【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
硝太を上手く操ることで未来視の否定という目的を果たした『世界の端っこ』。藤波木陰はその結果を受けて硝太をスカウトするが硝太に断られる。
その代わりに硝太が手を組んだ白髪の少女に硝太は彼を襲った死体の解析がしたいと申し出る


#61 パッチワーク(一)

 パッチワーク。基本的には布片を縫い合わせて1枚の大きな布を作る手芸を指す。そこから転じてパッチだらけとプログラムを指すこともある。

 

◇◇◇

 少女が消えてから約一時間後。彼女が言ったように烏が伝書鳩のようにやってきた。窓を開けて部屋の中に入れると烏は少し飛んで近くの机の上に乗ると紙が結んである足を持ち上げる。紙を取れ、ということだろう。素直に結んである紙を取る。

 

「随分と古風だな」

 

 SNSで情報がやり取りされる現代では一周まわって新しい伝書鳩による手紙のやり取りに苦笑しながら肩に乗ってきた烏に見せつけるように紙を広げる。

 

『今日の夜9時、屋上』

「いや、早いな」

 

 必要な内容が書かれながらも口頭で充分な内容に硝太は内心で「ならさっき言っとけよ」とツッコミを入れる。動く死体を隠し場所から人の目に見えないように運ぶのは至難の業なので相当時間がかかると思っていくたがその日のうちに運んでこれるとはやふふ

かし名言しているのは素直に驚く。偽物か、と思ったが自分はともかく八咫烏の目はそんな簡単にはごまかせない。知らない手紙を結ばれたのに飛んでまさかそれを渡してしまうなんて失態を犯すとは思えない。まず信用していい。

 早いうちに作業が出来るのはどんなものでも情報が欲しいこちらにとっても都合がいい。すぐに準備を済ませて時間通りに屋上に上がる。

 

「あ、きたきた。遅いよ」

 

 屋上に上がった時には白髪の少女が昼時のように柵にもたれかかっていた。数羽の烏が柵の上をぴょんぴょん跳ねるように歩いており、その中心でだらけきっている姿は本物の子供のように見える。少なくとも最初に会った時のような危機感を感じさせる雰囲気は消えている。本命の死体と思われる何かがその辺から持ってきたとしか思えないぼろぼろのブルーシートに包まれた上で烏に囲まれて屋上のど真ん中に置いてある。無関係の人に開けられそうになったら烏が襲撃するのだろう。

 

「悪い」

 

 時間通りに来たはずなのだが遅いと言われてしまえばそれまで。一言だけ謝ってすぐに烏が群がっているブルーシートまで近づく。烏は一羽一羽がこちらの方向に目を向けてはぴょんぴょん跳ねながら少し離れた位置に移動して場所を作ってくれている。

 

「一応、最後に聞いておくよ」

 

 ブルーシートの端を摘んで開こうとしたその時、後ろから少女が声をかけてきた。その声からは人間離れした、神秘的なものを感じる。

 

「今ならまだ戻れる。それを開けたらもう、君は戻って来れない。一生日陰者、異端者として扱われるで済む。だなんて思わない方がいい。君がこれから起こすのは犯罪で、魔法の解剖だ。もう、後戻り出来なくなる」

 

 まるで神様のような声でありながらその言葉は人の社会にいるものに属した発言。

 犯罪を犯せば警察に捕まる。捕まれば家族に犯罪者の家族というレッテルが貼られる。犯罪者の母親、犯罪者の兄、犯罪者の姉。当然ルビーはアイドルができなくなるし兄は役者でいられない。苺プロは残っていたら奇跡だろうと言えるほどの傷を世間から加えられる。ならば死ぬまで、否。死んでからも隠し通すしかない。それができるのか。嘘が極度に下手な自分がそんな嘘をつき続けられるのか。

 その上、今回はただの死体損壊では無い。夢物語としか思えない魔法に触れることになる。自分が魔法使いなのは能力を使わずに内緒にする──というよりそのまま忘れてしまえば済む話。能力さえ無くせばただのズレただけの人間。しかし魔法の神秘を知れば今後その世界に生きていくことになる。ただ魔法を知っているだけの一般人ではいられない。明確すぎる他人と違う力を認めてしまえば水と油のように混ざらなくなる。colorfulや世界の端っこと同じ人間になる。フリルを襲おうとした、アイさんを殺すように指示した真犯人に睨まれる可能性も当然ある。

 

 まだ間に合う。ここで手を離して来た道を戻ればいい。その後は少女か眷属の烏がまたこの死体を監視するだけ。自分は何も知らない、無垢な一般人でいられる。何食わぬ顔で家族の中に帰ることが出来る。

 

「けど、それじゃいつまでも解決しない」

 

 ブルーシートを摘む指の力を強める。少女も薄々感じていたことのようで眉を細める。

 自分たちがどうにかしなければ、何も変わらない。アイがストーカーに刺された事件をら10年以上放っておいた警察が何とかしてくれるなんて誰が思えるというのか。ただ事件が解決しないだけでも腸が煮えくり返るほど憎いというのに、硝太がアクアに言ったように別の誰かが襲われるかもしれない危険性は永遠とついてくる。そんな状態でルビー達がアイドルをやり続けるのは危険と言わざるおえない。

 

「しなくてもいい、とは考えないのかい?」

「それは出来ない。僕は決めたんだ。お母さんの為に命を使うって。姉さんや、兄さんの幸せのために生きるって。だからこれは僕の責任だ」

 

 僕の為だけに泣いてくれた、抱きしめてくれた母の為に命を使うと決めた。そんな母を守るために、母の幸せの為にルビーとアクアは必要不可欠。彼らの幸せを純粋に祈れるようになれば自然と彼らの中にある深い闇に怒りが湧く。家族の為に戦うと決めたのに真犯人と思われる敵の情報の塊から目を背けるなんて決意した意味が無い。

 

「僕は戦う。相手が家族じゃないなら誰だって殺しに行ける」

 

 自分を鼓舞するように宣言してブルーシートを勢いよく剥がす。少女は諦めたようでため息をつくと屋上の出入り口を塞ぐ。ここには監視カメラの類いは無いので病院から見て完全な死角となった。

 ブルーシートに包まれた中には黒ずんだの遺体が二つ、並べて置いてあった。前見た時はつけられていた病衣は流石に剥がされており、身元を証明するようなものは持っていない。雑に巻かれた包帯は素人が遺体を置いたまま巻いたと思われる。一時的にでも身分を誤魔化せられればいいとしか考えていない。襲われた時に切りつけた傷は直接身体に触れた訳では無いので傷として見える訳では無いとはいえ、明らかに傷が少ない。

 病院内から取ってきた使い捨ての手袋を右手に装着して中を傷つけないように包帯を丁寧に剥がしていく。皮膚が焼けただれて包帯についている、ということではない為剥がれないということは無いが片手しか使えないので左腕が垂れて当たったりしないように細心の注意を払いながら外していく。外していくと包帯の裏から眼球が無くなり、肌が黒くなったミイラのような顔が見えてきた。最低でも死後一週間は経っている割には綺麗な死体。

 

「流石に顔は潰されてるか」

 

 死体は骨にそのまま黒い肌を張りつけて無理矢理引き伸ばしたような見た目になっている。完全に潰された訳では無いが酷く変色した上で所々変形した頭を見ると顔から身元を特定するのは科捜研でもなければ出来ない。少なくとも警察に回収されないか回収されてもいいと考えているのかどちらかだ。

 

「指紋は焼かれてる。変なとこだけちゃんとしてるな」

 

 試しに手の包帯を剥がしてみると手も黒くなっており、肉をこそげ落としたように枯れている。捜査に使える、とは思わないが試しに指の先端を見てみるが指紋はライターのようなもので丁寧に炙られていた。包帯の巻き方は雑なくせに指を焼くのは丁寧に見える。この様子では包帯から包帯を巻いた誰かの指紋を取るのは厳しそうだ。

 

「どう?分かりそ?」

 

 暇になった少女が出入り口の番を近くの烏に任せてこちらの隣に座って話しかけてきた。すぐ近くには死体が転がっているのに全く意に返していない。烏にそうさせているだけだが死体を持ち帰っているだけはある。

 

「まだ。全然分からない」

「そっか」

 

 淡白な返事をした後、硝太は顔についた包帯を剥がす作業の続きを始め、少女は座った体勢のまま腕を組んでそれを眺める。二人とも特に喋ることはなく、硝太は黙々と作業を続ける。

 片手ながらも硝太の作業は順調に進んでいく。小さな体で死体の周りをぴょんぴょん跳ねながら包帯を外しては傷の有無等確認して、傷をつけたり当たらないように注意を払いながらやっていると包帯は全て取れる。

 

「ふぅ、一先ずこんな感じかな」

 

 一人目の包帯が全て取れたのを確認して包帯を丁寧に束ねて近くに置いた後手袋を外して一息つく。死体の身長は約170cm、体重は約70kg。中肉中背の平均的な日本人男性の体格。

 腐敗臭とはまた違った匂いはおそらく加齢臭だろう。全身にシワが目立つが肝心の顔が酷い状態のため細かな年齢は特定できない。

 

「黒焦げだね」

「焦げじゃないな。とはいえ腐敗でもない」

 

 死体を見下ろしながらも気分を悪くした表情すら見せない少女は、顔をつつきながら感想を言う。

 顔は黒く変色し、皮を引き伸ばしたような酷い形になってはいるが、その他は綺麗という訳でもないが死体とは思えないほど傷が無い。頭髪対策か髪の毛はカツラを被っているのもあって頭だけが死体らしい奇形となっている。

 何より不思議なのが死体のくせに腐敗していない。夏場なら一日もあれば腐敗が始まるが死後一週間以上経つのに体が腐るどころか、死後硬直すらしていない。30分も経てば自然に出てくるはずの死斑すら見えない。ならば生きているのか、と思って脈を測ってみたが反応は無い。間違いなく死んでいる。

 硝太は右目の瞳は青く輝かせる。自身のインスタントバレットを使用した状態で再び死体を注視するも、戦いの際に見えていた『ナニカ』は影も残さずに消えていた。目の前にあるのは何の変哲もない死体と自身の魔法に言われ、硝太は肩を落とす。

 

──おそらく、死体に何らかの規則性を付与することで動かしているんだろうけど、それが分からなきゃなんとも言えないな。

 

「死人を元にしたモンスターって言うなら幾つかある。南米のゾンビもそうだけど中国のキョンシー、エジプトのミイラ、北欧のタキシム。少し違うけど死んでも動くって意味ならエインヘリアル。ゲームとかだとアンデットとか食屍鬼(グール)とかあるけど、今のところどれにも該当しないな」

 

 指を立てながら思いつくだけの死体になっても動く化け物を考えるも置いてある死体を見るだけで全て否定できてしまう。仮に、特定の対象をゾンビのような死体に変えてしまう魔法があったとしてもこれではどんな魔法なのか、どんな動く死体にされてしまうのかが分からない。二人が知らないだけでちゃんと元ネタがあるならいいが、仮に元ネタのない術者本人が考え出した動く死体だとしたら打てる手は一気に減る。

 

「動く死体に絞っているなら相手は死零術者(ネクロマンサー)で確定?」

「そうとも言えない。何せまだ生きてる人間を使えないという証明ができない」

 

 少女は腕を組んで考え込む硝太の隣に再び並ぶと柵に身体を預ける。動く死体に関心を持っていたと思われる少女も分からないと知って硝太も頭を抱える。

 並べてある死体が何らかの規則性に則って動いているのなら逆説的に生きた人間や他の動植物に通用するかどうかもわかるがこれでは考えることすら出来ない。相手が直接死零術者(ネクロマンサー)だと名乗ってくれれば気が楽だが、ただでさえ指紋を焼いたり髪を毟って証拠を減らそうとしている相手がわざわざそんなことをするはずもない。

 

「結局分からないことがわかった、ってだけなんだ」

「いや、そうでも無い」

 

 頭を抱えて考え込む硝太を尻目に何か期待をしていたのか少女は呆れた顔で頬杖をつく。死体を見る直前は家族の為に戦う、と宣言したのを聞いていただけに落胆する。そんな落胆している少女に対して硝太は外した手袋を近くに置きながら軽く笑う。

 

「そもそも、魔法についての知識が少ない段階でハウダニットを決めるのには無理がある。今のところ僕らが推察できるのはホワイダニットのみだ」

 

 ハウダニット(どのようにそれを行ったか)は文字通りどのような魔法を使って何をしたか、という意味になるので魔法という未だに魔法の知識に乏しい上に情報が少ない今は何をしても「分からない」「こういうこともあるかもしれない」としか言えない。文字通り今までの推理が全部ひっくり返ってもおかしくないのだ。ならそんなことを今更考えるのは時間の無駄。無論、今後魔法についての厳格なルールや仕組みを理解できるかもしれないので今死体を調査して情報を得るのは間違っていないが、今はハウダニットやフーダニット(誰がそれを行ったか)は決められない。だからこそ、硝太はホワイダニット(どうしてそれを行ったか)に注目して考えた。

 

「今回の事件──って言うと話がこんがらがるな。この動く死体達が使われた襲撃ってそもそもなんで起こったと思う?」

 

 フリルが巻き込まれたストーカー事件と切り離して考える為、『襲撃』という言葉を使いながら隣に座っている少女に訪ねる。

 少女は若干疑問に思いながらも襲撃の時の事を思い出す。

 

「そんなのナイフで刺されても死んでなかった君を完全に殺すためじゃない?」

「なんでそんなことを?僕と犯人は知り合いかい?」

「そんなの君がインスタントバレットだからでしょ。相手も君の能力が分からなかったか、知っていても警戒していたというのなら動く死体を使う理由もわかる」

「それなら生命維持装置を壊すだけで済んだでしょ。病院内で暴れてもいいような処置ができるなら尚更。わざわざ動く死体なんてものを用意する意味が無いんだ」

 

 当時の硝太はもう医者も匙を投げる状態だった。つまり放っておいても死ぬ。結果的には元気に走り回れるようになっているが『未来』を知らないならわざわざ危険を犯してまで殺しに行く必要性は無い。仮に目覚める可能性を考えたとしてもここまで大きく動かなくても所狭しと並べられていた機械をひとつでも壊せば硝太は勝手に死ぬ。動く死体を作るのにどれだけの手間と労力がいるのか分からないがそれに加えて行った偽装工作だけでも病室に忍び込んで機械を壊したり直接息の根を止めるより労力がかかる。犯人は明らかに割に合わないことをしている。

 当初から少しは考えていたのか、少女は少し悔しそうに頬を膨らませる。実際は生命維持の機械は硝太が起きる前から停止していたのだが、硝太にはそれを知る由はない。『未来』を知らなければ機械が停止した時点で死ぬと考えるのは当然だし仮に知っているのなら今回の行動自体に意味が無い。そのため少女はそれを言うことはなく、黙っていることに気付いていない硝太は全く気にせず次の話に移る。

 

「さて。この死体、やけに個人情報に繋がるものを消されてる。試してないらなんとも言えないけどDNAぐらいじゃないかな、ちゃんと通用するの」

「襲撃の時も手が込んでたし犯人はそういうことをちゃんとするタイプだったとか?」

 

 襲撃の時、死体を壁や地面に叩きつけても確認すら誰も来なかったことを思い出す。その時病院にいた看護師や医者が全員グルでないとおかしな話になってしまうが大きな病院でそこまでのことをするのは容易な話ではない。動く死体という硝太曰く「必要のないもの」をわざわざ用意するあたり手を込んで犯行を行う、凝り性な人間、若しくは何らかの美学の元に動いている人間なのかもしれない。

 少女の言葉を頷きながら聞くと硝太は自分が回収した包帯を持ち上げる。

 

「この包帯が雑に巻かれていたのに反するけど、基本的に相手は何らかのルールに則って動いている。自分で課したルールなのか、誰かにそう設定されたのかは知らないけど。この時点で『colorful』と『世界の端っこ』と今回の犯人は別だ」

 

 死体の異様な状態からインスタントバレット、もしくはそれに類する力が関わっていることは確定した上で現時点でインスタントバレットがいることが確定している組織、『colorful』と『世界の端っこ』が犯人から外れる。それだけで今回死体を調べた意味はあったと言える。

 

「なんで?」

「どちらにしろここまでする理由がない。『colorful』はわざわざこんなことしなくても僕を殺せるし『世界の端っこ』には僕を殺す理由がない。となると必然的に残るのは」

「不知火フリルのストーカー、捕まったやつ以外にもいるって?」

 

 必然的に導き出された少女の答えに硝太は黙って頷く。共犯者がいることは前から話題として出ていたのでそれを前提として考えた結果というのもあるが線と線が繋がったのは間違いない。

 『colorful』ならわかっている所属メンバーは七辻すいむだけだが、七辻ならもっと効率よく人を殺せる。わざわざ死体を用意する必要がない。『世界の端っこ』の場合は藤波の言った通り目的は未来視の否定、でありリスクを犯してまで斉藤硝太を殺す理由は無い。

 

 

「あの時の記憶が結構あやふやでさ。もしかしたら共犯者の顔を見たかもしれない」

 

 頭部をぶつけた影響か、硝太の中で事件の記憶はかなり薄れている。特にストーカーと直接対面した時の記憶が少ない。共犯者が実は近くにいてその顔を見た、もしくは見られたと共犯者本人が思ったのなら今回の行動も無理は無い。事件のニュースにはフリルの名前や場所等が隠されているとはいえ、犯人自身ならそこから事件の被害者で顔を見たかもしれない男が生きていることにすぐに気がつくだろうし、入院先を突き止めるのもそこまで大変なことでは無い。

 ストーカー本人は捕まっている、なおかつ作戦も杜撰だが、共犯者は鍵を前々から用意したり準備を入念に行う性格が見て取れる。死体を用意するのも性格から反した行動では無い。

 

「つまり君を襲った不知火フリルのストーカーの共犯者はインスタントバレットで君が生きていることを知った後、この動く死体を使って襲わせるも、君がそれを退けた。結果そいつは君を殺すのを諦めて今息を潜めている、と」

 

 少女がこれまでの推理を纏める。多少強引なところもあるが筋は通っている。『colorful』に『世界の端っこ』にと勢力が増えてひとつの事件に色んな思惑が重なることで面倒になってきたが一つ一つ読みといていくだけで話はすぐに簡単になる。

 

「そこまで分かれば次の動きも自然とでき上がる。足を使った捜査だ」

 

 まだ想像の段階を出ないとはいえそれなりに事件が組み立てられて来たのなら次は一つ一つの証拠を見つけるのみ。魔法の知識をつけるのもそうだが、いくら犯罪行為に拘るタイプだとしてもこれだけ大きく動けば証拠が残っているはずだ。それを本人はもちろん、警察より早く回収して罪を立証させる。

 

「君一人でやるの?」

「僕はそんなに器用な人間じゃないよ。こういう時に頼りになるのはやっぱり兄さんだよな」

 

 当然その道も容易くは無い。むしろあるかどうか分からない、使えるかも分からないピースを集めてパズルを作り上げるようなもの、徒労に終わる可能性もある。

 ただ調べるだけではなく、聞き込み等人と会って話をするなら仲介役、というより協力者が必要になる。こういう時に頼りになるのはやはりアクアマリンだ。硝太にとって必要な情報、能力──事件のことを大まかに知っており、捜査能力があり、頼れる人間。そこまで絞り込んだ結果出てくるのは彼しかいない。そう思い頼み込むために電話しようとする──が、直前で硝太の手が止まる。

 

「どうしたの?」

「ダメだ。兄さんにはあかねちゃんがいる。二人の時間は、僕には奪えない」

 

 アクアマリンは最近彼女が出来た。黒川あかね。美人で、気が利いて、頭が良くて、演技に真摯な役者。これまで、その圧倒的な顔と大人っぽい態度、頭がいいなどの特徴から当然モテはしたが全てを断ってきた兄が自ら選んだ相手。二人の相性は弟からみて全く悪くない。なんの干渉もなければ二人は自然と幸せになっていくのだろう。そんな二人に事件のことを話せばどうなるか。確実に協力はしてくれる。母親であるアイさんのことを調べていたアクアマリンはもちろん、あかねちゃんも乗って来るだろう。だから出来ない。二人の幸せなこれからの時間を自分自身のエゴのために使うなんて許されない。

 

 しかし他に事件のことを知っていて頼れる人間といえば誰がいるか。母と姉は当然巻き込めない。有馬先輩とMEMちょ、ただでさえ事件と関係ない二人だがそれに加えてB小町があるので関わらせたくない。ぴえヨン、事件のことを知らせたら厄介なことになりそうなので頼めない。頼子ちゃん、捜査に参加させられる人ではない。他の人も事件のことをよく知らず下手に事件にかかわらせると別の問題が発生しそうな人ばかりだ。

 その中で一人だけ全ての条件に合う人間が一瞬だけ頭に浮かぶ。

 

「…いや、いるな。頼れる人」

 

 考えた末、信用出来る人間の電話番号を叩いて少女に背中を向けて離れる。

 

「もしもし、フリル。少し頼みたいことがあるんだけど」




推理パート書くのめちゃんこ楽しい。ちゃんとしたミステリーと比べると魔法が絡む分特殊な形にはなっていますが。トリックの推理ではなく動機の推理になると『エルメロイ二世の事件簿』が浮かぶ人は多いでしょうが実際参考にして書いてます。

いつだって硝太がアクセルを踏む理由は家族なんだ。そして頼れる人はフリルなんだ。そしてツクヨミは相棒枠なのに未だに硝太は名前を知らないんだ。

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次回、特殊エンド。
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