【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
硝太怖い
アビ子先生登場


PS.予約投稿ミスった…ごめんなさい


#70 自由人(前編)

 時は遡ること新学期の空気が落ち着く前、暦は秋ながらまだ熱中症のニュースが出る季節。

 

「相手の人に迷惑をかけないこと、食い意地を張らないこと、感謝を忘れないこと、知らない人が来てもアクアの後ろに隠れないこと、いいわね?」

「うん、任せて」

 

 硝太とアクアと有馬の三人は場所へ来ていた。送迎をしていたミヤコは三人を下ろして、末っ子の硝太に最低限の言いつけをする。

 人馴れしていない硝太に不安感を覚えるミヤコだったが、これまでも『今日は甘口で』に加えて『今からガチ恋始めます』の打ち上げには(強引に)参加していたのでそれを理由に言いつけるのは厳しい。

 

「頼子ちゃんとは僕が一番仲良いし、何とかなるよ」

「不安しかないわよ」

 

 こうなったのは数日前、硝太に『今日は甘口で』の作者、吉祥寺頼子から『東京ブレイド』の鮫島アビ子先生と会う機会があるから来ないかと連絡が来たのが始まりになる。『東京ブレイド』のファンの硝太からすれば断る理由は無い。すぐ様『今日は甘口で』のドラマに出ていたという理由で同じく呼ばれたアクアと有馬と共に連絡してもらった場所に来た。

 

「あーいたいた」

 

 四人で話していると少し離れたところから先についていた吉祥寺が歩いてくる。

 

「お久しぶりです、吉祥寺先生」

「お久しぶりです」

「久しぶり、頼子ちゃん──ぐおっ!」

 

 目上の吉祥寺にすぐ様頭を下げる有馬とアクアに対して硝太は友達らしく手を上げてタメ口で挨拶する。直後、有馬に後ろから頭を抑えられて頭を下げさせられる。

 

「すみません先生。今日はよろしくお願いします」

「ああいえ、こちらこそ…」

 

 続いて車から降りたミヤコも頭を下げて来たので吉祥寺も気後れして頭を下げる。硝太が『今ガチ』を見て倒れた時やJIFの時など顔を合わせている数だけならそれなりに多い二人だがミヤコが子供を産んでいる所かその子供が高校生になった年齢の女性には見えないほど若々しい見た目ながらも社長らしい落ち着いた雰囲気を持っているのでどうしても対人経験で劣る吉祥寺は気後れしてしまう。

 

「私は先に失礼しますね。硝太、迷惑書けないようにね」

「はーい」

 

 硝太に最後一言だけ言うとミヤコは車を走らせて先に帰宅する。

 

「硝太くんとアクアさんのお母さんって本当に綺麗な人だね」

「でしょ!でしょ!さっすが頼子ちゃん!分かってる!」

 

 呆然としながらミヤコの美貌についてコメントをすると間髪入れずに硝太が乗っかってくる。マザコンの息子にとっては母親が褒められたとあれば自分が褒められた時より嬉しいようで頼子の右手を掴むとぴょんぴょん飛び上がる。

 

「はいそこー落ち着きなさーい」

「ぬーん」

 

 このまま放置すれば死ぬまで跳ねてそうなのめ有馬が硝太の両脇を抱えて吉祥寺から引き離す。同年代の女性より小さく見える有馬だが、硝太の小さい体を抱えているのを見ると少しだけ大きく見える。硝太も有馬には逆らえず親猫に首根っこ掴まれた子猫のように全身から力が抜けてだらんと両足を垂らす。

 

「今日は『東京ブレイド』のアビ子先生と会うと聞きましたが」

「そうそう。ああ、今日私が知り合い連れて行くとしか言ってないから気をつけてね」

「気をつけて…?」

 

 硝太から解放された吉祥寺が歩き出し残りの三人もその後に続く。有馬は抱えていた硝太が落ち着いたのを確認して解放する。未だに左腕が動かず三角巾をつけている硝太だが残りの右腕でバランスを取りながら着地をする。その後ろからアクアが今日呼ばれた件について確認を行う。元々硝太が『東京ブレイド』のファンだからという理由で機会を作った吉祥寺だが、硝太の為だけに機会を作った訳では無い。

 

 前回二人で飲んだ時にアビ子先生に硝太を会わせると言ったのも理由の一つ。吉祥寺から見て人慣れしていないながらも寂しそうにしている二人が会った時にどう言った化学反応が出るかという楽しみがある。

 それに加えて、もう1つ理由がある。

 

「アビ子先生、硝太くんみたいな感じだから」

「…なるほど」

 

 少し考えてから吉祥寺が有馬と硝太には聞こえないように小声で囁いた言葉でアクアは全てを理解した。

 アビ子先生は『東京ブレイド』が週刊誌なのもあって多忙な人だ。気軽に飲みに行ったり出来ない。特に今はアニメ映画やら舞台やらの監修もあり、労働基準法を無視するような無理をしているはずだ。そんなアビ子先生の元に行く理由。それは吉祥寺が彼女の担当をしている編集に泣きつかれからである。

 なんでも最近『東京ブレイド』の舞台化の話が来ているらしく舞台の脚本家の下ろしてきた脚本に不満を持ったらしく地獄のような修正指示を送ったそうだ。それだけなら舞台の脚本家も納得しただろう。その修正指示に従えばそれで終わりだ。しかし修正されたものを渡されてもまた地獄のような修正を出してきて全く話が前に進まない。だからアビ子先生と仲良くしている吉祥寺に白羽の矢が立ったという訳だ。

 アビ子先生の気持ちは分かる。自分の作品の子を今後売り出したいイケメンや美女の顔を売るために使いたい、等の理由で適当に使われるのはどんな作家でも嫌なのは当然の話。だから修正指示を送ったが、舞台の脚本家から再び出されたものは彼女の中では全く治っていないものだったと思われる。アビ子先生は元々ロジックに頼らない天才型なので彼女の言いたいことは編集でも理解出来ないものだろう。オマケにこういう舞台の脚本は制作やプロデューサーを間に介する伝言ゲームとなる。ただでさえ分かりにくいアビ子先生の指示も組み合わせると彼女の想定通りにことが運ぶ訳が無い。

 編集から頼まれた話は「アビ子先生を納得させること」。要するに今の脚本で舞台をさせるようにアビ子先生を諦めさせろと言っている。アビ子先生の言い分もわかるので断ろうと思ったが世話になったことのある編集に言われてしまったのでとりあえず声をかけるだけ、と言って請け負ってしまった。編集は期待しているような言い方をしていたがアビ子先生に尊敬されている自覚はあるがそんなことを真正面からいえば普通に考えて喧嘩になる。話をマトモに聞いてもらえるとは思えない。そこで無垢な子供が近くに入れば双方怒りが収まりやすいのではないか、と考えたのだが。

 

──それって体のいいサンドバッグってことよね。

 

 純粋なファンの硝太にその役をさせることには罪悪感と一抹の不安がある。

 そうこう考えているうちにアビ子先生の住んでいるマンションへとたどり着く。大都会にそびえ立つ高層マンション。家賃だけでもバカにならない金額がしそうなマンションに何気なく住んでいる辺り彼女の収入との差を感じる。

 

「アレか」

「そうそう、凄いよね」

 

 高層マンションの上の方を見上げて気後れしないようにしているのか硝太が少し威圧感の感じる声で呟く。──実際は周囲の気配や感情等の情報から見えない位置にいるはずのアビ子の現在位置を特定、観測したのだが、吉祥寺はもちろん、アクアも気付いていない。

 そのまま四人はマンションのエレベーターに乗り、上の階へと上がっていきアビ子の部屋の前にたどり着く。

 

「私が先に話をつけてくるから、ちょっと此処で待っててね」

「し、失礼しました!」

 

 硝太たちよりも先に吉祥寺がインターフォンを押して話をしようとしたその時、アビ子部屋の中から一人の男性が出てきた。男は全身に冷や汗を流している小太りの男で苦痛に耐えかねたような辛そうな顔をしている。何を考えているのかは分からないが男は前もみずに走り始めたのでインターフォン前にいた吉祥寺達に気付いていない。

 

「よっと」

 

 二人がぶつかる前にアクアと有馬の視界から消えた硝太が吉祥寺を器用に抱えて横に跳ぶ。その隣を四人の存在に気づかないままの男が通り、先程四人が通った道を戻っていく。

 

「なにあれ、知り合い?」

「ううん。アビ子先生のアシスタント…じゃないかな?漫画のペン入れとかベタ塗りとかする人達」

 

 男が背中も見えなくなったのを確認して硝太は吉祥寺を下ろす。男は一応アビ子の部屋から出てきたので関係者であることは間違いないだろう、という前提を踏まえても硝太はあの男が何者かピンともこない。アビ子と親しいはずの吉祥寺にも聞いてみるが吉祥寺との面識は無いらしくアシスタントじゃないか、というふわふわとした回答しか出てこない。

 硝太は男のいた場所を軽く睨むと男の走っていた方向を少し歩いたあと指さして何か小声で呟く。

 

「中のアビ子先生忙しそうなんですけど大丈夫なんですか?」

「…でも、ここにいてもしょうが無いし」

 

 仮にアシスタントだとしたら焦って出ていくなんて何があったのか疑いたくなる。吉祥寺は何か勘づいたような表情で少し迷うもインターフォンを鳴らす。

 

「アビ子先生ー吉祥寺です。今いいかしら」

「…どうぞ」

 

 インターフォンから聞こえてきたか細い女性の声。年齢はかなり若いが若干声が枯れ気味。鮫島アビ子のものと見られる。先程焦って出て行った男のことを考えると喧嘩でもしていたのだろうか。

 

「先駆けは僕が」

「待ちなさいこの暴走列車」

 

 先程の男のように何かが突然出てくるのを警戒したのか硝太が三角巾に手を突っ込みながら吉祥寺の前に出ようとするが直前に有馬にヘッドロックで止められる。間違ってもアイドルがやってはならない止め方に吉祥寺は若干引くが硝太が抵抗しないことから仲の良さが伺える。

 

「有馬先輩っておっぱいあったんですね。ロリ体型なのに」

「ぶっ飛ばすわよ、天然ショタ」

 

 姉弟のような何気ない会話を耳に入れながら吉祥寺はアビ子の仕事部屋に入る。

 部屋の中は高級そうなマンションに相応しくかなり広い。自分のマンションの二倍は広い、と吉祥寺は内心羨ましくなる。しかし中は非常に暗く、いくつか並んだ机の奥にあるアビ子の机のみライトが照らされており、カーテンを締め切っているのもあって学園祭か何かのお化け屋敷のようだ。

 

「すみません、原稿中なんです」

 

 アビ子は原稿に向き合っており、こちらには視線も向けない。チラリと見える横顔は目元に隈が出来ていてかなり疲れているように見える。硝太達はともかく自分が来ることは事前に言っていたはずだが、やはり売れっ子の漫画家は忙しそうだ。

 

「すぐ終わらせますからその辺で寛いで下さい」

「もしかしてオーバーしてるの?」

「いえ、()()大丈夫です。()()

 

 まだ、ということはオーバーしそうということだろう。彼女の忙しさを感じるとただでさえ小さかった気が余計に滅入る。

 寛いでくれ、と言われたものの部屋はアシスタントの私物だと思われるものが置かれたままになっている。恐らく先程部屋を出ていった男のものだろう。アビ子先生の疲れた顔を見ると何も言えなくなってしまうが、部屋自体は汚いとは言わないが人を呼ぶような状態では無い。

 

「前言ってた子呼んできたんだけど、待っててもらう?」

「はい、そうしてください」

 

 疲れ気味のアビ子も気になるが外に待たせたままの三人が可哀想なので部屋の明かりだけつけて来た道を戻って三人を呼ぶ。

 

「ごめんなさい、今アビ子先生忙しいらしくて」

「なら入らせてもらいます」

「おい待て…はぁ。失礼します」

 

 忙しいと聞いて遠慮するものかと思ったが硝太がいの一番に部屋に入っていく。警戒心が高く、こういう場所は怖がるものかと思ったが気にもとめずにアビ子の部屋に入っていく。二人もその後を追うように続いて入っていく。

 

「お邪魔します」

 

 二人が入っていった先を見ると硝太は既にアビ子の部屋に入っており、部屋のど真ん中で正座して待機している。片腕は怪我しているが、両目を閉じて背筋を正して佇んでいるその荘厳足る雰囲気はまるで教育されてきた武家の人間のよう。妙なところで育ちの良さを感じる。アビ子もアビ子で気づいてはいるのだろうが気にせず作業を続けている。

 

「なにこれ」

 

 二人とも変わったタイプの人間だと知ってはいたが二人が揃うとそこだけ異空間のような錯覚すら受ける。

 

「あーあー何やってんの。社長に迷惑かけるなって言われたでしょ」

 

 見かねた有馬が先程やったように硝太の両脇を持ち上げて抱えて入口の方まで下がる。すると硝太が口をゆっくり開けて呟く。

 

「『東京ブレイド』の舞台、楽しみにしてますね」

「んな──アンタ急に何言ってるのよ!」

 

 何を言い出すのかと思えば急にまだ正式発表されていないはずの舞台化の話をし始める硝太。有馬がすかさずヘッドロックをするがアビ子の耳には入ったようで漫画を書く手が止まる。

 

「舞台…舞台。ああ、ありましたね。あの脚本家ほんっとわかってない」

 

 ペンを折るのかと思うほど力強くペンを握るアビ子。本人が非力なのでペンは軋みすらしないが震える手から本人の怒りが見える。

 アビ子の脚本家への憎しみは吉祥寺の予想を超えるものでそれを見た硝太の右目が青く光る。

 

「脚本?アビ子先生が書くんじゃないんですか?」

「こういうのは舞台の脚本書いてくれる人がいるのよ。『今日甘』のドラマだってドラマの脚本家いたでしょ」

「…そうか。それもそうか」

 

 アビ子が怒っているというのに硝太は全く気にせず有馬に引きずられながら素人でもしないような疑問を言葉にする。天然なんだろうか。

 漫画家はあくまで漫画のプロであって舞台やドラマについては素人でしかない。中にはそういった知識を持つ人もいるだろうが餅は餅屋、そういったものは専門の人間に任せるのが最も都合がいい。『今日は甘口で』のように制作側の都合で好き勝手改変されたり、その脚本家が自分が手を出したという痕跡を残したい、評価されたいと思ったが故にオリジナル要素を入れすぎたり等問題もあるが。

 

「別に展開を変えるのはいいんです。漫画と舞台が違うことだって私も知ってます。でもキャラを変えるのは無礼だと思わないんですか!」

 

 漫画家にとって自分の作品のキャラは子供のようなものだ。それを好き勝手に改変されていい思いをする原作者なんてこの世に存在しないだろう。吉祥寺も有馬とアクアの演技に支えられた場面があるとはいえ『今日は甘口で』のドラマに思うところはある。

 

「アビ子先生!い、一旦ちょっと」

 

 吉祥寺はこのまま硝太達に脚本家の愚痴をぶつけようとしているアビ子の口を一旦閉じさせて止める。無関係の人間がいたら愚痴が吐き出しづらくなると思っていた吉祥寺だが、目論見は外れた。アビ子は吉祥寺の予想を遥かに超えて怒っている。

──無理もないわね。アビ子先生はロジックに頼らない天才型。修正指示が真っ当に改善されたとは思えない。アビ子先生からすれば自作を大事に扱ってくれない人になるんだ。

 

 慌てる吉祥寺にそれを呆然と眺めるアクアと有馬。その間に有馬のヘッドロックから抜け出した硝太は部屋の壁に立てかけられた本棚を見る。

 アビ子先生の『東京ブレイド』を始めとして『今日は甘口で』等の有名漫画が所狭しと並べられている本棚。漫画本からは大量の付箋がはみ出ている。アビ子は『今日は甘口で』の頃はアシスタントとして働いていた。彼女からすればこの作品は自身の原点とも言えるものだろう。お気に入りの表現やマンガの基礎をここから生み出したのかもしれない。

 次に、ゴミ箱にまとめられている書類を引っ張り出す。他のゴミと同じように捨てられ汚れた姿で出てきたのは舞台の脚本だった。内容は怒りに近い修正が細かく書かれたものでアビ子先生の強いこだわりを感じる。一ファンとしては原作者が作品をここまで愛してくれるのは純粋に嬉しい。

 ページをめくって内容を細かく確認する。ファンとして当然変えて欲しいと思える内容から細かい小ネタに関すること等原作者らしい細かい設定が書かれている。ダメ出しの連続なのを見ると脚本家の腕が悪いのだろう。同じようなものが乱雑に捨てられてるのを見ると一回や二回の話ではなく、アビ子が怒るのは無理もない。

 

「硝太、変なもの引っ張り出すんじゃない」

「兄さん」

 

 硝太が少し離れた位置にいることに気づいたアクアが、硝太の隣まで歩いた後に捨てられていた脚本の山をとる。

 

「無関係の仕事に頭突っ込むんじゃない。下手に責任が発生したらミヤコさんにも迷惑がかかるぞ」

「お母さんに」

「責任問題だからな。お前は何も責任が取れないだろ?そういう時、大人はミヤコさんに指を指すんだ『どうしてこんな育て方をした』ってな」

 

 子供が人を殺したり等犯罪を犯せば責められるのは親だ。子供の責任は全て親に乗せる。子供は「可哀想な被疑者」という側面が出来て親には「毒親」という属性が乗せられる。

 それは舞台の仕事でも例外では無い。硝太が何かをすることで舞台が失敗して営業に悪影響が出ればその責任は苺プロに、斉藤ミヤコに乗せられる。

 

「勝手な奴ら。冤罪(ウソ)は嫌うくせに親を殴ることに躊躇はしないのか」

「他人ってのはそういうものだ。世間は子供に甘い代わりに親に厳しいんだ」

 

 アクアは優しく硝太の頭を叩きながら諌めるものの、硝太は右目の光をより強くする。

 自分の責任は母に乗せられる、母に迷惑をかけるという自覚はある。許せないのはそのメカニズム。産まれたての赤子であろうと、殺したのならその罪と罰は子供が背負うべきだ。親の育て方、住んでいた環境。それらはその人間を語る上での一部でしかない。故に、罪は残る。

 

「そんなに子供を潔癖にしたいなら全人類の赤子を全員引き取ってロボトミー手術でもすればいいんだ」

「おい硝太。ミヤコさんにいいつけるぞ」

「…むぅ」

 

 ロボトミー手術とは現代では禁止されている精神疾患に対する治療である。前頭葉の神経線維の切断を伴う脳神経外科的な精神障害の治療法で当時は対処法のなかったうつ病やパニック障害に対する唯一の治療法として行われたが無感情になったり無気力になったりと重い副作用が発見され、禁止されるようになった。

 硝太は「そんなに子供を潔癖にしたいなら子供を全員無気力で無感情な生命体にしてしまえばいい」と言っているのでアクアをキツめに叱る。無感情な人間など肉がついたロボットでしかない。しかし子供が愛玩されるのが仕事ならロボットで十分である、というぶっ飛びすぎた考えは母親の復讐を考えているアクアも流石に引く。

 性善説から来るものであろう子供と親の関係性に意義を唱える硝太だが、彼本人が母の教育で道を踏み外していないだけだということに気付いていない。

 

「でもアビ子先生可哀想だよ、自分の作品大事にしてるだけなのに舞台やってるプロデューサーからは面倒な狂犬扱いされるんだろ」

「舞台好きな人間に『東京ブレイド』の名が伝わるからウィンウィンの関係と思ってる節はあるだろうな。でもその人達だって仕事なんだ」

「…くっそ」

 

 アビ子が可哀想だと感じる心はある。出来るならほんの少しだけでも助けになってやりたいと思う。しかしリスクが大きすぎる。アビ子を救うために母に迷惑をかけるのは硝太には出来ない。

 

「目を離した隙に何しでかすか分からないわねこの自由人は」

 

 アクアと硝太が話している内容が聞こえていなかったのか寄ってきた有馬が再び硝太を抱き上げる。

 

「僕が自由人?」

「は?アンタは周りの目をとか何も考えずに突っ込むタイプでしょ」

 

 自由人と言われたことに不服そうな顔を見せる硝太に有馬は心底呆れる。マネージャー業の手伝いに『今ガチ』の舞台裏に接近、JIFの講師に『今ガチ』の熊野ノブユキと森本ケンゴの二人を招集、これまで硝太のやった事を上げるとノリと勢いで生きているとしか思えないほど単純な思考回路を持っていることが分かる。

 

「すみません」

 

 有馬に自由人と言われて素直に謝る硝太。

 硝太の行動がプラスに働いた事がなかったわけではないがそれは硝太が何もしなくても上手く事が進んだ内容であり、硝太がいなければいけなかった訳では無い。仮に硝太が必要だったとしても考え無しで動く硝太はリスクの塊でしかない。ミヤコがマネージャーを下ろすのも当然だ。

 ヘラヘラした顔で返されると思った言葉がドストレートに刺さりしゅんとしたのを見て有馬は慌てながらフォローをする。

 

「ま…まぁ、アンタが無鉄砲な馬鹿じゃなければMEMちょはB小町入らなかったでしょうし、熊野と森本の二人は講師に来なかったわけだし」

「有馬」

「ルビーやアンタみたいなやつがいた方がいいことになることもあるのよ。社長だって身内だからって理由だけでアンタのマネージャーを許すわけが無いわよ。アンタが使えるやつ…アイデアマン?なこともわかってるのよ。どうせなんか企んでるんでしょ?姉代わり()としてダメ出ししてあげるから話してみなさい」

 

── 硝ちゃんはみんなの為に頑張ってれる子だって私わかったから、ただちゃんと硝ちゃん自身のことも見て欲しいんだ。

 

 有馬の不敵な笑みに硝太は数日前のMEMちょの発言が脳裏を過ぎる。

 MEMちょもやりたいことはやらせたいという方針をとっていた。それは硝太の行動に何らかの成果が伴っていたから。確かに思いつきの行動ではあるものの、リスクは十分承知した上でマイナスになるとわかっている行動は避け続けてきた。

 

「有馬先輩。僕、やれることがあります」

 

 なら今回も同じようにするだけだ。違いがあるとすれば、最初から協力してくれる人がいること。だがそれだけで十分だという自信が硝太にはある。




思ったより有馬が姉してる…ルビーが硝太に甘々な分かなちゃんは現実の姉に近い関係性を意識して書きました。かなちゃんが硝太を締めたり持ち上げたりしてキャッキャしてるのあかねが羨ましそうな顔で見てそう。硝太がなにかした時には即プロレス技で止めてくる有馬先輩概念。アクアもラインはしっかりしてますしシンプルに危険人物な硝太相手にはこれぐらいでいい。硝太は対ルビー時は甘えたいから精神年齢若めですがアクア相手だと張り合おうとして若干大人ぶります。そのくせ有馬相手は安心できるからボケに回るという仕様。
いや今回の硝太は前回に引き続き冗談抜きでヤバいやつですからね。ミヤコさんに何かあるかもしれないと思った時の発言は基本的に悪役なんだよなこいつ。相手は逃がさないわ、無関係の人間仕留めることに対して忌避感が欠けらも無い。ミヤコさんが母親じゃなかったらその辺の子供の瞼の上にアイスピックぶっ刺していたのかもしれない。ミヤコさんが悪の側面を止める最強のブレーキすぎる。【推しの子】最強キャラ決まっちまったな

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ミヤコさんとかいう聖女にして女傑
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