「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」
「そうですね。サンド、ピジョン。もう戻っていいぞ、ありがとうな」
十分な休憩を済まして体を休めると、再び旅を進めるために立ち上がる。荷物を全て片付け、さらに警戒用にと出していた二匹をボールへと戻した。念のためにピカチュウはこのままボールから出しておいていいだろう。一匹くらいは出しておかないと心配だからな。
再び歩き始めるが、やはり周りの景色は殆ど変わらない。……どれだけ深いんだこの森は?
まだ夜と呼ぶには早すぎるくらいだというのにあたりは光が差し込まないためほとんど真っ暗だ。そのために余計に視野が狭まってしまう。
……この条件はたしかに隠れ家としても良いのだろうが、本当にそれだけなのか? 逆に自身の行動範囲も狭まって動きづらいようにも思えるし、どうも気になる?
「サツキさん、サツキさんは何かこの森について知っていることってありますか?」
「え? ……突然どうしたの?」
「いえ、仮面の男が一体何のためにここに現れて、そしてゴールドを退けようとしたのかが気になったので。どうも俺は活動拠点だからという理由だけには思えないんですよ」
俺は自身の意見をそのまま伝えた。いきなりの疑問に一瞬戸惑ったような色が見受けられたが、何か知っているということだろうか?
少し気難しい顔を浮かべた後、サツキさんは表情を元に戻して俺の問いに答えてくれた。
「……たしかに、知っていることは知っているよ。でも私も詳しく知っているわけじゃないの。
私が聞いた話によると、この森・ウバメの森はヒワダ住民達に『守り神』と謳われているとある伝説のポケモンが存在していて、そのポケモンを祀っているほこらがあるという話よ」
「守り神、ですか? なんというか、それはまた意味深な話ですね……」
サツキさんがわざわざ打ち明けるというのだから本当なのだろうが、どうもその伝説は信じがたい。
俺とて伝説と呼ばれるポケモンが存在することは知っているが、『守り神』ともなるとそれはもはや信仰の域に達しているんじゃないか? そしてその信仰を実現するべくその話を作ったようにも思える。
……だが、本当にその伝説のポケモンが存在するというのならば、確かに仮面の男がこの森を狙っても不思議ではない。
「まあその噂が本当ならばたしかにこの森は十分探索しなければなりませんね。特に話に出てきたその『ほこら』に重心を置いでぶっ!?」
「えっ!? ……しゅ、シュン君!?」
「は、鼻が……! な、なんだ!?」
話しながら歩いていたら、突如何もないはずの空間に激突してしまった。思わず変な声をだしてしまった。
気遣う声はありがたいが、思いっきり顔からぶつかったせいで顔面が痛い。異変に気づいたサツキさんがぶつからなかったことだけが幸いか。
……しかし、一体今何が起こったんだ!? 俺はただ歩いていただけだというのに!
「……これは“ひかりのかべ”それに“リフレクター”まで加わっている強固な壁ね。よく目をこらさないと見えないけれど、ここから先を遮断するように展開されているわ」
「え!? こんな所にですか!?」
サツキさんが何もないはずの場所に手を当てて冷静に分析している。
なるほど、それでいきなり俺はぶつかったわけか。たしかにうっすらとだが何か透明な壁のようなものが見える。
「これほどのものが備えられているなんて、やはりこの森には何かあるということかしら?」
「だったら尚更ここで立ち止まれないですよね。サツキさん、その壁から離れてください。壊して進みます!」
「え……そうね、それじゃあお願い」
「よしっ、ピカチュウ“でんきショック”! マグマラシ“かえんぐるま”だ!」
すでに場にいたピカチュウに加えて新たにマグマラシも出し、得意技を繰り出した。
ピカチュウの赤い頬から鋭い電撃が壁に向かって一直線に放たれ、マグマラシは噴出した炎を自身の体にまとい、壁に突進していく。
よしっ、レベルアップしたことで技の威力も格段に上がっている。
二つに技は壁に激突し……電撃はバチッと音を立てて消散し、炎を纏ったマグマラシは壁に跳ね返されてしまった。
「……あらら。全然ダメかよ」
いけるとは思っていたのだが、そう上手くはいかないか。練習の時にサツキさんのスターミーが放っていた技ではあるが、それに“ひかりのかべ”まで加わっているせいで尚更破ることが困難になっている。壁を破るどころか、簡単に跳ね返されてしまうとはな。
「どうしましょう。……こうなったら、サンドに穴を掘らせて、地中からそちら側に移動しますか?」
この防御壁を破ることは難しいと考え、一つサツキさんに提案した。
地中ならばさすがにこの壁も張られてはいないだろうし、その方が手っ取り早いと思ったのだ。
善は急げ、早速サンドをボールから出そうと腰に手を伸ばし――
「いいえ、その必要はないわ。もっと手っ取り早い方法があるから」
――伸ばした手はサツキさんによって止められた。
俺を制したサツキさんは『少し下がってて』というと、前に出て自身のポケモンが入っているボールを手に取った。
右手でボールを持ち、その腕を壁に向かってまっすぐに挙げる。そして指で開閉スイッチを押してポケモンが解き放たれた。
「――ニドクイン、“かわらわり”!」
ボールから颯爽と現れたのは、全身を蒼い鎧のような固いうろこで包んでいる大柄のドリルポケモン・ニドクイン。これが、サツキさんの手持ちポケモンの二体目か。
登場するや否やニドクインはサツキさんの指示に従い、その腕を振り上げて――壁に向かって一気に振り下ろす。すると……壁はパリンと甲高い音を立てて粉々に砕け散った。透明なガラスのようなものが宙に四散していく。
「え…………え?」
「ご苦労様、ニドクイン。ゆっくり休んでいてね」
驚愕で硬直している俺をよそに、サツキさんは期待に答えてくれたニドクインの頭を撫でるとボールに戻した。
……え? 一撃で、あの二重の堅固な壁を、簡単に、破壊?
いやいや、こちらが二匹がかりで歯も立たなかったというのに……何なんだいったい!?
「さて、それじゃあ先に進みましょうか。……ってあれ? どうかしたの?」
「……『どうかしたの』じゃないですよ。何ですか今のは!? 一回であの壁を壊せるなんて……どんな威力を誇っているんですか!?」
何事もなかったかのようにすまし顔を浮かべているサツキさんに抗議せずにはいられない。
どれだけレベル差があるというのだ、俺とサツキさんのポケモンには!? まだ何度か攻撃を繰り返した結果として壁が壊れたのならば納得もいく。しかしここまであっさりとやられると……ねえ? ピカチュウやマグマラシだって衝撃だろうし。
「ああ、そっかシュン君は今の技を知らない? 今のはポケモンの力の強さじゃなくて、技の効果よ」
「……ポケモンの強さではなく、技の効果?」
「ええ。今ニドクインが放ったのは“かわらわり”という技でね。精神を研ぎ澄ませ、鍛え上げられた筋力と精神力が何枚もの瓦を粉砕するというもの。相手にダメージを与えるだけではなく、“リフレクター”や“ひかりのかべ”といった張り巡らされた壁まで打ち砕く技よ」
「……いや、聞いている限りではやはり凄まじい技に聞こえるのですが」
とてもではないが、サツキさんの説明を理解はできても納得はいかない。
まず相手にダメージを与えるだけでなく相手の防御まで崩すという時点で次元が違う気がする。
しかもニドクインのあのスピードもそうだ。ボールから現れて破壊するまで五秒とかかっていなかったぞ。
「うーん。コツさえ掴めば後は何とか上手くいくと思うんだけどな。今度時間があったときに、シュン君のポケモンにも教えてあげるよ。ピカチュウやサンドだって、学べばできるようになると思うよ」
「よろしくお願いします」
「うん任せて。それじゃあ改めて先に進みましょうか」
今の言葉を聞いてピカチュウが期待をこめた瞳をしている。余程今の技に魅力を感じたようだな。俺もあの技の威力に、あの姿に格好良いとは感じたけど。
とにかく俺はまたマグマラシをボールに戻し、先へと進んだ。
……そして歩き始めてすぐに、俺達は森の中心部であることを示すのであろう、『ほこら』を見つけた。
「サツキさん、これはひょっとしてさっき話していた……」
「ええ。おそらく間違いないでしょうね。先ほど張られていた壁からそう遠くないし、やはりこのほこらに何かあると考えて間違いない」
視線をサツキさんに戻すと、いつも以上に鋭い目をしていた。
……噂が本当だったのかは知らないが、やはり誰かがこの祠を狙っているというのは本当だろう。
だが、一通り祠を見渡してみても何も見当たらないし変化もない。辺りにも何かあるわけでもない。何なんだ?
「どうしますかサツキさん? このままこの祠を調べても何も起こらない可能性もありますが……」
「……そうね。確かに私達もここについて熟知しているわけでもないし、ここに長居するのは危険かもしれない。
一度このウバメの森から脱出してコガネシティへ行きましょう。それからオーキド博士に報告して今後の動きを――」
「サツキさんっ!!」
「――ッ!?」
今後の方針を語ろうとしたサツキさんの話は続かなかった。
何かが空を切る音が聞こえ、とっさに彼女の名を叫んだ。そして間をおかずして俺達二人を攻撃するように、冷たい光線のようなものが地面に直撃する。
とっさの判断でその場から離脱。……見ると、先ほどまで俺達がいた場所が凍りついていた。
「これは“れいとうビーム”か!? 誰かが俺達を狙って――!? ピカチュウ“でんじは”!」
間違いなくポケモンの攻撃であった。そして今のことについて考えている暇もない。
後ろに今までになかった気配を感じ、すぐさまピカチュウに攻撃の指令を出す。
ピカチュウの尻尾に電気がこもった球体がたまり、そして打ち出された。球体は対象に向かっていくが、木々に潜んでいた敵は軽やかにかわし、汚いヘドロを投げつけてきた。――毒タイプの“ヘドロばくだん”だ!
「ピカチュウ、つかまれ!」
「ピッ!」
攻撃後で隙だらけであったピカチュウの体を抱え込み、そのまま横に転がるようによける。何とか回避できたものの、俺達のいた地面が溶けている。……完全に敵と見て問題ないな。
「ほお。
「……お前ら、ロケット団か?」
木々の間から声と共に二つの影と二匹の影が降り立った。
現れた二人の男は全身黒ずくめの服装に『R』の字が縫い付けられた服装、ロケット団の団服を着ている。さらに二匹のポケモンはイトマルにオクタン。……『れいとうビーム』と『ヘドロばくだん』を放ったのはこいつらか。
「ご名答。俺達はロケット団の中隊長、その中の一人ハリー!」
「俺はケン!」
「……いや、別に名前までは言わなくて良いんですけど。まあいいや」
決めポーズを決めながら親切に名前まで名乗った二人に突っ込んだ俺は間違っていないと思う。
敵である俺の疑問に対してバカ正直に名前まで名乗るとはコイツら馬鹿か、馬鹿なのか? それとも余程自分の強さに自信があるのか? ……前者だと思う多分。その方が格好いいと思っているのだろう。ってか、仮にも犯罪者なんだから名前は伏せろよ。
……しかし現状は良くないな。二体一の状況になったうえに、最初の『れいとうビーム』をよけるときに俺はサツキさんとは逆方向に飛んでしまった。さらに敵の追撃をよけるために俺はその場から離れた。
つまり俺達は完全に分断されてしまったというわけだ。俺にも敵の幹部が来ているところから考えても、おそらくサツキさんの方にも何かしらロケット団の追撃が及んでいるはずだ。
だとしたら――
「……それよりもお前ら、まさかサツキさんにまで手出ししたわけじゃないだろうな」
――なおの事、ここでゆっくりはしていられない。
早くこいつら二人を撃退し、サツキさんと合流を果たす。それしかない。
「サツキ? ……ああ、一緒にいた女のことか?」
「馬鹿か。わざわざお前達を切り離したというのに、もう一人の方だけ何もないなんてないだろう?」
「それじゃあやっぱり……」
「ああ。もう一人の中隊長が向かっているさ」
……俺の予想通りの展開か。実力は知らないが、仮にも中隊長を名乗るくらいなのだから相当なものなのだろう。しかも俺達は不意を衝かれてしまったんだ。いくらサツキさんが実力者であったとしても、無事であるという保証はない。
「お前達を倒した後のことは好きなようにして良いって命令だからな。……くぅっ、リョウが羨ましいぜ。できれば俺も女の方が良かった」
「俺もだ。あんな上等な女めったに会えねえからな」
「……屑共が」
相方であろう男に関する話は聞くに堪えないことだった。声が自ずと低くなる。
ゴールド達を傷つけ、今度はサツキさんを自分達の欲望を満たすために利用しようってか? ふざけてやがる!
「今すぐ消えろ。お前らの相手をする気はない!」
相手がロケット団の幹部ならば捕まえなければならないのだろうが、今の俺にはそんな余裕はない。
仮面の男がいないならばこいつらの話は聞くだけ無駄だ。ならば優先事項はサツキさんと無事に合流すること。こいつらの相手なんて二の次だ。
「……お前にはなくてもこっちにはあるんだよ」
「ああ。このウバメの森への侵入者、そいつらの口を封じることが俺達の目的だからな」
「なるほどな。だったら……力づくでも通させてもらうよ! 行くぞ!」
言葉と共にすぐさまボールへと手を伸ばし、サンドをボールから繰り出した。
二体一。実戦でははじめての試みだ。今まで訓練はしていたけれど、実戦訓練は0に等しい。
だがそれでもやるしかない。
俺はサンドとピカチュウに攻撃の指令を出し、二匹は俺の指示通り相手に向かって行った。
ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………
主人公:シュン
持っているバッジ:2個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ)
手持ちポケモン
マグマラシ♂ Lv20
ピジョン♀ Lv21
ピカチュウ♂ Lv22
サナギラス♂ Lv33
サンド♂ Lv18
ラプラス♀ Lv35
レポートに書き込みました!!