【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
アイリと名乗る女性に魅了されそうになる硝太だったがお姉ちゃんと名乗る女性の援護もあり現実世界に帰還する。
幸せにしたい家族がいる現実世界に。


#52 首尾

「リーダー、斉藤硝太が起きました。その後未確認生物A並びにBの活動が停止。インスタントバレットが覚醒しました」

 

 硝太が動く死体、と呼んでいた謎の生き物を切り倒したのを遠くから双眼鏡片手に浮かびながらみていた七辻は一旦地上に降りるとスマホの通話でその様子をリーダーに連絡する。

 現場には硝太と仮称ツクヨミ、そして彼女の眷属と思われる三羽の八咫烏と硝太に動きを止められた死体、仮称未確認生物A、Bの二体が転がっている。未確認生物はピクリと動くこともせず倒れている。硝太のインスタントバレットの能力で完全停止したとみていい。

 

「アイツ、アイのところにいた餓鬼か」

 

 近くの木に登って様子を見ていた男が着地する。暗めの服装に隈がついた死んだ目をしているアラフォーに見える男。

 世間ではとあるアイドルを殺傷した悲惨な殺人鬼、貝原亮介という名前で呼ばれているが本名は菅野亮介。彼もcolorfulで活動するインスタントバレットの一人。

 亮介は潰れたような野太い声で苛立ちを見せながら七辻の隣まで来る。七辻の護衛をcolorfulリーダーに言い渡された亮介は自身の得物のナイフで数回空を切ると不満げにナイフをポケットにしまう。

 

「斉藤硝太ですよ菅野さん。この前会議があったじゃないですか」

「わかってる…チッ、死体処理だけならともかく黒歴史の処理までさせられるのか俺は」

 

 見るからに「私怒ってますよ、不機嫌ですよ」というオーラを出している亮介に七辻は唇を尖らせて対抗する。が、亮介は関係なさそうに舌打ちをするとフードの中に手を突っ込んで頭をかき始めたので双眼鏡を手渡して病院を指さして見ろ、とジェスチャーを送る。

 今回の二人に下された命令は斉藤硝太の経過観察と隙を見て脳を取り出して残りの体を破壊する、という死体荒らしのミッション。その為に病院内で自由に動けるように手を回したのだが未確認生物の二体が病院内を歩き回っているのを見て一旦撤退し状況を見ていたのだ。

 

「あんな木偶の坊、俺が切り殺してやれば止まっただろ。あの餓鬼の処理はそれからでよかった」

「まだ性能がわかっていない相手に無策で挑む訳にはいかないでしょう。それに近くにツクヨミがいましたし乱戦になれば菅野さんも負けますよ」

 

 未確認生物は生命体としては死んでいながらも動くという特性から仕留める方法が確定しておらずその上近くに単独で七辻を押さえられるツクヨミがいた事から気づかれる前に撤退した。しかし動きは遅く、正面戦闘となれば七辻も亮介も負けるような相手ではない。遠距離攻撃を持つ訳でもないので極論七辻が視界に収めるだけで何十体いようと彼女一人で動きを止められる。その間に亮介が硝太の脳を引きずり出して死体をその辺に放置、七辻がその死体の上に未確認生物を乗せるなり、そのまま未確認生物ごと持って帰ってしまえばいい。

 慎重になりすぎたが故に先に未確認生物に斉藤硝太を襲撃され、斉藤硝太が起きるまで見守ることになってしまった。その点について追求する亮介。斉藤硝太の能力を使うなら脳さえ生きていればそれでいい。ある程度損傷していようとcolorfulのインスタントバレットで強制的に目覚めさせ、その間に『契約』することで脳だけで生存させ、尚且つインスタントバレットを使わせることが可能なはず。そういう意味では眠っていたままの方が都合が良かった。

 苛立つ亮介に対し七辻は冷静に『何も分からない』未確認生物について慎重に見ている。出てくるタイミング、謎の再生能力、そして何より『情報』のインスタントバレットを持つリーダーの予想外からの攻撃。何も分からない、というのは何してくるか分からないことと同じ。亮介を超える近接戦闘技術があった可能性もあれば、七辻でも捕まえられない可能性もある。その上で硝太を守るツクヨミとの乱戦になれば病院自体を破壊して次の日のニュースになってしまったり、最悪七辻や亮介が死亡する展開になりかねない。斉藤硝太のインスタントバレットを欲するcolorfulだが、少なくとも現時点では仲間の命を犠牲にしてまで欲しい訳では無い。

 

「ツクヨミの抵抗が予想されたから俺がお前の護衛に入ったんだろ。ならあの怪生物だって同じはずだ。そもそも、リーダーが事前に『検索』しておけばあの怪生物のことだってわかったんじゃねぇのか?」

 

 リーダーのインスタントバレット『全知無能』は検索時間はかかるものの、世界中のありとあらゆる情報を知ることが出来る。その情報に嘘偽りはない。

 ツクヨミについての情報はまだ調べられていないものの斉藤硝太の容態から手早く済ませるためにツクヨミの接敵経験のある七辻を主体に戦闘能力に優れ、周囲に被害を広げない亮介が護衛として選ばれたという背景がある。これは今回の作戦の不安要素がツクヨミと目覚めるかもしれない硝太との敵対だけだったから話として通じた。

 前回のツクヨミ乱入と同じイレギュラーが発生したとなれば『情報』のインスタントバレットの信用性も落ちる。それはリーダーの『情報』を頼りに動くcolorfulからすれば致命的な問題となる。

 

「それはすまない。検索にも時間がかかる。未確認生物の事も検索しているがどうにも上手くいかないな。周辺の状況から見て、おそらく何らかのインスタントバレットで死体を操縦していたんだろう。言うなら歩くドローン兵器だ」

「うーん…斉藤硝太と同じく死に瀕していた身体に、何らの魔法をかけて兵器とした。その兵器は起動するまで私たちでは感知できない…と言うことですか?」

「その可能性が高い。インスタントバレットの反応を感じたのは起動してからだからね」

 

 苛立ちながら上司に愚痴を言う亮介の言葉に現場にいる七辻ではなくスマホで通信していたリーダーが答える。

 未確認生物には何らかのインスタントバレットの効果が確認されている。見るからに死体、尚且つ二体が性能差こそあれ同じような性質を持つことから襲ったのがインスタントバレット使い手本人の可能性はまず無い。となればインスタントバレットの使い手が病院をわざわざ訪れて傀儡の兵士を作った、と見るべきだ。材料が生きた人間か、死んだ人間か、或いはゼロからインスタントバレットで作られるのかどうかは議論の余地があるがそのインスタントバレットが斉藤硝太を狙って行動しているのは確かだろう。何処から存在がバレたのか、或いは斉藤硝太をインスタントバレットの使い手と知らずに仕掛けたのか分からないが兎も角最低限の目的は果たした。

 

「あの死体、回収しましょうか?」

「…いや、やめておこう。こちらの動きはツクヨミにバレてない。情報が足りない相手に下手に動いてまた敵対するのは避けたい」

 

 懸念点があるとすれば未確認生物の存在。『情報』のインスタントバレットで検索したとしてその正体を判明するのには相当な時間がかかる。死体を持ち帰れば『情報』以外の方法でもインスタントバレットに関係すること以外は調べる事が出来る。

 しかしそれは病院に近付き過ぎてツクヨミや硝太に動いていることがバレる危険性がある。相手の方が連戦になるため有利なのは変わらないが下手に殺し合いに発展すれば最大の目的を逃してしまう。

 

「とりあえず今日は撤退だ。今晩の斉藤硝太の機嫌は悪いし交渉できる環境じゃない。死に体だったはずの斉藤硝太が目覚め、インスタントバレットに覚醒しただけで結果としては十分だ。ありがとう、二人とも。撤退してくれ」

「はい」

 

 最低限の目的発生したのならここで引く判断をするべきだ。そう思ったリーダーの判断に七辻と渋々といった様子ながらも亮介も頷きその場から離れ始める。

 

「…死体を役者にする意味がどこにあるって言うんだ、ヒカル」

 

 病院の方を振り返り亮介が零した言葉は誰にも聞かれることはなく静かな風にかき消された。

 

◇◇◇

 病室に朝日が差し込む。

 穏やかな朝の日差しは温かく、昨夜の出来事を忘れさせてくる。

 割られた窓ガラス、蹴り飛ばされた椅子、放置されて動かない死体。いずれもカラスを操る少女が十分程度で片付けてしまい病室は何事も無かったようにスッキリしている。特に割られたはずの窓ガラスを新しいのをつける訳ではなく割られた破片をそのまま時が戻るように元に戻してしまうのは随分とおかしな光景だった。

 とにかく正体不明の敵が襲ってきたイベントは二人の間の秘密、世間には出されない情報となった。その為病院には延命治療をされていた二度と目を覚まさないはずのただ死に体だったはずの子供が目を覚まし、体に着いていた管等を引っこ抜いて部屋の中にいる結果だけが残る。死体が動き出すオカルトと比べたら見劣りするが病院ではそれなりの騒ぎになった。起きたところを最初に見た看護師に至っては幽霊かなにかと間違えたようで悲鳴をあげていた。今後は狸寝入りの練習をしなくてはならないようだ。

 

 それも今は瑣末事として処理していい。動く死体のことやカラスを操る少女、インスタントバレットという魔法とその魔法使い。昨夜見たことは家族に話すべきことではなく自分が一人で解決するべきことだ。特に動く死体はやり方から考えて威力偵察と考えるべきだ。あれでこちらの戦力を測られたのなら終わりとは思えない。待ちの姿勢では攻め落とされる。今後はこちらから仕掛ける必要性も出てくる。

 しかし今は、少しだけこのままでいたい。身体が万全でないことは当然だがそれ以前に自分を受け止める時間が必要だ。

 

「硝太」

 

 隣から、待ち望んだ声が聞こえた。首だけを横に動かすとそこには今にも泣きそうな顔をした母がいた。その後ろには(アクアマリン)(ルビー)がいる。

 三人の姿を見て理解した。眠っていた斉藤硝太を呼び起こしたのは間違いなくこの三人だ。斉藤硝太の人格を作り、人間性を作った。仮の話だが、彼らに斉藤硝太と全く同じ大きさと思考力を持った人形を渡して斉藤硝太にしろと命じれば自分と全く変わらないものが出来上がる。そんな三人がいたから今の自分はいる。

 

「お母さん、お布団の匂いがする」

 

 右腕だけで身体を起こして布団から抜け出す。看護師がとりあえず巻いた三角巾とギプスで固定された左腕は未だに動かないが、右腕も両足も動く。病室のドアから入ってすぐの場所で立ち止まっている母の元まで歩く。少しやつれたのか目元に隈が残っている母は泣くのを堪える顔をして動かない。何を考えているのかよく分からないがお母さんが泣くのは嫌だ。僕は母を悲しませるために生きてる訳じゃない。

 

「お母さんっ」

 

 母に抱きつく。身長的に女性にしては長身な母の胸に届かない為顔はちょうど鳩尾のあたりの収まり、顔を上に向ければ胸に視界が遮られ母の顔が見えない。

 久しぶりに抱きついた母の体は前に触れた時より少し硬く、元気がなさそうに感じる。それでも暖かくて女性的な抱き心地は間違いなく母のものだ。何らかの手段で身体をピッタリ母の形にした敵がいたとしてもこれはごまかせない。

 

「硝太…大丈夫?痛くない?」

 

 震える声で母はこちらの肩を掴むと腰を下ろして視線を合わせる。その目には涙が浮かんでおり、既に限界だったことが察せられる。色々な感情が渦巻き出てきた言葉がこれなのだから善人にも程がある。

 何日寝ていたのかは看護師に聞いた。二日間目を覚ましていなかったらしい。医者もあと数日で死んでいたとか縁起でもないことを言っていた。母はもう息子が死ぬ覚悟が出来ているものだと思っていた。死んだ後は葬式やら火葬やら必要な行動が多い。親として死を悲しむことより大人としてやるべきことを淡々と済ませていれば使えない息子が死んだ悲しみなど時間の経過で消えていくはずだと。その中でほんの少しでも、例えば一周忌みたいな節目で悲しんで泣いてくれたらいいな、と思っていた。しかしその見込みは甘かった。大人として振る舞わせるということは母に大きな負担を背負わせたということになる。

 

──息子失格だな、これは。

 

「うん。僕は大丈夫だよ。だから泣かないで」

 

 出来るだけ優しい声で腰を下ろした母の頭を撫でる。母の泣く姿を見るぐらいなら死んでしまった方が良かったと身勝手な感情と共にそんな母を泣かせてしまった自分に殺意が湧く。

 それでも僕は斉藤ミヤコの息子なのだ。自分を殺して家族に迷惑をかけるわけには行かない。僕の命は母のためにあるのだから。母の為に使わなければ意味が無い。

 

──この人の為に僕の人生を使う。生きてる間も、もちろん死んでからも。

 

 その誓いだけはどんな魔法でも覆せない。

 

 硝太が動いたことで硝太のポケットに入れていたビー玉がポケットからベットの近くに落ちた。ビー玉はコロコロと転がると抱き合う二人の姿を反転して写し出した。




菅野亮介参戦!(某大乱闘風)
殆どオリキャラっぽくなってるのはご愛嬌。若干イラついておられますが怒ってもしょうがない事実ばかりなので仕方ないと言えば仕方ない。今回はリーダーが慎重だったのが功を奏した感じですね。『情報』のインスタントバレットから計算高いデータタイプに見られガチで実際その通りですが『分からない』ものに対する対処もちゃんとやってるキャラです。名前は分からないくせに出番が多い。
後半は久しぶりに書いた甘えんぼ硝太。そうなんだよ、硝太って本当はこういうやつなんだ。「お母さんを幸せにしたい!」とか言いながらミヤコさんに頭撫でられたらもっと撫でてする駄犬だしミヤコさんが近くにいたらとりあえず抱きつくマザコンなんだ。残虐な一面ばかり目立ちますが甘えん坊マザコンは演技とか嘘ではなく(元々そんな器用なことは出来ない)100パーセント素です。マザコン故にミヤコさんに甘えてマザコン故にミヤコさんに幸せになって欲しくてそれ故に自分の精神的ブレーキがぶっ壊れてるだけのその辺の子供です。


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硝太×ミヤコさんこと斉藤親子の仲良し親子はもっと書きたい。というかもっと甘えん坊硝太とお母さんミヤコを書きたい。けど主人公として甘えん坊はダサいから、とかで人気落ちそうなのヤダな…
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