ミヤコさん、今度は狙われヒロイン枠に。
斉藤家の中にある苺プロダクション事務所。
事務室には社長の斉藤ミヤコとB小町の星野ルビーの二人しかいない。ミヤコは仕事中、ルビーはアイドルの仕事がない暇を潰しに情報収集と語ってアイドル雑誌を読んでいる。
「最近、硝太どこ行ってるんだろうね」
ソファに寝転びながら雑誌を読むルビーはそう言いながら机の上で資料とパソコンとにらめっこしているミヤコの方を向く。
兄の星野アクアは俳優の仕事。有馬かなと共に今度ある舞台の練習に毎日のように出て帰りは真夜中。MEMちょは一応個人事業主で苺プロとはアイドル業務で業務提携をしているという体なので自宅でYouTuberとして撮影、編集とそれぞれ芸能人らしい活動をしている。
それだけなら寂しくはあるがルビーも理解出来る。問題は未だに片腕を怪我してる末っ子の硝太だ。夏休み終了直前辺りから硝太は毎日のように放課後の時間帯から夕飯の時間帯までどこか寄り道している。一応、夕飯時には帰ってきて、その後は特に変わったことはしていないので気にすることでもない、のかもしれないが
「そうね、変なことしてないといいけど」
「ミヤコさん聞いてないの?」
「聞くような事じゃないわよ」
硝太の一番の理解者である母親のミヤコでさえも硝太の行き先が分からないのか仕事の手は緩め無いとはいえ微妙そうな顔で頷く。
ミヤコの立場なら硝太を叱って寄り道させずに家に帰らせてもいい。ミヤコの命令なら硝太は確実に聞くし理由も喋る。そうしない理由、させない理由はミヤコが硝太の自由意志を尊重を尊重しているからに過ぎない。
高校入学までの硝太はあからさまに自分の世界を敢えて苺プロ内に収めようとする動きが見えるほどに外への警戒心が強く、家族に縛られる生活を望んでいた。あの頃の硝太は友人所か話し相手も作らずに家族と苺プロの人間を除くと視界に入れようともしなかった。試験の日に有馬と出会って、硝太はまるで普通の男の子のように有馬と話をして今でも仲良い先輩後輩の関係になっている。入学後もルビーが紹介したとはいえみなみ、売れっ子マルチタレントのフリルと仲良くなってフリルに至っては恋心を持たれている。肝心の硝太は気付く気づかない以前に恋愛に疎すぎるが。
何はともあれ友人が出来てやっと活発に動くようになったのだからただ友達と遊んだりする程度なら別に問題は無い。フリルやみなみならその辺も配慮してくれるだろうしルビーも安心して任せられる。問題は硝太が自身に対して危機管理能力が薄いこと。そしてもう一つ。
「でもさ
「…」
ルビーにとって気がかりなのは硝太がこのような事件に巻き込まれるのは初めてでは無いこと。アイが亡くなった事件の日、硝太もストーカーの凶刃によって大怪我をしてしまっている。あの時も今回と同じように腹部を刺されたのを覚えている。結果的に亡くなってしまったアイとは違い、奇跡的に助かった硝太だがストーカーに刺された直後しばらく姿をくらまし、帰ってきた時には記憶を全て失っていた。ルビーやアクア、アイのことを忘れた所か「お母さん」以外の言葉を知らない、産まれたての赤子のような状態。それから13年経ち、また同じようなことが起こってしまった。まるで悪い運命が硝太に取り憑いているようにすら思える偶然。
だがこの二つの事件には硝太が巻き込まれてナイフで刺された以外に共通点がある。
「硝太、また誰かが狙われたりしたら今度こそ」
「わかってるわ」
二つの事件の共通点。それは元々狙われたのが硝太ではないこと。一度目はアイ、二度目はアクアはルビーと推理したが、後々フリルと話した時に本当に狙われていたのはフリルだと聞いた。一度目の時はアイを狙って家に襲撃してきたストーカーからアイを守ろうとして硝太が立ち塞がり、結果硝太が生き残った。記憶をなくしているためその反省を活かした、という訳では無いが二度目は事件はフリルを守り切り、またストーカーに刺された。
大切なものを守るためなら硝太は自分の命を安く考えて使い捨ての道具のように扱ってしまう。ルビーの認識ではこの『大切なもの』にはルビーやミヤコの命や夢があるが他の人は含まれていないと考えていた。硝太は別に死にたがり屋ではない。友人が出来たとしても、硝太の友人は全員間にアクアかルビーが取り持っており、硝太が自分から友人を作ったことは無い。だから友人を作ったのもアクアとルビーの為、悪い言い方をすれば二人のために作ったとルビーは考えていた。それだけの理由がなければ人見知りが過ぎて人嫌いな硝太が素直に色んな人と繋がろうとしないだろう、と。ならフリルやみなみが仮に死んでしまうと知っていても助ける為に自分の命を使い切るまではいかないと考えた。だが、結果で言うと硝太はフリルを助けるためにルビー達にすら隠し事をして身代わりになるように刺された。
これは硝太の世界が広がったということに等しい。自分の命を賭けられるほどの大切な人が家族以外にもできた。これは姉としてルビーは自分の事のように嬉しい。少し寂しさもあるが、それ以上に嬉しかった。フリル相手にも硝太が優しくなれることが、
ミヤコがそれを理解できないはずがない。しかしミヤコは少し考えると思い当たる答えがあるのか小さくため息をつく。
「でも今回は関係ないわよ」
「え?なんで分かるの?」
「マネージャーの仕事を外してからやり始めたのよ?漫画家の先生のところにでも遊びに行ってるんでしょ。アシスタントってことは無いだろうし本人は家政夫気分かしら」
「───え?」
ミヤコは若干呆れたように仕事をしながら硝太が何をしているのかを言い当てる。推理するまでもない、と言わんばかりに自信を感じさせる言葉にルビーは絶句する。
漫画家は漫画家でもミヤコが考えているのは『今日あま』の吉祥寺で硝太が通っているのは『東ブレ』のアビ子の家なので少し違うが、二人にはそれを知る由もない。問題はミヤコは家政夫のような仕事をしていると言い当てたのをルビーが聴き逃し、「遊びに行っている」というワードだけ聞き取れたことにある。
まず、ルビーの認識では硝太と『今日あま』の吉祥寺は男女の中と言っても過言では無い深い関係。恋愛感情を理解できない硝太に彼女にするなら、と聞いたらまず持って母親らしい人を選ぶだろう。流石の硝太も実母に恋愛感情を持つ訳では無いが好きな人として選ぶのなら間違いなくミヤコに似ている点がある女性を選ぶとルビーは確信している。つまりミヤコの見た目も似ていて性格も温和な吉祥寺は硝太の好みドストライク。フリルの恋心を知っているルビーとしてはフリルの恋を応援したいが硝太が恋愛するようになったら吉祥寺と仲の良さによってはトントン拍子で話が進んでそのままゴールイン、なんてことがあってもおかしくない。普通なら年齢差や硝太がマトモじゃないことを引き合いに出して否定するだろうが、とある年上の医師に恋をして未だに結婚しようと考えているルビーにとっては年齢差のハードルは低すぎる。
ルビーがそんな恋愛の話を考えているとはつゆ知らずミヤコは硝太が『家政夫』として働いているだろうと考えた理由を述べる。
「あの子ワーカーホリックなところあるし、左腕怪我していている硝太を迎えてくれるところなんて『今日あま』の先生のところかMEMちょのところぐらいよ。MEMちょからそういう話は聞いてないから『今日あま』の先生のところね」
「え、え、え?」
仕事好き、というより役に立とうとする傾向の強い硝太ならマネージャーの仕事を外した時になにか別の仕事を入れようとするのはミヤコもすぐに考えついた。だがルビーは未だに硝太が恋愛──とまでは行かないが仲のいい友人として毎日のように吉祥寺と会っていると勘違いし続けている。先程の事件に話していた時の雰囲気はどこへやら。恋愛脳100%のルビーは明らかに動揺している。
特に片腕を怪我した子供の介護がどれだけ大変かわかっているので仕事をしながら、それを行っても嫌な顔するどころか硝太がまた行こうと思えるほど楽しんでいると考えるとむしろ友人を飛び越えた関係なのでは、と邪推する。
「で、でも『今日あま』のマンガ家の人って忙しいんじゃないかな」
「それはそうだけど。硝太も邪魔しないようにはするでしょ。個人的な関係なのは間違いないし」
「こ、個人的…!」
ルビーの勘違いに気付かないままミヤコは個人的に吉祥寺と硝太が仲良さそうにしていたのを思い出す。姉達の晴れ舞台に呼ぶ程だ。硝太から見ても貴重な人間であることは疑いようもない。
ミヤコが納得しているのを見てルビーはより動揺する。持っていたアイドル雑誌を落としたことにすら気付かずソファの上で小刻みに震える。それほどに硝太に彼女が出来るのはルビーにとって恐怖と言っていいもの。硝太の事を本人以上に、世界で一番理解しているミヤコが『個人的な関係』と言ったことでルビーの中では疑惑が確信に変わる。
「で、でもあの子教室でフリルちゃんに『おっぱい揉む?』って言われてたし!あの子そのままおっぱい触ろうとしてたんだよ!」
恋愛関係かどうか確かめる、という判定を超えてどうにか硝太と吉祥寺は恋人でもなんでもない、とミヤコに言わせようと昼食での一幕を打ち明ける。硝太がフリルの提案に乗らないならともかく乗っているのだから好感度はそれなりにあるはず。まさか恋人がいる男が清純派だろうがなんだろうが別の女性の体に触れるなんて常識外れな硝太でもありえない。人として最低──そうミヤコが考えて否定してくれたら、とルビーは内心で祈る。
「まぁ、あの子ならやりかねないわね」
しかし(最初から硝太と吉祥寺が恋人ではない仲のいい友人と知っている)ミヤコは疑うことなく若干微妙な表情をしながらも硝太ならやりかねないと言いきった。
最後の切り札と言ってもいいカードが効果なしと知り、ルビーの体の震えはさらに強くなり顔色が青くなる。
「どうしよう!お兄ちゃんみたいに女の敵になったりしたら!」
「うっ、
仕事で女と付き合うアクアと仕事の為に女と結婚する壱護がそれぞれの頭の中に浮かぶ。もしかしたらこのままだと硝太が仕事と私用で二人の女と付き合う二股男になるかもしれないと考えたルビーと目先の欲に負けて女と結婚するかもしれないと考えたミヤコのズレたままの考えがニュアンスだけとはいえ奇跡的に一致する。
方や硝太の兄として様々なことを教えた相手。方や硝太になにか教育した訳では無いが血の繋がった父親と硝太が影響される要素がどちらにもある。特にアクアのことは硝太も尊敬しているので幼子が兄姉のことを真似するように同じようなことをしかねない。
「もしかして!お兄ちゃんが帰り夜遅いのって…今度お兄ちゃんの仕事場行ってくる!」
硝太がアクアの真似をする、と考えた時にルビーの頭にはとある可能性が浮び上がる。
硝太がフリルのおっぱいを揉むなら、アクアはあかねのおっぱいを揉んでいるのではないだろうか。もしアクアがあかね相手にそんなことをしていたとしたら硝太が真似るのも不思議では無い。恋心持たれているとはいえ友人のおっぱいを揉むのと仕事とはいえ付き合っている女のおっぱいを揉むのならアクアの方がマシな気がする。がアクアはただの高校生では無い。芸能人、俳優。それ以前にアクアはアイの元に生まれた転生者である。転生する前が誰でどんな人間なのかはルビーも聞いたことがないが少なくとも転生前のルビー、天童寺さりな以上の大人だったことは間違いない。それだけの人生経験を持ち、尚且つアイの子として彼女が殺された理由に察しがついているだろうアクアが未成年相手にそんなことをしているかもしれない。可能性とはいえルビーにとって見過ごせる問題では無い。
「やめなさいルビー。舞台の稽古が長いだけよ、きっと」
今からでも稽古場に乗り込みに行きそうなルビーをミヤコが制止する。しかしルビーは止められたことでより自身の認識が正しいと確信してしまう。
「でもお兄ちゃんも硝太もいないし…なんでウチの男はみんなこうなの!」
ルビーの頭はピンク。転生前がさりなちゃんだからね、仕方ないね。
未だに硝太と吉祥寺の関係を恋愛(一歩前?)と思ってるせいで色々と勘違いするルビー。なんだかんだ頼子ちゃん身内の次くらいに仲良いから警戒枠ではあるというのが逆にノイズ。
そして「おっぱい揉む?」事件の流れ弾を食らうアクアマリンさん(16)。転生前の年齢足せば40、下手したら50言ってそうな男が女子高生に手を出すのは犯罪でしかないからね、仕方ないね。
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3月はこれで終わり。4月はこれまで出してなかったバットエンドやら幕間やらを出します。という訳で次回(本編は)は5月5日。こどもの日に更新となります。お楽しみに