アビ子の部屋でインスタントバレットの魔法について考えていた三人はそれぞれの知識を持ち寄った結果ストーカーの共犯者のインスタントバレットの魔法が物語のキャラクター等の枠に相手を洗脳、支配する魔法だと推理する。硝太を襲った
話が終わり、硝太は疲れた顔のまま台所に入る。話を聞くとアビ子先生の家政夫手伝いをしているらしく、毎日のように食事を作ったり掃除をしたりしているらしい。私達は兎も角姉のルビーにすら遊びに行くとしか言っていないようで「秘密にしておいて」と口止めをされてしまった。
ツクヨミはそんなことを気にする性分では無いので二つ返事で了承したがフリルはそうはいかない。別に硝太が家政夫の真似事をするのは構わない。硝太のような学生でも高校生にもなればアルバイトの一つや二つやる。なので黙っているのは構わないが硝太は今左腕を怪我しているせいで実質片腕しか使えないので危険だ。アルバイトにしろ家政夫にしろせめて腕が治ってからすればいい。そう思って止めたが硝太には「片腕でもやれる。みんなに迷惑かけたくない」と言われてしまった。こうも言われては無理やり止めるわけにも行かず近くの椅子に座りながら眺める事しか出来ない。
硝太が家事をする姿は当然ながら見た事は無い。弁当も基本的に母親が作っているようなことを何度か言っており見た目の幼さも相まって出来るタイプには見えない。が、そんな想定を裏切るように硝太は滞りなく料理を作っている。プロ級か、と聞かれると首を横に振るが片腕が使えない状態とは思えないほどスムーズに迷いなくやっている姿を見ると、家事はかなり慣れているのが伝わってくる。先程気分が悪そうにしていたのを引き摺っているのか顔色はまだ悪いままだが動きに支障は見られない。気分が悪いのは精神的なものなのでいい気晴らしになっているのだろう。
「…いいな」
腕を怪我した事で苺プロで仕事や手伝いをさせて貰えなくなり硝太はこの家の家政夫をするようになったのだろう。そう考えると不謹慎だがアビ子が少し羨ましい。
不知火フリルも所詮思春期の女子高生である。好きな男性がわざわざ料理を作ってくれるとなれば喜んで飛びつく。特に硝太は社会に馴染むのが上手いタイプでは無いので仕事も上手くいかない、その代わり仕事は丁寧。ならば結婚とかしたら私は芸能界で働くから硝太は主夫になって欲しい、なんてことを考えてしまう。
全くもっていかがわしい、その上に不謹慎だ。だがこれを言ってもルビーだけは嬉しそうに喜ぶ姿が目に浮かぶのは私だけではないと思う。
「君、彼のこと本当に好きなんだね」
隣で同じように座って硝太の方を見ていたツクヨミに声をかけられる。年若い、小学生のような見た目をしておきながら口調は大人っぽい。もしかしたら硝太と同じ小学生頃に成長が止まった少女なのかもしれない。
ストーカー事件の時に会った…とは言っても近くで見ただけでこうして語り合う日が来るなんて思いもしなかった。神を名乗る、硝太と似た気配を持つ少女。カラスを使役したり自分ではあまり知らないと言いながら豊富な知識、そして何より普通の人間なら考えないようなことに至る思考回路を持つ非人間性。本当に神様なのかどうなのかは別として人とはかけ離れたすごい存在であることは確か。そしてそんな人は世界中探しても当然ながらそう簡単には出てこない。仕事柄多くの人に会ったことがあるが似たような人ですら経験がない。もしかしたらツクヨミと硝太だけ、という可能性も有り得る。そんな環境下なら硝太に興味を持つのも当然。
もしかしたら、ツクヨミも硝太のことが好きなのでは無いか。そう考えると胸が痛い。事件以降何かと信用されている気はするがツクヨミのような能力がない、硝太からしたら外野の存在であることには変わりない。身体も小さくて不思議な存在という共通点があるので仲良くなるのも早いだろうし胸が大きくないのはこちらもおなじ。もし相手を選べ、と今誰かに言われたら硝太がどちらに行くのか分からない。
もしかしたら私のあずかり知らないところで深い関係になっているかもしれない。もしそうだとしたら私はツクヨミに硝太を譲らなくてはならない。負けたくないが一番大事なのは硝太自身の気持ちなのでそこを崩すことは出来ない。
「じゃあ、貴女も」
「まさか。面白いとは思うけどそういう好みでは無いよ。そもそも私が彼の味方をしているのはそういう理由じゃないし」
しかしツクヨミは硝太への好意を迷わず否定してくる。恥ずかしさから嘘をついているようには全く見えない。言われてから確認するとツクヨミの硝太への視線は親が子を慈しむようなものにも見える。どうやら彼女の中で硝太は弟か息子のように扱われているようだ。
「?」
「いや、こっちの話。安心していいよ。彼モテないから。自分に向けられた好意には鈍感だけど他に狙うような
そう何人も出てきてたまるか、と小声で付け加えたのは聞き逃さなかった。
実際硝太に恋する一人の女として私もそう思う。それには「普通の」という枕詞がつく。硝太は人に好かれるような人ではない。それでもそこまで言われるほどでもない…と思うのは私が好きになってしまったせいだと思う。
「でもさ、君は本当にいいの?好きな人が彼で」
「それ、どういう事?」
「文字通りだよ。自分でも斉藤硝太は普通じゃないと分かってるのに恋愛感情を持っていていいの?いつか君、殺されるよ?」
誤解を招こうとしている言葉では無い、ましてや嘘や冗談では無い思わず唾を飲み込む。
『死ぬ』という意味ならわかる。このまま硝太について行って戦いに巻き込まれることになったら流れ弾等で死ぬことは当然のように有り得る。別に死にたがり屋でもないのでそれも避けたいがその場合『殺される』とは言わない。『殺される』のは誰に、と聞きたかったが内心わかっていた。私を『殺す』のは硝太だ。
何がなんでも母親を守ろうとする硝太なら母親と私が天秤にかけられた時、迷わず私を見捨てるだろう。それでもいい、と覚悟が決められるのならいいが少なくとも私がそう言う覚悟を決められているようには見えないとツクヨミは言っている。
「言っただろう。彼もインスタントバレット。世界を滅ぼす運命に縛られた狂気の人間なんだよ。君達とは同じ釜の飯を食べてるだけでおかしいんだ」
「それは悪く言いすぎだと思う。硝太が『異常』だとしても『普通』を教えて道を踏み外さないようにすることだってできる」
その通りだ、と思うと同時に硝太のことを余計に悪く言う言い方に耐えきれなくなって即座に言葉を返す。
硝太が『異常』だとか『普通』じゃないとか言う話は正直聞き飽きた。確かに変な人だがそれでも『異常』なりに上手くやりくりしようとしてるしその手伝いさえすれば上手く社会に馴染むことだってできる。
実際今の硝太は普通の高校生として学校に通って勉強して昼にはルビーとみなみと私の4人で食事をしている。問題行動の噂は聞くが学校内でもあまり素行が良くない生徒で済ませられる程で他の人と共に暮らせないほどでは無い。
「昔がどうとかインスタントバレットがどうとか知らないけど。彼は今学校に通って、ここで手伝いもしている。『優しい人が救われて欲しい』って言ってた。そんなに優しくなれる硝太なら、大丈夫」
何よりも、あかねが自殺未遂まで追い込まれた時の彼の怒りは彼の優しさから生まれたものだ。
『優しい人には報われて欲しい。幸せになって欲しい。我慢だけし続けて悲しい結末になるなんて僕は許せない』そう言った時の硝太はルビーが心配しているのにも関わらず身を削るように追い込んで黒川あかねを誹謗中傷で追い込んだアカウントを調べていた。良い方法ではなかったが、その純粋で気持ちのいい善意は母や姉の影響があるとしても硝太から生まれた感情だ。
──だから、貴女は硝太の事拒絶しないであげて。
病院で彼の母親が言っていた言葉を思い出す。きっとツクヨミのように勘のいい人に今回のようなことを言われた、もしくは硝太に誰よりも詳しい彼女が感じたりした結果出てきた言葉なのだろう。
硝太の母親は硝太のことを一番理解してる。その上で硝太を学校に行かせる選択肢を取った。ならばここで私達が議論してもそもそも意味は無い。
「平和ボケした物の見方だね。悪いとは言わないよ。今の日本だとそれが普通だし、そうなるべきだと私も思う。だけどそれが出来るなら彼は母親と出会った時点で救われている。あれだけ家族に恵まれておきながら今更インスタントバレットに覚醒した理由を、君は考えた方がいい」
必死に硝太は大丈夫だと言ったつもりだがツクヨミには響かなかったようで全く表情を変えない。それどころか覚悟のない私の言葉を聞くつもりは無いのか目線すら合わせてくれない。思った以上の反応が得られなかったのでツクヨミの言葉が胸の中で反芻される。
── あれだけ家族に恵まれておきながら今更インスタントバレットに覚醒した理由。
家族に恵まれていながら悪意がトリガーとなる、つまり怒りや絶望といった負の感情を押え込めていない。そんな硝太にツクヨミは不信感、というか怒りのようなものを感じているような言い方。
だがそれよりも恵まれた家族、ルビーやアクアのことを尊敬しているようにも受け取れる。もしかして、ツクヨミが本当に味方しているのは硝太の家族の事なのではないか。例えば事件に関わっており、硝太が狂ったきっかけと思われるアイやそんな硝太を社会復帰させた母親。彼ら彼女らの味方としているから硝太のことを共に守ろうとしているし、守られているにも関わらず余計な戦いに首を突っ込もうとする硝太が気に入らない。そう言っているのかもしれない。
「それは、僕も疑問に思ってた」
考え事をしている間に料理を済ませたのか硝太が台所から出てきた。働いている間に一息つけたようで疲れが少し取れたように見える。
散々自分でおかしい奴、『異常』だと言っていたのもあってかツクヨミにあれだけ言われても欠片も気にしていない。どちらかと言うとツクヨミの言葉を全く捻らずに「幸せな家庭にいるはずの斉藤硝太がインスタントバレットに覚醒した理由」に気にしているように受け取れる。
家族に恵まれたのと、それでもインスタントバレットが使えることは自覚しているらしい。
「硝太、聞いてたの?」
「いや別に聞こえない場所にいた訳じゃないし。それより事件の方だよ。アビ子先生ー晩飯作ったんでちゃんと食べて下さいね!」
硝太の声にアビ子が手を挙げて応じる。あの様子だと今までの話もちゃんと聞こえていそうなのに硝太は何故問題ないと思っているのか、少し疑問である。
それはさておき、硝太がこちらに向き直る。
「相手がインスタントバレットでその能力もある程度推理が出来た。次はその対策だ。色々と考えられるけど、フリルはどう思う?」
先程までの推理で相手のインスタントバレットの能力は物語やそのキャラクター、または実在の人物等の役を被せる、支配系の能力ということまで分かった。しかしこちらは相手の発動条件が分かってない。多くの神話や伝説、果てはサブカルチャーまで移ると数多くある。特定の箇所に触れる、視界に入れる、存在を認識する、声を聞く。考えられる可能性は多い。
しかしそれはインスタントバレットの当事者として感覚的に分別できる硝太が先ず最初に考えるものだと思っていたのもあり首を傾げる。
「え?私?」
「もし推理通り相手のインスタントバレットが物語の形に沿うものだとするのならストーカーの犯人を実際に見ている上に女優の仕事もしている君の意見も欲しい」
硝太の意見を理解して頷く。
今現在相手が使ったと推測されるのは『オペラ座の怪人』の怪人とアイを殺害した貝原亮介という殺人鬼。後者はともかく前者は有名な舞台の演目だが、硝太やツクヨミといった舞台に縁のない者は知らなかった。つまり犯人はある程度舞台や劇団の知識があり、今後もそれを活用してくる可能性は当然として能力の発動条件そのものが舞台やドラマの撮影に近い可能性もある。
『女優』として聞かれていると考えるとこれまで以上に手は抜けない。腕を組んで考える。
役を被せる、と考えるとまず浮かぶのが監督職。演技指導をする立場なら当然役に入り込むような演技を期待するものだ。役に入れる方法自体は思い浮かばないが普通の役者を使ってやるのならその辺の知識は欲しい。となると現在か過去かは分からないが役者の経験者の可能性は高い。それも実験段階で『オペラ座の怪人』を引っ張ってくるところから見て舞台派の人間。
しかし相手はインスタントバレットという魔法使い。役者の知識があるかどうかすら分からない。硝太の様子からして自身の魔法がどんなものかある程度推測はできるようだが説明書のようなものは無い。あのストーカー事件が推測通り実験だとするならまだ相手はその魔法に慣れていないと見るべきだ。もしかしたら発動条件も今回知ったのかも知れない。
「ねぇ、ハウダニットは考えるだけ無駄じゃなかったの?」
「うん。あくまで推測の内。こういう手札を持っているかもしれないと共通認識があれば何が起こった時に対処しやすいからね」
こちらが考えている間にツクヨミが硝太に近寄って脇腹を小突く。二人の間で事件に対する何らかのスタンスがあるようだがそこは詳しく聞いていない。
硝太は「自分は警察では無いのだから捕まえることは出来ない」とは言ったがあの言い方からして「最悪の場合警察にバレないように暗殺する」というニュアンスを含んでいるように感じた。犯人の魔法がいつどうやって手が入ったか分からない相手を支配する魔法だと分かった今硝太に相手が諦めるまで感じを続けるメリットは無い。最悪の場合犯人がわかった瞬間に首をはねとばしに行くだろう。それはなんとしてでも止めたい。犯人を守るためではなく、硝太を犯罪者にしない為に。
問題は相手の魔法の使い方だ。ストーカーの実行犯となった男性には元々『不知火フリル』、もしくは事務所に関わりがあってそれをインスタントバレットで歪められたと考えられる──事務所に間者がいると硝太が言っていたことから恐らく私のファンか何かだったのだろう。インスタントバレットの能力者はそれを何らかの方法で見つけ出して接触した。そしてインスタントバレットの実験台として扱うことにした。
そこまで考えて一つの違和感に辿り着く。
「ねぇ、硝太。その人ってどうやって自分が魔法使いだって知ったんだろう」
インスタントバレットの性能を実験するということは使用者はインスタントバレットという魔法を知っている。そして自分の魔法も概要程度だったのかもしれないが内容を知っていた。
同じ使用者の硝太でさえつい最近同じインスタントバレットの『世界の端っこ』と接触するまで自分がそう言う魔法使いであることを知らず、それから半年近く経った今でさえ魔法の詳細を掴めていないというのに。
「そんなの、インスタントバレットをバンバン使ってる内に何となく…いや待て。共犯者のあの動きは明らかに『確認』だった。ストーカー犯を始末したのも証拠が残っていると知ったから…だとすると…」
「誰か、情報提供者がいるね」
硝太も最初は「何を当然のことを聞いてきてるんだ?」と疑問に思っている様子を隠そうともせずに首を傾げる。だが言葉を続けている途中に違和感に気付き、ツクヨミの方に顔を向ける。
「
ツクヨミも言葉の意味を理解したようで今のところインスタントバレットの知識を持っていることが分かっている二つの勢力を示す。この二つの勢力なら相手にインスタントバレットだということに気付いてその内容まで教えてくれる可能性がある。
一番疑わしい可能性はストーカーの共犯者が
「…どちらにしろ、犯人はすぐに絞りこめる」
普段の声変わりしてない子供の声から幼さが抜けた女性のような声とはかけ離れた重苦しい声で絞り出すように言うと硝太はアビ子の机の近くにある『オペラ座の怪人』のDVDを手に取る。
「罠の確認は?」
「罠なら罠ごと噛み砕く」
いつもと様子が違うことに違和感を持ったのかツクヨミが遠回しに冷静になるように言うがその意図にすら気付いていないようでスマホの画面をつけて急に何かを調べ始める。
自分の推理が外れた事に動揺しているのか。いや違う。硝太は推理が外れた時も合理的な判断を下せていた。ここまで動揺するのには別の理由がある。そして硝太が動揺するのは分かりやすすぎる嘘がバレた時か家族のことだと相場が決まっている。──間違いなくあの瞬間に硝太は何かに気づいた。そしてそれを説明する前に硝太は動き出している。
「──スマホじゃ遅い…仕方ない、帰るか。アビ子先生!僕もう帰りますからちゃんとご飯食べてお風呂入ってから寝てくださいね!」
スマホのスペックに文句があるのか、アビ子に最低限のことを言いつけるとアビ子はまた手を挙げて応じる。彼女は彼女で気にしなさすぎると思う。それは硝太も例外では無い。
「ごめんツクヨミ、フリルの自宅までの警護を頼む」
「ハイハイ」
最後にツクヨミに私の処遇について一言だけ言う。そのまま駆け出して行きそうな硝太の腕を覆い被さるようにして掴む。
思わず動いてしまった為座っていた椅子が倒れてそれに驚いたのか先程までずっと座ったまま視線を向けてこなかったアビ子がこちらを見つめたまま静止する。だが今この手をどかしたら本当に消えてしまいそうで離すことが出来ない。
「フリル、遊びじゃないんだ」
出来るだけ優しく、と気にしているのだろう。若干震える声で引き剥がそうとしてくる。硝太の力ならいくら自分より身体の大きい相手であろうと払い除けることなど容易なはず。それをしないのは、硝太がギリギリまで優しくあろうとしているから。
「硝太こそ分かってる?私言ったよね、事件のことは全部言ってって」
「悪いけどそんな場合じゃないんだ──!」
硝太の青い瞳に覗かれて、身体が硬直する。人ではない化け物と遭遇した時のような恐怖。体は小さい子供のそれなのに、と思うと同時にこれが硝太の魔法かと理解させられる。
──わかっている。硝太は優しくあろうとしている。きっと母親か、アクアさんとルビーの影響なんだろう。悪意を溜め込んでしまうロクでもない人間でも優しくなろうとしている。そんな硝太がそれを捨て去ろうとする時なんて家族の危機である事なんて察するのは容易。
ただの友達の私を助けるためにですら命を捨てようとするのだから家族に何かあったら硝太は絶対に躊躇わない。自分の命も相手の命も、関係ない人間ですら捨ててしまえる。それだけの覚悟を持っていて、戦おうとしている。ツクヨミが甘いと感じるのも私との覚悟の差を理解しているからに違いない。
でも、いやだからこそ。硝太を一人にはさせない。
「じゃあ話して!全部受け止めるから」
「君に何を!」
──しまった、間違えた。
身体から動いてしまったが全部受け止めると言っても硝太からしてみれば甘い覚悟に見えてしまう。甘い覚悟で止めようとしたのならばその責任は命を持って果たされる。
考えてみればこの半年と少し。硝太のことは知ろうとしてもその根底にあるものに触れようとしなかった気がする。もしかしたら本能的に怖くなって逃げていたのかもしれない。今まではそれでよかった。ただの友達でいたいだけなら、それで十分。
だけど今の硝太を友達という立場で放っては置けない、というより放っておきたくない。
「硝太が家族を守りたいのと同じぐらい、硝太に無事でいて欲しいから」
「──っ!」
硝太の息を飲む声が聞こえる。そこにある感情は驚き、関心とったものでは無い。純粋な怒りだ。言葉を間違えた自覚はある。硝太からすれば私の甘い覚悟で家族を守りたい気持ちを愚弄されたようなもの。いや、それ以上に押しとどめる理由がソレであることを許せないはずだ。いくら友達であろうと、家族の為なら切り殺すことも厭わない。ツクヨミはそう言っていたことを思い出す。
──殺される。
理性より先に本能がそう感じた。右腕さえ押さえておけば殺されることは無いはずなのに、即座にそう判断してしまうほどに今の硝太はこれまでと違った。
必死に押えていた右腕がなんの抵抗もないようにスルリと引き抜かれる。体重をかけていた存在が無くなった事で私の体が沈んでいく。それより早く、硝太の右腕が左腕を包んだ三角巾へと伸びる。
「ハイハイそこまで」
が、それより先にツクヨミが動いた。硝太の右腕をがっちりと押えて私と硝太の間に挟まる。硝太の右腕は三角巾に入ったまま出てこない。硝太の力ならそのツクヨミも突き飛ばして2人とも一息で殺せるだろうにピクリとも動かなくなる。
力の差、ももちろんあるのだろうがそれよりもこの二人の経験や人とは離れた領域の存在としての差を感じる。
「考え無しに突っ込むのは君の悪い癖だ。反省した方がいい。それとも私とここで殺し合う?」
目の前にいる少女はこの場において誰よりも大人だ。動揺している硝太を宥め、後戻りが出来なくなる直前で止めた。今なら彼女が神様だという話も信用出来てしまう。
ツクヨミに諭され冷静になったのか、それともツクヨミが前に立たれたことで私を切れないことに絶望したのか硝太は顔を俯かせたまま動かない。
「ぐっ」
歯を食いしばっている硝太から、苦悶の声が漏れた。
硝太のヤバさがこれまでの話とは別ベクトルで強調された回でした。必要だと思ったらいまさっきまでお話していた友達でも切り捨てにかかるのシンプルに怖いよお前。ツクヨミいなかったらどうするつもりだったんだ…
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実は硝太が料理してるのにスキップされないのは今回が初めてだったりする