【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前話のあらすじ
陽東高校普通科試験の後ルビーと帰宅する硝太。
その時、広告に不知火フリルの姿を見る。
不知火フリルの出る映画のエキストラの話が出るもルビーの「硝太は硝太だから」という言葉でやめることに。その言葉の意味は一体…


それはそれとしてルビーと手を繋いで帰宅しました。
はたから見たら年の離れた弟のお世話をするお姉ちゃんです


#5 今日は甘口で(前編)

 ルビーと手を繋いだまま斉藤家に帰宅。

 母親と試験の手応えと世間話をした後早速S〇itch片手にハ〇タク〇ミの色〇い厳選を始める。そこから1時間程度経った辺りでアクアマリンが五反田のおじさんの家から帰ってきた。

 

「ただいま」

 

 いつも通り落ち着いた声のアクアマリンが靴を脱いでリビングまで来る。しかしその声は少し高揚しているように感じられた。

 完璧に隠しているように見えるがその中身は欲しいおもちゃを買ってもらった子供のように嬉しがっている。

 

「兄さん、なんかいいことあった?」

「いや、何も」

 

 手元はSw〇tchに集中させたまま、顔だけアクアマリンの方に向ける。アクアマリンは笑顔こそ見せず、いつも通りの仏頂面だが楽しそう、というより嬉しそうなのは分かりやすく伝わってきた。

 

「うっそだー。どうせ有馬先輩と五反田のおじさんの家行って遊んでたんでしょ」

 

 アクアマリンの反応がなんとも面白かったのでこちらも面白くなってきた。

 一番最初に考えられるのは久しぶりの再会(?)となった有馬先輩関連の話だ。落ち着きのある大人っぽいのアクアマリンとはいえ、まだ中学生男子。色恋沙汰に興味が無い、というのは考えずらい。少なくともアクアマリンが女より男が好きというタイプでは無いのは明白。そしてアクアマリンはどちらかと言うと年下っぽい雰囲気の子を好むことが多い。有馬先輩と関係が進んだということはなくても五反田のおじさんの仕事をほっぽり出して遊ぶのはさぞ楽しかろう。

 

「遊んでない」

 

 アクアマリンの顔が少し怒気を孕む。そちらの話はアクアマリンに触れられたくない様だ。確かに小さい頃から忙しくしていてただぼーっとするのを嫌っていた兄だ。となると考えられるのは実のある話題か。僕自身な芸能界に全く詳しくないがその状態で有馬先輩が話題を出して違和感ないことといえば、仕事の斡旋か。

 

「なら、有馬先輩から仕事の斡旋でも来た?」

「...」

 

 どうやら正解らしい。アクアマリンは何も言わずに黙って部屋まで行ってしまった。

 出会ったばかりの有馬先輩の様子からして少なくとも今、現在仕事があると予想したがどうやらそれも当たっていたらしい。つまり有馬先輩は仕事が溜まって授業数が足りないため補習かなんらかの措置を受けていた、ということか。今後ルビーも同じようになると思うと少し心配になってきた。ただでさえルビーは僕より成績が悪いのだ。あの顔とファンサービスの塊ならアイドルとしてはすぐに有名になってしまうだろう。しかしそのために成績を落として進級できない、というのは避けたい。

 それはともかく有馬先輩から仕事の斡旋ということは俳優かそれに近い仕事ということになる。なんのテレビになるか、ということなら有馬先輩の今やってる仕事から調べることも不可能では無い。が、アクアマリンが隠そうとしていることから考えるとマトモな仕事では無いのだろう。俳優経験があることを僕に隠していたことから考えてアクアマリンからしてみれば俳優の仕事は何らかの手段ということになる。仕事なら五反田のおじさんから受けているので金にはそこまで困ってはいないだろう。となると有名人とのパイプか、それとも業界人とのパイプか、もしくはただの好奇心か。

 誰かしらと繋がりたいとするならアクアマリンが好きな芸能人から考えるのが上等だろう。と言ってもアクアマリンの態度などから分かる好きな芸能人と言えば二人の母親であるアイぐらいしか考えられない。別に好きな芸能人がいてその人に辿り着きたい、とも考えられるがその場合少し回り道すぎる。となるとアクアマリンの目的はアイさんについて、母親について知ること、だろうか。

 

 アイさんもドーム公演目の前まで行ったとするなら芸能界と深く関わっていたことは最早言うまでもない。しかしそこからアイのことを調べて、どうするつもりなのだろうか。

 ただ故人のゴシップに興味があるならそれでいい。もう亡くなっているとはいえ母親のことを知りたいと思う気持ちは理解できるしそれは応援したい。しかしその反面、背中を突き刺すような嫌な予感が拭いきれない。自慢では無いがこういう時の自分の第六感というものは大抵当たる。アクアマリンのことを信じていない訳では無いがめんどくさい事に巻き込まれる、なんてことは想像に難しくない。

 何かが出来る訳では無いが用心するに越したことはない。色々考えておくべきか。

 

「...あ、サンドイッチ食べ忘れた」

 

◇◇◇

 

 有馬先輩が今現在受けてる仕事を調べたところ『今日は甘口で』という少女漫画を原作としたドラマが見つかった。ネットテレビ局制作の全6話のドラマで現在3話まで放送済み。

 ルビーと一緒にアクアマリンの部屋に行った時に同じタイトルの漫画があったことは覚えている。原作者は吉祥寺頼子先生。

 

「おっ、鮫島先生の下積み時代か」

 

 調べてみたところどうやら『東京ブレイド』の原作者鮫島アビ子先生の下積み時代の作品らしい。『東京ブレイド』は今一番好きな漫画なこともありその作品自体が気になってきた。

 というわけで作品を読み始めたのだが。

 

「...トラウマ持ちの少女と口の悪い少年。なるほど」

 

 この物語は親に毒殺されかけサプリメントや缶詰のようなものしか食べられない少女と口の悪い少年が出会い、少女が徐々に人の温かみを取り戻していくという話だ。

 傍からすれば少し外れてはいるがごく普通の少女漫画物としてみるだろう。だが、この物語のヒロインには少し思うところがある。心に傷を負った拒食症の少女、という点が心のどこか、深いところに突き刺さる。

 

 まるで白米の中にガラスが入っているようなイメージ。そのガラスは恐らく元は窓ガラスだったものだ。何かに殴られて、割られて、その破片が米の中に混じった。ガラスだけでは無い。柔らかい米の中に砂まで入っている。

 

「痛...」

 

 口の中に破片が刺さった様を妄想するとその痛みが想像される。歯でも砕けず、口の中の弱い粘膜を易々と貫通し、肌を傷つけ、刺さる。血が広がり、傷口は埋まらず、膿む。

 そんなこと一度でも経験すれば白米を見るだけでその想像をしてしまうだろう痛み。

 そんな痛みに共感する。誰も味わってないはずなのに、妙にリアリティのある痛みが想像される。実際に傷口が着いている訳では無いが、それでも痛いものは痛い。

 

 口の中に異物が入るだけでゾクリとくる恐怖。あの時の匂い、あの時の形、あの時の味。どこをとっても小さい頃のトラウマが脳裏を過ぎる。だから安心できるのは一度開封したら閉じることの出来ない缶詰となる。それでも自分で開けて、処理しないと安心できない。周りの雰囲気が、視線が、痛みと苦しみを呼び起こす。心の傷というのは一見関係ないようなことでも連想ゲームのようにつながって呼び起こされる。

 何をしようと本人にとって1番の記憶がソレなのだから当然と言えば当然だ。人間の記憶が関連付けて覚えられる都合上一度ほかの記憶にカスってしまえば連鎖的にカスる記憶が増える。結果的にどうしてそれを思い出されたかも分からずに心だけ痛みを増やし、耐えきれなくなる。

 叶うことなら痛みを無くしたい。味覚を奪われて、嗅覚を奪われて、視覚を奪われ、最後に命を奪われる。そんな一般的には悲劇と言われることでさえ救いに見えてくる。けど自殺は怖いからできない。地獄が怖いとか未練があるとかでは無い。ただ単純に痛いのが嫌だ。

 その痛みはまだ乗り越えられない。

 

「もう何も食べたくない。誰ともいたくない」

「人間は嫌い。だってみんな自分ことしか考えないから」

 

 食事は人が生きるために必要な行為。お腹が空くのはトラウマがあろうがなかろうが同じ。だから食事はするしかない。

 どれだけひと口ひと口が怖かろうと、栄養を取らなければ飢えて死ぬ。飢えは苦しい。力が出てこず、そのくせ腹の虫はひっきりなしに泣く。呼吸も荒くなり頭も痛い。

 だから缶詰やサプリメントに頼る。それでも怖くないわけじゃない。ただ、他のものよりマシって程度。人が作った料理なんて以ての外。なんたって、そこには、自分が何よりも避けたい、何よりも優る痛みが──

 

「硝太」

 

 耳に入る心地のいい声に現実に引き戻される。

 というより今まで現実にいなかったことを理解する。振り返った場所にいたのはこちらを心配そうに見つめる母親。

 

「ああ、ごめん。何かあった?」

「同調しすぎよ。気をつけなさい」

 

 やっぱり母親には敵わない。どうやらネットで漫画を調べているうちに主人公のヒロインに共感しすぎてしまっていたようだ。彼女と僕は違う。別の人間だ。彼女の痛みは彼女のもので僕の痛みは僕のもの。そこの線引きを間違えるとこういうことになる。

 どうやら自分はその辺を()()()()()()人間らしい。特に病名や診断書が出ている訳では無いがそうだと言われたのでそういうものだと納得している。

 

「うん、まぁ。兄さんが出るドラマってこれ?」

「そうね。アクアの役は最終回に出るストーカーらしいけど」

「ストーカー?」

 

 そういえば、いた。ヒロインの闇を見て同じだと同調し勝手な理解をして歩み寄ってきた男がいた。流石にあそこまでおかしな性格や行動力をしている訳では無いが立場としてはある意味僕と同じだ。

 

「硝太ードラマ見れるって!見ようよ!」

 

 ノートパソコンを出してきたルビーがワクワクと楽しそうに準備を始める。

 あの様子を見るにルビーはアクアマリンが俳優、もしくはそれに類する仕事をしていたこと、もしくはその資格があることを知っていたのだろう。

 それに、ルビー自身もアクアマリンに演技をして欲しいと思っていたようだ。アクアマリンが一般科を受けてやる気がないように見えてなんだかんだ乗り気なことも恐らく小さい頃、それも僕が記憶を失う前の約束。

 

「はいはい」

 

 それが叶う瞬間に近くにいれることはやはり嬉しい。ルビーとアクアマリンの二人の夢が叶い、母の夢も叶う。それ以上望むのは流石に罰当たりというものだ。

 ルビーを中心としてアクアマリン、お母さん、そしてその膝の上にぼくと並んで鑑賞会が始まる。

 

 

──そこまでは良かったのだが。

 

『オマエソンナカオシテテタノシイノ?』

『ナンダワラエバカワイージャン』

『からかわないで』

『オレノオンナニテヲダスナ』

『ハッナンダテメエ』

「けんかはやめてー!』

 

 出てきたものは小学生の学芸会のような素人目から見ても分かる酷いものだった。原作を読み終えた直後でなくてもわかるような知らないキャラにズレた展開。とても見れたものでは無い。何より俳優の演技が酷い。有馬先輩に至ってはわざわざ抑えているようにさえ見える。低レベルでやれと注文を受けたのだろうか。

 

「これ、本当に『今日は甘口で』?」

「お、概ねこんな話じゃないかしら」

 

 一応違った場合失礼に当たるので母に聞いてみたがやはり歯切れが悪い。母もなんとか擁護しようと頑張ってはいるがここまで来たらもう擁護を諦めた方がいいと思う。やはり母は優しすぎる。

 

「なんて言うか...酷いね!」

 

 ルビーの悪意のないどストレートな意見が炸裂。

 

「俳優の演技とか、硝太と同じぐらい酷いよ!」

「おっと心は硝子だぞ」

 

 ついでに誤爆。

 ダメージを受けた。

 

「いや、流石に硝太の演技よりはマシだろ。ちゃんと言葉を発してる」

「ぐはっ!」

 

 アクアマリンの援護誤爆。いや最早誤爆ですらない。

 メンタルブレイク。

 目の前が真っ暗になった。

 

「お母さーん!」

「ヨシヨシ」

 

 残念ながらポ〇モンのように回復出来ないため目の前の母親に泣きつく。座っている太ももに顔を突っ込んで膝枕の状態になり、その上から母が頭を撫でてくれる。

 メンタル回復。

 復活。

 

 と、僕の場合はいくらでも母親に回復してもらえるが大の大人はそうはいかない。もうそろそろ大人になるべきだろうか。

 

 そう思いながらもこの企画を受けたアクアマリンを見る。あらゆる面において僕以上に目敏く頭の回るアクアマリンが何を考えているかは分からない。ただ自分の目的のための踏み台とか考えていないのか。

 そこまで考えて即座に自分の理性が否定する。何せ、うちの兄貴は。

 

「まぁ、大丈夫でしょ。ね、兄さん」

「言ってろ」

 

 うちの兄貴は誰も見捨てられない特級のお人好しなのだから。




共感能力のせいで人生損してる硝太。物語に感情移入できるのはいい事ですが感情移入しすぎて自傷行為、闇堕ち一歩手前まで行ってるのは重症ですね

それと今作では『今日は甘口で』の演技シーンを始めとしたアクア達の演技パートは基本カットします。(書いたとしても番外編扱いですね)硝太が関われない以上原作をそのままなぞるだけになるからね。仕方ないね。
ですので後編は演技終了後の話となります。楽しみに

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