【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
ついに硝太と二人きりになったフリルは今回の事件で硝太が行った独断行動を諌める。
その後今後も名前で呼ばせるように約束し、硝太が目覚める前はルビーとする予定だった事件の再確認を行う。その中で硝太は何かに気付いた様子だったがそれを聞く前に彼の兄であるアクアが病室に訪れた。

Swi〇ch片手に。


#56 共犯者

 まず一つ。僕は魔法使い(インスタントバレット)である。

 それを言われたのは同じくインスタントバレットを名乗る陽東高校普通科二年の藤波木陰。彼女に言われた時は何か変なものにでも目覚めたのか、としか思えなかった。しかしそれ以降も藤波から未来視のインスタントバレットによる情報を受け取ったり、実際にインスタントバレットに襲撃された経験を持って自分の中で「僕が持っているか持っていないかは別としてそういうものは確かにある」と思えるようになった。その後、ストーカーに刺され死にかけた時。既に無くなっているアイリやもう一人謎の女性と対面したり声を聞いたことから自分もなんらかの能力を持っていると確信した。

 能力はおそらく肉体──物理的なものでは無い別の概念に物理的に触れ、破壊する魔法。これはまだ予想でしかない。仮にこれが真実だとすればこの絶妙に使い道のない魔法に利用価値を見いだしている組織が少なくとも二つある。藤波木陰も所属する『世界の端っこ』と今回襲撃してきた七辻すいむ含む『colorful』。おそらく敵対関係と思われる二つの組織は今現在直接的に戦っているようには見えないが小競り合いのようなものはしていると思われる。今回は藤波木陰の口車に乗ってしまった結果七辻すいむに殺されかけた、と『世界の端っこ』に上手く扱われたことになる。口車に使われた未来視の魔法は確実だろうが目的のためにその情報を上手く切りとって言ったこともまた事実。マスメディアに騙されるようにまんまと利用されてしまった。

 入院中に出てきた動く死体(リビングデッド)も同じように魔法使いが何かした結果だろう。これは今カラスを使役していた少女が動かなくなった死体を持ち帰っている。何かに使うのか分からないがこちらとしては身元から魔法使いについて調べられそうなので出来れば彼女から譲り受けたい。

 上記の件についてはアクアマリンやお母さんに伝える必要は無い…というか確定でない上に夢物語と判断されても仕方ないものなのでまだ言うべき時ではない。

 そもそも今回の事件については丸ごと自分で抱え込むのが正解だ。相手は銃火器やら魔法やらを使って人殺しをしようとする連中。下手に首を突っ込めば被害が増えるだけな上、片腕ということを考慮しても僕以外に守れる、戦える人間はいない。

 

「待って兄さん。今回の事件のこと、ちゃんと話したい」

 

 それでもわざわざアクアマリンを呼び止めてまで今回の事件について話すのは、フリルを納得させる為である。

 今回の事件に巻き込まれた形になるフリルは今後僕が単独で行動することに強い反対意識を持っている。死にかけたことを自責しているのだろうが、少なくとも今回の事件に彼女の落ち度は無い。気にしなくてもいい、僕が死のうと対岸の火事を眺めるようにしていればいいのに、と考えているがフリルにはそれが出来ない。

 硝太からすれば死んだ後はお母さんとアクアマリンとルビーさえ悲しんでくれれば生きた甲斐はあったと思えるので別にいいのだが、お母さんに泣かれたことも含めてそう簡単には死ねなくなってしまった。

 治そうとしても簡単な問題では無い。「気にするな」の一言で済ませられるものじゃないし下手すれば余計に悪化して今度こそPTSDになりかねない。なら対処法としては彼女の提案に乗って然るべきだ。全てを伝えることが無理でも必要なことを少しづつ伝えることならできる。

 

 後ろを向いて帰ろうとしていたアクアマリンがこちらを振り返る。近くの椅子を引き摺って近くに座ると少し間を置いて口を開く。

 

「どうした」

 

 見た目と動きでは平常心に見えるがその内心は動揺しているのが目に見える。事件のことを疑っていたのか、まだ処理できていなかったのか分からない。しかしアクアマリンは頭もキレるし口が固い。初めて伝える相手としてはこれ以上の人と場合は無い。

 

「まず結論から言うと、今回の事件。本来襲われていた対象は僕じゃない。フリルだ」

 

 Sw〇tchを置いて頭を下げるフリル。表情は当然のことだが暗い。彼女からすれば自分のせいで傷ついた人間の兄貴が目の前にいて真実を告げられていることになる。まるで針を刺されているようなもので相当辛いだろう。しかし話してしまったものはしょうがない。

 それを聞いたアクアマリンは最初から気付いていたのかフリルの方をチラリと見るとすぐに頷いて納得した。

 

「不知火さんが狙われていたからお前が出張った。結果刺された、と。なんで俺たちに言わなかった」

「まだ誰が狙われているのか確証が無かったんだ。元より最初は狙いが僕だって思ってたし。フリルって気づいた時には既に遅かった」

 

 藤波木陰から聞いた情報から推理した、という前置きを外して当然のように一人でやった理由を聞いてきたアクアマリンに説明する。実は未来視の魔法使いから得た情報で刺されることだけは決まってました、なんて今の時点では言えない。アクアマリンのことは信用してるし信頼しているがこちらに関わらせるには硝太自身が理解力が足りないと考えている。

 アクアマリンは硝太の説明に完全に納得はしていないようで不服な顔を見せる。が、お互いにこういう時に譲らない性格なのは分かりきっているので追求はしないことにしたのか、頷いて次の言葉を促す。

 

「僕が刺されたことは置いておくとして問題は大きく分けて二つ。何故犯人はフリルの居場所、並びに自宅を特定できたのか。これはおそらくだけどフリルの事務所に間者がいる」

 

 今回の事件の真相を追求するには巻き込まれただけの硝太の要素は省いて考えるべき。七辻と硝太を省くだけでこの事件は一気に何処かにあってもおかしくないものへと変わる。

 ストーカーと思われる男が友人のライブ、JIFの応援に来ていた不知火フリルを襲撃。近くにいた別の人物により失敗するも自宅へと逃げた不知火フリルを再び襲撃。不知火フリルを逃がした人物が刺され、部屋に侵入されるものの、不知火フリルは無傷で警察に保護された。

 最初の襲撃が本当にストーカーによるものなのかは議論の余地があるが概ね話の流れはあっている。次は、そこから出てきた疑問点を推理すればいい。

 まず、ストーカーが何故急に不知火フリルを狙って行動を起こしたのか。何故自宅の場所やその時にいた場所を見つけられたのか。フリルの事務所はストーカーの存在に気付いていなかったようだ。大手事務所にバレずに行動するほど慎重派なストーカーが何故急に殺害に踏み切ろうとしたのか、という疑問点もあるがそれよりストーカーは何故そういった行動をとることが出来たのかという点も推理をしなくてはならない。いくら不知火フリルを殺害しようと考えたとしてもい場所が分からなければやりようがない。

 

「どうしてそう思った?帰るところを付けたかもしれないだろ」

 

 間者、要するにスパイがいると言われてフリルは顔を背け、アクアは目を鋭くする。フリルからすれば裏切り者がすぐ近くにいて、たその正体が分からない恐怖ともしかしたにら裏切り者と密接に関わって仕事をしてらるいたのよではないかという後悔がある。

 アクアはアイのことを思い出して目を鋭くするも、すぐに反対意見を出す。もし仮に最初に襲った相手がストーカー本人とするなら逃げる不知火フリルの後をつけて自宅の特定も出来る。普段の行き帰りも含めて自宅を特定するだけなら事務所に見つからないようにやるほどのスキルがあるなら、出来なくは無い。

 しかし硝太はアクアの言葉に黙って首を横に振る。

 

「あのストーカー、フリルの部屋の扉を開けて侵入したんだ。フリルが事前に鍵をかけたかのは確認してるし壊した訳じゃないなら鍵を用意したと考えるのが自然でしょ。おそらく大家からマスターキーを盗んだろうね。どちらにしろ、犯人が事前にフリルの自宅を事前に知らないと取れない手だ」

 

 事件の時、硝太はストーカーの道具を見てハンマで無理やり扉を破壊すると推理してハンマをの手持ち部分をへし折った。持ち手が折れた後のハンマで殴ろうと日本の玄関扉はそう簡単には壊れない。他に使えるのはナイフか拳で殴るかぐらいなものでその二つでも玄関扉が壊れるなんてまず有り得ない。しかしストーカーはその場で立ち止まったり、扉を開けようと四苦八苦せずに玄関を開いてしまった。ハンマは別の用途で持ってきたもので最初から鍵を用意していた、と見るべきだ。

 

「合鍵を作ったってことだろ、それなら別に個人でもやれる。これなら直前まで場所が分からなくても番号で取れる」

 

 鍵には鍵番号と言って数字やアルファベット、記号で鍵のメーカーや管理する際に用いるIDがある。その番号さえ知れれば直接盗んだりして型を取らなくても合鍵を作ることは出来る。これなら場所を知らなくても合鍵を作って家に帰るタイミングで後をつけることで一度も場所を知らなくても襲撃が可能だ。

 当然それも容易ではない。事務所の人間の他にその番号を確認できそうなのといえば陽東高校の生徒や教師、同じタレントが盗み見る程度なのでそれでも十分絞りこめる。もちろん、フリルが一度でも鍵を落としたりしたことがあるのならその限りでは無い。

 

「無理だと思う。もう引き払ったけど、その家カードキーだったし。大家って誰かがいるわけじゃなくてどっかの会社で管理してるやつだからそんな簡単には盗めないよ。後警備の人が毎日いる」

「そもそも場所が知らないのに武器を持って移動するのは博打打ちにも程がある。フリルがいた階は全員無人だった。ついて行ってマンションの特定までは出来るだろうけどそれ以降の場所を特定しようとしたら事務所の目はかわせてもマンション側の目はかわせない。特に監視カメラの映像は」

 

アクアの反論に対して硝太より先にフリルが反応して、硝太がその補足を言う。

 結果としてストーカーがついてしまっているとはいえ、フリルの事務所がストーカー対策を怠っていた訳では無い。現在の苺プロと比較しても十分なものと言える。現在一人暮らしをしている彼女のいた部屋はカードキーで開くタイプで鍵番号や鍵の形状で合鍵が作れるものでは無い。

 警備の人間も24時間いる。フリルを抱えていた硝太は彼らの目を当然のように掻い潜ったが、それはあくまで超人的な身体能力を持つ硝太だからであり、一般人がそう何度も出来るものでは無い。

 

「事務所の人間ならフリルの家を特定することなんて造作もないし、そこから逆算して合鍵、もしくはマスターキーを作ることも出来る。策戦は杜撰だけど前準備はしっかりしてたし犯人は最初からフリルを襲う気だったと考えたら共犯者がいたと考えるべきだ」

 

 これはまだ確定では無いが。硝太はフリルのストーカーを薬物中毒者だと考えている。子供の体格かつ、徒手空拳とはいえ急所を的確に攻撃した硝太の攻撃に顎の強打を除けばノーダメージとなるとただ筋肉と骨で固めた、というのはまず有り得ない。顎の強打で怯んでいる辺り脳の故障は明確なダメージになっていると考えると何らかの理由でハイになっている、薬物か宗教の可能性が高い。事実、1898年の米西戦争では薬物を使ったモロ族の戦士が38口径の銃を使っても止まらなかったという事実がある。最近の研究では宗教の可能性も示唆されているが、どちらにしろ銃器で止まらない相手が殴ったり蹴ったりした程度で止まる訳が無い。相手に宗教的な要素が見られなかったので薬物を前提に話を進めた方がいい。

 そんな相手の行動としては不知火フリルが別の場所に逃げたりする可能性を省いた穴がありすぎるプランは別におかしくない。問題は合鍵などの前準備は手が込んでいたこと。硝太にとってこれが最も共犯者の可能性を示唆させるもの。

 

「共犯者…」

「あの時のストーカーの荷物は、柄の長いハンマ、ナイフと…ああ白い薔薇の花束があったね。凶器であるナイフとハンマは別としてあの花束の意図は不明。だから共犯者の意図が隠されているのが花束だって僕は思うよ」

 

 ストーカーの持っていたナイフとハンマは間違いなく対フリル用の凶器だろう。しかし花束は凶器として扱うには攻撃力が無さすぎる。何かを隠すには十分だが少なくとも硝太は見ていない。これから人を襲って言うのに無駄なものを持つ必要性は無いのであの花束は武器と言うより何らかのメッセージのように受け取れる。

 その硝太の言葉を聞いてアクアが目を大きく見開く。白い薔薇の花束、ナイフ。そして本来なら分からないはずの有名人の居場所が特定され襲撃。この二点は過去のとある事件と完全に一致する。

 

「──アイ」

「え?」

「アイの時と同じだ…!」

 

 なにか強い感情をかみ潰したような震える声でアクアが放った言葉を聞いてフリルと硝太も先程のアクアと同じように大きく目を見開く。

 そう。今回の事件はアイの事件とおなじ女性の有名人の元に現れた白い薔薇を持ったストーカーに刺されるという事件の重要なポイントが完全に一致しているのだ。違うのはアイはその事件で亡くなったがフリルは怪我すらせず、少しの間芸能活動を休んでいる程度で今も元気にいるという点のみ。

 

「アイ、さん?ああフリル。アイさんってのは昔苺プロ(ウチ)に所属していたアイドルで…」

「知ってる。有名だから。亡くなった事も。殺されたことも」

 

 苺プロのメンバーの名前が出てきたことでフリルが知らないと思い、補足する硝太だが直後にフリル本人にバッサリ切られて大人しく黙る。

 皮肉なことにフリルの事件は事務所側がストーカーを警戒する原因となったアイの事件とやり口が同じ。特にフリルのマネージャーは自作のDVDまで作って注意喚起をしていたというのに同じ手口の犯人に犯行を行われたことになる。フリルがそれを言うことは無いが、これは事件的にも大きな前進になる。

 

「アイさんの事件、細かいところは公表されてないよね。ならつまり…」

「模倣犯、もしくは同一犯」

 

 アイの事件でマスコミが出した情報といえばアイが刺されて亡くなったことや犯人の実名ぐらいなものでナイフはともかく白い薔薇の花束が使われたことなど書いてない。ナイフのように明確な攻撃性のある武器ならたまたま被ることもあるが白い薔薇の花束のようなメッセージ性を感じさせるものが赤の他人との反応で完全に一致するとは到底思えない。最低でも模倣犯。仮に同一犯だった場合、アクアにとっては大きな前進となる。

 アクアの目的は、アイを殺した二人の殺人鬼への復讐。アイを苦しめた二人を生まれたことすら後悔するような地獄に叩き落とす。その復讐の為に人生を使ってきた。

 

 そしてこれを硝太とフリルは知らない。不都合ではあるがアクアからすれば真犯人に迫る貴重な情報源。頼まなくても貴重な情報がポロポロと出てくるのはアクアにとって最高に都合のいい展開。

 

「…その場合、怖いのが第二、第三と事件が続く事だね。まず直接的に刺しに来たストーカーは別人だと思う。調べてわかる情報と見た目が違いすぎるし。となれば共犯者が同じ」

「共犯者ってよりこうなると指示役だな。人気のアイドルやタレントのファンを何らかの情報で焚き付けて殺しに行かせる。これだけ大々的に動くんだ。教唆で引っかかるかどうか怪しいラインを攻めてるんだろ。厄介な…」

 

 アクアが情報を拾おうとしているとは露知らず2つの事件の共通の共犯者について語るフリルと硝太。直接的に被害を与えた犯人は全くの別人。その共犯者が同一。これは他の事件にも関わっている、もしくは関わっていく可能性を考えてしまう。それほどまでにアイとフリルの共通点が人気で若い女性タレント、ぐらいの繋がりしかない。

 もし何人もの事件に関わってきたとするなら教唆で捕まるラインをギリギリかわすような行動をしていると見るべきだ。そうなれば仮に警察に全てがバレても手を下されずに済む。

 

「…こうしてられないな。今後姉さんが狙われる可能性も、有馬先輩やMEMちょが狙われる可能性もあるってことになる…最短で決めるぞ」

 

 今後殺人をするならドーム公演を目指すルビー達新生B小町が巻き込まれる可能性は高い。特にルビーはアイの娘で、同じB小町のセンター。アイを狙った理由が人気のアイドルだから、と言うだけなら狙わない理由がない。また厄介ファンやストーカーを手先にして襲ってくる危険性がある。そんなものに襲われてルビーがアイドルを続けられるわけが無い。なら、その前に強制的に止めるしかない。手段が浮かび上がる訳では無いが硝太はそう強くアクアに言い放つ。

 硝太の青く輝く瞳を見下ろすアクアの青い瞳。硝太の持つ感情を理解したアクアは重々しく頷いた。




今回は前回の事件の推察の続きです。
前話でフリルにちゃんと話してと言われた結果アクアに事件のことを打ち明けることを決める硝太。判断が早くてこれには鱗滝さんもにっこり。
あとこれは何度でも言いますが硝太視点の話ではアクアはアクアマリン呼びになります。何故かって?本名アクアマリンだから。変なところで律儀なやつなんです。

そんなアクアのおかげで発覚する今回の事件とアイの事件の繋がり。
実は硝太アイの事件について何も知らないんですよね。世界の端っこに今回の事件について話を聞いている時にアイの事件を引き合いに出されたりはしましたがそれだけだと繋がりがあるとは推理出来なかったので。そのおかげで前話でもその事実に気が付かなった。特に白の花束はアクア達しか知らない情報だったりする。知恵袋として役に立つなこの兄貴。

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