ワカバの導き手   作:星月

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今作品ではポケモン図鑑に記載されている情報を使い、ポケモン達の戦いや姿を描写する場面があります。そういった設定は原作に準拠します。


第十四話 vsキリンリキ 忍び寄る闇

「一度このウバメの森から脱出してコガネシティへ行きましょう。それからオーキド博士に報告して今後の動きを――」

「サツキさん!」

「――ッ!?」

 

 咄嗟の判断であった。

 隣にいるシュンから発せられたただならぬ声から事態を察し、サツキは反射的にその場から大きく後ずさった。かつて29番道路での出来事も踏まえ、危機に対して敏感になったのかすぐさま体は反応した。

 案の定目の前を何者かの攻撃が――強力な冷気をまとった一筋のビームのようなものが飛来する。威力から考えて“れいとうビーム”だ。

 

「敵の攻撃!? まさか本当にロケット団が……ッ!? シュン君!? シュン君!」

 

 今自分達を狙うとしたらその相手はロケット団しかいない。そう考えた彼女はその場で周囲を見渡し、現状の把握に移ろうとして……そして自分達が分散させられたことに気づいた。先ほどの“れいとうビーム”は近くにあった大木までをも凍らしており、大きな氷の壁となってサツキの行く手をふさいでいる。

 シュンの無事を確認するためにも今すぐ合流したいところではあるが、これではそれさえ叶わない。

 

「このっ……」

「おいおい、女が変な真似はやめとけよ。そんなことよりも俺と遊んでいこーぜ」

「……!?」

 

 まずはこの氷を排除すべく、サツキは自身のポケモンが入っているボールへと手を伸ばし、手に取った。

 しかしそんな彼女を無駄であると諭すかのように、背後から男性の声が響く。内容から好意的な者でないと判断するとすぐにその声主の方向へと振り返り、臨戦態勢に移った。

 そこには尻尾にも小さな頭のようなものをはやし、体の後ろ半分が黒色でキリンのようなポケモン――キリンリキに乗った男がいた。胸に大きく『R』の文字を縫い込んである黒色の団服を、ロケット団員であることを示している服装を着ている。

 それはつまり、サツキが考えていたことが本当であるということを意味しているのと同義であった。

 

「よう。俺はロケット団の中隊長の一人、リョウだ。仲良くしよーぜ」

「あらあら、ご丁寧にどうも。でも折角の申し出には応えられそうにないわ。

 ……私には連れがいるの。だから、あなたと遊ぶつもりは一切ない。だから今すぐどいてくれるかしら?」

 

 自らの名を名乗り、誘ってくるハリーをサツキは笑顔を作ってかわした。最も内心ではまったく別の、侮蔑の感情を抱いているであろうことは想像に難くない。

 

「そいつは無理な相談だな。なぜなら――その連れのガキにも、俺の仲間達が今頃遊んでいるはずだからな」

「……へえ。なるほど、ここにいるのはあなた一人だけではないのね?」

「言っただろう? 俺は中隊長の一人だと。つまりはそう言うことだ」

 

 連れのガキ――間違いなくシュンのことである。やはり先ほどの攻撃はこちらの戦力を分散させるための陽動であったことは間違いないとわかった。

 しかも言っている言葉から推測するとハリーという男がロケット団の中でも中々高い地位にいるということがわかる。それがまだ経験の浅いシュンの元にも向かっているというのだから余裕はない。

 

「そう。それじゃあシュン君は私の側にはいないのね。……よかった。これで、足手まとい(・・・・・)を気にする事無く、思う存分戦える」

「なっ!?」

 

 近くにシュンがいないことを知り、何事かを考えるかのように頭を下げた。ハリーは仲間の危機を知り、彼女が不安にかられているものだと察した。……しかしすぐさまそれが間違いであると知る。言葉と共に再び自分に向けられた、彼女の表情を見て。

 ハリーは思わずその場でひるみ、後ずさった。彼女から放たれた気迫に圧倒された。彼女の視線に当てられただけで体が震えていた。

 そんな彼を一瞥し攻撃をしてこないことを悟ると、サツキは新たに腰のモンスターボールに手をかけ、一匹のポケモンをその場に繰り出した。

 

「な、なんだコイツは? 一体何なんだこのポケモンは!?」

 

 ハリーが愕然とする。ボールから現れた今まで見たことのないポケモンの姿に、その巨体に驚愕するばかりで何かを行動に移すことさえ出来ない。その場でただ言葉を出すしかなかった。

 

「あなたの出番よ。――すぐにシュン君の救援に向かうわ。一撃でこの場を制しなさい、“じしん”!」

「うお、うおおおおぉぉぉぉぉ!?」

 

 サツキがポケモンの上へ乗っかると、その巨体の豪腕が地面に勢いよく叩きつけられると同時に地面が大きく揺れる。天変地異を引き起こすその技は、勝負を決するには十分すぎるほどの一撃で。その衝撃は近くにいるハリーとキリンリキを一撃で戦闘不能の状態へと追いやった。

 

「誘う相手を間違えたわね。……さあ、それじゃあ彼の元に向かいましょうか。――ギャロップ!」

 

 ポケモンと一緒に気絶しているハリーの姿を確認し、サツキは感情をこめずに言い放った。

 勝負を決める“じしん”を放ったポケモンをボールへと戻し、先ほどボールから出そうとしていた火をまとった馬――ギャロップを繰り出した。

 

「――“かえんぐるま”!」

 

 主人(サツキ)の指示を受け、ギャロップはその見に巨大な炎を渦をまとって氷の壁へと突進する。シュンの手持ちポケモンであるマグマラシと同じ技であるというのに、まったく別の技のようにさえ思ってしまうほどの威力を持つ攻撃により、氷の壁は一撃で砕け散った。

 行く道を阻むことはもう何もない。サツキはギャロップを呼び寄せて、その大きな背中に乗り移った。

 

「できるだけ急いでね。……シュン君、今行くから!」

 

 ――だからどうか無事でいて。

 サツキは心の中で幼い少年の身の安全を願った。そんな彼女の不安を一蹴するように、ギャロップはその場を駆け抜ける。

 

 

――――

 

 

「どうしたどうした、逃げるばっかじゃどうにもならないぞ?」

「言っておくが、ここの地理に関して言えば俺達のほうが詳しいんだよ!」

「……くそっ。ピジョン、サンドを連れて空中へ飛べ!」

 

 逃げる俺達を追ってくる二人に一瞬だけ目を向け、俺はピジョンに指示を出した。

 俺を挑発するためにやつらは言っているのだろうが、事実その通りだ。

 このウバメの森は天然の森と言ったが、その言葉が意味するのはすなわち木々が生い茂っているということ。それだけ戦いにおいてはその生えわたる木を利用した戦法がより有効となる。

 敵のポケモンの一体、イトマルが特にその戦い方を利用してきて厄介だ。武器でもある糸を木々に巻きつけて軽やかに移動し、どこからともなく攻撃を仕掛けてくる。完全に地の利は向こうにある。

 事実、あのすばやさが優れているピカチュウもすでに戦闘不能寸前にまで追い込まれ、今となってはボールの中だ。

 

 このままでは徐々にこちらが追い込まれていくことは間違いない。ピジョンに指示を出し、ピジョンはサンドを掴んで空中へと飛んだ。これで少なくとも敵の攻撃をかわすことは楽になるはず。さらに空中から攻撃を窺うということもできる。

 

「空中へ逃げたか。だがそう簡単には逃がさん! オクタン“れいとうビーム”!」

「イトマル、“いとをはく”!」

「ピジョンそっちに行ったぞ! サンド、“スピードスター”だ!」

 

 追撃となる攻撃が敵二匹から放たれた。

 すぐさま警告を呼びかけ、サンドにも迎撃の指示を出す。たちまりサンドの体に光が収束し、星型の光のエネルギーの結晶体が発射された。れいとうビームは当たる事無くはるか彼方へと消え、攻撃の糸はスピードスターによって相殺される。

 ……やはり、まだ空中のほうが戦える。ピジョンならば敵の攻撃にも十分対応できるし、これならいけるぞ!

 

「よしっ、いい調子だ! ピジョン、そのままサンドと……ッ!? なっ!?」

「なっ、なんだなんだ!?」

「じ、地震だと!? し、しかし、こんな急に……強すぎるだろ……!」

 

 さらに指示を出そうとするが、その言葉は続かなかった。

 突如発生した大地震。それにより思考が一時的に中断される。余震さえ感じ取れなかったというのに、突然起こったことにより、相手二人も混乱しているようだ。

 ……見ると、オクタンも地震のダメージを受けており、おまけに木々にぶら下がっていたイトマルもすぐ近くまで落ちてきている。ならば、今がまたとないチャンスだ!

 

「ピジョン、サンドを降ろせ! サンドはそのまま“ころがる”だ!」

 

 地震が弱まってきた今を逃せば勝機は薄い。

 ピジョンがサンドを掴んでいた足をはなし、重力にしたがってサンドは体を丸めながら地面に落下してくる。そして地面に落ちると、ダンッと音を立ててバウンドし、落下の威力も加わって凄まじい勢いで敵に転がっていった。

 ポケモン図鑑にも載っていたことではあるが、サンドはどれだけ高いところから落下したとしても、体さえ丸めればその衝撃を吸収することができる。しかも今回はそのまま攻撃につなげたことで“ころがる”の威力が倍増した。

 

「なにっ!?」

「しまった! イトマル、反撃を……!」

 

 混乱していたこともあり、敵は身動きがとれない。

 サンドは動けない二人と二匹へと突っ込み、まるでボーリングのピンのように吹っ飛ばした。その威力は計り知れず、一撃で彼らを戦闘不能とした。

 

「よくやったぞピジョン、サンド!」

 

 空中で待機していたピジョンも呼び戻し、二匹の奮闘を讃えた。

 ……正直危ないところではあった。あの地震がなければ敵の動きも止まってはいなかっただろうし、どうなっていたのかわからない。まさに天の助け、といったところか。

 しかし、先ほどの地震はなんだったんだ? いくらなんでもおかしい。地震が自然に発生したならば、大きな地震が来る前に何かしら小さなゆれを感じるはず。それなのに、何も感じなかった……? どういうことだ?

 

「……まあいい。とりあえずこの二人は警察に引き渡すとして、俺達はサツキさんに合流しよう。逃げることで精一杯だったから森の奥まできてしまったけどな。……ピジョン、悪いけど空中からサツキさんを探してくれないか?」

 

 先ほどは戦いに勝つことで周りが見えていなかった。おかげでサツキさんと別れた場所から遠く離れた場所に来ている。さすがにここからただ闇雲にあるいて合流できるとは思えないし、ピジョンに一つ頼むとしよう。

 俺の意図を理解し、ピジョンは頷くと翼を羽ばたかせて空中へと飛び立ち――

 

「――ッ!? ピジョッ!!」

「……え?」

 

 ――飛び立とうとして、ピジョンは突如全速力で俺の前へと躍り出て、そこで身をとどめた。

 明らかに俺の指示に逆らう動きだ。その行動の意味がわからずその姿を視線で追う。

 

「――!!」

「……ッ!? ぐふっ!?」

 

 そして、ピジョンの体が勢いをつけて俺の体へと吹っ飛んできた。俺の体に当たってもその勢いは止まらず、俺が後ろの木に激突することでようやく止まった。

 

「がはっ……!」

 

 いっつ……! ピジョンがぶつかったこと、そして木に叩きつけられたことで体に激痛が走る。肺から空気が全て搾り出された。

 唯一無事であったサンドがこちらに駆け寄ってくるのが見える。一体今、何が起こったんだ? ピジョンが俺の前に出てきて、そしたらそのピジョンの体がそのまま俺のほうに飛んできて……!?

 

「ピジョン!? どうした! おい!!」

 

 何かピジョンに起こったという考えに至ったが、それは間違っていなかった。

 ピジョンの体が震えていた。ただダメージを受けているというだけではない。右の羽全体が、一点を中心に完全に凍り付いている……! これは、まさか知らぬうちに攻撃を受けていたのか!? それで先ほど俺の方へと吹っ飛んできて……!

 ぞれじゃあ、つまり。ピジョンは俺を庇おうとしてあえて……

 

「……自らの身を犠牲にしてトレーナーを守ったか。その忠誠心、敵にしておくには惜しいな」

「ッ! 誰だ!?」

 

 突如俺の耳に機械質な声が響いた。

 その声に反応して顔を上げる。ボールに出ているサンドも事態を把握して、自ら戦闘体勢へと移った。

 

「……おいおい」

 

 普通ならば、すぐにでもサンドに指示を出さなければならないのだろう。あるいはすぐさまピジョンをボールに戻すか、治療を開始しなければならない。

 ――しかし、俺はそのどの選択も実行することができずに、呆然としてしまった。それが戦場においては一番してはいけないことだとわかっているというのに。

 わかっていても、それでも動けないのだ。なぜなら――

 

「まさか、仮面の男が直々に出てくるとはな……」

 

 ――目の前にいた存在が、俺が追い求めていた相手だったからだ。

 

 

 

 

 

ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 

 主人公:シュン

 持っているバッジ:2個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ)

 

 

 手持ちポケモン

 

  マグマラシ♂ Lv20

  ピジョン♀ Lv22

  ピカチュウ♂ Lv22 

  サナギラス♂ Lv33

  サンド♂ Lv20

  ラプラス♀ Lv35

 

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