【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
硝太が最近帰りが遅いことを気にするルビーとミヤコ。ミヤコは硝太が家政夫をしていると言い当てるもルビーは硝太が吉祥寺の家まで通い妻をしていると勘違いする。

結論。ルビーの頭はピンク。


久しぶりの本編です。それではどうぞ


#77 放課後推理部(一)

 放課後、陽東学校屋上。

 日が暮れた時間帯に硝太は一人でその場所にやってきた。右腕を掲げるとそこにヘルメスと名付けた三本足の八咫烏が着地する。

 

「おかえり、ヘルメス」

「カァッ、カァッ」

 

 無事を確認したあと近くの柵にヘルメスを移動させて、ポケットに入れていたパンくずを口元に投げる。硝太が連絡係としてヘルメスを預かってからもう1ヶ月以上の時が過ぎた。対人の時と違い最初から警戒心の薄い動物相手ということもあり、硝太が積極的に関係を築きに行っていることもあり、二人の関係は悪くない。傍から見ればペットのカラスと飼い主の子供の微笑ましい風景。その一人と一羽の後ろに一人の少女が音も立てずに現れる。

 

「全く──八咫烏に名前をつけるなんて怖いもの知らずだね、君は」

 

 ヘルメスこと八咫烏の元の飼い主。ツクヨミ。彼女の身の回りには何羽もの八咫烏が飛んでおり、ヘルメスを硝太との連絡係になる前はその内の一羽だった。

 ツクヨミが来たのを確認したヘルメスが柵から飛んでツクヨミと硝太の頭上を円を描きながら行き来する。他の八咫烏も周辺を飛んで周りを警戒し始める。八咫烏達は今から何が始まるのかを知っているのもあるが察しがいい。硝太も余計なことを考えずにツクヨミに話しかける。

 

「僕を刺したストーカー、死んだってさ」

「へぇ、そう」

 

 殺人未遂の犯人とはいえ、人が死んだと聞いてもまるで世界の裏側のことを聞いているように無関心なツクヨミ。特に表情を変えず恨みも楽しみも何も感じさせない。硝太も他人は警戒する程度でどうなろうと知ったことでは無いという考えなのでその辺はよく似ている。

 硝太にとって必要なのはツクヨミがストーカー犯の死をどう感じるのか、ではなくストーカー犯がどう死んだのか、についてだ。自殺と思うのか、他殺と考えるのか。凶器は?方法は?死ぬにしてもタイミングをどう思ううか。問題はそこにある。

 

「どう思う?あの時の動く死体(リビングデッド)を作ったやつらが動いたと思う?」

 

 はぐらかされないように余計なことを言わずに直球で聞いてみる。ツクヨミは何か悩んでいるのか少し頭上を飛ぶカラス達を眺める。

 

「どうだろう。ストーカー犯とあの動く死体(リビングデッド)を作ったやつが知り合いとすら限らないし」

 

 ストーカーの共犯者が動く死体(リビングデッド)を作ったという推理もこの前機能停止した動く死体(リビングデッド)を調べていた際に出てきたものでしかない。ストーカーに共犯者がいる可能性は依然として高いが証明出来る訳でもない。仮に居たとしても動く死体(リビングデッド)を作れるようなインスタントバレットならともかくただの人間に警察の庇護下にあるだろう人間を殺すのは相当厳しいと言わざるおえない。まずはストーカーに共犯者がいた事を特定して、動く死体(リビングデッド)を作ったインスタントバレットと共犯者が同一人物であることを証明しなければならない。当然、そんなことが警察的な知識もなければインスタントバレットの知識も少ない硝太達がするのは無理がある。

──だが、硝太は首を横に振ってツクヨミを否定する。

 

「いや、それはないよ。ストーカーに共犯者がいて、そいつがまだ自由なこと事実だ」

「それはあくまで消去法だろう?他に何も無いって言い切れる?」

 

 これまで消去法でその可能性が高い、と言われていただけで確定していなかった共犯者の存在を硝太はいると言い切った。インスタントバレットを持っている、動く死体(リビングデッド)を作っている等も言っている訳では無いが、それでも共犯者はいると言い切った。

 

「そうじゃないとあのストーカーの動きがちゃんとしすぎているし僕の腕を撃った拳銃が見つからないのがおかしい」

 

 指示役や情報元、武器の密売等あのストーカーには必要なものが欠けている。銃で撃たれた硝太の血を拭き取ったのもストーカー本人とは思えない。最低でも一人はあのストーカーに仲間がいる。そうてもなければ計画自体はちゃんとしているのに所々の動きが杜撰なことに説明がつかない。途中から作戦を崩してその場のノリで動いたという雑な動きで人を殺しに行く者はまず居ない。

 

 ツクヨミは何か知っているのか目線を硝太からずらして再びカラスの群れを見上げる。初撃の銃撃とcolorful(カラフル)の行動を省くと住宅街に入ったあとに後ろをつけてナイフとハンマで強襲。大枠の作戦は単純なものだ。しかし男はフリルの部屋の鍵、もしくはマスターキーを事前に持っており準備はされ尽くしている。そのくせヤク中のように見えてしまうように動きは杜撰だった。もしストーカーが完璧に殺人を犯せていたのなら、硝太が万全だとしても防ぐことは出来なかっただろう。作戦立案者とストーカーが同一人物としてみるのは無理がある。

 

「けど本当にその共犯者が殺したのかな。そもそも警察が守っているストーカーが本当に他殺なのかも怪しいよ。人には良心ってものがあるし、ファンなら傷付けたと思って自殺したとしても別におかしくないんじゃない?」

 

 ツクヨミの言う通り共犯者では無い第三者がストーカーを殺した可能性もあれば本当に自殺の可能性もある。

 共犯者がなんの能力もないただの指示役なら警察が守っているはずの男を殺すのは不可能に近い。まだ脱獄させてから殺す方が簡単と言える。まだ共犯者と動く死体(リビングデッド)を作った相手が同一人物と判明していないので硝太の推理はあくまで妄想でしかない。

 硝太自身、それはよくわかっている。ストーカー事件の際は少ない情報からの推理だけで否定することなく大きく1回頷くと口をゆっくり開く。

 

「それは今から調べる。だから協力してもらうよ──フリル」

 

 ツクヨミが驚いて屋上の入口の階段の方向を向く。そこには階段を登ってきたフリルの姿がいる。

 フリルは見知らぬ少女がいても平然としたまま黙って頷く。見知らぬ、と先程言ったが実際はcolorful(カラフル)との戦闘でツクヨミが割り込んだことがあるためこれが初対面という訳では無い。ただその時フリルは七辻のインスタントバレットに混乱していた為、彼女からすると初対面になる。初対面かつただならぬ気配を纏っているツクヨミだが事件に巻き込まれ、インスタントバレットの戦闘を目撃してしまったフリルにとってはもう驚くような存在でもない。

 

「君──やったね」

 

 明らかに硝太に呼ばれてきたフリルを見てツクヨミは硝太を睨む。ツクヨミがただの少女なら友人を紹介する程度なんてことは無いがツクヨミは所謂『神様』であり普通の人間とはまた別次元の存在と言ってもいいほど違う。ただインスタントバレット同士の戦闘を見たことがある程度のフリルがおいそれと会っていい存在では無い。

 だが、硝太にとってそれはどうでもいいことである。

 

「別に隠してない。秘密主義ってわけじゃないしいいでしょ」

「神秘の秘匿っての知らないの?」

 

 ツクヨミに睨まれても硝太は何も気にする事はなく、むしろ睨まれている理由を理解できず首を傾げる。

 ツクヨミの存在感や気配は通常の人間のソレとはかけ離れているが自身も類に漏れない存在であることと社会経験の無さからかツクヨミを人に合わせることに抵抗を感じない。本人もツクヨミの神域を感じ取れるだけのセンサーはあってもそこからどうするべきかを導き出すだけの社会常識がない。器の年齢が見た目通りの少女であるツクヨミ以上にない。この点はツクヨミの数少ない想定外である。

 

「ツクヨミさん、で良いんですよね?」

 

 常識のズレ会話が成り立たない硝太に変わってフリルがツクヨミに話しかける。硝太相手に気さくに話しているとはいえツクヨミは神と同じ名を持つ者。神そのものとすら言っていい。明らかに人とは違う異質な気配。芸能人として特殊な人間を多く見てきたフリルだが、今まで見てきたソレとはかけ離れている。

──けど、硝太に似てる。

 気配の質というか、勘というか。あくまで経験上のものでしかないが神を名乗る少女(ツクヨミ)と魔法使いを名乗る少年(硝太)の存在感は似ているように感じる。そのせいか普通の人間と思っていた硝太がまるで神の一部のように感じてしまうのは、きっと間違いではない。魔法使いというのは普通の人が言う『変わり者』とはまた違う意味で『異常者』なのだと近くにいるだけで理解させられる。面白い、ネタになる言葉では無い。映画を見た後に硝太が言っていた『異常』という言葉の意味はあの時想像していたものとはレベルが違う重さを持っていたと反省させられる。

 

「うん、構わないよ。君は斉藤硝太()のガールフレンドってことでいい?」

「はい!」

「しれっと嘘情報流すな。ほら見ろ、混乱してる」

 

 フリルに声をかけられて、数秒固まっていたツクヨミだが直ぐに何事も無かったように営業スマイルのような笑顔を作り、気さくに話に応じてくる。

 ツクヨミがフリルをどう見たのか、フリルには預かり知らぬ話だが、どうやら硝太の彼女と見えたらしい。運がいいので外堀を埋める意味でも元気に頷く──も、即座に硝太自身に切り捨てられる。

 

「呆れた。もっと人生楽しんだ方がいいよ」

「うん、こっちもそのつもりだったけどね。ストーカーが死んでフリルだけを狙うのか他にもターゲットがいたのか確認出来なくなったから、そうも言ってられなくなったんだ」

 

 ストーカーがフリルだけを狙う予定で計画を組んで事件を起こしたのなら、ルビーを始めとしたB小町や他の苺プロの仲間達が狙われることは無い。その場合硝太は特に干渉する気はなかった。ストーカーは捕まり、共犯者がのに放たれたままだとしても硝太の仲間や家族に危険は及ばないから。だが、ストーカーが()()()()とするなら話は別だ。共犯者の情報を喋るからと殺されたとしても態々危険を犯してまで殺しに行くとなるとストーカー本人が今後の犯行に邪魔となる情報を持っていた可能性を考えなくてはならない。その場合次の犯行があると予告しているようなものだ。ターゲット不明、だが事件は起こるとするなら今まで事件の経緯を調べていた硝太も作戦を変えざるおえない。

 

「まずは互いの情報を交換しよう。動く死体(リビングデッド)のことについても、ね」

 

 硝太の右目が青く輝く。ツクヨミはそれを見て気まずそうに目を逸らし、フリルはその瞳から目を逸らすことが出来なくなる。

 嘘が極端に下手なせいで全てが本気だと分かる硝太だがその中でも際立つ気迫にフリルの背中に冷たい汗が伝う。ツクヨミの気配とはまた違う、体形は人以外の何者でもないのに現実離れてした異質すぎる何かを感じる。まるでアニメや漫画に出てくる大型のモンスターが突然目の前に現れたような、夢の中の話だと思っていた化け物がこちらに目を向けた時のような。

 

「ここでかい?」

「んー場所変えるか。いい場所知ってるんだよ」

 

 黙って棒立ちになったフリルの代わりにツクヨミが周辺を見回して話を切り替える。硝太は青く輝く右目を軽く閉じて威圧的な気配を消し、場所を変えることを提案する。

 今のところ八咫烏に周辺を見張らせているが長時間飛ばすと世界の端っこやcolorful(カラフル)はもちろん一般人にも気付かれて変な噂も流されかねない。時間帯的に生徒はともかく教師はいてもおかしくない。こんな場所で長時間インスタントバレットのことやら事件のことやら話す訳には行かない。一般人ならともかく他のインスタントバレットに聞かれたらまた厄介な問題に発展しかねない。長話をするなら彼らの目がない場所に移った方がいい。

 

 

「…いい場所?」

 

 それはそれとして社会経験のない硝太が紹介できる場所などそう多くは無い。硝太の性格上危険な話を自宅や自室等家族に聞かれる可能性の高い場所ではしたがらないのは分かる。公共の施設は論外として他はもう路地裏等の元々人の目が届きにくい場所になってしまう。

 だが、そんな予想を遥かに超える案なのか硝太はいたずらっぽく微笑む。

 

「ああ、いい場所だよ」

 

 いたずらっぽい笑みにフリルとツクヨミは顔を見合わせる。互いに最悪の想像が被ったのは言うまでもないことである。




今回はパーティ編成みたいな回です。
ルビー+みなみ+フリル+硝太の昼食仲良し四人昼食組は結構出番多めにするように気をつけてますが今後はフリル+ツクヨミ+硝太も出てきそうですね。外堀埋めにかかるフリルとそれに気付かない天然合法ショタ。「おっぱい揉む?」等のフリルのフリーダムなところちゃんと表現できてる…と思うけど、ムズいな。なおツクヨミさんはフリルをしれっと応援してる模様。そりゃ貴女の視点から見たら楽しいよな。
フリーダムな超絶売れっ子マルチタレントとシリアスな雰囲気纏った天然合法ショタ。この二人でどっちが異常者かと言われたら普通は前者なんだろうけど本作では圧倒的に後者です。


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硝太、ミヤコさん狙われてるの知らないのはいえ結構気楽だな…
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