ワカバの導き手   作:星月

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第一章 ジムリーダー捜査編
第一話 vsエレキッド もう一つの始まり


 ジョウト地方某所。

 辺りには木々が生い茂り、中央部には大きな湖が広がっていた(・・・・・・)場所。

 ――そう、広がっていた(・・・・・・)場所である。

 今となってはその自然豊かな光景はもはや見る影もない。その広大な湖全体が、その水辺を生息としているポケモン達までもが完全に凍りついており、かつての面影は微塵も感じられなかった。

 そしてその凍った湖の上に一人の少年がいた。

 旅の途中であるのだろうか、軽装に身を包み、バッグを背負っている。

 ……しかし、彼の体はボロボロであった。

 服はあちこちが鋭利な刃物で切り裂かれたのであろうか切り刻まれており、彼が被っている帽子の間からは血が流れ出している。息も絶え絶えだ。付近には彼の手持ちポケモンであろうエイパムもいたが、彼もすでに傷ついていて戦闘不能寸前の状態である。

 そんな少年を見下すように、付近にできている巨体な氷柱に身を委ねている者がいた。

 何者かはわからない。顔は不気味な仮面で隠し、体全体を大きな黒いマントで覆っている。声も無機質な声を発しているために男なのか女なのかさえわからない。

 ただ一つわかることがあるとすれば――――この仮面を被った者が湖を凍らせ、さらにこの少年を傷つけたということだ。この災害とも呼べるほどの事件の元凶であるということだ。

「所詮はその程度か。あれほど『私を倒す』などと戯れ言を吐いていたわりには随分とたわいないものだな」

「てんめぇ……!」

 仮面の者は少年をどこまでも蔑むような口調で話す。

 少年はエイパムを気遣いながらもにらみ返す。……しかし、それだけだ。反撃もしなければ言い返そうともしない。

 彼はわかってしまったのだ。今の自分の実力では勝ち目がないのだと。すでに万策尽きた。もう、打つ手は残っていない。勝機などもはや信じる気にもなれやしない。

 全力で戦っているというのに、それでもなお届かない。相手は遥か高みにいる。

 それが悔しくて、悲しくて……ひたすら歯を食いしばった。

「安心しろ。そう悔しがる必要はない……今すぐにあいつの後を追わせてやろう」

 そう言って仮面の者は振り返る。その先には一部分だけ氷が溶けている場所が――否、砕けている場所があった。

 しかも、わずかに見える水面には気泡が見える。つまり、その下には誰か生きている人がいるということだ。そしてこの者の話から想定するに沈んでいったのは……

「……何故だ? もうテメーとの決着はついていただろ。あいつにはもう戦う力は残っていなかった。それなのに、……それなのに何故※※※※にとどめを刺した!?」

 ……考えるまでもない、少年の仲間だ。だが何故かその仲間の名前の部分が聞き取れない。まるで最初からなかったかのように、音が完全に消されているのだ。

 戦いに敗れ、力尽きた仲間にとどめを刺した仮面の者を理解できずに少年は問いかける。

 それを仮面の者は戸惑うこともなくあっさりと答えた。少年の怒りをよりいっそう沸き立たせる言葉を。

「答えるまでもなかろう。あやつは敵だ。敵を生かしておく理由がどこにある?」

 それがさも当然とばかりに少年に向かって言い放つ。

 自然と握った拳に力がこもる。――なぜ、自分は何もできないんだ!? 怒りをどこかにぶつけることさえできずに、心の中で少しずつ膨張していく。

「それに、」

「……あ?」

「やつは私の元を去った裏切り者だ。私の駒にもなれないような使えない男。……殺して当然であろう」

「なっ……!」

 ……今この者はなんと言った? 少年は思わず自分の耳を疑ってしまった。

 駒、だと? 使えない、だと? こいつは人のことを何だと思っているんだ?

 大切な仲間のことをそんな一言で済まされて、それで平然といられるほど彼は冷静でもなければ非道な人間でもなかった。

「……ざけんな。ふざけんじゃねーよ!!

 他人の存在価値を、テメー一人の価値観で決めつけるんじゃねぇ!!」

 ありったけの声で叫んだ。相手に届くように。

 ……だが、凍りついた仮面の心にはその少年の一途な思いさえも届きはしなかった。そのような言葉は聞きたくもないと、仮面の者は少年から視線をそらし、右腕を静かに上空へと掲げた。まるで何かに合図を送るかのように。

 

 突如少年の足元に移った巨大な影。

 気付いた時にはもはやすべてが手遅れ。異変に気づいてとっさに見上げたときには……巨大な氷塊が目の前に迫っていた。

 少年の絶叫は虚しく響き――そして消えていった。

 

 誰もいなくなった湖でただ一人、仮面の者だけが立っていた。

 しばし湖面を見続けたあと、何事もなかったようにその場を去っていった。もうこの場所に用はないのだと、そう示すように……。

 

 

――――

 

 

「……うわああぁぁぁぁぁ!!」

 自分の脳裏に映った映像が信じられず、またその衝撃に動揺を隠し切れずに、俺は大声を上げて目を覚ました。突っ伏していた上半身は完全に身を起こし、脳も目覚めたばかりとは信じられないほど覚醒している。

 ……あたりを見回して、心を落ち着かせている間に今のは夢だということに気づいた。

 

「なんだ、夢かよ。……あんまり良い目覚めとは言えないな。あんなものを見せられたとあったら……」

 

 前髪をかきあげながら自嘲気味につぶやく。荒れた息も少しずつ落ち着いてきた。

 我ながらどこかおかしいと感じる。まさか夢にうなされて起きるだなんて信じられない。

 ……だが、先ほど見た夢の内容もとても信じられないような内容だった。

 

(夢に出てきた少年は、おそらくはゴールドだった。そしてそのゴールドが……ッ!!)

 

 最悪の考えを打ち消すように拳を思いっきり壁に殴りつける。

 ドンッ、と鈍い音が部屋に響く。壁はびくともしないが、俺を落ち着かせる効果はあったようだ。……拳がとても痛くなるが。

 ……信じろよ。自分の友達くらい。

 ゴールドは俺の同郷の友達だ。――いや、正確に言えば友達というよりも後輩と言った方が正しいのだろうか。俺が年上だからだろうか、あいつは俺のことを『シュン先輩』と、先輩付けで呼んでいるし。

 

 昔はよくお互いのポケモンをつれて遊んだものだ(他者からすればいたずらとも言えるかもしれないが)。とにかく俺にとっては心を許せる親しい存在だ。

 そのゴールドは数週間ほど前に旅に出て、今このワカバタウンにはいない。目的はよく知らないけれど、あの有名なポケモンの権威・オーキド博士からポケモン図鑑を受けとったと聞いている。おそらくあいつも図鑑完成を託されたのだろう。……もっとも、あいつがまともに行動するかどうかは甚だ疑問に感じる。

 

 しかしその冒険の最中に最近復活したと囁かれている巨大犯罪組織・ロケット団と遭遇したり、そしてなぞの強敵――仮面をつけた男と対峙したと聞いている。

 以前俺達の連絡手段であるポケギア越しにその話を聞いたときも、ゴールドにしては珍しく本気だった。

 そして、今の夢。……ゴールドが戦っていた相手も仮面をつけていた。夢にしてはできすぎていると思える。まさかとは思うが……

 

「ピー、カ……」

「うん? ああ、すまないピカチュウ。起こしてしまったか?」

 

 隣から聞こえてきた眠たそうな鳴き声が聞こえてくる。――俺の手持ちポケモンであるピカチュウだ。俺が初めてゲットしたポケモンでもある。もっと小さいころにカントー地方に遊びに行ったことがあるのだが、その時に怪我しているこのピカチュウを助けたのだ。そんな俺に恩を覚えたのか俺についてきて……そのまま俺のポケモンになった。ゆえにゲットしたというのには少し語弊がある。

 

 どうやら考えに集中しすぎたようだ。まさか起きていることに気づいていなかったなんて。

 一言謝罪するが、ピカチュウは大丈夫だと言わんばかりに笑って手を振った。

 そのかわいらしい仕草にやられて俺はピカチュウの頭を撫でた。昔からこいつはこうすると喜ぶ。今日もうれしそうに笑みを見せている。

 

「シュンー!? 朝ごはんの時間よー!」

「あ、わかった! すぐに行く!!」

 

 一階から母さんの呼び声が聞こえてきた。どうやら思っていたよりも時間がたっていたようだ。

 すぐさま寝巻きから着替え、ピカチュウを連れて一階へと降りていく。

 食卓にはすでに朝食が並んでいた。

 母さんも椅子に座って俺達の到着を待っている。

「遅いからもう並べておいたわよ。ヨーギラスも手伝ってくれたんだから、ちゃんと礼を言いなさい」

「そっか。ありがとな、ヨーギラス」

 母さんの言葉を受けて、俺は床に座っていたヨーギラスへと声をかける。ヨーギラスは俺の声に反応して無言で首を縦に振った。

 このヨーギラスも俺の手持ちポケモンである。手持ち第二号だ。もともと生息場所はシロガネ山という険しい場所なのだが、おそらくどこからか迷い込んでしまったのだろうがワカバタウンに傷ついた状態で倒れていた。それを俺が介抱し――それ以降俺になついたために俺の手持ちとなっている。

 ……あれ? よく考えたら俺ってまだ一回もポケモンをゲットしていないのでは?

「あら? どうしたのシュン? ご飯が進んでいないけど……どこか体調でも悪いの? そういえばさっき悲鳴のような声が聞こえたけど……」

「ああ、いや。なんでもない」

 俺が知りたくなかった事実に気づいて落ち込んでいるのを勘違いしたのか、母さんに心配をかけてしまった。

 いかんいかん。食べるときは食べることだけに集中しないと。夢のことも気になるが、それはあとだ。どちらにせよゴールドに連絡すればわかること。

「そうそう、そろそろポケモンフードがなくなりそうだから、あとで買ってきてくれるかしら?」

「いいよ。どうせ今日は特に予定もないしね」

 ポケモンフードというのはポケモンの食べ物のことだ。ポケモンたちは木の実や普通の食べ物も食べるけれど、ポケモンの栄養バランスを考えた食事も頻繁に摂取する。

 街の中央部に行かないといけないが……別にかまいはしない。

 朝食を済ませ、後片付けをした俺は早速外に出かける。

 ヨーギラスはボールに戻し、腰のベルトにつけた。ピカチュウはそのまま連れ歩いている。

 さっさと用事を済ませて、早めに戻るとするか。

 

――――

 

 ジョウト地方の街の一つ、ワカバタウン。

 この街には同地方のコガネシティのラジオ塔やエンジュシティのすずの塔のような街のシンボルのようなものはないけれど、住まう人々の交流は盛んで目だった犯罪もほとんどない。今日も中心部は大勢の人で賑わっている。

 そんな街の中心部に、彼はいた。

 彼の手持ちのポケモンであろう、ピカチュウを連れ添って歩く茶髪の少年。

 ピカチュウと共に、とある店の前で立ち止まった。

「おじさーん! 俺です、いつものください!」

「お、シュン君かい? あいよ、ちょっと待ってな」

 男店員に呼ばれた少年――シュン。この店の常連客だ。

 この街の人間には慕われているようで、待っている間に通りすがりの人達には何度も声をかけられていた。本人もそれを嫌悪しているそぶりは見せず、むしろ好ましいように手を振って呼びかけに応えていた。連れのピカチュウも嬉しそうに笑っている。

「ほら、これだろう?」

「ありがとうございます」

 店員が持ってきたのは袋いっぱいに詰まったポケモンフード――つまりポケモン専用の食べ物だ。

 さらにもう一つの袋には木の実も多数入っている。

「あれ……木の実の量がいつもよりも多いように見えますけど……」

「そいつはサービスだよ。ピカチュウ達へのプレゼントだ。これからも贔屓にしてくれよな?」

「当たり前ですよ!」

 木の実の量が普段よりも多い事に気づいたシュンだったが、店員のサービスということに気づいてお礼を言った。

 早速そのうちの一つをピカチュウに食べさせる。ピカチュウもこの味が好きなようでどんどん頬張りはじめた。

「ははは。本当に美味しそうに食ってくれるな」

「この味をいっつも食べてますからね。愛着もわいてるんですよ」

「嬉しいこと言うね。どうだ、もう一個……」

 店員も商品を嬉しそうに食べてくれるピカチュウに喜びを感じて、さらにもう一個木の実を与えようとしたが……

「うわああああ!!」

「ッ!?」

「なんだ!?」

 突如店の付近から悲鳴が聞こえてきた。

 シュンが声が聞こえてきた方向に振り返ると、少し先のところでポケモントレーナーがポケモンと一緒に倒れていた。しかも同じ方向から一匹のポケモンがかけだしてくる。

 黄色の体に黒いラインが数本入った特徴的な見た目。――エレキッドだ。

 あちこちに電気を放ちながらこちらに向かって走ってきている。おそらくあのトレーナーはこのエレキッドに倒されたのだろう。

「大変ですよ! 突然野生のポケモンが店に現れて暴れ初めて、トレーナーが対処しようとしてるんだけど皆返り討ちにされちゃって……」

「野生のエレキッドですか」

 近くから現場を見ていた人が現状を知らせてくれた。

 どうやら野生のエレキッドがこのワカバタウンに入り込んで暴れているらしい。しかもトレーナーまで撃退され、このままでは被害が増える一方だと言う。

「おじさんすみません、荷物を一旦預かっていてください。あとで来ますから」

「え? ……あ、おい!」

「いくぞ、ピカチュウ!」

 

 事態を聞いたシュンは店員の呼びかけにも応じずにすぐに行動に移す。

 先ほど買ったばかりの品物を全て店員に預けて、シュンはピカチュウと共に駆けだした。

 

 相手との距離が残りおよそ25メートル付近にまで近づいたところで、シュンたちの接近に気づいたのであろうエレキッドの頭から電気が放出された。

 電気はシュンたちに真直ぐに向かってくる。――威力から考えるに“でんきショック”だ。技の威力はそれほどでもない分コントロールは容易い。

「行ってこい、ヨーギラス!」

 その電気が命中する前に、シュンは腰のボールを手に取ってポケモンを繰り出した。

 緑色の体と頭から生えている一本の角が特徴のポケモン――ヨーギラスである。

 エレキッドが放ったでんきショックは出現したヨーギラスに命中し……そしてかき消された。

 自慢の電気の攻撃がいとも簡単に防がれたこと、かき消されたことにエレキッドの余裕の表情が崩れる。

「悪いな。残念ながらヨーギラスは岩・地面の二つのタイプを持っている。この体は電気を完全に封じ込む。いくらお前が電気をぶつけてこようとも、ヨーギラスにダメージを与えることはできない」

 

 タイプ相性がシュンに完全に味方した。自慢の武器である電気が封じ込まれたことに動揺するエレキッド。

 そしてその隙をシュンが逃すはずもなく、続けざまにヨーギラスに技の指示を与える。

 

「ヨーギラス、“いわおとし”!!」

 

 ヨーギラスは巨大な岩を次々とエレキッドに向けて放った。

 多量の岩をよけきれないと判断したエレキッドは腕を前方で組んで防御の構えをとり、ダメージを最小限に抑えようとするが……攻撃が終わったところでいわおとしの真の目的に気づいた。

 降り注がれた岩は自分をほとんど傷つけていない。目を開けると……いつのまにか、自分の周りを多くの岩が囲っていたのだから。

「さあ、これでお前の逃げ場はなくなった」

 

 そう、さきほどのいわなだれは攻撃だけではなく、エレキッドの逃げ場所を防ぐために使用した。スピードに優れているエレキッドでも、退路を塞がれては逃げるにも逃げられない。

 作戦の成功を確認したシュンはヨーギラスを手持ちに戻し、ピカチュウを戦闘体勢に入らせた。

「ピカチュウ、“でんきショック”!」

 

 すぐさまピカチュウの体からでんきショックが放たれた。

 エレキッドが避けるか受け止めるか考えている間に、電気はエレキッドの体を襲った。

 強い電撃を受けて、さらに追加効果で体が麻痺してしまった。エレキッドの体がよろけている。体力ももう限界なのだろう。

「よし、仕上げだ。ボールに収まれ!」

 エレキッドが弱ったことを確認してシュンは空のモンスターボールをエレキッド目掛けて投げた。

 ボールはしっかりとエレキッドに命中し、エレキッドの体はボールの中へと吸い込まれていく。

 完全にボールに収まった後、最後の抵抗と言わんばかりにボールが2、3回ほど左右に揺れるが、その後はゲットを示すようにボールの動きは停止した。

「エレキッド……ゲット!」

「おお、やった!」

「さすがはシュンだぜ!!」

「いやいやそれほどでも。(……よしっ!!)」

 動きが収まったことを確認してシュンはボールを手に取る。

 エレキッドが捕まったことを知ると、見ていた人たちからも歓喜の声があがった。その声に応えるようにシュンも手を振り返した。心の中では一人激しくガッツポーズをしているが……よほど朝の出来事が響いているようだ。

 

――――

 

「いやー、突然すみませんねおじさん」

「何を言ってんだ。礼を言うならば俺達の方からだ。はいよ」

「どうも」

 商品を預かってもらっていたおじさんから商品を受け取る。

 久しぶりに野生ポケモンと遭遇した。たまに野生ポケモンが街に入り込んでくることがあるんだよな。食料を求めたり、いたずらをしたり、ただ暴れまわったり……と。目的もポケモンの種類も様々だ。

 そんなポケモン達は基本的に街にいる俺や他のポケモントレーナーが対処する事になっている。対処といってもあまり強いポケモンは出てこないためにそれほど危険では無い。

 

 昔は俺以外にもあいつが――ゴールドがいたんだけど……もう旅立ってしまったのだから、俺が被害が出る前に率先してやるしかない。

 ……そういえばまだあいつに連絡していなかったな。しばらく連絡をとっていなかったしちょうどいい。俺はすぐさまゴールドのポケギアへ電話をかける。……しかし、いくら電話をかけてもゴールドのポケギアにつながることはなかった。

 

「……マジかよ」

 

 とたんに不安がいっそう増してくる。先ほど心配していた嫌な予想が的中してしまったのではないかと。――いや、まだわからない。あいつはよく連絡が取れない時期が続いているときがあったし、今回だってあいつの気まぐれなのかもしれない。

 そうだよ。たかが夢なんかに惑わされることはない。

「……それに、あいつのことだからなんとかして危機を乗り越えるだろう」

 ゴールドは昔から相手を翻弄するトリッキーな動きを見せた。

 実力差を埋めるためにも有効な手であるし十分通用することだろう。まともに戦ったらどうなるかはわからないけれど……俺は大丈夫だと信じている。

 下手に考えるのはもうやめよう。いくら俺が悩んだところでゴールドがどうにかなるとかそういう問題ではないのだから。

 

――――

 

 

 その後は何もハプニング等は起こらず、無事に家に帰ることができた。

 なんだかんだ言ってももうすぐお昼時だ。ピカチュウ達もお腹がすいているようだ。

「ただいまー。ポケモンフードと、念のために木の実も買ってきたよ」

「おかえり。お昼ごはんももうすぐできるから、少し待っててね」

 テーブルの上に買い物袋を置き、俺は部屋へと戻った。

 そして手持ちの三体――先ほど捕まえたエレキッドも含めて全員をボールから出した。

 

「エレキッド。今日からここがお前の家だ」

 エレキッドは物珍しそうにあたりを見回す。……男の部屋には別にろくなものは置いていないのだが、野性のポケモンからしてみればやはり別物なのだろう。

「こっちがピカチュウ。そしてこいつがヨーギラスだ。お前らもちゃんと仲良くしろよ」

 二匹にも言い聞かせて、握手をさせる。先ほどまでは戦っていた間柄とはいえ、今日からは仲間なのだから仲良くしてもらわないと。

 ヨーギラスとエレキッドがまず握手を交わす。続いてピカチュウが手を差し出すが……いきなりエレキッドが電撃を放った。

「なっ……エレキッド!?」

 ピカチュウの体が麻痺の痺れによって震えている。同じ電気ポケモンといえど、強力な電気を他者から放たれればそれは体を傷つける立派な攻撃となる。

 こいつ……ヨーギラスには電気が通じないとわかっていたからピカチュウだけをねらっていたのか!

 いたずらに成功した子供のようにエレキッドははしゃいでいる。手に入れたばかりのポケモンは言うことを聞きにくいとはいえ、 さすがにこれはトレーナーとして黙ってはいられない。俺はそんなこいつを問い詰めようとしたが……そのままエレキッドは知ったことではないと言わんばかりに階下へと降りていってしまった。

「ま、待てエレキッド! そっちには母さんが……!」

 俺の制止を振り切ってエレキッドが階段をすべるように下りていく。

 ……仕方がない。俺はピカチュウにここにいるように言ってヨーギラスとともに一階へと降りていく。

 なんとか間に合ってほしい、そう思っていたが……時すでに遅し。

 一匹の(・・・)断末魔が、家中に響き渡った。

 

 

――――

 

 

「もーシュンったら。ポケモンをゲットしたなら先に報告しなさいよ」

「……うん。いや、ご飯のときに報告しようと思ったんだよ」

 俺に話しかけてくる母さんの口調はご機嫌そのものだ。俺がはじめてポケモンをゲットしたのが嬉しいのだろう。

 そんな母さんの横の椅子にはエレキッドが座っている。……心なしか、体が震えているように見える。先ほどまでの強がった姿勢は完全に身を潜めていた。さっき聞こえた悲鳴は間違いなくエレキッドのものだったのだが……一体何があったんだ?

「シュン。命って大切よね?」

「マッタクモッテソノトオリデス」

 凍るような殺気(?)が俺の体を包み込む。……今度から、母さんには絶対はむかわないようにしよう。

 握っている箸が震える……しっかりしろ! 早くこの場から逃げ出すためにも、早く食べ終わらなければ!!

「あ、そういえばシュン。あなたに言い忘れていたことがあるんだけど……」

「何でしょうか、お母様!?」

 俺は食べるのをやめて敬礼のポーズをとり、敬愛してやまない母君のありがたいお言葉に耳を傾けることに全力を注ぐことにした。ここで無礼を働くようなことがあってはならない。シュン、ここは戦場なんだ。一つの過ちが自らの命を絶つと思え……! 一言一句聞き逃すな、わずかな動作も見逃すな……

「さっきウツギ博士があなたのことを探していたわよ。なんでも、あなたに頼みたいことがあるんだって」

「……え?」

 だが聞こえてきたのは予想外の言葉。俺は思わず姿勢を崩してしまう。

 ――ウツギ博士。この街では有名なポケモンの研究者だ。かの有名なオーキド博士にもその実績を認められているとの話もある。

 ……そのウツギ博士が俺に頼みたいことだと?

 ゴールドにヒノアラシを託した、あの人が……

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 主人公:シュン

 持っているバッジ:0個

 

 手持ちポケモン

  ピカチュウ♂ Lv8   

  エレキッド♂ Lv7

  ヨーギラス♂ Lv22

 

 

 レポートに書き込みました!!

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