【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
面接厳しい!入学は絶望的か!
なんて時に現れた謎の女!その名は重曹を舐める天才子役!有馬かな!
有馬「10秒で泣ける天才子役!」
芸能科に入ると期待した彼女に悲報が一つ。二人が受けたのは一般科です
有馬「なんでよ!?」


#4 おもしれー女

 目の前に立つ、パッと見年下にも見える嵐のような女性。有馬かなと名乗る元10秒で泣ける天才子役。彼女のとてもテレビでは見せないような表情に思わず笑いそうになる口を押さえる。

 

 なんとも叩けば響く面白い(ヒト)だ。子役もそうだがお笑い芸人も向いているように見える。うちの事務所はお笑い芸人っぽいことしてるひよこ頭はいるが本物のお笑い芸人はいないので本当にそうかという目はないが。

 にしてもこの高校を受けた理由、か。そんなのルビーの出来るだけ傍にいる為以外の理由は母親に推されたからぐらいしかない。

 

「妹がここの芸能科受けるから、心配になってきただけ」

「ちなみに僕も横に同じです」

「はぁぁー!?」

 

 アクアマリンが言ったことに頷くとまた10秒で泣ける天才子役さんこと有馬先輩は面白い反応を示す。長ったらしいセリフで否定するのではなく、短い言葉で意思をわかりやすく示す。純粋すぎる反応に嘘や演技は見られない。いい役者かどうかを見る目は僕には無いのでそこは分からないが、それはともかく人を騙して楽しむタチでは無さそうだ。それなりに好感は持てる。

 

「うちの兄シスコンで、うちの弟マザコンなの」

「きっも!」

「マザコンで何が悪いんですか。母を愛せない子供なんて居ないでしょう?」

「キモイわ!」

 

 ルビーもアクアマリンのことをシスコン、僕のことをマザコンと言うがその実はルビーもかなりのブラコンだ。今更家族仲がいいことを気持ち悪いということは無いだろう。

 そもそも、子供とは母親を無条件で愛するものだろう。少なくとも僕は母にことの善悪は任せているし、もしどこかに母を攻撃しようとするものがいるのならもう二度とそんなことを考えられないようにすることは前提だ。そんもの腹を痛めて産んでくれた恩義としては当然のような気もするが。

 

「いや、硝太のマザコンは行き過ぎだと思う」

「え?」

 

 と、思っていたところにルビーから思いかげない追撃を食らう。とは言ってもアクアマリンとルビーの場合産んでくれた母親であるアイさんはもう亡くなっているのでそう思っても仕方がない。

 もし仮に行きすぎだとしてもそれはそれでいい。別段競う気はないがそれはそれで誇りになる。

 

「硝太、大丈夫なのか?」

 

 そんなことを思いながらルビーと話してるとアクアマリンが隣から小さな声で話しかけてくる。

 だがアクアマリンの言いたいことがよく分からない。大丈夫なのかと心配されるのはなんだと聞かれて一番最初に思いつくのは試験だがその話はもう終わっている。今ここで掘り返す必要性は無い。

 

「大丈夫って、何が?」

 

 聞いてみるがアクアマリンは少し驚いたような顔をするも無言で視線をこちらから外した。大丈夫ならそれでいい、という意味だということは何となくわかった。

 

「...ならいい。それじゃ俺監督のところ寄るから」

「はーい」

「ちょ、ちょっと!」

 

 こちらの心配事も終わり、話は終わったと解釈したアクアマリンが一人で帰ろうとこちらに背を向ける。試験中も毎日のように仕事に行っていたアクアマリンの事だ。五反田のおじさんのところでまたなにか仕事でもあるのだろう。

 しかし有馬先輩はまだ話し足りないようでアクアマリンの背中を追ってどこかへ行ってしまった。この調子だと五反田のおじさんのところまでついていきそうだ。有馬先輩の言い方からして有馬先輩も五反田のおじさんと顔馴染み以上の関係である可能性も考えられる。

 

「後つけようか?」

 

 有馬先輩が悪人でないことは間違いないと思われるがアクアマリンと五反田のおじさんの仕事場に立ち寄らせるのもいいとは言えない。それにあの二人のことだ、変なことを考えている可能性も不敵れない。念の為後をつけて置こうかと思ったが、ルビーは疲れた様子で首を横に振る。

 

「いいよ別に。早く帰ろー。私も疲れちゃった」

 

 どうやらルビーにとっても試験の後の疲れは大きいものらしい。肩を落として分かりやすく疲れたとポーズをとる。

 

「背負っていく?」

「大丈夫。気にしないで」

 

 僕がルビーを背負って走った方が早いしルビーも疲れないので提案してみたが、ルビーはそれを軽く手を振って断る。さすがに高校生になるというのに弟の背中に乗って登下校は恥ずかしいようだ。

 そんなことを考えながらリュックサックからサングラスとヘッドホン、フード付きの上着を出してつける。

 人混みの中に入る時はこうやって入れる情報量を制限しないとすぐに強烈な頭痛と人酔いでまともに立っていられなくなる。

 

 

 アクアマリンと有馬先輩が一緒に行ったように、ルビーと並んで学校を出る。

 受かったかどうかは置いておいて試験はもう終わった。この学校は進学校、という訳でもないので宿題がキツイという訳でもないので春休みの間は久しぶりの長い休みとなる。試験の間は勉強と面接練習に忙しかった分、何をしようかと考えるだけで楽しくなってくる。

 

 

「あっ不知火フリル」

「ほんとだ」

 

 学校を出て今後の通学路となるであろう道を歩いていると不意にルビーが何処かを向いて呟く。ルビーの声に引かれてサングラスを外してルビーが向いていた方向に首を動かすとそこには日本が誇る美少女、『不知火フリル』が写っている広告がデカデカと飾られていた。

 大和撫子という文字をそのまま体現したような無駄なものを削ぎ落としたような黒くて長い髪にペリドットという宝石のように透き通った瞳。ミステリアスな雰囲気を持つ左目の目尻下と口元右下のほくろ。スラリとした長身に傷1つない肌は世の女性の嫉妬の対象。不純なもの、下品なものを感じず、気品もある。その辺の古着屋で1000円未満で売られている服ですら何十万とするブランド物に見えてしまうほどのオーラ。むしろ問題点がないことが問題と言っても良いほど完璧な美少女。

 どこを切り取っても言うことの無い美少女。自分はドラマや映画を役者さんの素顔や顔の美醜に注目してみた経験は少ないがどこを切り取っても芸術作品のような美貌。好きな芸能人、推してる芸能人はいますかと言われたら夢見ていたアイドルになったルビーを除けば間違いなく1番に抜きん出る。

 

「そういえば僕達と同い年なんだっけ」

 

 非常に落ち着いており、大人びた雰囲気を持つ彼女もまだ15歳。

 僕らと同じ中学三年生と聞いた時は正直腰を抜かした。女性は歳を追うごとに綺麗になるというのは母親というなんともわかりやすい例があるため間違いないと言っていいだろう。今でももし神話の世界に産まれたら即誘拐されそうな美少女である彼女が年をとったらどうなるのか、多分世界的な資産家ぐらいしか手を出せなくなる。

 

「そうそう。うちの学校に来てくれないかなー」

「まさか。あの不知火フリルだよ。そりゃ世界中の美女集めたようなお嬢様学校とか行くでしょ」

 

 ルビーは芸能科がある高校として期待をしているようだが流石にない。歌って踊れるマルチタレント、日本の誇る約束された美少女代表の不知火フリルが共学は流石にありえないだろう。あったとしたら毎日お祭り騒ぎ、噂を聞いた他校の生徒で毎日ごった返しで登校してきた日は授業が始まらない、なんて事態になりかねない。

 恐らく陽東高校より防衛設備が整ったどこを見ても黒服のボディーガードがつけ歩いているようなお嬢様学校で他の富豪の娘の女性たちとつつがなく学校生活を送ることだろう。

 ルビーも頭が良ければそのような学校に行けたのだろうが、今更それを言っても仕方ない。それにそこまで行かれると僕とアクアマリンがもしもの時に動けないという事態になってしまう。

 

 それほど二人のような人間に下界は汚すぎる。こういう時僕自身が下界側なのが嫌になる。

 

「姉さんがアイドルとして有名になって芸能界に行けば共演することもあるかもしれないけど。学校で普通にいて話が出来るとか夢のまた夢」

「硝太、諦めたら試合終了だよ」

「その試合始まってすらいないんだけど」

 

 なんなら不知火フリルが学校を選ぶ基準も何も知らない状態でいるので今更何したって無駄なのだが。

 

「いやいやー、そうとも限らないよ。ほら!」

 

 ルビーが笑顔で見せてきたスマホの画面には不知火フリルがヒロインになることが確定している映画のエキストラ募集のページがあった。どうやら昔にあった恋愛漫画の実写版らしい。

 

「なるほど、エキストラか」

 

 エキストラとは映画やドラマ等に出てくるクレジットのつかない無名の役者で通行人、群衆などをすることが多い。演技力や引きつける力など役者として必要な能力のほとんどが要らず、むしろ景色に溶け込むことが必要とされているらしい。エキストラはそれぞれのタレント事務所から手が空いているのを連れてくる場合や撮影現場で手が空いた人を使うのが基本だが、一般から公募を募る場合もある。

 ボランティアでの参加となるがヒロインである不知火フリルを一目見ようとなれば応募するのも悪くは無い。

 

 役は名前も振られていないただの群衆と通行人。場所は不明。地元の人から集められないとなると都会、それもかなり近場の可能性が高い。

 

「そうそう、応募しようかな」

「いいね、じゃあ僕も───」

「え゛!?」

 

 通行費や日にちの問題があるとはいえ、テレビ画面を通している訳では無い生の不知火フリルを一目見られると言うだけで応募する価値はある。そう思って応募し始めようとスマホを出すとルビーから日常を共にすごしていても滅多に聞くことの無い濁った声が出てきた。

 

「...ダメ?」

 

 確かに学校の面接の結果で右往左往するほど演技の能力等は低いが今回応募してやろうとしているのはエキストラだ。一言も喋る必要のない、ただ歩いてるだけの一般通行人なんて役としてやる必要性は無い。だから演技の出来ない自分が割り込むには丁度いい機会だと思ったのだが、ルビーの顔色は良くない。

 

「いや、ダメって訳じゃないけど...硝太は、硝太だし」

 

 その上なんとも歯切れが悪い。いつも元気なルビーが言葉を濁して口ごもっている。ゴリ押しでルビーを否定することも不可能では無いがルビーがここまでするのに全く理由がないということはまず無い。

 それに『硝太は硝太』という言葉が気になる。

 

「あ、いや、いいんだよ!そりゃエキストラなら嘘下手な硝太でも出来るだろうし」

 

 ルビーも不味いことを言ったと思ったのかすぐに繕おうとしている。何かを隠していることは明白だ。そしてそれは少なくとも僕の演技が下手、以外に理由があることになる。

 無言でスマホをポケットに戻してサングラスを付け直す。

 

「いいの?」

「うん」

 

 ルビーの心配する声にできるだけ抑揚を持たせない声で答える。ルビーがしない方がいい理由を持つのなら僕がわざわざ倍率が何倍とあることが予想されるエキストラに応募して参加する必要性は無い。そのままルビーと横に並びながら家に帰った。




4話目にしてやっとヒロインの名前が出てくる遅さ。一話がミヤコさんとの回想だから先行登場が出来なかったんだ…すまない

それはそれとして有馬と不知火フリルがおもしれー女なら硝太はおもしれー男だからな。自覚しろ

感想、評価よろしくお願いします

次回4月22日予定

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