──今ガチ組のノブとケンゴという硝太貴重な同性友人枠に出番が欲しかった…そんな話
二学期が始まってすぐ、夏休みは終わっても夏の気配が残っている季節。東京某所。
「あーいたいた!硝太!」
謎のオブジェを目印に二人の男が硝太の方向に手を振る。『今ガチ』でアクアと共演した熊野ノブユキと森本ケンゴ。B小町の初ライブ、JIF前の追い込みでそれぞれダンスと歌の指導を行った、という意味では別の事務所の人間でありながら苺プロと深く関係する2人だがそれ以前に硝太にとっては唯一の同性の友人である。
人見知りと人嫌いを併発している硝太にとってクラスの人間はもちろん、学校でも会話が成り立つ相手は少ない。何を言われても無視を決め続けるか一昔前のアバター系主人公のように頷く等小さな反応を見せるだけ。それほど警戒している硝太が気兼ねなく接することが出来る相手と言うだけあり、前述の通りB小町の指導者として事務所の枠を超えて
「ごめん、遅くなった」
「さっさと行こうぜー」
「ゲーセンでも行くか?」
今日集まったのは何か大切な用事がある、という訳ではなく単純に三人で遊ぼうとしているだけ。三人とも学校帰りの制服姿で集まってるが運がいいのか悪いのか周囲の人にはバレてはいないようだ。今の二人には芸能人のオーラのようなものはなく、ごく普通の高校生にしか見えない。小学生低学年の見た目をしておきながら高校の制服を着ており、左腕にギプスと三角巾をつけている、サングラスにつばの大きな帽子等誰か分かりづらい格好をしている硝太の方がまだ目立つ。
年頃の少年達らしく三人並んでロクに予定も決めずにダラダラと遊ぼうと歩き始める。硝太はもちろん普段は高校生として青春を楽しんでいる二人すら芸能人としての仕事の傍らこういった時間はそう簡単には取れない貴重な時間。特にケンゴは受験生でもあり、そんなに自由な時間は無い。ダラダラとはしているが楽しみなのが隠しきれず浮き足立っている。
「あれ、ゆきじゃない?」
「え?何処?」
突然硝太が立ち止まりどこかを指差す。
世間には知られていないが彼女の名前を出されてノブユキが硝太に目線をあわせるため屈んで硝太の指先の方向を見る。が、そこには大きな商業施設があるだけで中に誰かがいるなんて分からない。ここから商業施設まででも大きな交差点を挟んでいて距離があり大きな窓こそあるがそこに誰かがいるかなんて普通の人には見えるわけが無い。
「ほら、あそこの二人組の女の人の方!」
「どっちもクソも見えないって」
「あー確かに誰かいるな…2人組?」
遠すぎて見えないと気付いたケンゴは直ぐにスマホのカメラを向けて最大まで引き伸ばしてノブユキに見せる。引き伸ばしてやっと、黒髪の女性が見える程度。写真を撮って確認してみるが、髪の長さや体格はゆきに近いが個人を特定するまでには至らない。だかその黒髪の女性の目の前には少し大柄な男が座っている。引き伸ばされたせいでボヤけた画像ではシルエットぐらいしか分からずゆきと思われる女性より得られる情報は少ない。
「知り合い?」
「知り合いかどうかすらわかんねぇ…」
流石にノブユキもゆきの彼氏とはいえゆきの知り合いを全員知っている訳では無い。大柄な男性なんてテレビ業界に絞っても吐き捨てるほどいて彼女の身内の可能性を考えたらあらゆることが考えられる。男から硝太が見つけた女性がゆきか否かを判別するのは不可能だ。
その間も硝太は施設の方を睨み、二人の様子を確認する。
「大体年齢は40…いや30代ぐらい。親子っぽくもないし事務所の人間かな?」
「お前の視力どうなってんだ」
二人の様子を見計らって男を注意深く確認した硝太が報告をする。サングラス越しでありながらスマホのカメラの最大倍率より明らかに鮮明に確認できるおかしな視力に冷静なケンゴが突っ込みを入れる。
硝太も純粋な視力で見えているのか、と聞かれるとそうでは無いのだが今それを言うほど硝太もわからず屋では無い。
それはさておき挙げられた情報を全て真実と仮定すると怪しすぎる。これが中の女性はゆきでは無いただのそっくりさんならどうでもいい話だが本当にゆきだとするなら彼氏としてノブユキは放ってはおけない。せめて、謎の男が誰なのかが知りたい。
「確認して来ようか?」
「おーいいな。折角だし中入ってみようぜ」
予定という予定は無かったのもあり、三人とも乗り気で商業施設の方へと向かう。商業施設の中身はカフェやら呉服屋やら多く集まっており、遊んだり時間を潰すだけなら困らないだろう。
ゆきと思われる女性がいるのは中にある飲食店。学生が学校帰りに通うのもそこまで不自然では無い。ただ学生とは思えない年齢の大柄の男が共にいるのは不自然だが。
「もしゆきならどうする?」
「…」
階段を上ってその飲食店まで行く最中、ケンゴがノブユキに聞く。いくら彼氏とはいえノブユキにゆきの交友関係を支配する権利は無い。ただの友達だ、というのなら納得するしかないだろう。だが友達だと言うには性別も違えば年齢差もありすぎる。『今ガチ』内ですらファンのことを考えてくっつくのを避けていたゆきが男と二人っきりでいるなんて今更そんなことをするとは考えられない。
最悪の可能性を考えて二人同時に硝太の方を振り向く。もしもの時、純粋かつ左腕が使えない状態でも二人より圧倒的に戦闘能力のある硝太をどうするかは二人の課題である。
そんなことを考えている間にその飲食店の前まで辿り着く。飲食店は少し高級感のあるファミレス。芸能人として稼いでいるゆき達なら気軽に入れても稼ぐ手段がバイトぐらいしかない普通の学生はよほど入らないだろう。店の外から先程と同じ場所を見ると確かに一人の女子高生と大柄な男性が二人で座って食事をしている。相手が男っぽく見えるだけで女だった、という可能性はこの時点で潰えた。
「ゆきじゃん」
「ゆきだな」
「…」
流石にここまで近づけば店の外からでも分かる。女子高生の正体はモデルの鷲見ゆきだ。ファンの目線を気にしているのか多少変装しているのが知り合いからしたら一周まわって目につく。
「いやまさか…有り得ないとは思うけど…」
「ん?」
女子高生はゆきであり、共に食事をしてる相手は男。この事実にケンゴは絶妙な顔で硝太とノブユキの顔色を確認する。硝太は振り向かれてる理由を理解していないのかただ首を傾げるだけだがノブユキは徐々に顔色が青くなる。彼氏として異性と二人っきりでいて欲しくないのは当然としてその上で共にいるのが明らかに年上の男性でいる場所が少し高そうな店なのが嫌な想像を加速させる。ゆきの芸能人、芸能界にはこういうことが当然のように罷り通る。これも運命なのか、と最低で最悪な思考が脳内を走り続けて止まらない。
「あっ出てくる」
「隠れるぞ!」
そうして覗いていると飲食店の中にいた二人が食事を終え、男が精算しながら店員と何やら話している。何かを感じとったケンゴがノブユキと硝太の首根っこを掴んで近くの店の商品棚の陰に隠れる。
それとほぼ同時に出てくる男とゆき。二人とも隠れてみている三人の存在には気づいておらず普通に話した後別の店の方へと足を向ける。傍から見たらただのデートにしか見えない。
「へー面白。つけよ」
顔色が悪くなるノブユキとは対象的に硝太は背中を見せた二人の方を指さし楽しそうにストーキングを提案する。本人はステルスゲームをしている気分なんだろうが、事態はそう簡単では無い。
これがもし、浮気なら──世間からすればノブユキはゆきに振られた男。2人が付き合ってるなんて『今ガチ』の出演者と1部制作陣、そして硝太ぐらいしか知らない。そのため世間的にゆきはフリーなわけで、誰かと付き合おうがそれを責められる人間はいないと考えるだろう。ファンが凶暴化することはあってもノブユキかどうなるか、と考えることは無い。
「ちょっとAmaz〇nでギリースーツ買っとくね」
「なんでAmaz〇nなんだよ。そもそもこんな町のど真ん中でギリースーツ着る奴がいるか」
いつもの共感性は何処へやらノブユキの考えなど微塵も理解していない硝太はスマホで何故かギリースーツを買おうとしてケンゴに止められる。ネット通販で買おうとするのも、ビルだらけの街中でギリースーツを買おうとするのも訳が分からない。ケンゴは暴走列車《硝太》と
「…行くぞ」
その間もゆきと謎の男から目を離していないノブユキが二人の後を追う。他の一般人に紛れるよう、付かず離れずの位置を歩く。その姿はまるで本当のストーカーにしか見えない。
その後ろに硝太とケンゴも続く。
「ノブ結構本格派なんだね」
「色々あんだよ…」
少し前にフリルのストーカーに壊された左腕を摩りながらもズレた発言をする硝太。面白半分で自分が提案したとはいえ友人の行動があの時のストーカーと重なるのは流石に良い気分はしない。それはそれとしてゆきの後ろをつける足音は完全に消え、気配も隠されている。
後ろをつけているとゆきと男はブランド物の婦人服のショップに入っていく。ノブユキ達は流石に男三人で婦人服の店に入る訳にも行かず向かいの書店へと入っていく。書店で立ち読みしている風を装いながら棚越しに様子を確認する男三人。硝太だけは背が低いのでぴょんぴょんジャンプしているが、元から気配が薄いのもあり、妙に思う人すらいない。
ゆきと男はつけられて、向かいの店から見られているとはいざ知らず服を見ながら何やら会話をしている。心做しか食事している時より互いに楽しそうに見える。食事より会話が進み、時間をかけながら中の服を見ている。
「あの二人、どんな関係なんだろう」
「友達…にしては年の差デカイよな」
「仕事仲間…とかならいいんだけど」
それなりに長い時間服を見ているゆきと男を見張る三人は二人の関係を推理し始める。浮気を疑うノブユキだが、心の底ではゆきが進んでそんなことをするはずがないとわかっているので余計に男の存在が気がかりになる。
友達と言うには年の差がありすぎて、親子と言うには2人共似てなく、年齢差が低く見える。
「あ、もう出るみたいだよ」
しばらく服を見ていた二人だが、何も買わずに服屋から出て商業施設の出口へと向かう。服を見るだけ見て終わり、なのだろうか。共に歩く二人は男女の交際と考えるには少し距離があるが他人として見るには距離が近すぎる。
「買い物はこれで終わり、ってとこかな。どうするノブ?やる?」
「待て硝太。何やるのかわからんけど落ち着け」
二人の背中を見ながら三角巾に右腕を突っ込む硝太を押さえるケンゴ。右目が青く輝きだして表情から笑顔が消えた。先程まで気楽だったのが嘘のような変化にノブユキすらも硝太を二度見する。
「けどアイツ何者かわかんないし」
「それを探るためにつけてるんだろ。──って、もうゆき達どこ行った!」
「ほんとだ、いない」
ケンゴとノブユキが目を離している間にゆきと男はもう建物の外に出たのか姿が消えている。
商業施設の出口方向に向かっていた、と思い出して外を見ると外には人混みが出来ている。何かあった訳でもない、東京なら珍しくもない人混みだが今の状況で出来上がるのは最悪の部類に入る。木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中。このまま行かせたら本当に見失いかねない。
「まずい!アイツ、ゆきに手を回そうとしている!ケンゴ、硝太!急ぐぞ!」
「ああ!」
商業施設の外に出たのなら人混みに紛れたのは間違いない。このまま距離を離されるより先に人混みの中に突っ込んででも見つけなければならない。そう思って商業施設から出ようとする三人。
──その後ろから、声がかかった。
「ど・こ・に・行・く・の?」
聞き逃すはずのない声に三人の動きが同時に止まる。振り返らなくてもその声の主は3人がよく知っている人物だからだ。非常に楽しそうに、しかし内側に怒気を含んだ声。
三人が止まったのを見て足音を立てながら接近してくる声の主。何故かここにいるのか、何故怒っているのか。三人共理解出来ないがこの状況がどれだけ不味いかはすぐに理解した。
──背後にゆきがいる。
怒っていることから見てもつけていたのがバレたのは言うまでもない。
「──ソ、そういえバ。ボク今日ヨウじがアッたんだよなー。ボク帰ル、ね」
「待て」
「待てや」
硝太は友人達を見捨てて逃走を選択。初対面の人が見てもバレバレの大嘘をつきながら逃げようとするがしかしそれよりも早くノブユキとケンゴに両肩を掴まれる。
「二人とも…俺を置いて先に行けぐらい言わないのか」
「お前も道連れだ!」
力で振り切るのは簡単だが二人に必死に引き止められ動けなくなってしまう。それを見ていたゆきはノブユキの背後に立つ。
「ちょっと来て」
男三人が慌ててる後ろからぴしゃりとその流れを断ち切ったゆきの一言に再び三人の動きが止まる。決して大きな声を出したりした訳では無いが威圧感が段違い。
これまでこういう面を見てこなかったのもあり、硝太でさえも困惑で行動が取れない。
「…はい」
◇◇◇
「で、見ていたって訳?」
「…ハイ、ソウデス」
近くにある人気のないカフェに連れ出された男三人。机の向かい側にはゆきが座っておりことの次第を聞き終わると呆れたようでため息をつく。見られていたのが恥ずかしかったのか頬は若干赤くなっている。
罪悪感と始めてみるゆきの怒りにタジタジになる男三人。目の前には店員に出された水が置いてあるが誰一人手を出していない。
「ゆき。今回の件は悪かったと思っている。だけどノブ達の行動が間違っていた訳じゃない。あの男が誰かわからない以上誰かしらがゆきの護衛につく必要があったんだ」
「そんな危険な人と昼間から二人っきりで歩くわけないじゃん」
「それは…そうなんですが…」
緊張で張り詰めた空気感を嫌がった硝太が弁明をするが、ゆきに速攻で否定されただでさえ小さい身体が余計に縮こまる。
硝太の脳裏にはストーカーに追われていたフリルが浮かんでいたがストーカーがそんな分かりやい距離感でいる訳が無い。フリルの事件と今回とは場合が違う。
男三人が黙ったのを見てゆきは「流石にやりすぎたかな」と小声で呟くとネタバラシを始める。
「あの人雑誌のカメラマン。モデルになってから付き合いのある人だよ。今日はちょっと下見をしに来ただけ。そしたらノブ達が後ろにいるからカメラの人驚いて逃げ出しちゃったの」
「そっか、良かった」
「良くないけどね」
男は雑誌のカメラマン。今日は次の仕事の下見として服屋に訪れていただけのようだ。食事はあくまで予定より伸びたから近くの飲食店で小腹を満たしただけらしい。道理で食事より服を見ている時間の方が長かった訳だ、と納得する。
とにかくケンゴやノブユキが疑うような関係ではなく、硝太が警戒したような人間でもないことがわかり三人とも胸を撫で下ろす。
「まぁ、今回は二人っきりになったのは私も悪かったと思ってるから、これで許してあげる」
「いやーほんっと驚いた。小悪魔再び!って感じの考えてたわ」
ゆきが許してくれたので安心して緊張で乾いた喉を潤す男三人。ケンゴが『今ガチ』であったゆきの小悪魔っぷりを思い出す。『今ガチ』ではあかねの自殺未遂まではゆきをノブユキとケンゴが奪い合う、ゆきをめぐった三角関係になっていた。これはゆきが番組を動かしていた、と言っても過言では無い構成でその小悪魔っぷりが人気を博していた。秘密とはいえ彼氏がいながら男と二人でいるとその思い出が思い出されるのも無理は無い。
しかしゆきはそれを即刻否定する。
「そんな訳ないでしょ。私彼氏出来たのも初めてって言ったじゃん。ノブがいるのにそんなことするわけないって」
「ゆき…」
頬を赤らめながらノブユキの方をチラッと見るゆき。仕事モードの時に彼氏とはいえ見張られていたことには当然怒るがそれはそれとして彼氏に嫉妬されたのが少し嬉しかったらしい。
ノブユキも鳩が豆鉄砲に撃たれたような表情でゆきの顔を見る。見つめ合う二人の間に不思議な空気感が作られる。
「…硝太、これ俺達お邪魔じゃね?」
同じ席に座りながらその空気感から阻害されたケンゴは同じく独り身の硝太に耳打ちする。恋愛感情を理解出来なくても何となく理解した硝太は頷いてノブユキの肩を掴んで二人の間に1000円札を置く。
「そのようだね。ノブ、ここからはきみのステージだ。」
「お、おい待て!…早」
ノブユキが止めるより早く店から消える硝太とケンゴ。硝太の瞬足の足でケンゴを抱えて飛び出したのだろうが音も影も残さず初めからいなかったように消えてしまったので店員すら気付いていない。
手持ち無沙汰になったノブユキは机の1000円札を手に取る。まだ水しか出されていないがこれからカフェで食事なりすると考えると明らかに安すぎる金額ながらちゃんとお金を払うのは世間慣れしていない硝太らしい。
──因みに、硝太は
「──変に律儀な奴」
1000円札をペラペラと振っているノブユキはゆきと再び顔を見合わせると、二人とも動きが止まる。何を言おうか、ケンゴと硝太の二人の関係を知りながら共にいる友人が急に消えたことで話題も何も無い。
「──ふふっ」
「笑うなよ!」
「そういうノブも笑ってるじゃん」
そのまま固まっていること数秒間。沈黙に耐えきれなくなり二人はまた同時に笑い出した。
キャラ紹介
斉藤硝太
男三人の
普段は落ち着きはあるものの切れたナイフだがケンゴやアクアのような頭回るツッコミ担当がいると唐突にボケに走る。因みに素はボケの方。
森本ケンゴ
男三人のツッコミ担当。男三人の中では唯一ヒロイン不在だったりする。
ヤッテランネーゼ!
最年長ということもあり、基本的に二人を諌める不遇介護枠でもある。だけどバカやる時は全力でバカやる当たりチャント学生してる。
原作でルビーを可愛い子と言った方。ほっといたらあのままナンパしてたんじゃねぇか?
熊野ノブユキ
男三人のボケ担当。めちゃくちゃ陽キャな彼女持ち。あの硝太と数分とかけずにコミュニケーションが取れるコミュ強。コミュニケーション能力だと多分本作トップ。良い奴。
ダンサーという本作でどう生かすんだとなる職。多分もう男三人+αや今ガチ組で馬鹿やってるかゆきとイチャつくかしか出番がない。