テストの成績だけなら受験者の中でもそれなりに高い部類に入っている自信はある。なんたって学校にマトモにいけなかった時期でもあの母親に勉強を教えて貰っているのだ。斉藤ミヤコの息子としてもそれぐらい出来なければ困る。面接もそうじゃないのか、という発想は精神衛生上とても悪いので浮かんだ瞬間に殺した。

 最悪僕は進学出来なくても母に苺プロに入れてされもらえればいいので進学出来ようと出来なかろうとどうでもいい。なんなら母の傍で母と姉の夢を叶えて家族を幸せにして、その身を守れるのなら高校より家にいる時間の長い方を選んだ方が得だ。

 アクアマリンは僕がそう思っていることを知っているのか、バツが悪そうに開いている目をこちらからそらす。アクアマリンがその瞳の裏で何を考えているのかは分からない。おそらく責任でも感じているのだろうが、どこに責任を感じる要素があるのかが分からない。

 

「大丈夫だよ!あんなに人いたんだから一人ぐらい硝太を推してくれる人いるって!」

「アイドルじゃないんだから...それに僕は人に好かれるような男じゃないよ」

 

 ルビーも落ちたと思ったことに落ち込んでいると思ったと勘違いしているようで必死にフォローしてくれているが、その肝心のフォロー何処かズレている気がする。

 ルビーのように明るく人を惹きつける性格と顔を持っていたり、アクアマリンのように興味を持たれるような語り方が出来るのならともかくなんで僕が推されるんだか。

 

「そんなことより二人は大丈夫なの?」

 

 落ちるかもしれない僕の話なんてしてもつまらないので、話題を兄姉の試験結果に変える。面白い話になるかは分からないが僕の話よりはまだマシだろう。

 

「問題ない、落とされるとしたら名前だけだろ」

「そういえばアクアマリンって名前は珍しいらしいね」

「みんな面倒くさがってアクアって呼ぶけど」

 

 アクアマリン、という名前はどうやら珍しいらしい。ルビーが言うようにみんなアクアと略して呼んでいるがその呼び方でも伝わるぐらいには珍しい。そう言ったらルビーもかなり珍しい方の名前になるし二人の名前の漢字を見ると複雑でこんなことを思いつく人は余程想像力豊かな人なんだろうなと思う。間違っても僕のお母さんの仕業では無い。星野アイさんがつけた名前だろうが、なかなか変わった名づけ方をする女性ということでなんとなく彼女のイメージが固まってきた。

 

 と、その時に近くを通りがかかっていた一人の女子生徒が反応した。よく手入れされた赤髪、小さい背丈にチラリと見えた童顔。制服からしてこの学校の上級生だと思われる少女。

 

「アクアマリン...アクア」

 

 彼女は何かを思い出すようにアクアマリンの名前を繰り返す珍しい名前だから反応した、という訳では無いだろう。確実に名前を知っている、知り合いだ。しかし記憶喪失にあったことのある僕だけならともかく兄姉も声を聞いても反応が薄い。

 念の為ルビーとアクアを下がらせてその少女との間に入る。

 

 するとその少女──おそらく受かったら今後先輩と呼ぶ人物だろう人はこちらを勢いよく振り向くと僕が間に入ったことで少しだけ距離を取ったアクアマリンに向かって突っ込んできた。当然、間に入った僕を軽く押しのけて。いきなりだったので受け身を取る事だけは出来たがアクアマリンと距離を離された。

 

「星野アクア!?アクア、アクア!貴方星野アクア!?」

 

 少女はまるで某ジ〇リ映画の「貴方〇〇□って言うのね」と突貫した子供のようにアクアマリンに突貫する。下手人だったら反撃していたがどうやらそうでは無いようなので無言でルビーの後ろに回る。

 少女の顔はかなりの童顔で、背が低い事もあり制服さえ中学校のものを着ていれば中学生と見られても仕方ないと言えるぐらいには若く見える。見た目の華といい、仮にも試験が行われている日に学校に来ていることも踏まえるとおそらく芸能科の生徒。芸能科となるとファッションモデルか元子役、というところだろうが残念ながらこの少女のことを僕は見た事もない。

 勢いよく詰めてくる少女に対してアクアマリンは誰かわかっていないようで圧倒されている。どうやらアクアマリンにも厄介ファンが生えてくる季節になったようだ。アクアマリンは自分のことを省みずに人のことを助けてしかもそれを誇りもせずに片付けてしまうから変なところにファンを増やしてしまう。

 

「あっあれじゃない?()()()()()()()()()

 

 アクアマリンが戸惑っている中先程までアクアマリンと同じように驚いていたはずのルビーが気付いたように少女に指を指す。

 重曹舐める天才子役、なんて聞いた事のない名前だ。重曹をペロペロ舐めていたからついた名前だろか。重曹には食欲のものもあるとはいえ、体にいいものとは言えない。子供なら尚更だ。もしそういう名前がつくほど食べているのなら身体が心配になってくる。行きつけの病院を紹介した方が良さそうだ。

 

1()0()()()()()()()()()()!」

 

 ルビーの言葉に反射的に少女──もとい10秒で泣ける天才子役さんが答える。

 表情も声もかなり真剣でお笑い芸人のツッコミの人が持ちネタのフリに答えるぐらい早い返しだ。どうやら元々『10秒で泣ける天才』として有名だったのだが、どこかのテレビか何かで重曹舐める天才子役』と間違われてしまった為その名前で伝わった結果汎用性の高いツッコミとボケとして浸透してその現役時代のツッコミとボケを未だに覚えている、ということなのだろう。本人の名前より伝わってもおかしくないフレーズを聞いてなおその少女が誰なのか僕には分からない。芸能科という推理が正しいとするな活躍がかなり昔の人かもしくはそもそも有名にすらなっていないか。ルビーは芸能人とか色々詳しいのでそうなってもおかしくない。

 

「映画で共演した有馬かな!」

 

 10秒で泣ける天才子役、もとい有馬かなさんはそう言うとアクアマリンは何か引っかかる節があるようで「あーそういえばこんなヤツいたな」という顔になる。

 しかし彼女の発言は僕も引っかかるものを感じた。映画で共演した、ということは彼女とアクアマリンは同じ映画に出演したということになる。しかし僕の記憶が正しければアクアは()()()()()()()()()()()()。俳優としての活動はレッスンなどをしたという話は聞いたことあるがそこ止まりだと五反田のおじさんが言っていたはずだ。確かに映画監督で大嘘つきの五反田のおじさんの事なのでアクアマリンを自分の作品に出していてもおかしくは無い──のだが、アクアマリンからそういう話も聞いていない。

 

「あれ?兄さん映画なんて出てたの?」

「あ、あー昔、な」

 

 聞いてみたがアクアマリンの返答も中々歯切れが悪い。これは五反田のおじさんの作品にいくつか出たと見ても良さそうだ。それを五反田のおじさんと共に隠した。そしてその作品に有馬先輩も出ていた。これで話が繋がる。

 なんなら僕と会う前の二人と出会ったという可能性もあるのでそれなら隠していても不思議じゃない。

 

 すると有馬先輩はやっと近くから見ている僕の存在に気づいたようで今度はこちらに指を指す。

 

「え、じゃあまさかアンタはあの時の大泣き虫!?」

「は?」

 

 驚きの発言に思わず先輩を相手にしているとは思えないほど失礼な声が出る。

 アクアマリンが出た作品にいて彼の事を覚えていたのならタイミングにもよるがルビーを見た事があってもおかしくない。なら彼女が言うのは「あんた誰よ」とかそう言われるのだろうと思った途端にこれだ。意味がわからない。

 アクアマリンとルビーは分からないが間違っても彼女と僕は初対面だ。

 

「...失礼。おそらく人違いかと。僕と先輩は初対面ですよ」

「そう?瓜二つなんだけど...確かに全く変わってないのもおかしいわね。にしてもよかった...アクア辞めてなかったんだ...やっと会えた。うちの芸能科入るんでしょ?」

 

 先程から有馬先輩の言っていることの意味がよく分からない。まるでルビーではなくアクアマリンと僕に芸能科に入ることを期待するようなセリフだ。アクアマリンも僕の記憶にある限り芸能活動をしていないので期待される理由が欠片も分からない。

 

「いや、一般科受けましたけど」

「なんでよ!?」

 

 そう言って驚く有馬先輩の顔はしばらく忘れないだろうと思えるほど印象に残る顔をしていた。




嘘のつけない甘えん坊末っ子に面接は厳しい。


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次回4月15日予定
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