硝太の機械的な面から感情を引き出したいと考えたフリルは事件の捜査の予定を変更。自身も登場した映画を硝太と一緒に見ることにする。
恋愛が理解できないとルビーに言われていた硝太は自分の異常性について語り始める。しかしそんな異常性ですらフリルは好きだと言い切った
映画鑑賞後、二人並んで来た道を歩き、病院へと戻る。まだ昼下がり、時間にして三時ぐらいなのでまだいれるかと思ったが帰る先が自宅ならともかく、硝太はまだ入院患者。一日フルで遊ぶ、なんてことは出来ない。少し寂しくはあるが仕方の無い。
「ここでいいよ、ありがとう」
病院が見えてきた辺りで硝太が隣から声をかけてきた。最初は硝太が見送ると言ったがそれは遠慮した。その代わりとして硝太の見送りをしてきたが、それもこれで十分、ということだろう。決して人が多いという訳では無いが片腕に三角巾を巻き、サングラスに帽子に夏なのに耳あてと完全防御している小学生ぐらいの男の子なんてどうしても目立ってしまう。これ以上目を引く場所にいるのは良くない、というのは私も同じだ。元々事務所にも黙って二人で出掛けているのでバレたら大目玉を食らう。硝太の見送りを遠慮した理由もこれだ。
「ごめんね、忙しいのに一日使わせちゃって」
「いいよ。短かったけど楽しかった」
「フリルが楽しかったのなら何よりだ」
硝太の当初の目的である事件の捜査についてはほとんど出来ていないが私の一日を使わせなことに謝罪してくる。その目的を果たせなかったのは私のせいだとしても彼は「フリルがいなかったら外にすら出られなかったから」と気にしないだろう。
私自身としては好きな人と歩いて何気ない会話をして一緒に映画を見る、なんて貴重な経験が出来たので非常に喜ばしい結果となった。硝太が楽しんでくれたのならもっと嬉しいのだが硝太はそういった感情は見せてこない。
「──で、事件のことだけど。今日現場を確認したことで分かったことがあるから軽く推理してみたい」
数秒時間が止まったように二人で見つめあったまま動かなくなり、その数秒後。硝太が溜め込んだ息を吐くようにこれまでの推理を披露しはじめた。
「まず今回の事件には2つの勢力が関係している。インスタントバレットを使いこなす
「ストーカーの共犯者がcolorfulの誰かって言う可能性は?」
「今ん所ないね。組織同士が繋がっている、って言うのならともかく2つは別物だ」
colorful、空を飛んでいた七辻すいむが所属する組織で人避けをしていたとはいえ手足を使うようにインスタントバレットと言われる魔法を使用していたことから組織の中でインスタントバレットが武器として使われていると考えられる。彼らはストーカーとその共犯者、チームX(仮)とは別物。硝太がそう明言した時点でそれを確信するだけの証拠があると分かる。
「理由は?」
「colorful側にフリルを襲う動機が無い。あくまでストーカーが君を狙っていることを知ったcolorfulがそこに便乗したと考えるべきだ」
確かにストーカー本人は間違いなく
そこまで考えて、一つ疑問が生まれる。拳銃を使って硝太の左腕を撃った相手がどちらの勢力かは別としても硝太はゾンビのようなものに襲われていた、と今日言っていた。つまりそのゾンビのようなものを放ったのはcolorfulでないとおかしい。だが硝太は説明の時にゾンビのようなものを放ったのはストーカーの共犯者かその仲間と言っていた。これでは矛盾する。
「待って、じゃあ今日言ってたゾンビみたいなのはなんなの?」
「ストーカーの共犯者がインスタントバレットでそれ使って作られた、と考えるのが自然だろうね」
ゾンビみたいなものの出処がインスタントバレット=colorfulでは無いかと考えて聞いてみたが硝太はストーカーの共犯者もインスタントバレットでは無いかと言う。インスタントバレットと呼ばれる魔法がそうポンポンと出てくるとは思えないがあくまでその考えは状況から考えた予想でしかない。能力が目覚める条件も不明。しかしそれはストーカーの共犯者がインスタントバレットでは無いという証拠にはならない硝太がインスタントバレットであってもついこの間まではcolorfulに狙われていなかったインスタントバレットでもcolorfulと関係ない人がいてもおかしくない。
「それに、colorfulはあくまで僕の捕縛を第一に考えていた。ゾンビにしてもストーカーにしてもcolorfulのやり方じゃない」
そういえば七辻は硝太を監禁する、と言っていた。七辻の趣味とは思えないし、colorfulが組織として硝太を出来れば無傷で確保したいと考えていると分かる。そう考えるとストーカーに協力して間違えて殺されたら今回の計画が丸々潰れる。ゾンビも同じ。どちらにしろcolorful側は硝太を殺すより生かすメリットを取った。
となるとチームX(仮)は私を襲うと同時に硝太を殺そうとしていたことになる。最初から硝太を狙っていた、と考えるのはかなり強引だがそうとしか考えられない。
「──じゃあつまり、硝太を撃ったのは」
「十中八九チームX側だろうね。ストーカー本人ではないっぽいし共犯者だろう」
ストーカーが捕まったあとも銃が出てこないことからストーカー本人が硝太を撃った訳では無い。となると共犯者が硝太を撃ってその人が13年前アイさんの殺害に協力した犯人。
「あ──!」
そう考えた時、一つの可能性が頭の中からでてきた。硝太も気が付いていたようで重々しく首を縦に振る。
硝太が事件の事を調べようと思ったのは今回の事件と(彼に自覚は無いとはいえ)姉であるアイさんが亡くなった事件が深く関わっている、より詳しく言うのなら共犯者が同じ可能性が出てきたから。仮に本当に同一犯の場合、犯人は
「共犯者がアイさんの事件の関係者なら、硝太のことを最初から知っていた」
「そう。今回僕が撃たれたのは、偶然あの場にいたから。ストーカーが僕を狙っていた、って言う可能性と兄さんの言葉が無かったら僕も気が付かなかったよ。恐らく衝動的な犯行だったんだろうね」
犯人──この場合は共犯者。彼、もしくは彼女は最初は私が一人になるのを待つ予定だった。しかし運悪くその場に硝太がいた。アイさんの殺害時、邪魔をしたであろう硝太がいた。アイさんを直接殺した犯人が捕まってないのでその犯人から直接聞いたのだろう。硝太とアイさんの姉弟関係は知る人ぞ知る情報とはいえ、ネットにある以上誰が知っていてもおかしな話では無い。そんな硝太が私の目の前で話していたから、犯人はストーカーが失敗した時のサブの案だったのだろう拳銃で硝太を撃った。硝太が今回も邪魔になると考えて。結局、左腕損傷した硝太は邪魔になった訳だが。それを予測しろ、というのは衝動的な犯行だった場合余計に無理がある。
「実はね、僕記憶がある頃から身長が1cmも変わってないんだ。大体4歳頃かな?お母さんにも確認を取ってみるけど多分、間違いない」
硝太も考えたのだろうが──私の推理に硝太が補足をする。
小学生低学年にしか見えない見た目と事件のあった年から大体予想は出来たが硝太は
仮に知らなかった場合、犯人は私の隣にいる硝太を見て何を思ったのだろうか。
13年も前、アイと共に殺したと思ったはずの子供が自分が再び事件を起こそうと思った時に現れたら。しかもその子供は見た目があの日から全く変化していない。まるで自らの罪を自覚させる亡霊、否。死神のような存在。犯人の人柄がどんなものかは兎も角相当怖いだろう。恐怖のまま引き金を引いても、その後我に返って追撃に来なかったのも理解できる。
「これはあくまで僕の予想でしかないけど犯人は恐らく何らかの美学に則って人を殺しているのか、完璧主義のどちらかだと思う。ストーカーが君を殺すのに失敗した後回りくどい方法で僕を殺そうとしたのにも説明がつく」
殺しに美学を持っているのか、完璧主義者なのか分からないがそれを乱されたのなら硝太を殺そうとするのは硝太に相当な恨みを持っているから。間接的とはいえ芸能人二人を狙っているのだから単純な恨みの線は考えにくい。なので硝太の推理は合っていると思う。のだが、何かが喉奥につっかえた骨のように引っかかる。
「回りくどい…?犯人が硝太のことを警戒してるから手駒に殺させようとしたってことじゃないの?」
「あの時の僕生命維持装置壊せばそのまま死んでたんだよ?あの
確かに、事件後目覚めるまでの硝太は生きるか死ぬかの瀬戸際。色んな機械に繋がれて何とか命は生きながらえている、という状態だったろう。殺すのは簡単、しかしその割にはやることは回りくどい。ブレーカーでも落としたのか停電なんてしてもあれだけ大きな病院に予備電力があることなんて関係者でもない人でも分かる。それに多少の効果があるのならともかく話を聞いただけでは上手く効いているようには思えない。
「ルール…」
「うん。ただ
「まるで舞台の上…」
「舞台ね。なるほど、そうなると美学の線で良さそうだ。変態の相手はもう懲り懲りなんだけど」
硝太は過去に変態と言われる相手と戦ったことがあるのか呆れた様子でため息をつく。普通に考えるのなら犯罪に美学をもって一定のルールでやる犯人なんて無意識下の結果だとしても警察に捕まりやすくなり、対策も立てられやすい。何をやってくるのか分からない、と言う最大の強みを消し去っているのだから馬鹿か余程自信がある変態かと思うのも無理は無い。
しかし、本当にそうなのだろうか。ゾンビみたいなものはインスタントバレットと言う魔法で作られたのは確定情報として扱っていい。もしその魔法にある発動条件があるとすれば。どんな前提条件があるかは不明だが常識的にはありえない犯行に警察の捜査も難航するだろう。ゾンビのようなものと同じようにストーカーにも魔法をかけてなにかしていたとしたら、13年前のアイのストーカーが未だに捕まっていないのにも説明がつく。
そう考えると『舞台』というワードはかなり強いヒントのような気がする。
「今後は犯人の割り出しから行動の制限、可能なら──おっと」
硝太が何か言おうとした時、何処かから飛んで来た烏が硝太の左肩の上に着地した。野生の烏とは思えない光沢を持って毛並みもいい。人慣れしているようで硝太の肩に乗ってリラックスしている。飼われているのだろうか。足が三本あるように見えるのは見間違いだろう。
「お疲れ様」
硝太は突然肩に乗ってきた三本足の烏の頭を撫でるといつの間にポケットに入れていたポップコーンをカラスに食べさせる。硝太の様子から飼い犬ならぬ飼い烏のように見える。烏は頭が良く人に懐くこともあると聞いたことはあるが飼い主より人慣れしてる烏は流石に初めて見た。
「飼ってるの?」
「預かってるんだよ。名前をつけようと思ったんだけど嫌がられてばっかりでね」
「ふぅん」
ルビーと共にいる時は甘えん坊で小型犬のようだった硝太が烏とはいえ飼う立場になるとは意外だった。ルビーも把握していないのを見ると硝太は姉相手にも隠し事を良くするようだ。もしかしたら黒川あかねの事件後の暴走のようなことはルビー達からすればよくあることなのかもしれない。動物飼育なんて隠れてやれることでは無いが、預かってるという言い方からして誰かしら知り合いから受け取った個体なのだろう。硝太がペットを受け取ってもいいと思われるような飼い主がいるかと考えるとこの子も魔法使い、インスタントバレット関係の個体なのだろう。
名前は嫌がるし足は一本多いしこの烏は飼い主に似て不思議な個体──なんだろうがその一言で片付けられるようなものではない。間違いなくインスタントバレットに関係している。魔法使いに飼育されている、と考えるのが自然なのかもしれないが今となってはこの烏自身がインスタントバレットを持っていたとしてもなんなら急に喋っても驚かないと思う。肩に乗って最初に「お疲れ様」と声をかけたのもこの烏が何かをしていたからとしか思えない。
普通はその事について聞くべきなのだろうが先に硝太のつけたであろう名前が気になる。
「なんて名付けたの?」
「ブラックカラス号、黒曜石、ダークグロックスピネル、漆黒の翼、ポチ。後は…」
「センス無いね」
「なん…だと…」
──壊滅的だった。
烏が嫌がったのはそう見えるとかいう次元ではなく純粋に嫌がっているとしか思えない。最後のポチに至っては烏ではなく犬につける名前である。
変な名前をつけようとするくせちゃんと頭を撫でたり餌を与えたりして育てようとしているのを見るとただ絶望的にネーミングセンスが無いだけと分かる。「センスない」と言うと目を丸くして震えた声で返答するので本人には自覚がないタイプのようだ。長年ポ○モンをやってきていたと思ったが名前をつける機会が多いからとは言ってセンスは磨かれるものでは無いらしい。思い出してみると硝太はともかく、ルビーもアクアさんの名前も芸名ではな本名。子供にキラキラネームをつける親の元で育ったと考えると嫌に納得ができてしまう。妊娠期間等から考えて硝太の親と双子の親は別なのだろうが変なところで繋がりを感じる。
「3年ポ○モンをやってきた僕が、ネーミングセンスが無い、の?」
──意外と短かった。
あの手のゲームは小さい子から大人まで続けてやっている、と思っていたのだが硝太はあまり長く続けていないらしい。
「もっとシンプルな名前にしようよ」
「…じゃあヘルメス」
「カァ」
これまでの絶望的にセンスのない名前から意外とマトモな名前が出てきて溜めていた息を吐く。烏も及第点というように小さな声で鳴く。
ヘルメス、というのはギリシャ神話のゼウスの伝令係が元ネタだろう。トリックスター、嘘つきとして有名な神なので名前に使うかと聞かれたらまず候補から外すはずだがあの絶望的なネーミングを一生名乗らせるのと比べたら神様にあやかった名前なだけマトモな気がする。
「さて、と。ヘルメスはこのままフリルの見送りを頼む。何かあったら直ぐに報告するように。僕は調べ物を続けるよ」
「待って」
烏──もといヘルメスの名付けが終わり、硝太はヘルメスを私の近くに放つ。どうやら硝太はヘルメスを伝書鳩のように使うらしい。伝書鳩に烏と言うと日本神話の八咫烏が思い当たるがもしかしたらオカルトはオカルトでも神話方面のオカルト能力を持つインスタントバレットがいるかもしれない。
──あれ?なんかおかしい。
そう考えた時、何かが頭の中で引っかかった。しかしその答えは自分でも纏まらない、煙のように掴みどころのないものですぐに消えていってしまう。
「どうしたの?」
「いや…なんでもない。気をつけてね」
「うん。ありがとう。君も気をつけて。また遊ぼ」
最後にそう言い残すと硝太は地面を蹴るように踏みしめて一気にジャンプをする。まるでアクション漫画の主人公のように目に止まらぬスピードで走る、というより飛んでいく硝太を見届ける。
「神話…物語…魔法使い…何か感じるけど…」
頭の中がモヤモヤしながら私たちの継ぎ接ぎだらけのパッチワークのような最初のお出かけは終わりを告げた。
この数日後、硝太は無事病院から退院する事になる。
や っ と 退 院。
いつまで病院にいるんやこの末っ子、と思われた人も多いでしょうがやっと退院です。ちなみに左腕は未だに治ってません。まだしばらくこの展開は続くんだ…すまない…
そして六話に渡ったパッチワークも今日で終わりです。最初は前編後編にわけられないから数字で区切ろうと思って作ったんですけど予想以上に長くなってしまいました。だからテンポ悪いって言われるんだよなぁ。まぁやりたいことは出来たしいっか!
因みにカラスの名前はヘルメス君となりました。プロットだと烏(もしくは八咫烏)で統一していたカラスですが物語の都合上こいつだけ異様に出番があるのでその場テンションで名前をつけました。流石にブラックカラス号はダサ+長すぎる+パロネタなので止めました。硝太、お前のネーミングセンス姉と大差ないからな
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