B小町の三人の出番を減らさないための処置とも言う。
「生放送を、します」
斉藤家の中にある苺プロダクション事務所。
B小町の三人がいつも通りレッスンを終えたところにMEMちょが集合をかける。
チャンネル登録者一万人を超えたB小町のY〇uTubeチャンネルはその後も順調に増えていき、今は二万人に届きそうになっている。JIFに出たとはいえ、大手事務所の力も借りずにMEMちょと苺プロの実力と手腕だけでY〇uTubeチャンネルの中でも上位10%にくい込んでいる。それもB小町が出来てから半年程しか経っていないのも加えると実力の高さを感じられる。だが、収益として考えるとそれでも芳しくない。事務所の取り分を引いて三人で割ると小遣い程度の値段しかない。
そのためMEMちょが考えた案が生放送、つまりライブ配信。これまでは踊ってみたや歌ってみた、ちょっとしたチャレンジ動画に、苺プロのタレントとのコラボ等の動画を三人が暇な時に撮って出していたがライブ配信は編集の手間がなく、視聴者のデータ分析も出来る。臨場感が出たり、チャット等で視聴者も参加しやすくなる等メリットは多い。二万人の登録者がいれば人が少なすぎて閑散としている…ということはまず無い。
「いいけど、ネタはあるの?」
「もっちろん!ちょっと面白そうなゲームがあるからそれやりながら雑談とか」
しかし生放送となると編集出来るこれまでの動画とは毛色が変わってくるのも事実。有馬がその点を指摘するとMEMちょは待ってましたと言わんばかりに最近出たパーティゲームを取り出す。最近、とは言ってももう半年近く前に出た作品でもう色んな実況者にプレイされている。
「今更?」と言わんばかりの表情を隠すために有馬とルビーは顔を見合わせる。
「はいそこー!微妙な顔はしない!このチャンネルの視聴者層的にウケるの!」
MEMちょは今あるB小町のファン層のグラフを出す。女性アイドルらしく若者から中年層の男性ファンが中心。だがMEMちょが持っていたファンがそのまま来たのか女性ファンが他の地下アイドル等に比べてみれば比率が大きい。 今回の目的は新規ファン層の獲得というより既存のファン層の確認と彼らを離れさせない為の変わり種なので特殊なことをして大きすぎるリスクを負う必要は無い。MEMちょは偶に数年前のゲームの実況をすることがあり、その動画は女性層にウケがいいので今回も成功するだろう、そう見込んでいる。
「まぁいいけど。私達がこれやっただけでそんなに伸びるの?」
「勿論!秘策はあるよ。二人には内緒だけど」
家族層にウケのいいゲームでゲーマー御用達、と言われるようなテクニックが必要なゲームでは無い為B小町の三人がわちゃわちゃ騒ぎながらやるだけでもそれなりに画になる。しかし半年近く前に出たので他の有名投稿者と比べられて代わり映えしない、と言われる危険も当然ながらある。
こういう時はRTAや縛りプレイといった特殊なプレイをすることで視聴率を稼ぐのがやり方だがそれを出来るだけの知識も技量も三人には無い。ゲームプレイが主軸ではなくあくまで三人で楽しんでその様子を流すのが目的とはいえ何かしら爆弾が欲しいのも事実。それに対してMEMちょは何らかの秘策を用意する、と言うが有馬は肝心の秘策を隠すのに微妙な顔をする。
「よーし!やろう!」
有馬とは対照的に生放送をします、と聞いた時からウキウキしていたルビーが持ち前の純粋な笑顔を見せながら腕を上げる。元気でエネルギッシュなルビーに押されてさすがの有馬も溜息をつきながらも頷いた。
◇◇◇
──数日後。ライブ配信当日。
事前にB小町チャンネルで予告していたこともあり始まる前から待機している視聴者が数多くいる。
「皆さん!こんメム〜MEMちょだよ!」
「こんメム〜!ルビーでーす!」
「有馬かなです」
放送が始まると同時にMEMちょがMEMちょ自身の動画でもやってるお決まりの挨拶をするとルビーが元気にそれに乗っかり、有馬が普通に挨拶をする。
特に変わったことは無いいつも通りの動画撮影。だがカメラの奥にあるモニターを見るとチャットが流れてくるのが見える。中には始まって即スパチャを投げるファンもいてその内容すら多すぎる声に埋もれていく。スタートダッシュとしては上々、と言っていいだろう。
「いや〜B小町チャンネル初の生放送!みんなと迎えられて嬉しいよ〜」
「今まで色んな動画撮ってきたけど生放送は無かったもんねー。チャット見てるだけでも楽しいー!」
Y〇uTubeに慣れたMEMちょが先導してトークを始める。まだ慣れがない分より純粋に見えるルビーが普段の撮影とも違う真新しい環境に目を輝かせる。
「さて、今日の企画はーー最強CPUに全部のミニゲーム勝つまでまで終われません!」
「ミニゲーム…全部!?」
「おおー!!」
昨日有馬とルビーにみせたゲームのパッケージを再び取り出すと同時に今回の企画を発表する。
MEMちょが用意した企画はパーティゲームの中にあるミニゲーム全て勝つまで終われない、いわゆる耐久系の企画である。
初めての生配信にしてはかなり冒険したと言えるネタだがB小町のファン層の大半がMEMちょの個人チャンネルから流れてきたファンなのでMEMちょらしい動画は基本的にウケがいい。
ゲームの起動等の準備は当然済ませてあるので三人は画面を見ながらプレイするだけ。テレビ番組のようにワイプで3人の様子が表示されるがワイプのため三人の映る割合が減る代わりになにか起こっても隠しやすい。
「全12種ある3対1のミニゲームの相手をCPUにして全部で勝つって感じだね。」
こういったパーティゲームには多数のミニゲームが収録されており、家族や友人と楽しむ…のだが一応人数合わせのCPUがレベル別で存在している。このゲームは最大4人で遊ぶゲームなのでCPUは一人。MEMちょが言っているのはその最大レベルのCPUに全てのミニゲームで勝つというシンプルなもの。…なのだが無論それだけでは無い。
MEMちょに言われた通り相手は高難易度NPCだと思ってコントローラーを持つ有馬とルビーの2人を横目にMEMちょが何やら悪い笑みを浮かべる。チャットでも何人かMEMちょの企みに気付いたが他の内容に流されていく。
「んじゃ早速やっていこうか!」
「オー!」
ゲームは最初から起動しており、三人は事前にそれぞれが選んだキャラクターを操作する。当然CPUもキャラが決められており、ミニゲームを左上から始めていく。
シンプルな鬼ごっこから何が起こるのかわからな運試し、一人になったプレイヤーが残りの三人のプレイヤーをひたすら邪魔するようなものまで数多い。プレイヤー同士のバランスが取れていないゲームが多く見えるのは無視していいだろう。
「じゃあまずこれ!」
勢いのままにルビーが最初に選んだのはシンプルな鬼ごっこのゲーム。三人のプレイヤーが逃げて一人のプレイヤーが追いかけるだけ。鬼ごっこの環境を変えるような変わったアイテムや仕様もない、ただプレイヤーの速度差に余程上手くなければ気付かない程度の差。三人の方は時間以内に全員捕まらなければ勝ちの三人が有利にしか見えないミニゲーム。CPUのレベルが高いので簡単とは行かないだろうが肩慣らしには丁度いい難易度になるだろう。
「なに、簡単そうじゃない。一発で終わるわね」
「ふふふ、それはどうかな」
「なんでMEMちょが言うのよ」
ゲームのルールを読んだ有馬もバランスの悪さに気づき余裕だとCPUのレベルの高さと耐久動画と聞いた時には驚いていた顔も安心する。
しかしMEMちょは最早なにか種があることを隠す気もないのか口角を上げて悪い笑みを見せる。最早スパイである。
そうこうしているうちにミニゲームが始まる。狭めのフィールドに登場する4人のキャラクター。中央に『鬼』となる一人のキャラクター。そこから少し離れた先にB小町三人の操る『子』となるキャラクターが並んでいる。
「3、2、1。スタート!」
3、2、1とカウントダウンが終わったあとに全てのプレイヤーが一斉に走り出した。鬼と子の速度はほぼ同じ。大きなミスをしなければ捕まることは無い。
──が、まず初めに離れていたはずのMEMちょが捕まった。
「はい?」
呆気なく三人の中で最も経験のあるMEMちょが捕まり、先程まで何やら企んでいるのが窺えた本人が一番驚いている。生放送中であることも忘れて呆けた声を出してしまったのがその証拠。
別に鬼側チートを使ったわけでもない。ただ別のキャラを狙っている鬼を物陰から大きく回って距離を稼ごうとしたMEMちょを最短距離でそのまま詰めて捕まえただけ。操作テクニックというより戦術の知識がある。
「嘘早!」
驚くMEMちょを尻目に驚きのあまり判断が遅れたルビーを捕まえ、そして全く無駄のない動きで有馬を捕まえる。
次に画面に映ったのが完全勝利したCPUのキャラのガッツポーズとその少し奥で悔しそうな顔をする三人のキャラクター。明らかに『子』側が有利なゲームでこの大敗は前途多難を感じられる。チャットも盛り上がり始めるが差を理解させられた三人は乾いた笑いをするしか無かった。
◇◇◇
一時間後。
「何よ…これ」
全12種類あるミニゲームを全てやったが完全な運ゲーはともかく他のゲームは全然勝利出来ない。特に最初にやった鬼ごっこと射的のようなゲームの二本はやればやるほどB小町側の動きが良くなっているのに全く差が縮まらない。全く同じ映像が流れてばかりにならないように途中でトークを挟むようにしているとはいえ配信から一時間が経過しチャットも中々落ち着いてきた。MEMちょが自身のチャンネルで所謂『クソゲー』と呼ばれるゲームの実況をした時のような反応に近く『これならミニゲームで全敗するだけのスゴロクとかの方が良かったな』と後悔するMEMちょだったが今更遅い。
「もうこのミニゲームのプロになりそうだよぉ…」
そういうMEMちょだが一度も勝利していないことを忘れてはならない。
「ねぇ、そろそろ教えて貰ってもいいんじゃない?──CPUの正体」
「な、なんのことなかぁ!?」
その中で有馬がMEMちょの方を向いて事件の真犯人を追い詰める探偵のように追求を始める。流石にバレたか、と思いながら最後の抵抗に震える声ではぐらかそうとしてみるが有馬が黙ったまま見つめるので素直に両手を上げて降参のポーズをとる。
「CPUの正体って…レベルの高い敵!ってやつじゃないの?」
「それならCPU選択から見せるでしょ?それに一部のミニゲームにだけ異様に強いなんてCPUらしくないわ。誰かいるんでしょ?」
状況がわかっていないルビーがMEMちょと有馬の顔を見比べる。純粋なルビーは疑わずにMEMちょの言ったCPUという言葉を信じたが有馬は最初から疑いを持っていた。事前にMEMちょが『秘策はある』と言っていたのに未だにそれを説明しないことから何らかのサプライズがあるのは間違いない。
そして今回の企画を視聴者に分かりやすく見せるのならCPU選択画面から映すはず。なのに最初、それぞれがキャラを選んだ場面から見せられているということは──CPUの中身は最初から人間、ということになる。
「ふっふっふ…バレてしまってはしょうがない。ネタばらしと行こうか!」
有馬の(名)推理にMEMちょはその場から立ち上がり、悪役のように笑う。角のせいもあり、悪魔のように見える。
事前にバレることを想定していたのか、MEMちょがパチンと指を鳴らすと何処かから現れた
「えっ、もしかしてアク──」
いくら力をつけてきたとはいえ地下アイドルからちょっと頭出た程度であるB小町と自然に絡むのならネットタレントを多く抱える苺プロの中から出すのが理想的。その中でB小町と客層がそこまで変化せず三人と仲がいい人。となると自然と限られる。
その条件から画面の先にいる人間はアクアだと予想した有馬は若干頬を赤らめながら画面の方を向く。そこに居たのは──
「ぴーよぴよぴよ!出張ぴえヨンチャンネル〜!」
──ひよこ頭の被り物を被ったアヒル声変質者だった。
思わぬゲストにチャットが盛り上がる。子供層に人気のあるぴえヨンだが、名前が知られていないわけでは無い。特に有馬とルビーにとっては最初のY〇uTubeでのコラボ相手にあたる。最初の生放送でゲストとして出てきても不思議では無い。
「──ってあんたかい!」
「ぴえヨンお久!」
アクアを期待していた分肩透かしを食らって有馬は流れるように鋭いツッコミを入れる。ルビーは自然と手を挙げて挨拶する真逆な反応をぴえヨンはそんなことわかってましたよと言わんばかりにぴーよぴよぴよ!、とキャラのまま高らかに笑う。
「今回はB小町チャンネル初めての生放送ってことでーボクがハードなお相手してあげようと思ってネ!ぴーよぴよぴよ!」
「あーそういえばぴえヨンに勝たないと終われない耐久だったねぇ」
フレンドリーな登場の仕方から一変変わって闇っぽいオーラを出しながら難敵であることを象徴して高笑いを決めるぴえヨン。──そう。あくまで高難易度CPUの正体がぴえヨンだっただけであり、倒さなければいけないことに変わりは無い。
覆面筋トレ系Y〇uTuberという謎ジャンルのぴえヨンだがYou〇uberとしての経歴も長く、それ一本で食べているようなプロやゲーム系Y〇uTuberと比べたら雲泥の差ではあるが何故か妙にゲームが上手い。
MEMちょが小悪魔ならぴえヨンは最早魔王である。ひよこ頭だが。海パンと覆面しかつけていないほぼ全裸だが。
「───ならこっちも切り札を切らせてもらうよ!」
「え?ルビー?」
高笑いするぴえヨンに腹を立てたのかルビーがモニタの方に指を指しながら「切り札」を使う。MEMちょも、有馬も知らないルビーの切り札。
つまり企画にもない。メンバーに隠したとはいえ一応話を通していたMEMちょよりやりたい放題な暴挙である。
「相手がぴえヨンなら──やっちゃえ硝太!」
ルビーの指先がカメラの向こうへと移る。まさか視聴者参加型か!?と謎の反応を見せるチャットを無視した先にいるのはモニタを置いた硝太が突っ立っていた。当然B小町のメンバーでなく今はマネージャーですらない硝太に白羽の矢が立ち、指を刺された硝太本人ですら理解出来ずに辺りを見回す。
有馬とMEMちょはと言うとあまりの自由さに絶句している。
「え?やるの?マジで?」
「お姉ちゃん命令!さぁ!ぴえヨンを倒しちゃえ!」
お姉ちゃん命令という単語に「ルビーちゃんの弟!?」「新メンバー!?」とチャットが変な盛り上がりを見せる。因みに硝太はルビーの弟ではあるが新メンバーでは無い。しかし姿を見せたのは左腕に三角巾を巻いた小学生にしか見えない男の子。同年代や年上の男性ならともかく、恋愛対象としてみるのなら小さすぎる硝太にチャットがまたも盛り上がる。
「…っと言うわけだ。さぁ!地獄を楽しみな!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
お姉ちゃん命令を出されては仕方がないと渋々といった様子でルビーのコントローラーを持つもやる気が籠ったキメ台詞を言い放つ硝太とキャラを忘れて悲鳴をあげるぴえヨン。
数分後、モニタには負け続けた結果最早絞りカスと言われるまで萎れたぴえヨンの姿があった。
という訳で久しぶりのゲームネタでした。久しぶり…というか一話まるまる使ったのは初めてっすね。
今回使われたこのゲーム元ネタはMiiパ〇ティー、ゲームバランスはマ〇オパ〇ティーなんですけど、ぶっちゃけデッドバイデイライトみたいなゲームやらせたかったなーっと。
というか解説が多くて全然進まなかった…まぁ番外編をそんなテンションで書いてるわけないからいいんだけど。ストックもほとんどないので続きは次回に。
そもそもアイドルって歌動画以外に動画って出すのか?って調べてみても全然分からなかったのでこうなりました。アイドルと検索しても曲の方しか出てこなかったのは原作のことも考えると笑うしかない。アイドルの曲が出なければ僕が『推しの子』に気付くことなくこの作品書くこともなかったから抜け道がない。
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ぴえヨンは硝太にボコされる運命だったのだ。