硝太、魔法関連除く事件のあらましをアクアに説明。その犯人の特徴からアクアにアイの事件と関連している、同じ共犯者がいる可能性を告げられる。その場合事件がこれで終わりでは無いことに気付き対処することを決める
「終わったのか?」
硝太との話が終わったあと、病室から抜けて廊下を歩く。すると休憩室から煙草の匂いをつけた氷室がでてきた。どうやら喫煙室を探して煙草を吸ってきたらしい。硝太とあんな話をしていた割には余裕がある。
「うん」
硝太と話をするなと目線で訴えかけて来た割には硝太の病室からでてきた私を見ても彼の反応は薄い。
「怒らないの?」
「怒っても今のお前は反省しないだろ」
一応怒らないか聞いてみたところいつも通りぶっきらぼうな態度で非難してきた。そのまま氷室の後について病院を出る。硝太のことを明らかに敵視していた氷室だが一旦話として終わった後に文句を言うほど子供ではなかったらしい。いくら硝太が超人的な身体能力をしていようと怪我人の子供に掴みかかって投げ飛ばしたという事実をどう受け止めているのかと思ったら何も考えてないようで一周まわって安心した。どうやら硝太がその辺を全く気にしないということはわかっていたらしい。それはそれとして過激な暴力行為であることに変わりは無いが。いくら硝太が気にしていなかったとしても社長や硝太の両親に伝えたら間違いなく問題にされる。その辺何も言わないとわかって動いたのだろう。長く付き合ってきたマネージャーの人を見る目がある証明と同時に荒っぽさを久しぶりに見て表情や態度にこそ現さないものの複雑な気持ちになる。
「硝太のこと、どうするの?」
暴行のことを追求しても無駄なので硝太と話をしていた時から気になったことを聞く。今回の事件は少なくとも会社の上の人達の間では世間には公表せず斉藤硝太がただ刺されただけの事件として終わらせることを決めた。硝太にもその旨は伝えておそらく口裏を合わせてもらった、と社長達は考えるだろう。その上で氷室の独断とはいえ硝太と私を会わせないようにするというのは一見今後のリスク回避としては悪くない方法に見える。私個人としては絶対に拒否するが。
「別になんもしねぇよ。下手に手を出すと噛み付く体質だし」
氷室はそういうと大きな欠伸を一つして車の鍵を開けて中に入るように誘導してくる。確かに硝太は地雷を一つ踏めば相手がどれだけ偉いかとか何も考えずに死ぬまで突進して来るのが想像出来る。基本的に外に感情を出そうとはしないので何もしないのに超した事は無い、という判断を下したのだろう。
氷室に導かれるまま車の後部座席に乗りこむと氷室は運転席そそくさと乗って車を走らせる。
「あ、そうだ。私好きな人出来たんだけど」
車を走らせている間、口を開かなくなった氷室に後ろから声をかける。昔、好きな人が出来りしたら絶対に言え、と言われていたことを思い出す。
芸能人とて人だ。年齢も若く青年期でかつ余裕があれば恋愛もする。硝太に対して芸能人を人扱いしないような言葉を吐いた氷室もその点はよくわかっている。
「一応聞いといてやる。誰だ」
「え?言わなきゃ分からない?」
運転中なので振り向きはしなかったがルームミラーでこちらの顔色を確認した氷室の反応が面白くてわざと名前を言わずに揶揄う。
氷室のことだ。言わなくてもその相手はわかっている。ただ勘違いであったらいいな、と内心で考えていることは想像に難しくない。数秒で二日酔いになったような顔色に変化した氷室は硝太の前に立っている時より動揺しているように見える。
落ち着かせる為に胸ポケットから煙草を出すと火を出さずに咥える。
「…最悪だ、この前会った姫川君とかなら賛成だったんだけどな。彼結構話わかるタイプみたいだし」
「姫ちゃんはダメだよ。演技できるだけのダメ人間じゃん」
代案として何度か共演したことがある演技だけできるダメ人間を挙げられたが速攻で却下する。仮に付き合うとかなった時世間体なら硝太の何百倍もいいだろうが、そういう問題では無い。
「後輩にめちゃくちゃ言われて可哀想だなあの人も。ったく、ころものやつがなんて言うか」
ものすごく嫌そうな顔で文句を言う氷室。独り言のつもりなんだろうが、二人しかいない車内では独り言すら聞こえてしまう。社長に詰められた時より嫌そうな顔をしているのでなんだか楽しくなってきてしまった。
「最悪だ」
顔には現さないものの、態度としては分かりやすかったらしく、氷室がまた文句をひとつ呟いた。
◇◇◇
その頃、病院の休憩室。
フリルと同じく硝太との話を終えたアクアは待ち合わせをしていたあかねと合流していた。
番組で作られた仮初のカップルだが、カップルであることには変わりないので二人でデートするのはバレてもいい、というよりかはこうして仲良い所を見せつけた方が都合いい面もあるので二人とも変装は最低限にしている。
「硝太くん、どうだった?」
「元気そうだった。Sw〇tch一つで大喜びしてた」
「そっか、良かった」
アクアから硝太の容態を聞いて、瀕死状態だった硝太を見ていたあかねはほっと胸を撫で下ろす。あの死にかけの状態からどうやって回復したか、そもそもなんであんな怪我をしたのか聞きたいことは色々とあるがまずは可愛がった弟分が無事であることを喜ぶ。
もし硝太がストーカーに刺されていなければ番組で作った仮初のカップルだとしてもデート等行ってもおかしくない二人だが一人になってしまう硝太が不安定になることを危惧したアクアが先に病院に行く事にした。
「会いに行ったらどうだ?硝太喜ぶと思うけど」
「うん…まだちょっとね。気まずいというか…」
あかねとしては本当なら硝太の見舞いをしに行きたいが、硝太に自覚のない恋愛感情を抱かれているのを知った上で兄であるアクアと付き合い始めたので気まずく、前に出ることすら出来ない。姉貴分として今まで通り接すればいいと正解はわかっているものの、そうやって動くことは役者としてならともかく黒川あかね個人としては厳しい。
硝太自身は恋愛感情に自覚がないので好きな人が見舞いに来てくれたらまず喜びだろう。その両者の差はそう簡単には埋まらない。硝太が歩み寄る、というよりあかね側の感情を理解するしかないのだが、硝太の精神年齢では恋愛感情を理解するには対人経験やら情緒が足りない。
「あかねは悪く無いだろ」
「ふふふ、ありがと」
アクアの気づかいに笑ってお礼をいうあかね。間にアクアがいなければ優しく落ち着きのあるあかねと優しい人に懐きやすい硝太の相性はよくいい擬似姉弟となれるだろうがそんな彼らも思春期の男女。おいそれと行動を起こせる訳では無い。前世の記憶があるため思春期男子とカウントするべきなのか分からないアクアもそれをわかっているので強く言ったり間を取り持つのは出来ない。
「あ、自販機でなにか買ってこようか?何がいい?」
「いや、いい。それより…少し話がしたい」
一旦話を切りあげる為に席を立つあかねをアクアが呼び止める。
「話?」
「ああ。ライブの時の硝太になにか違和感を感じなかったか」
アクアは先程聞いた硝太の話を整理した時疑問点、というより硝太が
わかるのは今のところ、硝太は嘘をついていない。それは兄として10年以上共に居てわかる感覚。硝太にとってはまだ産まれた時からそばにいる兄を騙していいと考えるほど孤独ではない。その証拠に共に聞かせた相手にあくまで友人でしかない不知火フリルがいた。なのでこれまでの硝太の言葉は勘違いの可能性はあっても嘘をついていることはマズない。それを前提にして考えた時に出てくる疑問点。
それは『硝太がいつ誰かかが狙われていることを知ったのか』
硝太は今回の事件において単独で行動した理由を「誰が狙われているか分からないから」と言った。確かに誰が狙われているのか分からないのにミヤコさんを始めとした言ってもそんなあやふやな理由でJIF出演を取り下げる訳にもいかないしこれといった行動もできない。ただ警戒を強めることはあっても基本的には困らせるだけ。硝太がわざと隠す理由としては理解できる。だが、硝太の言い方からして誰かが狙われることだけはわかっていた事になる。
では、何故硝太は誰かが狙われていることを知ったのか。誰が被害者になろうと立場は変わらないもの、それは加害者。犯人、もしくは共犯者以外ありえない。硝太は犯人か共犯者について大まかなことを事件前から知っていた。だから共犯者の可能性にすぐに気づけた。
となると硝太はそのことを隠しながらルビー達の練習を見たりライブを見ていたことになる。嘘が下手な硝太の事だ。今回のように何処かで掴んだ情報のしっぽを出している可能性は高い。洞察力の高いあかねならそれを見抜けるのでは、とアクアは期待している。
そこを足がかりにして硝太の守りを崩せればアイの殺害をした犯人に繋がる。今回の事件はそう確信できる事件だった。
「うーん…硝太くんの『考察』はしたことが無いからな…」
「そうか」
あやふやな質問ながらも硝太の違和感というワードから大筋を理解したあかねは腕を組んで深く考えながらも首を横に振る。
あかねの考察はキャラ作りの応用とは思えないほど綿密に思考パターンを理解できる。まるでその人物がそこにいると錯覚するほどに。しかしそれもあかねが把握しなければ意味がなく、役者としてキャラを知ろうとしなければその段階にも踏めない。今後硝太を演じるというのなら兎も角あかねはまだ硝太のプロファイリングをしていない。これではわかるものも分からない。
「けど、硝太くんの行動って強い罪悪感から来るものなんじゃないかなって思うんだ」
「罪悪感?」
硝太の持つ強い罪悪感、と言うとアクアにも覚えがある。アイが亡くなった日のことは勿論。記憶を失う事になった原因も、硝太が悪いと一言で言える訳では無いが罪悪感を感じて当然と言える内容。ただでさえ硝太はミヤコさんが育ててくれたのに報いようとするほど律儀な性格なので何も出来ないことに強い罪悪感を感じるのは無理もない。
「なんて言うか…罪滅ぼし、っていうか自分はこうしないといけないって強く思ってる。自分に暗示をかけてるって言った方が近いのかな」
あかねは言葉を選んで丁寧に言っている。まだ完全に掴み切れていない硝太の性格だが行動力に絞って言えば一度誹謗中傷をしたアカウントの個人情報を出したのを目の当たりにしたあかねは理解している。
「それにしても急にどうしたの?硝太くんの事ならアクアくんが直接聞けば話してくれると思うけど」
「…あいつ、今回の事件の事何か大切なことを隠してる。
「──!そっか…」
今ガチの時にあかねには星野アクアとB小町のアイの親子関係がバレている。その上で俺達の母親と言い切ったのはアイの名前を隠すのと同時にこの話の重要性をわかってもらうためにある。
あかねならアイの事件に直接犯行に及んだ「貝原亮介」の他に情報提供者、つまり共犯者がいた可能性がいることを既に知っているはず。その上で硝太を直接刺した犯人は捕まっているニュースも聞けば自然と考える。この2つの事件の共犯者が同じ可能性を。
「今回の事件を機に警察が大きく動いて共犯者が捕まればいいが、そうとも行かないだろうな」
「…うん。硝太くんは、何かを知ってるんだね」
先程までと違い重苦しい雰囲気のあかねの問いかけにアクアは黙って頷く。
ちゃんと話したい。そう言っていたくせに硝太は大切なことをわざと隠している。巻き込みたくないのが理由だろうが、アイの事件について詳しく知りたいこちらとしては「ハイそうですか」と下がることは出来ない。
「硝太の事だ、何度か聞けばすぐにボロを出す。あいつがこれ以上事件に関わる前に最短で終わらせる」
アクアの瞳に浮かぶ星が黒く染まる。硝太がこれ以上事件に関われば今度こそ死にかねない。ただでさえ危なっかしい弟を、危険に晒す訳には行かない。
その様子を見てアクアの内心を理解したあかねは冷や汗を流しながら俯く。その手元には硝太から最後に送られた文字化けしたメールがあった。
◇◇◇
「えー!お仕事無いの!?」
半泣きになりながらも硝太の張りのある声が病室に響き、思わずミヤコは耳を塞ぐ。
フリルとアクアに事件の話を終えたあと、指だけ動く左手を上手く使いながらゲームをしていた硝太の元にミヤコが戻ってきた。何気ないごく普通の話を少しした後硝太が切り出した。「次の仕事は何?」と。それに対してミヤコが「しばらく休憩」と言ったことで上記の言葉に繋がる。
「ちょっと硝太、声大きい」
「あっごめん。でもなんで?」
氷室と言い争いになっても投げ飛ばされても気にもとめなかった周りの患者は硝太が大声を出そうが気にせずカーテンを締め切っている。その代わりに通りがかった看護師や別の患者が振り向いたものの、いつもの光景なのかそのまま通り過ぎていく。
「左腕がその状態でお仕事なんて出来るわけないでしょ?」
ギプスと三角巾に包まれた左腕は指を除いて4ヶ月は動かないらしい。その間日常生活もマトモにおくれない。当然B小町のマネジメントの仕事などできるはずも無い。
「右は動くよ」
「いいから安静にしてなさい」
まだ動く右腕をブンブン振り回して元気をアピールする硝太だが、左腕がピクリとも動かないのが見てるだけで痛々しい。
元気と言い張る硝太だがミヤコにぴしゃりと言い付けられては言い返せない。餌を溜め込んだリスのように頬をふくらませて遺憾の意を表明する。が、ミヤコがそれに取り合わないことを知るとようやく諦めてため息をつく。
「ちぇっ」
「ちぇじゃないの。元気になったらまた頼むから」
不貞腐れた硝太の頭に手を乗せて撫でるミヤコ。硝太も嬉しそうに目を細めてミヤコに撫でられている。
「じゃあお母さんお仕事があるから帰るわね」
「はーい」
硝太を撫で終わった後ミヤコは荷物を持って病室を出る。本当は一人では眠れない為夜までいて欲しいが硝太もこれ以上のわがままは言えない。帰る背中が見えなくなるまで手を振る。
「…どうしよ」
ミヤコの背中が見えなくなり、硝太は不機嫌な顔でその場に蹲る。B小町のマネジメントは硝太にとっては現状で唯一母の為に自分が出来る仕事でいわば存在証明に近い。身体がどれだけぶっ壊れようとせめて姉たちが夢を叶えるまではやり通そうと考えていただけに四肢の一つで仕事を停止されられるのはキツイものがある。
せめて何か。他になにか仕事ができれば。
そう思ったところで運良く何かが舞い込んでくるはずもなく、三角巾から先程までやっていたゲーム機を再び取りだしてポケ〇ンを再開しようとする。そのとき、ゲーム機に三角巾に入れた何かが当たる音がした。
「あっ、忘れてた」
ゲーム機と共に取り出すとそれは刺された後起きた夜、動く死体を切り付ける時に使用したナイフだった。鞘がある為、下手なことをしなければ腕を斬ることはないだろうと判断して三角巾の中にしまっていたのだ。
鞘を外して誰かの血に汚れたナイフを見る。誰のものなのか、何故取らないのか疑問はあるが何より『何故ここにこれが置いてあったのか』という疑問が出てくる。殺したいなら直接使えばいいし、指紋などは拭き取られているとはいえ渡す意味が無い。
カラスを操っていた少女もわかっていなさそうなところを見ると第三者がこのナイフを使うように誘導したようにも見える。なんの理由もなく刃物を渡すことはまず無い。斉藤硝太に血のついたナイフを渡すメリットが必ずある。
「これで何をしろって言うんだ」
考えられる理由はこのナイフが実は人殺しに使われたものでその罪を擦り付けたい、だろうがそれなら眠ってるだけで起きる可能性の低かった重症患者の前に置く必要が無い。
この『重症患者』という点が考察をどうしても阻む。どんな理由があったとしても死んだら意味が無い上に後から調べられて患者に血のついたナイフを送るという挑発的な行動を取る狂人ということになってしまう。
「まさか、な」
少なくとも自分の周り、心配してくれる人にはそんな事をする狂人はいない。だから別の理由がある、と思う反面その可能性をどうしても捨てきれない自分がいた。
今回は前回話し合った三人がそれぞれ思いを馳せるお話でした。なんか事件の考察をするキャラが複数いる方が書くの簡単だな…あかねが知恵袋としていいキャラしてる。役作りガチ勢だからキャラクター語らせる時は一番納得感高いんだよな。
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硝太の周りは過保護な人ばかり