【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
不知火フリルと出掛けていた硝太。帰る直前フリルと事件のことについて情報交換を行う。
未だに推理、想像の範疇でしかないが硝太を撃った犯人はアイを殺した犯人の仲間と推理した。仮称チームXと名付けられた犯罪集団の中でも犯罪を主導している犯人は何らかの美学か法則に習って殺しをしていると推理。しかしフリルは何か引っかかるようで……


#67 帰宅

 都内某所にあるカフェ。

 そこにはファン向けの彼氏彼女のアリバイ、という名目でデートに来ているアクアとあかねの姿があった。二人で並んで写真を撮り、SNSに上げる。ほんの二、三ヶ月前は炎上して自殺未遂までしていたとは思えない程悪感情なくSNSを使いこなすあかね。アクアは(前世で触れてこなかったのもあり、)SNS等は詳しくないのであかねのSNSの話とやりとりを軽く流す。

 

「そういえば例の件、もうそっちには話行った?」

「例の件…『東京ブレイド』か?」

 

 アリバイを作り終え、写真を撮るために買ったパフェを食べ終えると二人は役者同士、仕事の話を始める。

 話は東京ブレイドという漫画の舞台化について。原作は累計5000万部を突破し、アニメ映画も相当売れたと聞いている超有名作品。アクアは話が来るまで読んでいなかったが、ルビーとサブカルチャーは基本的に触れない、触れたとしても狭く深いタイプの硝太が読んでいて、好きなマンガということで名前はよく知っていた。

 

「そうそう。お世話になっている『劇団ララライ』が中心になってるから私にも声がかかってるんだ。私は『鞘姫(さやひめ)』役のオファー来たんだけどアクア君は『刀鬼(とうき)』役でしょ?」

 

 『劇団ララライ』、というワードが聞こえた時アクアは思わず眉を細める。

 鏑木から聞いた、「アイは劇団ララライのワークショップに通うようになってから身なりも気を使ったように見えた」という話が引っかかる。鏑木の発言から考えるとアイを孕ませた相手、つまり自身とルビーの父親は劇団ララライにいた可能性が高い。当然10年以上前のことなのでもう離れている可能性もあるが手がかりぐらいは残されているはず。いつか調べ始める予定だったので今回の舞台化の話はアクアにとって思いがけない幸運である。

 

「ああ。恋人役の二人だろ?」

「キャスティングした人は絶対狙ってるよねー」

 

 目の前のアクアがそんなことを考えているとは考えもしないあかねは刀鬼と鞘姫()の関係をアクアとあかね(役者)の関係に当てはめて笑う。アクアとあかねの場合は仕事としてカップルをやっているが、役としても恋人役をする事になる。

 

「刀鬼は原作でもカップリング要素強くて、相棒キャラとどっちが結ばれるか、って盛り上がってるよ」

「刀鬼の相棒キャラ…『つるぎ』か」

 

 アクアはまだちゃんと読んだことがある訳では無いが、硝太とルビーの会話から東京ブレイドの大まなか情報は流れてくる。

 『つるぎ』というキャラは最初は物語の主人公ブレイドの最初の仲間、家臣として登場して刀鬼とも何度も戦っていたが刀鬼が味方になると刀鬼の相棒枠としての出番が増えて出番が少なくなった鞘姫に変わって刀鬼とまとめられることも増えた──と、硝太が口を尖らせて言っていた。硝太は『鞘姫』が好きなキャラ、というより刀鬼と鞘姫の関係性が好きだと思う。恋人、許嫁というカップリング要素を除けば刀鬼と鞘姫の関係は硝太とミヤコさんに近い。そういう意味で硝太に今回の舞台の話をしたら相当喜ぶだろうことが察せられる。

 

「『つるぎ』役は誰か知ってるのか?」

「ううん。けどもう話は回ってるんじゃないかな」

 

 『つるぎ』は主人公の最初の仲間ということもあり序盤は出番がかなり多い。刀鬼や鞘姫と同じくキャスティングが大事なキャラクターと言える。アクアやあかねには伝わってなくても役者本人は既に話が回っていると考えてもいい。

 

「『つるぎ』役は私よ」

 

 そんな二人の背後から声をかけたのは有馬。スマホ画面にあかねが先ほどしたこの店の写真が写った投稿を出しながら「リアルタイムの投稿は気をつけなさい」と自殺未遂をしたあかねに忠告する。

 リアルタイムの投稿とは言ってもいまさっきしたばかりの投稿を見てこの店に来るというのは有馬も暇なのか、とアクアは本人にバレたらギャーギャー騒ぎ出しそうなことを内心で考える。

 

「アクア、ルビーから伝言。今日硝太が退院だから晩飯の時間には帰ってきなさいって。ちゃんとLI○Eを確認しなさい」

 

 有馬に言われて自分のLI○Eを確認すると車の中で寝ている硝太の写真と共に有馬が言ったことと全く同じメッセージがルビーから送られていた。どうやらデート中でLI○Eの着信に気付かなかったようだ。

 

「あいつ…」

「硝太くん退院したんだ」

 

 病院生活に疲れ果てたのだろう、車の中でぐっすり寝ている写真を見ながらアクアは口元を緩める。

 

「ああ。腕の傷は異様に治りが遅いと言ってたけど腹の傷は縫合されてて今のところは問題ないってさ。硝太のやつ家に居ないと寝れないから退院の予定を早めたって」

 

 医者は出来るだけ長期間の入院を考えていたそうだが病院にいながら疲れている硝太を見て退院を決めたらしい。しばらくは通院が必要になるだろうが新学期の学校にも普通に行けるそうだ。

 

「アンタやっぱり硝太の見舞い行かなかったのね」

 

 硝太の退院に一安心している二人を冷めた目で見る有馬。その視線には明らかに侮蔑の感情が混ざっている。その視線に耐えきれずあかねは黙ったまま目を背ける。

 

「ま、気持ちはわかるけど」

 

 言い返さないあかねの気持ちを汲んだのか、もしくは有馬から見ても今の状況で硝太の見舞いにいくことが出来ないと思ったのか。恐らく後者だろう、と二人を見比べながらアクアは考える。

 ただでさえ事件に巻き込まれて生きるか死ぬか分からない状況だったのに硝太の感情は少し重すぎる。それでも硝太に自覚症状があれば何とかなったのだろうが自覚がない、自分で気付けないのなら、彼は何気なくその感情をあかねにぶつけるだろう。恋愛感情抜きにしても彼からすれば黒川あかねは『家族』で『優しい被害者』なのだから。自制のできない感情の攻撃に遠慮すれば「なんで?」と聞いてくるだろうし無下にできない。言葉を喋るがこちらの言葉は理解出来ない赤子を相手にしているようなもので一言で言えば厄介極まりない。

 

「あいつに会う度に『あかね義姉ちゃんは大丈夫?』なんて聞かれたら私も嫌になるのよ。さっさと決着つけなさい」

「硝太に優しいんだな」

 

 面倒そうに言いながらもその面倒な硝太の相手をしている有馬。有馬が硝太の見舞いに行っているという話も初めて聞いたアクアだが、一度ならともかく硝太の発言が嫌になるほど見舞いに行ったという言葉に驚く。今の硝太はB小町のマネージャー業もお休み。ルビーとミヤコさんは毎日のように病院に行って硝太の顔を見ているが、有馬はそう何度も通うほど面倒見がいいとは思わなかった。家族ならともかく有馬からすればただの後輩で他人なのだから余計に有馬が硝太を特別扱いしているように見える。

 そんなアクアの言葉に有馬は何について聞かれているのかわかっていないようで首を傾げる。

 

「当然でしょ?弟だもの」

 

 心の底から当然だと言っているように、むしろそれについて聞いてくるのが不思議そうに有馬は爆弾を投下した。

 

◇◇◇

 

 久しぶりに余計な気配のない澄んだ空気。少し前まで狭い、立つことすらできないほど狭い鉄の檻に閉じ込められていたような気がする。

 

「───た」

 

 赤子をあやすように揺らされ、全身の力はすっと抜ける。凝り固まった関節が合皮に沈む。まるで身体が液体になったように蕩ける感覚に襲われる。

 

「───うた」

 

 少なくとも今は何にも抗う必要は無い。感覚のある右手の掌に込められた熱がそう証明してくれる。

 

「硝太!」

「はっ──んがっ!」

 

 耳に入ってきた大声に理性より先に本能が反応して飛び起きる。その勢いのまま目の前に出てきた黒い塊に頭をぶつける。急な打撃に意識が持っていかれるが生まれつき痛みには強いので即座に置いていかれた意識を持ち直す。

 目の前には車のヘッドレスト。どうやら自分はこれに頭をぶつけたらしい。決して固いものでは無いが速度が早ければ必然的にダメージも増える。頭の傷が開いてなければいいな、と思いながら仄かな熱を感じる右手に視線を向ける。

 

「うわー痛そぉ…」

 

 そこには当然の動きに対応しきれていないのか口をポカンとあけているルビー。名前を呼んできたのはルビーとみて間違いない。そんなルビーの顔を見て先程までの出来事を思い出す。

 夏休みも最終週。ロクに眠ることも出来ない三週間が遂に医者が退院を言い渡して終わりを告げた。本当なら左腕はともかく、腹を貫かれても元気に生きているような子供は長期入院させたかったらしいが母が交渉した結果、この時期に退院が決定した。

 皆が寝静まるはずの夜中も警戒心が抜けるわけでもなく、寝転がり瞼を閉じても寝られなかった三週間。ルビーや母が見に来てくれた時にほんの少しだけ仮眠をとることはできたがそれも長くて十数分程度。みんなの仕事の邪魔をしたくなかったので実質不眠の三週間だったと言っていい。そんな地獄の病院生活が終わり自宅に帰るための車の中でぐっすり寝てしまった。

 

「大丈夫?」

「平気平気」

 

 心配してくれるルビーに軽く返しながら車を降りる。自宅の鍵を開けている母についていき、その三歩後ろに待機する。玄関が開き、中に入ろうとした直前懐に入れていたスマホから着信音が鳴る。着信主の名前を確認すると家に入る前に電話をとる。。久しぶりの自宅に心を休ませたいがそれより先にこの電話の相手を済ませたい。というよりこの電話の内容を家族に聞かせたくないという思いで少しだけ離れる。

 

「もしもし」

「もしもし、よくもウチのタレントを企業内スパイにしようとしたな」

「元気そうだなおっさん」

 

 電話越しに聞こえてくる怒気をはらんだ声に一周まわって安心する。

 電話の相手はフリルのマネージャー、確か氷室と名乗った初老の男性。フリルを子供時代から見ていることと、フリルが彼の事を言う時に気安そうにしていたことから関係はかなり長いことが推察される。入院した時にたまたま会った時の反応からしてこの男がフリルを狙ったストーカーの味方の可能性は無い。そういう意味では次の手があるかもしれないストーカーの共犯者の見張り役として十分な人物。

 

「巫山戯るな。フリルから貰ったがこのUSBはなんだ。しかもあいつストーカーの味方がウチの事務所にいるって」

「ああ、間違いない。被害者のフリルに腹芸はさせたくないしアンタを使って犯人を釣り出したい」

 

 USB、この前出掛けた時にフリルに渡したもので先程まで入院していた病院で最近亡くなった人、一日以上入院した人をリスト化したものだ。フリルは言われたように氷室に渡してフリルの事務所内にいるであろう間者についても話をしたらしい。特に間者の場合情報が抜かれやすいデメリットはあるものの、現在出ている情報はフリルの事務所が止めているものを除けば警察が欠片も信用していない情報。上手く口止めをすればリスクを無視できるほどのリターンを出せる。少なくとも、ルビー達に影響を出すのならそれより前に対処しなくてはならない都合上、そう足踏みはしてられない。フリルをすぐに安心させる為にも使えるものはなんでも使う。

 

「お前、それは俺に死んでいいって言ってんのか?」

「まぁ、別に」

「殺すぞクソガキ」

 

 仮にも犯罪者の痕跡を辿るのが役目なので当然氷室は危険な立場になる。自分にとって氷室は別に守りたい人でもなんでもないので仮に死んでしまってもいいのだがそれを素直に言うと氷室は鋭くツッコミをしてくる。もしかしたら有馬先輩と同族なのかもしれない。有馬先輩から可愛げと演技力と人当たりの良さを吸い取って老けを追加したら恐らくこの男になると思う、と考えるのは有馬先輩が可哀想になるのでやめておく。

 なんにしても危険な立場であろうとフリルの為にこの男に命を使わせる。自社の人間、それも稼ぎ頭の為なら死ぬことなんて惜しくないはずだ。それがマネージャーというものだと思っている。

 

「とりあえずこれ調べてどうすんだ」

「フリルから聞いているとは思うけど中身は病院で最近出た死者と入院患者だ。そっちの関係者と名前が被ってる奴、身内っぽいやつ、聞いたな事ある名前がいたらピックアップするだけでいい。ある程度対策されてるとは思うけど、一応病院の機密情報だから気を抜いてるかもしれない」

 

 電話越しでもあからさまに呆れている雰囲気を出す氷室にUSBの情報について話す。あくまでこれで調べられるのは動く死体(リビングデット)との因果関係でしかなく、それも証拠としての力は無い。これを証拠として突きつけるのはさすがに無理がある。それ故犯人側も気を抜くであろうポイントだと思っている。

 

「…なんでお前はその機密情報をそんな簡単に引っ張ってんだ」

「知らないのか?夜の病院は暇なんだ。見回りの看護師は結構サボりが多いぞ。具体的に言うと天井に張り付いていればバレない」

「寝ろやクソガキ」

「アンタが敵の城の中で寝られる強い心臓持ちで助かった。どうかこのまま殲滅までやってくれ」

 

 どうやら氷室は相当心臓が強いらしい。考えてみれば競争の強い芸能界でマネージャーとはいえ長年戦い続けているのだから精神力の強さなら僕とは比べるまでもない。これなら生死を分けるような作戦も振ってよさそうだ。

 電話を切って自宅の玄関を開ける。三週間ぶりの自宅の気配に安心感を感じる。敵のいない安全な空間。三週間前に見たのと全く変わらない玄関には先に入っていたルビーと母の二人が立っている。

 

 三週間前、『世界の端っこ』にフリルを救わせるために考えた自爆作戦がちゃんと機能していれば自分は二度とこの家の敷居を跨げなかった。そう。自分は本来なら死んでいたはずの男。生きていてはいけない、と罵倒されて然るべきで今でもここにいていいのかと思うことはある。

 

──それでも。

 

「おかえり、硝太」

 

 何よりも守りたいと願った家族が五体満足で帰りを待ってくれることは素直に嬉しい。生きていてよかった、なんて死んだ人間に聞かれたらグーで殴られそうなことを平気で考えてしまう。

 ルビーと母の安心した顔。帰ってきた事を察して姿を見せるMEMちょと覆面を外す気のないぴえヨン。

 

──ごめんアイリ、アイさん。僕もうちょっと生きることにするよ。

 

 すでに亡くなった二人にした母の為に生きるという誓い。それを崩す気は欠片もない。仮に二人が呪ってきたら成仏させてでも母の為に、この家に帰ってくる。

 

「うん。ただいま」




───と、言うわけでストーカー事件、並びに病院編完結です。この後はJIFと舞台編の間のB小町の活動、東京ブレイド(の原作者とのお話)をオリジナル要素絡めつつ数話さらっとやってプライベート編へと行きたいと思ってます。どこかの後書きで書いたように舞台の内容は完全スキップの予定です。硝太やる事ないし…やる事やっても原作コピーでしかないし…

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まだ範囲的に二期入ってないのにもう67話ってマジ?原作沿いでこれかよ…三期範囲行く前に100話とか行くんじゃね?と思いますがゆっくり楽しんでください

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