【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
硝太の見舞いに来たルビーは硝太がパソコンでJIFの事、そこから硝太の襲われた事件には捕まった実行犯以外に共犯者がいることを知る。そしてその犯人はアイを殺した犯人と同一犯の可能性が高く、アクアがそれを追っていることも。アイの事件から家族を失うことにトラウマを持っているルビーは硝太を守ることを強く意識した。


#59 蒔かぬ種から生える(前編)

 意識が戻ってから入院生活も一週間が経った。夏休みも中盤。家族がいない間は一睡も出来ない環境下の中でも仕事の間を縫ってルビー達が来てくれる事で何とか仮眠程度はできるまで回復した。それでも目の下には隈が出来てるせいで看護師が変な勘違いをしたり色々と大変な目に遭った。そんな病院生活は兎も角左腕が使えない生活にも割と慣れてきた。片腕でも食事は取れるし宿題も終わらせられる。自己判断だがもう家に帰ってもいいと思うし夏休みが終わればすぐに学校生活に復帰してもいいと思う。医者もその辺を汲み取ってくれたのか入院から通院に切り替えを検討しているとの事。すぐにでも判断してくれるだろう、と中継になって話してくれているミヤコが言っていた。

 B小町関連の仕事が無くなった反面、ミヤコやルビーがそちらに忙しくなっているが、硝太はそこに欠片も関われない。それを悔やみながらも出来ることが無くなった硝太は仕方なく患者としての身分に甘えることにした。

 毎日のようにゲームをして少し飽きたら病院内を散歩。見舞いに来てくれた人達と遊んだりするだけのだらけた生活。ルビーがアイドルになる前までの日常に近い生活になっていた。

 

 

「そういえば今日、東京ブレイドの新刊の日だっけ」

 

 ゲーム内のキャラクターが赤を基調とした恐竜やトカゲに近いモンスターに跨って人がいない場所をぐるぐる回っているのを見ながら独り言を呟く。

 国民的少年マンガの一つ、『東京ブレイド』。集〇社の週刊マンガで変わった特性を持ち主に与える盟刀という21本の刀を巡って戦う、というのが大筋のストーリーの和風ファンタジーの漫画だ。漫画は有名どころしか読まないが、中でも東京ブレイドは出た当初から人気が高く、書き込み量が多いことが素人目でもわかる迫力とキャラクターの立ち方やバトルスタイルにも魅力があって個人的に一番好きな漫画と声を大にして言える。14巻が出た今では累計5000万に届くとか届かないとか。アニメも映画も大ヒットと超有名マンガとなっている。

 自分は基本的に単行本派なので週刊誌を読むことは無いが今は暇だし、新聞等で調べたい情報もある。東京ブレイドがのっているなら週刊漫画の新刊を買うのも悪くは無い。

 内心ワクワクしながらゲーム機を置いてフリルから受け取ったサングラスと帽子をつけて病室を出る。この病院は一階の奥にこじんまりとしたコンビニがあり、小腹がすいたりするとそこで軽食を買ったりできる。残念ながら自分はこれまで貰った全財産を遺言書に書いた場所に隠してしまったので一文無しなので買い物はできないが。

 通りがかる人の目線に耐えながら一階のコンビニにつく。人が多くてもサングラスのおかげである程度は不快感を緩和出来るのでそのまま店内に入る。真昼間なので人が少ないコンビニ内に見覚えのある背中が目に入ってきた。女性らしいシルエットにゆったりとした服、纏っている雰囲気は母に似て安心できるもの。

 

「頼子ちゃん?」

 

 背後から名前を呼ぶと頼子ちゃん、こと吉祥寺頼子が首を回して振り返る。JIF前に会ったのも病院だったしもしかしたら病院に縁がある人なのかもしれない。

 

「硝太くん?久しぶり…ってどうしたの腕」

 

 こちらの顔を確認するとサングラスと帽子をつけたままでありながらすぐに斉藤硝太だと気付いた吉祥寺は小さい子供にそうするように軽く手を振って挨拶をする、もすぐに左腕の三角巾とギプスに気付いて顔色を悪くする。

 病院内なので身体がどこか欠損したり包帯で巻かれている人がいるのは不思議なことでは無いがそれはそれとして一週間ぐらい間を開けて再会した相手が左腕に三角巾を巻いていたら誰でも不思議に思うだろう、と納得することにした。

 

「ああこれ?ナイフで切られた」

「どういうこと?」

「こう、ズバズバズバーッて」

 

 身振り手振りでストーカーに腕をズタズタにされたのを説明するが現実離れしている為かあまり納得してくれていないようで頷くだけ。一応ストーカーに刺された所まではニュースにはなっているがちゃんと調べるかたまたまその時間帯に見ないと触れられないようなニュースだったので知らないのも無理は無い。硝太としても下手に突っ込まれると事件の詳細を話しそうになってしまうのでこれぐらいの扱いがちょうどいい。

 

「そういう頼子ちゃんは?」

「前と同じで友達のお見舞い。ちょっとお腹が空いていたみたいで摘めるもの買って来ようかなって」

 

 吉祥寺の目的はどうやら前と同じ友人の見舞いらしい。様子から見て頻繁に見舞いに来ているのだろう。マメで気遣いのできる吉祥寺らしい。

 

「そっか、お友達は幸せ者だね」

 

 吉祥寺の隣に並んで近くの新聞を手に取る。ここ最近のニュースをはば広く集めるのならネットニュースよりこちらの方が手っ取り早いと聞く。もう一週間以上経つのでストーカー事件は当事者を除き興味無いだろうが続報の可能性や似たような事件の可能性があるので毎日調べることにしている。新聞を期待して読んでは見たが内容はネットニュースと五十歩百歩と言わざるおえない。直接的な捜査権が無いため大まかな概要しか書かれておらず、そもそもこちらが期待したような情報は載っていない。

 新聞からの情報収集は諦めて雑誌を手に取る。東京ブレイドが載っていれば時間つぶしには十分すぎる。

 

「あったあった」

「東京ブレイド好きなの?」

 

 手に取った雑誌のページをパラパラ捲って止まったページが東京ブレイドなのを横から見ていた吉祥寺が声をかけてくる。マンガ家の目の前で別マンガを読むはマナー違反だったか、思ったがすぐに東京ブレイドの作者の鮫島アビ子先生は昔吉祥寺のアシスタントだったという事を思い出す。吉祥寺が人気がないとは言わないが国民的マンガと比べたら流石に見劣りするので吉祥寺からすれば弟子や生徒に追い抜かれた事になる。決して悪辣な性格では無い吉祥寺なので育ってくれた事への喜びも有るだろうが、同じマンガ家としての嫉妬心や思うところも多数あるだろう。

 

「はい。『東ブレ』世界一面白いです」

 

 それでも、正直に告白することにした。作家に対して一番失礼なのは創作物に対して嘘をつくことだろう。作家にとって作品は我が子のようなもの。褒められたり面白いと言われるのは素直に嬉しいと思うし、つまんないと言われたら怒るのも当然。だが、つまんないと思っているのに面白いと言うのはただの忖度でしかない。私生活まで犠牲にしている作家に対してそれは卑怯にも程がある。それなら面白くないと直接言われた方がまだマシだ。

 吉祥寺は一瞬何かを思い出したようにハッと目を大きくするとすぐに優しい母親のような表情になる。

 

「今度、アビ子先生の家で飲みに行くんだけど一緒に来る?」

「僕、実は未成年なんだ。お酒飲めないんだけど、平気?」

 

 飲みに行く、と聞いて自分の年齢を言っていなかったことを思い出す硝太。未成年であることは兄であるアクアが高校生と言っていることから判断は難しくないがMEMちょのような例も有るので念の為付け足した補足。因みに、吉祥寺は硝太のことを見た目の印象から小学生だと判断しており、硝太はそのことを欠片も気付いていない。

 

「流石に小学生にお酒飲ませようとはしないわよ。ジュース用意しておくわ。アクアさんと一緒とかなら親御さんも許してくれるんじゃないの?」

「小学生?誰が?」

「え?」

「──え?」

 

 これまでの会話に欠片も出てこなかった小学生というワードに首を傾げる硝太。吉祥寺と顔を見合せてお互いに顔を傾げて顔色を伺い合う。

 しばらくそうしていると不意に感じたことのある黒い気配を感じた。普通に生活するだけなら先ず感じないような、人殺しの気配。硝太は反射的に持っていた雑誌を吉祥寺に押し付ける。

 

「頼子ちゃん、下がって」

「え?何?」

 

 三角巾の中にナイフを隠してあるのを確認しながらも即座に抜きはせずコンビニの入口を睨む。戦闘態勢とまでは行かないまでも右目の瞳の奥が急に熱を持つ。

 その時に入口から入ってきたのはうさぎ耳の特徴的なパーカーを身につけた高校生。藤波木陰。藤波は前回と前々回とストーカーしても気付かれたのを学習してか、病院内に堂々と入ってきた。

 

「お前、警戒心強すぎるだろ」

 

 左腕を負傷している硝太を見下ろし口角を上げる藤波。ただでさえ普通に戦っても勝ち目があるかどうか分からない未知数な相手に左腕が使えないというハンデ有りの状況で勝てると思うほど硝太も馬鹿では無い。しかし同時に病院内で戦闘を起こすほど藤波も余裕が無い訳では無い──と思われる。周りに無関係な人間が多くいる病院であることが二人に戦闘態勢を取らせない。

 しかし硝太は、もし藤波が戦う気の場合を考えて吉祥寺を下がらせる。ミヤコに泣かれたことと、フリルに死んだら自殺すると言われたことで命を無駄にしないと心に決めたまではいいがだからといって友人を見殺しにするのは違う。ただでさえ藤波はこれまでどちらか分からなかったアクア相手と彼女の味方である諸木を除き、硝太以外の前には現れていない。噂は回っている以上普通に学校は出ているのだろうが人前に出来るだけ姿を現さないようにしている理由と、それでも今回現れた理由を考えてしまう。

 

「何しに来たんです」

 

 ニヒルな笑みをしている藤波をより強く睨みつける。魔法というものがあることが分かった今、藤波が魔法使いであり同時に人殺しにそれを使っていたことに疑いは無い。一人なら逃げる選択肢が取れたが吉祥寺がいるため抱えて逃げる必要があり、その場合十中八九追いつかれる。ならば相手に戦う意図がある場合、何かをされる前に首を落とすしかない。

 

「別に。私がお前の見舞いに来るほど仲がいいとでも思ったのか?」

 

 硝太は今にもナイフを抜いて首を落とせるように三角巾に手を突っ込んだまま立っているが藤波は硝太の考えを完全に把握しているのか構えることすらしない。

 

「硝太くんのお友達、じゃないよね」

「頼子ちゃん黙って」

 

 硝太のただならぬ気配を感じて吉祥寺が藤波と硝太を見比べる。藤波は同年代と比べると小柄なうえ服装も子供っぽいが年相応の高校生に見える。少なくとも硝太と同年代とは思わない。

 硝太が他人を警戒しているのはいつもの事だが、それでも攻撃的な口調や今にも殺しに行ってしまいそうな雰囲気は吉祥寺からすると鏑木の時以来。あれだけなら大人の男性が嫌い、と言われれば説明がつくが今回はその場合には当てはまらない。いくら兄姉が間を取り持っているとはいえ最低限複数人の友達を作れるだけのコミュニケーション能力はあるのだから誰に対しても殺そうとするような攻撃性がある訳では無いのはわかる。つまり、今硝太の目の前にいるのはそうさせるだけの相手だとわかる。

 

「ここは人が多いな、おい」

「…構いませんが」

 

 しばらく睨み合っていた硝太と藤波だが、藤波は上を指す。上の階、ではなく屋上を示している。するとどこへ行くのか伝わったのか確認もせずにコンビニから出て行ってしまう。何も感じていない店員の「ありがとうございました」が非常に淡白に感じられる。

 

「ごめん。頼子ちゃん、急用が出来たからまた今度連絡して。アビ子先生と会うの楽しみにしてるよ」

「待っ──」

 

 藤波が視界から消えると硝太は三角巾から手を出して溜めていた息を吐き出す。さっきまでの殺意が嘘のように消え失せると振り返って吉祥寺の方を向いて笑顔を作る。その後藤波に指示された通りに手を振りながらコンビニの出口の方に足を伸ばす。吉祥寺は止めようとするがその制止を振り切って屋上へと向かった。

 

「なんなの一体…」

 

 この病院の入院患者である硝太が突然コンビニに来るのはともかくそれを狙ったように来たうさぎパーカー女。喧嘩どころか殺し合いが始まりそうな気配すら感じるような空間になったと思ったら二人揃って店へ出て行ってしまった。流石の吉祥寺も完全に置いてけぼりになってしまっていた。




今回はお暇な硝太くんがコンビニで時間潰ししようと思ったらお友達の吉祥寺頼子ちゃんと出会ったよ!ってお話です。え?なんか殺人鬼がいる?知らないなぁ…
とにかく得物を抜くのが早い硝太。こいつかなり喧嘩っ早いな。癇癪持ちとかそういうのではないんだけど…


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頼子ちゃんは癒し
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