【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
硝太が刺されて命の危険と伝えられた斉藤ミヤコ、星野ルビー、星野アクアマリンの三人は病院に行くとICUで治療を終えたばかりの硝太の元へと通される。傷口の縫合は終わったものの、脳に血液が届かなかった時間が長く脳死する可能性が高いと告げられる。
その頃、警視庁警備局は硝太の蘇生、もしくは脳の確保を決定。しかしそれすら嘲笑う影がミヤコ達の元に迫る


#48 遺言書

  医者が硝太の治療を延命治療と言い出した次の日。ルビーは硝太の見舞いに来ていた。硝太は延命治療について何も言っていなかったので保護者であるミヤコさんが自己判断で最大限生きられるように病院に掛け合ったそうだ。花を添え、少しだけ声をかける。帰りはその足でアイの墓に行き墓の掃除と産みの母に両手を合わせ流れ星に祈るように硝太が元通りに、元気になることを祈るようになった。

 

その間も『硝太は私達を庇って刺されたのかもしれない』という懸念は抜けることない。もしそれが本当なら出歩くルビーは危険としか言いようがないが血は繋がらなくても弟が死にかけという状況でミヤコもルビーに外に出るな、とはとてもいえなかった。「私のそんな弱さがあの子を殺したのかもね」とミヤコが涙を堪えながら言葉を零したがそれは誰にも拾われることは無い。

 

「ただいま」

 

 今日の硝太の見舞いとアイの墓参りを終えたルビーは帰宅してすぐ自分の部屋に戻り机の上に広げたほとんど進んでいない宿題を見る。JIFまでの間はレッスンを隙間なく入れられ宿題はほとんどなかった。その時はJIFが終わったらでいいと思い硝太もアクアも宿題をやれとは言わなかった。しかしJIFが終わった今でも宿題にはほとんど手をつけられていない。

 

「でも硝太よりは進んでるもんね…硝太、早く起きないと学校で怒られちゃうよ」

 

 乱雑に広げられた宿題を見ながら無理矢理口角を上げて笑顔を作る。今日は午後からB小町のYouTube撮影が入っている。JIFのライブも成功し、YouTubeの登録者数も順調に増えている。ファンを増やすなら今だ、とそうなることをよんでいた硝太やMEMちょが考えてドンドン予定を入れたおかげでクヨクヨしている暇は無い。これから数日の仕事はある意味硝太が残した遺品のようなものになる、とルビーは考えている。そう思うと気乗りしなくても手を抜いたり休んだりすることは出来ない。

 もう遊びでは済まされない。センターになる時ですら重かった言葉がより大きくなってのしかかる。責任で押しつぶされそうになりながらもそれを隠しながら笑ってアイドルをやり続けなければならない。

 

 一先ず撮影まではまだ時間がある。気乗りしなくてもほんの少しでも宿題をやろうと乱雑に広げた宿題に手をつける。当然集中力出来るはずもなくすぐに手元が動かなくなる。

 

「やめよ」

 

 宿題を投げ出したルビーはベットに寝転がる。一人では寝られない硝太が度々入ってきていたベットは1人だと少し広い。宿題は手につかず、遊ぶ気分にもなれずただ徒に時間を使うだけ。暇と言うより何をするにもやる気が起きない。

 

「硝太のものどうなるんだろう」

 

 ベットで何も考えずに寝転がっているとふと、隣の硝太の部屋が気になった。もしもこのまま硝太が亡くなったら遺品整理とか言って大半のものは処分してしまうのだろうか。硝太の部屋はものが多いという訳ではないが中にある硝太が大切なにしていた思い出のもの等は捨てられる気がしない。切り替えたように見えるミヤコさんも硝太のことを引きずって中に入ることすら出来なくなってしまうだろう。そうなれば今後は開かずの間のような扱いとして封印される。

 

「ちょっと掃除ぐらいはしてあげようかな、お姉ちゃんだし」

 

 本当に硝太が居なくなってしまう前に、まだ切り替えられる間に部屋の片付けぐらいはしておいてあげよう、そう口にしてベットから降りたルビーは部屋から隣の硝太の部屋に入る。

 本当は、いなくなった硝太を感じられるものが少しでも欲しいと思っただけなのだが、その気持ちは封印した。

 

 硝太の部屋を覗くと部屋の中は想像とは違い小綺麗にされていた。元の硝太の部屋も汚部屋という汚い部屋では無いが硝太がルビーやアクアの部屋で生活する時間が長いこともあり半ば物置のような扱いをしていた。その部屋が小綺麗に整頓されている。先にアクアが部屋に入って整理でもしたのだろうか。

 

「入るよ〜」

 

 返答は無いと知りながらゆっくりと硝太の部屋に入る。本来の用途で使われたことは数える程度しかないベットに、数少ない趣味のゲーム。本棚には『東京ブレイド』を始めとした今流行りのマンガが入っており、中には最近買ったのだろう、吉祥寺頼子の作品もある。そんなごく普通の男の子の部屋の隅にある硝太が勉強や動画の編集に使う作業机の上には高性能なノートパソコンと共に小さなメモ帳が置かれている。特にメモ魔でもない硝太の机の上にメモ帳、その上硝太は今大怪我で入院中。

 嫌な予感を感じながらもそのメモ帳を手に取り1ページ捲る。そこに書いてあった文字にルビーはその場でピタリと止まり素っ頓狂な声を出した。

 

『お金は下から2番目の引き出しの奥。給料全額返します』

「え」

 

 書かれた通りに洋服棚の引き出しを出すと奥から沢山のお金が入った封筒がでてきた。タンス預金、なわけが無い。硝太が自分が死んだ時のために貯めておいたお金だ。ここ中身は数ヶ月働いた硝太のお給料だけではどう見ても足りない。これまでの人生で貰ったお小遣いの大半と思われる金額が中に入っている。

 ルビーの背中に冷たい汗が走る。硝太には特に死んだ時にお金を貯めておく必要性は無い。苺プロはいくら弱小と言われたとしても一億稼ぐネットタレントのいる芸能事務所。子供三人を高校大学に通わせても問題ない、硝太の小遣いなんて端金と言ってもいいぐらいの経済力がある。そんなこと内部の人間なら誰だってわかる。

 

──硝太はこのお金が会社の経営の足しになると思って貯めていた訳では無い。

 

 ルビーは自身が感じた感触が正解であることに気付き、次のページを捲る。

 

『パソコンのパスワード、スマホのパスワード』

 

 パソコンとスマホのパスワードが出てきた。スマホは病院から受け取ったミヤコさんが持っているがパソコンはメモ帳の置かれていた机の上に置かれている。パソコンを開き書かれたパスワードを入力するとパソコンが硝太のアカウントで開く。

 次のページを捲る。

 

『葬式はやらなくていいです。そんなことに使う金があるなら焼肉にでも行って下さい。身体は直葬してアイさんの墓か無理なら散骨してください』

 

 葬式の有無。最近は直葬と言って家族葬すらせずに火葬か土葬をする場合が増えている、とニュースで聞いたことがある。骨についてはアイと同じ墓か散骨、ということは墓参り先を増やしたくないという配慮だろう。

 次のページを捲る。

 

『僕の持ち物は斉藤ミヤコ、星野愛久愛海(アクアマリン)、星野瑠美衣(ルビー)の三人で分け合って下さい。余ったものは捨てるか売るかして家に残さないように。部屋は物置にでも自由に使って下さい。これも、全員読み終わったら捨てるように』

 

 遺品整理。硝太は明らかに要らないものは片付けていたみたいだが残りは三人で分け合って残すなと言っている。硝太は自分の持ち物を一つも残す気は無いらしい。

 次のページを捲る。

 

『最期に。僕のことは忘れて幸せになって下さい』

 

 それ以上ページを捲っても次の言葉は出てこない。長々と要求が書かれたメモ帳、遺言書を机の上に戻す。ルビーは遺言書と言う認識だが、印鑑や作成した日付けがないため遺言書としては機能しない為エンディングノートと言われるものに当たる。

 しかしルビーはそんなことより要求だけを長々と書いておいて最期に忘れろと残した硝太の身勝手さに何故か腹が立ってきた。

 

「なにこれ。忘れてって何?」

 

 硝太の勝手すぎる書き方に心配していたルビーはこれまでの心配が馬鹿馬鹿しく思えてきた。あの子は何勝手に忘れ去られようとしているのだろう。このメモ帳は見た目も綺麗でつい最近書かれたものだとわかる。硝太は自分が死ぬ可能性を考えて残されるルビー達が余計なことを考えないように遺言書という体でエンディングノートを記した。そこまではルビーもわかるし納得出来る。自分が死んだ後に家族に自分の死に引っ張られて欲しくないとか、家族を大切に思う人なら誰しも考えることだろう。しかし大切な家族に忘れて欲しいなんて考える人はいないはずだ。引きずって欲しくもないが忘れられたら本当に硝太はこの世から消えてしまう。

 

「忘れろって、そんなこと言われた位で忘れるわけないじゃん。硝太にとって私たちはそんなに冷たい人なの?」

 

 硝太は自分の扱いを雑にしてもらうようにエンディングノートを書いている。雑に扱うことで処理にかかる時間を抑えたり悲しみに出来るだけ触れないようにという硝太なりの配慮だろう。

 その配慮に意味があるかなんて硝太が理解できるはずもない。自身の死を忘れろ、なんて簡単に言えてしまう硝太は何も分かっていないのだから。そこにいた形跡を無くして、忘れろと言えば故人が忘れられると思っているのだろうか。だとしたら理解力が足りなさ過ぎる。人の記憶力云々の問題ではなく、これまでの人生の思い出にどれだけ硝太がいたかをわかっていない。三人ともそれを切り捨てて良かった、と言えるほど冷酷な人間では無い。硝太は自分を引きずって欲しくないから三人に冷酷な人間になれと言っているようなものだ。

 

 たとえ硝太がこのまま死んだとしても絶対に忘れない。硝太が生きた証も全部残すし何か『奇跡』が起こって回復した時にいつ帰ってきてもいいようにする。それが家族として当然の対応だ。

 硝太の部屋の掃除という当初の目的を忘れたルビーは少し腹を立てながら硝太の部屋から出る。同じタイミングでアクアも部屋から出てきた。

 

「何してるんだ、ルビー」

「お兄ちゃん。硝太の部屋見てたの。硝太、遺言書書いてて。ほんっと変な内容だったんだから!」

 

 ルビーはアクアに硝太が書いたメモ帳の話をする。自分がいた形跡を全て消して忘れて下さいなんて身勝手なことを書いていたことにまた怒る。

 アクアも硝太の書いていた内容を察して一緒に怒る、と思っていたルビーだがアクアの反応は少しズレており、顎に手を置いて少し考え始める。

 

「それ、どこにあった」

「え?机の上に普通に置いてあったよ?最後まで書いてあったし紙も綺麗だから書き終わったのは最近じゃないかな」

 

 アクアの質問に素直に答える。遺言書を書いたことも、お金を隠したのも部屋の片付けをしたのも硝太にとっての終活としか思えない。終活をするならわかりやすいところに遺言書を置くなんて別に珍しいことでは無い。

 そう思ったルビーだがアクアはなにかに気付いたようでしかめっ面になる。

 

「ルビー、何で硝太は遺言書なんてものを書いたんだ?」

「え、それは自分が刺されることを予感して…あ」

 

 二度目のアクアの質問に答えている時にルビーはアクアの言おうとしていることを理解した。

 あの遺言書はつい最近書いたもの。遺言書を書き終わった時とほぼ同じタイミングに硝太は刺された。仮に何気なく終活を始めたとするのならタイミングが良すぎる。絶対に有り得ないという訳でもないが不自然な話だ。となると自然と自分が刺されることを知っていたから残される家族に遺言書を書いたとなってしまう。思い出してみれば硝太がおかしかったのはJIFの準備を始めたあたりだった。その頃から自分の顛末を察して遺言書などの準備をしていたと考えられる。というよりそうでないと不自然だ。つまり硝太はJIFの帰り自分が刺されることを知っていた。

 しかし刺されることがわかっていたのなら、別の手段だって取れたはずだ。警察に相談するのもよし、逃げるのもよし。刺された理由が家族の誰かという予想が合っているとするなら逃げることは出来なくても警察は呼べたはず。基本的に人を信用しない硝太でも一人で挑む無謀さと自分の能力はわかっている。そもそも硝太はJIFの夜、別れる時に「みんなを送ってから帰る」と言っていた。最初から誰かを庇うつもりならこの言い方はおかしい。これがもし相手と相対して初めて知ったのなら理屈は通っていた。しかし少なくとも自分の部屋にメモ帳を残していたことからJIF出発前にはわかっていたことになる。何故、硝太は誰にも助けを求め無かったのか。わざわざ真実に辿り着かせないようにしているのか。これは「忘れて」と言っていた遺言書とも重なるのか。

 

「とりあえずわかるのは硝太は俺達にこの件に関わって欲しくないって考えているってことだ」

「でも、やっぱり私納得出来ない。硝太とちゃんと話をしたい!」

 

 分からないなりに先程まで出た情報から一つの結論を出すアクアに対してルビーは硝太と話すまで納得出来ないと言う。

 硝太がただの怪我で待っていれば治るのならルビーのような結論でもいいだろう。しかし既に硝太の命は風前の灯火。事件のことを聞くどころか話をしてももうなんの返答も帰ってこない可能性の方が圧倒的に高い。

 

「でも、硝太は」

「帰ってくる。私は信じる」

 

 絶対に帰ってくるなんて誰にも言えない。ルビーの中にもこれという確固たる確証もない。あるのはミヤコさんが硝太に謝った時、ほんの少しだけ硝太が反応した事のみ。医療知識のないルビーにはそれがなんの足しになるのかも分からないし、そもそも硝太の反応がミヤコさんを見て動いたのかすら分からない。

 ルビーは強く信じると言い切ったが、どちらかと言うとそう言い切ることで何とか自分を立たせようとしている。

 

 言い切ったあと足早に自室に戻ったルビーの背中を見てアクアは視線を落としながらゆっくりと自室に戻った。




…なんか最近思ったより暗いな。仮にも弟分死にかけのせいでルビーがギャグキャラとして扱えないし、アイやせんせーほどの爆弾でもないから闇堕ちもできない…せっかくルビーメインの話なのに…ルビーの可愛いところなんも書けないよ…仕方ないし後書きだけでもなんか面白そうな感じに書くか
【悲報】斉藤硝太、無能
遺言書書くなら書くで事件に関わりに行ったと思われるやり方はやめろ
せめて本棚に挟むとかしとけばバレなかった事ね?

…つまらんな

それでは感想、高評価、お気に入り登録よろしくお願いします。
いくら自分が死ぬとしても残された家族のことをちゃんと考える硝太。…ちなみに死んだ後どう思うか考えてこれである。
硝太「ルビーは二、三日泣けば普通に元気になるでしょ!へーきへーき!」
硝太「アクアマリン?僕が死んだ程度で止まる男じゃない!あかね幸せにしろよ!」こんなテンションの模様
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