【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
カラスを操る白髪の少女に死体を持ってきてもらい事件の捜査を始める硝太。魔法をまだ理解していない中でも確定している情報から動く死体を使って襲撃をしてきたのはフリルのストーカーの共犯者の可能性が高いと結論づける。次は足を使った捜査だと言った硝太は協力者として番組内でカップルになったアクアとあかねではなくフリルを選んだ


#62 パッチワーク(二)

 ストーカーに襲われてから一週間足らず。仕事をしても問題ないと事務所が判断したので不知火フリルは休養を早めに切り上げて芸能活動を再開した。一般人相手はもちろん同業者、事務所の人ですら相当偉くないと今回の事件のことは知らないので長く休養を取ると余計に心配されたりバレたりする、という理由もあるが何よりフリルは事件のことをあまり気にしていなかったのが大きい。

 事務所内部でも不知火フリルがストーカーに追われた原因を調べているが、あまり結果は宜しくない。警察に聞いても事件はあれから進展していないらしい。硝太が言っていた共犯者の可能性も話題には上がったがそ決定的な証拠が出た訳でもない。この前聞いた硝太の推理をそのまま喋れば進展する、とは思ったものの取り調べで言うべきことは全部言ったのと、硝太が警察や事務所に疑い深かったので胸の内に秘めることにした。結局事務所としてはマネージャー等の周りにいる大人を増やして対策した気になるだけで話は終わるしか無かった。

 今日もレギュラーを務めているバラエティ番組の撮影が終わり、ゲスト達が各々今日の反省会だとか名目をつけて飲み会に行く。

 

「フリルちゃんも来る?」

「いえ、今日は…」

 

 番組のMCに来るか聞かれるが、私がそこに行く気は無い。元々事務所の意向でこういったものには参加することは少なかったのに加え、もう芸能活動は問題ないとはいえ、襲われたばかりなので少なくとも今回はそういったものに行く気はなかった。

 その時、スマホから着信音がした。LI〇Eではなく、電話の着信音。氷室(マネージャー)から迎えの連絡だろうか。事件後なのもあり、かなり手厚い。

 

「すみません、ちょっと」

 

 ほかの出演者達から離れ電話先を見る。そこには『斉藤硝太』と名前が書かれていた。

 硝太がこんな時間に何かあったのだろうか。頭の中に浮かぶのストーカー事件のこと。硝太はアクアを含めて三人で話している時に今回のストーカーの共犯者が姉の星野アイの犯人と同一犯の可能性があるとわかった。そうなると次に身内、ルビー達が巻き込まれるかもしれないと考えた硝太が急いで事件を調べようとするはず。その結果が出たかそれについて私に聞きたいことでもあるのか。

 周りを見て誰もいないこと、誰にも聞かれないことを確認した後に電話に出る。

 

「もしもし」

「もしもしフリル。少し頼みたいことがあるんだけど」

 

 スマホからは表示通り、少しくぐもった硝太の声が聞こえた。外に出てるのか、少しだけ風の音が聞こえる。

 

「頼みたいこと?」

「ああ、今度外に出て調べたいことがあるんだ。同行して欲しい」

 

 硝太からのデートの誘いに胸の辺りが熱くなる。彼としては事件の事で外に出る用事があるから協力者が欲しいだけなのだろうが、話を聞くこちらとしてはデートとしか思えない。何しろ自覚したのはつい最近とはいえ役の影響で気になったとかではなく、不知火フリル個人として本気で好きになった相手なのだ。好きな人から出掛けようと連絡を受けて興奮しない女の子はいないだろう。

 とはいえ、硝太が恋愛ごとに無関心、少なくともこちらに恋愛感情を持っていないのはわかる。事件では隠し事を通されたとはいえ、ロジックに基づくものでなければ硝太の感情はわかりやすい。となれば別の意味で気が利く硝太がデートのような形にセッティグするとはまず思えない。友達として二人でいる、という形が理想だが関係ない人が間に入ってただただ気まずくなる可能性もある。

 

「それって、アクアさんも一緒に?」

「いや、二人っきりがいい。君と二人でいたい」

 

 ドクン、と強く心臓が打つ。「君と二人でいたい」とは雑ながらも直接的な硝太らしい殺し文句。無理解のはずなのに相手を見抜いたような発言をする硝太らしい言葉に思わず体がより熱を持つ。今ここに鏡があれば頬がほんのり赤くなった自分の顔が写っていただろう。本当なら事件のことについて考えるべきで硝太もそう望んでいるだろうに別の事ばかり考えてしまう。チラリと、硝太の言い方が妙に優しいのでそういうことを考えるように誘導してきてるのかもしれない、と思ったが硝太にそんな器用なことが出来るはずがないので考えないことにした。

 

「君の空いてる日を教えて欲しい。僕も外出許可を取ってくるから」

「すぐ取ってくるね」

「うん、頼むよ。じゃあ、僕が言えたことじゃないけど、ちゃんと身体を労わってあげてね。お休み」

 

 電話が切られ、ツーツーと無機質な音が鳴る。身体の熱を誤魔化すように深呼吸をした後スマホをポケットの中にしまう。事件前の自分は硝太に人として興味を持っていたものの、まさかこんな一言一言にドキドキしたりするとは思わなかった。あの時から彼の一挙手一投足に意識が向いてしまう。

 

「不知火さん、彼氏でも出来たの?」

「っ!?」

 

 硝太の電話に意識が向いていたからか、後ろからかかった声に気付けず、驚きのあまりポケットに入れたスマホを抱えて勢いよく半回転する。大声を我慢できたのは自分でもよく耐えたと思う。

 

「あ、ごめんごめん」

 

 半回転した動きが面白かったのか、声の主はケタケタと楽しそうに笑いながらも謝ってくる。明るい青みのかかった髪色に水色っぽい瞳、モデルすら羨む立ち姿。

 片寄ゆら。数年前から人気の大女優の一人。今回は番宣目的で番組に出演したゲストの一人だが彼女の知名度から今日の視聴率はそれなりに稼げるだろうと言われるだけはあり、プロポーションはもちろん、番組の盛り上げにも一役買ってもらった。そんな彼女が撮影中より楽しそうに笑いながらこちらを見ている。

 

「どうかしましたか?」

「いや、今日打ち上げには行けないから不知火さんに挨拶しようと思ったら楽しそうに連絡してるのが気になっちゃって。彼氏でも出来たの?」

 

 どうやら電話の相手、硝太を彼氏だと勘違いしたらしい。電話の前に周囲を確認していた為、会話の内容までは聞かれていないだろうとは思うが電話を見られたのは正直に言って恥ずかしい。何より彼氏では無いものの、好きな相手という意味ではあっているので彼女の指摘はあながち間違いではない。

 

「いえ、彼氏はいませんよ」

「じゃあ好きな人だ。ねぇどんな人?誰にも言わないか教えてよ」

 

 恋バナが好きなのか妙に食い付きがいい。おそらく事務所からの締め付けが強くて恋愛をしてこなかったのだろう。

 恋愛禁止と聞くとアイドルに課せられてるイメージが強いが女優やモデルでもそういう枷をつけるのはよくある話。特に彼女や私のような大手事務所に所属しているタレントとなると異性と付き合うのはもちろん、会うことすら制限される。SNSのつぶやきから連絡先の交換まで事務所やマネージャーを通して行う。清楚系というポジションが与えられた私となると事務所が総動員して男から引き剥がす。私の場合は父親とすらまともに話させてくれないぐらいだ。そんな中硝太の見舞いに行けたのは事務所がストーカーに襲われるという最悪の可能性から守った硝太にそれなりに感謝していたからで、それを含めても許可されたのは一回のみで、それ以降は事務所も硝太を私の芸能活動の邪魔者として扱うことを決めたらしい。

 芸能人には人権がない、とまでは言わないが普通の生活すらかなり制限される。この前の硝太と氷室の喧嘩も硝太を一般人の視点を持った芸能関係者としてみるなら当然持つ疑問を荒々しくぶつけただけと言える。二人ともやりすぎなのは別問題だが。つまりオフに硝太と会おうとするには事務所やマネージャー達の目を掻い潜って動かなくてはならない。

 片寄ゆらも事務所は違っても同じような障害をかけられ、恋愛も出来なかったと考えると今回楽しそうに恋バナするのも仕方がないと言える。事務所に自分の恋愛は潰されても他人の恋愛は楽しめる。とはいえ、何回か仕事であっているとはいえ人柄の分からない彼女に硝太との踏み込んだ話は出来ない。

 

「ただの同級生ですよ。科は違いますけど」

 

 芸能科でもないのに毎日のようにこっちのクラスまで走ってきていた硝太のことを思い出す。学年ごとの上下関係が厳しい学校で上級生達に睨まれることもあっただろうにかわし続けルビーに甘えに来ていた。今思えばアレはルビーに甘えるという欲求を満たしに来たというよりルビーの安全を確保していたとわかる。居心地の悪い一般科で昼飯を食べたくなかった、というのも当然あるだろうがそれより硝太はルビーを見ていた。教室でいつも見ていられる兄より実態の掴めない芸能人達に囲まれているルビーを心配するのはおかしくない話。

 

「へぇー私、不知火さんは年上趣味だって思ってたけど」

「…彼は年齢より若く見えますよ」

「そーなの!?写真とかある?」

 

 恋バナを続ける片寄に起爆剤を与えてしまったことを自覚して口を閉じようとするがもう遅い。片寄は水を得た魚のように1人で盛り上がる。

 私が年上趣味に見えた理由は分からないが、いつも大人と仕事しているせいで同年代が子供に見えて恋愛出来ないという子役や子役上がりの意見は理解出来る。ただでさえ同年代が子供に見える中で硝太のような見た目は小学生、中身もだいたい小学生な同年代が現れたら恋愛感情なんて普通なら出てこない。同じく子供っぽいところがあるルビーが甘やかしているので尚更。私も正直最初は硝太を10歳ぐらい年下の子供のように接していたところはある。今はそんな態度取れそうにもないが。

 すると少し遠くの方から片寄を呼ぶ声が聞こえた。このまま終わらない恋バナをするだけならともかくこのままだと硝太のことを根掘り葉掘り聞かれそうだったので都合がいい。打ち上げに行けない、ということは何か予定があるのだろう。片寄は声が聞こえた方向に元気そうに「はーい」と返事をするとすぐに振り返る。最後に写真だけでも見せろ、と言いたいのだろう。

 

「写真はまだ。そこまでの関係じゃないので」

「じゃあ今度見せてよ、楽しみだなー」

 

 硝太の写真が無いのを言うと片寄は次に期待するように言って声が掛けられた方向に歩いていく。どうやら事件のことには関心がないらしい。硝太のことが好きなことを下手にリークされるだけで大ダメージだが、芸能界、というより芸能科ではそういう出処の分からない恋愛事情を秘密として共有することも珍しくない。誰かしらにバレてこうなるのも時間の問題だったと言える。

 

「硝太と、デート」

 

 片寄との話が終わり、今度こそ一人になったのを確認して独り言を呟く。片寄との話で頭に浮かんできたように清楚系と付けられた私が男の子とデートするなんて事務所が許すわけが無い。しかしその辺は私もそれなりに芸能界歴のあるタレントだ。事務所の目をかいくぐってデートぐらいできる。事実、事務所には直接通したら許されてないだろう硝太の連絡先がスマホにある。

 折角、硝太が誘ってくれたデートだ。本来の目的は事件の捜査とはいえ、それだけで一日使うわけでもなく、硝太が一日連れ回すだけで終わりにするような子とは思えない。ある程度こちらの意見も汲んでくれるだろうし、好みの服を着て「可愛い」「綺麗」位は言わせたい。彼氏彼女の関係になるかは置いておくとしても気に入れたいという感情はある。

 

「彼氏、か」

 

 彼氏、というワードが頭に浮かんだ時ふと思った。自分は硝太とどうなりたいのか。二人の男女として付き合いたいのか、と考えてみたが他人を好きになったことはあっても付き合ったことは無いのでなんとも言えない。自分の中には特に何か考えがある訳では無いことを知る。

 ただ私は、人見知りで人嫌いなくせにちゃんと人を見て善性を感じ取っている。そんなチグハグなパッチワークのような硝太に興味を持った。そして、それが常識であろうと一見正しく見えることであろうと真っ直ぐ自分の信念を折り曲げることはない。悪い言い方をすれば自分勝手な乱暴者。良い言い方をするならドンな傷を負っても、誰かに優しくなれる、優しくしてくれる人。そんな硝太に恋をした。

 一緒にいたいと思う。その気持ちを、独占したいとすら思う。しかし肉欲を感じるかと言ったらそうでは無い。これからそういう気持ちが出てくるのかもしれないが少なくとも今の私には無い。安心感?庇護欲?──きっと全部あっていて、全部違う。

 

『フリルは、マルチタレント“不知火フリル“である以前に、ただの女の子だ。お前みたいな奴にはわかんないだろうけどただの女の子はな、知らない男に後ろを歩かれるだけで怖いんだよ』

 

 硝太の発言を思い出して、自分の中で結論を出せた。

──ああ、私は普通の女の子になりたいんだ。

 

 なんてわがまま、なんて欲張り。自分はマルチタレント『不知火フリル』であることに誇りもある。この地位をみすみす手放すなんてことはしたくない。しかしそれと同時に普通の女の子として過ごして、恋をして、素直に生きて、悩む必要のないようなことで悩みたい。

 硝太はその二つを叶えさせてくれる。嘘をつく必要なんてないよ、と当然のように言う。そのくせマルチタレントとしての仕事は忘れさせてくれない。

 

──芸能人だって人間。

 

 口にするのは簡単なことで、事務所の人間も、ファンも最初からわかっていること。人は逆立ちしようが何しようが人以外のものにはなれない。しかしそうでありながら皆違うことを考えている。アイドルが恋愛禁止なように。みんな都合のいい偶像であって欲しいと願う。自分が支配できる余地を残して欲しいと願っている。自分の手の届かない高みにいて永遠と届かない存在であって欲しいと願う。そうでなければ自分が払った時間と金()に見合わないから。愛は与えた分だけ返ってこないとその重さが憎しみに変わってしまうものだから。

 硝太にはそれがない。嘘が下手というのもよく変わる。硝太には裏がない。言っていることは全部本心からの発言。仕事中はマルチタレント、オフはオフとキッパリ分けて普通の女の子としての幸せと芸能人としての幸せのどちらともを掴ませようとしてくれる。そう願ってもいいんだよ、と優しく教えてくれる。身内が芸能人ばかりだからだろう。仕事を神聖視してもその人から目を離すことは無い。誰よりも冷酷で、誰よりも真っ直ぐな瞳。あの瞳を、私は裏切りたくない。

 

──なら、私は普通の女の子として硝太に会いに行こう。

 

 芸能人としての姿を一時的に捨てて、ただの不知火フリルとして好きな人とデートに行こう。

 

 そう心に決めると心の中から何か温かいものが湧き出るのを感じる。その熱に喜びながら私はスタジオに背を向けて帰宅した。




初登場キャラ片寄ゆら。個人的に推しの子二次創作者達の中で一番解釈別れてるキャラだと思われる。何せ出番が無さすぎるからね!末路的に安易にギャグ堕ちさせられないのも辛いところ。
本作での彼女は恋バナ大好きな乙女になってもらいました。ある意味フリルの背中を押したことにもなる名女優。もっと言及あってもいいのよ?

あと突然ですが今週から週一投稿に戻させてもらいます。理由…単純にストックが切れました。週二で投稿は執筆スピードが遅い僕にはかなりきつかった…本当にすみません。ちょくちょく貯めてアニメ三期来る頃にはまた二、三ヶ月程度週二投稿出来るようにしたいと思います。
後R18シーンのみを切り出した話とか番外編扱いになりますが別キャラルートとか書こうと思ってます。まぁ後者に至っては全くストーリー考えられてないんですけどね。個人的にスレで出てきていた原作通りに進んだ本編後ルビールートが好きだけどどうしてもハッピーエンドに行かないけど仄かな救いがある感じが往年のノベルゲームっぽくて好きです。
R18の方は一応エンドとして一つありますけど流石にそれで終わるのもなぁ…ってなってるのでこういうのどう!?っていうのあったら意見箱にどうぞ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=320834&uid=198645

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恋愛脳フリルさん。恋愛怪獣浮かれポンチになる日も近い!?
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