他の人に話を聞かれない場所として硝太はアビ子の住む部屋に二人を招き入れる。その中でツクヨミによりインスタントバレットの魔法の源となるものが人の持つ「悪意」だと知らされる。動揺してしまうフリルだったが硝太の様子からアイの死が関係していると推測する。
その後三人で推理を続けていく時に『オペラ座の怪人』という舞台のキャラクターが硝太を襲った
オペラ座の怪人。
時は19世紀のパリ。醜い姿で生まれた怪人は美人な歌手、クリスティーヌに恋をする。
怪人はクリスティーヌにいい役を与えるため舞台のシャンデリアを落とし主演の女優に怪我を負わせる。怪人の狙い通り舞台の主演を勝ち取ったクリスティーヌだが、その舞台で幼馴染にして貴族のラウルという男と再会し恋に落ちる。
二人に嫉妬した怪人はクリスティーヌを誘拐し自分のものになるように求婚される。その時仮面に隠された姿をクリスティーヌに見られてしまうが一旦家に帰宅することを許される。
その後、ラウルと怪人はクリスティーヌを巡って争うことになるがとある舞台の上演中、乗り込んできた怪人にクリスティーヌを誘拐されてしまう。ラウルは二人を追って怪人の隠れ屋に辿り着くがそこで怪人に首を絞められてしまう。そして怪人かラウルか突きつけられたクリスティーヌは怪人にキスをする。その姿に感動したのか怪人は二人を解放する。
◇◇◇
「こんなところか」
ネットで調べた『オペラ座の怪人』のストーリーを読んで疲れを感じた硝太はスマホを机の上に置いて近くの椅子に座る。古い物語だからなのか舞台よって細かいところは違うが大筋としてはこれで間違っていないはずだ。
「この物語が何かあったの?」
机の上に置かれたスマホに表示された『オペラ座の怪人』から派生した多くの物語を軽く読んだツクヨミは疲れた顔を見せている硝太の顔を覗き込む。硝太の様子は様子はJIFや入学式の時など多くの人がいる場所に入った時に人酔いしたのに近い。
あかねの時やったように普段なら多くの情報を捌くのはむしろ得意分野であるはずなのに明らかに疲れているのに疑問を持っているようだ。感情が動かされるのが苦手なのか、怪人のような猟奇的な愛に耐性がないのか。何か気分を害することがあったのか硝太の顔色は悪い。
「僕は最初神話や伝承は過去にインスタントバレットやそれに近い能力者が関わってるって思ってる。インスタントバレットに何らかの条件があるのなら過去発生したものと似通ったりする可能性は大いにある。僕はそれを前提として神話や伝説の能力からアタリをつけていたんだ」
神話や伝説はフィクション、存在しないものとしてとして扱われる。現在のように読んで楽しむための物語、というのでもあったのかもしれないがその目的としてはその国や地域の支配者の威厳や伝統の保護、生活の知恵等多くの情報を未来に渡すためのものである。
しかし神と同じ名を持ち、そのような性質を持つツクヨミが存在する以上神はいる。神話や伝承があるから生まれたのか、ツクヨミのような神がいるから神話や伝承が生まれたのか。卵が先か鶏が先か、のような問題が生まれるが本質としてはそこは問題では無い。神が人なのか現象なのか存在なのかは別としてそう言う能力者がいて神格化されたのなら今こうしてインスタントバレットという魔法使いがいるのもおかしな話では無い。そして能力は全てが自由では無い以上、何らかの枠や分別がある。生存や未来にとって都合のいい進化した個体が生き残って行くように。ならば神話や伝承の能力は今でも引き継がれていくものがあるのではないか。──それが硝太の推測だった。
ツクヨミはその言葉を否定しない。否定出来ないのか、否定する気がないのか。どちらにしろ彼女は自らの力をひけらかすことも隠すこともしていない。その必要すらない、と判断している。それは信用されているから、敵にすらならないからと判断されているからではなくそういう考えすら思い浮かばないほど使いこなしているからだ。例えば日本人で箸が使えることをひけらかしたり、自慢するものはいないだろうが、外国人観光者ならよくある事だ。彼女からすれば魔法は使用できるもの、出来ないものの差はあるが当然のようにどこかにあるもの、と考えていることになる。だからその推測を正しいと感じていたのだが、少なくともストーカーの共犯者はそれには当てはまらない
「けどフリルのおかげでわかったよ。こいつのインスタントバレットは既存の伝説や物語に当て嵌める支配の魔法だ」
「あのさ、確かに見た感じ
突拍子もない、とまでは行かないが先程までの推測をぶん投げるような推理にツクヨミもため息をついて指摘する。
確かに包帯を仮面と見立てれば
しかし先程までのとは違い硝太はこの推理で確信しているようでツクヨミの指摘を首を振って否定する。
「いや、少なくともストーカーの共犯者によって決められていたものだ。無駄に思えた愚行も、全部が実験だったとすれば筋が通る」
硝太の中では答えとして確信しているようだがツクヨミはもちろん、最初に「オペラ座の怪人」の名前を出したフリルでさえも理解出来ずにお互いの顔を見て顔色や表情を確認する。二人とも分かっていないと知るとスマホを取ってまた別のことを調べ始めている硝太の後ろに回って追求し始める。
「君…不知火フリルのストーカーもインスタントバレットだって言いたいの?」
「正しくは能力の影響下にあった、だね。そもそも教唆の犯人が近くにいること自体おかしいんだ。共犯者からすればフリルの生死なんてどうでもいいことだからね」
「…」
残酷な事だけどね、と小声で硝太が付け加える。
硝太の左腕を撃ったストーカーの共犯者。彼は不知火フリルに何らかの恨みや妬みを持っていた訳では無い。硝太を撃った直後から姿を消しているのが何よりもの証拠だ。共犯者にとってフリルの生死は、というより実行犯の成功はどうでもよかった。──否、口を割る危険があったからと殺してる可能性が高い今考えるとどうでもいいというのは少し違うだろうがフリルの生死自体はどうでもよかった。
ならなぜ共犯者はあの場にいて硝太とフリルを見ていたのか。教唆の証拠にならないとはいえ目をつけられる可能性が高く、実際に拳銃を発砲して別の犯罪を犯してしまうというミスをしてまで。
「でも共犯者はそれを重要だと考えた。それはあくまでストーカー犯がインスタントバレットの実験台だったから」
その理由として考えられるのは実行犯を見たかったから、以外にない。あの場に実行犯がいたのかどうかは分からないが共犯者は実行犯をインスタントバレットの性能実験として利用した。インスタントバレットは最初から説明書がついてくるような能力では無い。扱い方どころか、そんな能力があるのかどうかすら証明できないあやふやな魔法だ。もしかしたら共犯者は今この時ですらインスタントバレットの存在に気付いていない、自身のコミュニケーション能力等を使った教唆だと考えている可能性すらある。
恐らく、実行犯は最初から不知火フリルを襲う理由を何か持っていた。これは彼がフリルのファンだった、ライバルタレントの所属会社の関係者だった、それ以外でもなんでもいい。最初から襲う気がなくても、ただ動機として考えられるものがあればあとは警察が適当に片付けてくれる。それを知った共犯者はまず不知火フリルの事務所と繋がりを持ち不知火フリルの家の住所を調べさせ、うさぎのぬいぐるみを送るなどの下準備を済ませる。
あとは最初に選んでいた人間をインスタントバレットを使って傀儡とした。まだ、その魔法の全貌は掴めていないので細かいところは分からないがそうして傀儡化させた人間を不知火フリルのストーカー殺人実行犯として送る。そうすればうさぎのぬいぐるみを送ってきたストーカーが直接手を出してきた、と誰もが考えるだろう。もちろんフリルの部屋の鍵を開けたマスターキーも共犯者が用意したものだ。
「根拠は?」
「打撃がほとんど効いていなかった。相手のガタイは良かったけどいくら鍛えているとはいえ人体なんて脆いものなら僕は簡単に壊せる。人はそんなに強い生き物じゃないのに、相手は全くダメージになっていなかった」
硝太が人体を破壊出来るかどうかはともかく、急所を徹底的に詰めた攻撃が効かないのはおかしい。ただ鍛えた程度で人の耐久力はそんなに変わらない。急所は特に鍛えられてもそこまで変わらないだろう。
そしてその特徴は実行犯に加えて、
しかし傍から聞けば硝太の打撃力が弱い事の言い訳をしているようにしか聞こえない。硝太の身体能力の高さを知っているフリルでさえもストーカーに好き勝手された言い訳をしているとしか見えない姿なのが絶妙に情けない。
「どういう事?」
「慣性の法則みたいなもん」
「それで分かる人は最初から知ってる人だけでしょ。ん〜と。君に分かりやすく言うのなら、脚本みたいなものだね。ドラマとか映画を撮るって時にみんな好き勝手してたら話がまとまらないだろう?全員が主役じゃない。ヒーローがいるなら悪役がいて、悪役がいるなら被害者がいる。その人達がちゃんと自分の役目を果たさないと作品は成り立たないよね。その流れを守る力ってとこかな」
悔しいのか言い訳っぽい言い方の硝太の言葉をツクヨミがフリル目線で出来るだけ分かりやすく説明する。
伝承防御、プロットアーマーと言うべきだろうか。物語の登場人物、倒されるべき悪役であろうと倒されるべき瞬間というものが存在する。魔王が勇者にしか倒されないように。悪い女王様はお姫様が王子様に助けて貰ってから倒されるように。そういった決まった流れに沿おうとする力が存在する。決まった動きを保持しようとする慣性の法則を硝太が出したのはそういう意味だろう。
こういった概念は神であるツクヨミにとっては親しみがあるものだが、一応一般人であるフリルにしてみれば馴染みなんてあるはずのない。
ツクヨミの説明を聞いて納得したフリルはまだ顔色の悪い硝太の方を向く。こうして見ると顔色が悪い理由は自分が好き勝手殴られた時のことを思い出したからのように見える。確かに面白いことであるはずがないし気分が悪くなるのも無理は無い。
「最初は薬でもやってるのか、って思ったんだけど警察がそっちルートに探る気配を入れてないから、きっと無かったんだろ」
いつの間に警察の動きを見ていたんだ、と言いたくなるのを堪えながら背後から硝太のスマホを確認する。
スマホには最近の薬物事件を纏めた資料がPDF化されていた。入院中、時間があるからと事件のことについて纏めた情報でその中には最初に疑いの目を向けたマリアドラッグの存在もある。快楽や幻覚が見える訳では無いが強い毒性のある薬はドーピングとしては使い物にならない。
「マリアドラッグ…」
最近世間を賑わせた違法薬物。その裏にはインスタントバレット、それも陽東学校にいる藤波木陰が関係している。彼女は明らかに硝太を目の敵としており、彼女たちのようなインスタントバレットの組織『世界の端っこ』に入れないように手を回していた。インスタントバレット同士、というより二人の相性は最悪と言える。それでも引き合う運命なのか、互いのことは調べ尽くす。きっと、硝太は藤波木陰とマリアドラッグの関係に気づいているのだろう。ツクヨミは手を伸ばしてスマホを取ると画面を消灯させる。
「あっ、おい」
「いいじゃん別に」
当然急にスマホを取られたことに怒った硝太がツクヨミからスマホを奪い返す。藤波木陰の事で気を悪くしているようには見えない。しかし特に考えずにスマホを取ったのでツクヨミは謝ることも説明することもせずにまた硝太のスマホに手を伸ばして、その手を硝太に叩き落とされる。
「じゃあそのストーカー犯も「オペラ座の怪人」?」
「それは無いと思う。あいつ仮面も何もしていないし家に襲撃しに来ただけだ」
「じゃあ仮説はできてるんだ」
子猫の喧嘩のようにじゃれあって二人を見せられているフリルは若干不服そうに頬を膨らませながら話題を戻す。
「多分。多分、だけどね…あいつに被せられた役は──」
白いバラの花束。ナイフという得物。そして、元々襲う対象が芸能人だという点。
そこから導かれるのはただ一人。
「貝原、亮介だと思う」
アイを殺した、ストーカー殺人の実行犯しかいない。
ストーカーの共犯者のインスタントバレットが明かされました。
…チームX(仮)とか使われてはいたけど即無くなる見切り発車クオリティ。当然今日出た魔法は漫画のインスタントバレットには欠片も登場していないものです。硝太もだけどね。
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今後舞台元ネタの敵が出た時はフリルだけが頼りになる