ワカバの導き手   作:星月

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第十六話 vsイーブイ 戦う理由

「……ある程度最悪の状況は想像していたのだけれど、これはその想像を上回るわね」

 

 俺を一瞥し、さらに周囲の環境を見渡したサツキさんが苦々しく呟いた。その表情は未だに曇っており、今までの彼女の天真爛漫な笑顔は影を潜めている。

 ……それも当然の話か。

 俺は先ほどの凍結によってすでに立ち上がるのも辛い状態だし、手持ちポケモンも同様だ。ピカチュウとピジョンはすでに戦闘不能、サンドも先ほど氷が解けたばかりで息も絶え絶え、捕まえたばかりのヘラクロスも全身に火傷によるダメージを受けている。

 周囲の木々も一面凍りついており、ことの惨劇さを物語っていた。このようなこと、想像できるわけがない。まさか仮面の男がこれほどの力を持っていたなんて。……いや、こんな力の使い方をすることができるなんて、少なくとも俺は想像できなかった。

 

「好き勝手やってくれたようだけど……ここから先は、そうはさせない」

 

 サツキさんはさらにスターミーとニドクインを繰り出し、敵を牽制している。皆臨戦態勢に入っていて、いつでも戦えるように身構えている。

 

「……なるほど。貴様が例の女か。話は聞いている。

 できればこの場で排除しておきたいところではあるが……この場は引かせてもらおう」

 

 しかし仮面の男はそれに応えない。

 サツキさんとそのポケモンを見るや、戦闘をやめて身を翻した。

 ……あれほどの力を持っている人間が手出しさえせずに? それほどの力をサツキさんは持っているってことか?

 

「あら? 大組織・ロケット団を率いているような方が、女の子一人を目の前にして一戦も交えることなく逃げ出すのかしら?」

「らしくない挑発だな。死に損ないの雑魚を庇いながら私と戦えるとでも思っているのか?」

「……くっ!」

 

 挑発に乗らず、淡々と相手は言葉を吐いた。

 ここまで言われて何もできないのはさすがに腹が立つ! ……だけど、言い返す言葉もない。今の俺では、足でまとい以外の何者でもないのだから。ただ、歯を食いしばるしかなかった。

 

「安心しろ。そちらが手出ししなければ、こちらもこれ以上危害は加えない。

 貴様とて一刻も早くその小僧を医療機関に連れて行きたいはずだ。……違うか?」

「……いいでしょう。ならば、早く私達の視界から消えて」

「ふん。言われるまでもない。……さらばだ、私に刃を向けた愚かな者達よ。

 次に会った時は、今回のように上手く生き残れるとは思うな。私は躊躇しない」

 

 交渉は成立した。

 サツキさんが同意すると、仮面の男はデリバードに捕まって空を飛んでいく。おそらくは本拠地に戻るのだろう。

 ……戦いは終わったのか。やつの言うとおり、次こそは本当に生き残れるか心配だな。

 

「うぐっ!」

 

 安心したせいか、痛みが戻ってきた。

 ……体が痛い。その上に、動かしにくい。

 さきほどの氷漬けにされた影響か。体の感覚も、どこか変だ。長い時間受けていたわけではないとは言っても、弱っている体にあれは危険すぎたな。

 

「シュン君!? 大丈夫、しっかり!」

 

 頭のほうからサツキさんの声が響く。……しかし、視界がぼやけて姿が見えない。

 

「ギャロップ、すぐにコガネシティまで向かうわ。急いで!」

 

 俺をなんとかギャロップの体に乗らせて彼女もその体に乗ると、すぐに走らせる。

 ……速い。乗り物並の速さではないだろうか?

 吹きぬいていく風が妙に心地よく感じて……意識が、段々と遠のいていく。

 サツキさんに背中を預けて、そのまま俺の意識は途絶えた。

 

 

――――

 

 ―― 次の日 ――

 

『……そうか。ウバメの森でそのようなことがあったのか』

 

 パソコンの画面越しに暗い声が響く。

 映っているのは現在ヨシノシティにいるオーキド博士。サツキの報告に表情を隠すことが出来ずに、そう呟いた。

 

「はい。ようやく仮面の男と対峙できたというのに、申し訳ありません」

「いや、君達が無事だっただけでも十分じゃ。なにせ今回は急すぎたからのう。

 それよりも……シュン君と彼の手持ちポケモン達の容態は?」

 

 サツキが自分を責めるように謝罪するが、そんな彼女を責める事無くオーキドは諭した。今回の戦いはあまりにも急な出来事だった、仕方のないことであると。

 だからこそ、博士はこの戦いで負傷した少年の身を案じた。

 

「彼自身、軽度の凍傷を負っていました。その場で応急処置を行えたのですぐに復帰できるはずです。医師の診断でも、退院して問題ないといわれました。

 ポケモン達もセンターでの治療は終えています。ただ……ピジョンだけは傷の治りが遅く、まだ時間を要するかと」

「……そうか」

 

 シュンとポケモン達はすぐにでも出発できる状態にまで回復している。

 しかしそんな中、シュンを庇って倒れたピジョンだけは未だに傷が治りきっていない。敵の一撃をまともにくらってしまったせいか体の痺れが残っており、片翼をまともに羽ばたかせることができないでいる。

 

「一度そちらにピジョンを送って診てもらいたいところではあるのですが……今はそれができませんので、もうしばらくコガネシティに滞在するかもしれません」

「わかった。たしか、新たにヘラクロスもゲットしたと言っておったしのう。通信が回復するまでは仕方があるまい。シュン君にも無理をしないよう、言っておいてくれ」

「はい、そのことは十分言い聞かせておきます」

 

 ピジョンの容態、そしてシュンの手持ちポケモンが七匹にまで増えたことから一度ポケモンをオーキドの元に送りたいところではあるのだが、現在全国に広がっている通信障害がそれを許さない。

 しばらくの間、通信が回復するかピジョンの回復までは進度が遅くなることは仕方のないこと。それを理解したオーキド博士は彼女の提案を承諾し、またシュンに忠告するように伝えた。

 

「それではもう一つ、敵についてわかったことを少しでもいいから教えてくれんかの?」

「仮面の男に加え、敵の幹部三人も逃走したために特に有力な情報はありませんが……シュン君が敵から聞きだしたことによると、どうやら私達の存在がすでに敵にも知られていたようです。最も、オーキド博士達から依頼を受けたということは知らないようですが」

 

 仮面の男と共に、ロケット団の中隊長三人の姿も消えていた。

 シュンからも話を聞いてやはり三人の幹部がその場にいたことが発覚したのだが、どうやら彼らがコガネシティへ向かっている間に姿を消したようだ。警察が駆けつけたころには誰もいなかったという。

 ゆえに今回つかめた情報は直接対峙したシュンから聞いたことだが……これが一番重要なことだった。

 

「……こちらの動きが読まれていたのか」

「わかりません。ですが私のことも知っているようですし、何らかの情報源を持っている可能性があります」

「ふむ。……それについてはこちらでも調査を進めよう。君達は気にせずに旅を続けてくれ」

「はい。お願いします、オーキド博士」

 

 敵がどうやって二人の存在を知ったのかは知らないが、これ以上余計な負担をかけるわけにはいかない。

 調査の件を引き受け、オーキド博士は安心させるように声をかけた。

 

 その後も何度か話を交え、これからのことについて語るとサツキは通信を切る。

 その後彼女が向かったのはコガネ総合病院だ。ジョウト地方の中でも大都市であるコガネシティは病院も発達していて、様々な診療科がある。かつてゴールドが世話になった病院でもあった。シュンが負傷した時もここに運び込まれ、今も様子見ということで入院しているのだ。

 三階の彼が今いる病室の前に立ち、二回ノックをした後扉をガラリと開けた。

 

「シュンくーん、おとなしく寝てた?」

 

 サツキはできるだけ明るく、彼の心配を拭う様に声を出した。

 

「……あら?」

 

 しかし返事はなく、そしてベッドに横たわっているはずの彼の姿もない。

 ……彼の相棒であるポケモン達が全員いないところを見ると、どうやらサツキが目を離している間に、どこかに行ってしまったようだ。

 

「はあ。今は無理をしてはダメだっていったのに……もう!」

 

 愚痴を吐いていても仕方がない。

 すぐさまサツキは反転し、いなくなったシュンを探すべく病室を去った。

 ――果たしてどういうお仕置きをしようか、とサツキは思考をめぐらせる。そのせいで彼のポケギアに連絡するという手段は思いつかなかったようだ。

 

 

――

 

 

 同時刻。

 コガネシティの一角、西に広がる海一面を見渡せる広場にシュンの姿はあった。

 その側には彼の相棒であるピカチュウと昨日助けるために捕まえたヘラクロスもいる。

 

 一人と二匹は何も語らず、ただひたすら海を眺めていた。

 海から吹いてくる潮風がシュンの髪をなびく。

 そんなことも気にせずにじっと前だけを見据える彼の瞳はどこか痛々しく、弱々しいものであった。

 

 

――――

 

 

「俺達も、まだまだだな」

 

 今こうやってあの時のことを思い出しても、やはりあの時と同じ考えが浮かんでくる。

 鮮明に昨日の戦い――ウバメの森での戦いが脳内に呼び起こされる。

 ロケット団三幹部と名乗っていた男達相手に勝利を収めることはできたものの、仮面の男を目の前にして、俺は手も足もでなかった。手持ちポケモン達を危険にさらし、俺自身もサツキさんがいなかったならば間違いなく殺されていた。

 ……こんなことで、どうやってゴールドを救えるっていうんだよ。

 

「サツキさんにはゴールドのことを言わなかったけれど、これでよかったよな?」

 

 相棒たるピカチュウに聞いてみると、頷いて俺の意見を肯定してくれる。

 手持ちポケモンが七体になったことによって、腰のベルトにボールを装着するにも一個あまることになり、ピカチュウは昨日からずっとボールから出ている状態なのだ。

 

 今日の朝、目が覚めてからサツキさんと昨日起こったこと、新たに入手した敵の情報のことは話したもののゴールドのことは一切話さなかった。

 いや、話せなかったというのが正しいか。俺自身まだあいつが死んだとは思っていない。無駄に運がよく、生命力を持ったゴールドだ。きっとどこかでまだ生きているだろう。俺はそう信じている。

 

「あいつのためにも、俺は強くならないといけない」

 

 弱いままでは、強くなければ何もできやしない。

 ……父が昔言っていた言葉が思い返される。想像するだけでも腹が立つ男だが、それでもあの言葉だけは今でも俺の心に刻み込まれている。

 

『いいかシュン。強くなければ何もできやしない。お前にも必ず、戦わなければならない理由ができるはずだ。そのときのために、後悔しないためにお前は強くなっておけ』

『――戦わなければならない理由?』

『そうだ。大きくわければ、理由は二つある。

 一つは――どうしても倒さなければならない存在(てき)が現れたとき。

 そしてもう一つは――どうしても守らなければ、救わなければならない存在(ひと)ができたときだ』

 

 ……今ならばあの男が言っていた言葉の意味がわかる。

 仮面の男という倒さなければならない敵、そしてゴールドという救わなければならない仲間。

 もう俺が戦う理由は明確になっているんだ。ならばあとは強くなるだけ。それだけなんだ。

 

「だったら、こんなところでいつまでも足踏みしているわけにはいかないよな!」

 

 気丈に振舞うと二匹も賛同するように笑みを見せてくれる。

 ……それだけじゃない。こいつらのためにも、もっと強くならなければならない。

 

「……というか、話は変わるがヘラクロス。お前は本当に着いてくるのか? 治療はもう済んだんだし、野生に帰ってもいいんだぞ? 別に俺はお前が離れてもとやかく言うつもりはないんだから」

 

 改めてヘラクロスに問うが、コイツは俺の元を離れる気はないらしい。

 どうやら昨日仮面の男に一方的に負かされたことがショックだったようだ。それで仮面の男にリベンジを果たすため、より強くなるために俺と行動を共にすることを選んだ様子。

 まあ俺にとっては少しでもほしい貴重な戦力だし、俺は構わないけどな。

 

「じゃ、これからよろしく頼むぞヘラクロス。俺のチームは格闘戦士がいないからな。頼りにしてるぜ」

 

 「任せろ」と言わんばかりに腕で自分の腹を叩いてみせるヘラクロス。

 この陽気な性格ならチームの皆ともすぐに仲良くなってくれそうだな。肉弾戦は今までサナギラスくらいしか戦力がいなかったから、本当に頼れる存在だぜ。

 

「――てやー!」

「ん? 今何か聞こえなかったか?」

 

 突如誰か――男の人の叫び声のようなものが聞こえた。

 遠い位置からなのか、詳しくは聞き取れなかったが。しかしピカチュウも何か聞こえたようで、コクリと頷いている。

 

「……マテや、止まれやこの!」

「あ、誰かこっちに走ってきている。……というか、何か追いかけているな」

 

 振り返ると、誰かがこちらに向かって走っている小型の何かを追いかけている姿が見えた。

 おそらく追っている相手はポケモンだろう。四足歩行で走り、茶色の体毛で覆われている。耳はピカチュウのような――どちらかというと兎のような長い耳だ。さらに特徴的なのは、首まわりにふっくらとたくわえた白い毛皮と、同じくふっくらとした先端だけが白っぽい尻尾。

 ……なんだっけ? どっかで聞いたことがあるような特徴だな。見たことはないけど。

 

「ああくそっ! こないなところで……お! ちょいとそこのあんさん! そのポケモン捕まえたってやー!」

「ああ、やっぱりそういうことか」

 

 進路方向にいる俺の存在に気づいたのか、男は俺にこのポケモンの確保に協力するよう言ってきた。

 大方自分のポケモンに逃げられたとかそういう理由だろう。仕方がない、手伝ってやるか。

 ……だが乱暴な真似はできないな。みたところそんな危険なポケモンには見えない小柄なポケモンだし、できれば無傷で押さえ込みたい。となるとサナギラスはダメだな。

 

「んー……まずは確実に包囲網を作るとしよう。ヘラクロス、空中から相手の上に回りこんでくれ」

 

 俺の指示通り、ヘラクロスが羽を羽ばたかせて相手ポケモンの上空へと向かう。そして同じ速度を保ってこちらへ向かってくる。

 ここは丁度壁にはさまれた一本道、背後は海だしこちらに追い込めば逃げ場はない。

 

「よし、ピカチュウ。相手の足元に“でんじは”だ」

 

 そこにダメージを与えずに麻痺させる効果をもつ“でんじは”を打ち込む。あくまで牽制だが、これなら万一当たってしまっても相手を傷つけることはないだろう。

 ピカチュウの尻尾に電気エネルギーを溜め込んだ球体が形成され、打ち出される。狙い通り相手の手前の地面に当たり、動きが止まった。牽制の意味は伝わったのだろう。

 挟み込まれた事実を知り、ポケモンはその場で右往左往している。これであとは保護すればいいだけだ。

 

「おとなしくしてくれれば、何もしないよ。だから素直に……って、聞いてねえし!」

「あんさん! そのポケモン頼んだで!」

「……了解した! ヘラクロス、その子を掴み挙げろ」

 

 こちらから歩みだそうとした瞬間、再びこちらに向かってきた。

 どうやらおとなしくつかまる気はないようだ。トレーナーの依頼もあったので、確保に移るとしよう。

 空中のヘラクロスがゆっくりと高度を下ろしていく。さすがに空中に体を持っていかれえては何も抵抗できないだろう。

 そしてポケモンも大きくなりつつある影によってヘラクロスの接近に気づいたのか、視線を上空へと上げた。だがもう遅い。ヘラクロスが両腕を広げて確保に移り……そして吹っ飛ばされた。

 

「……え!? ヘラクロス!」

 

 いきなり相手のポケモンが飛び上がった。つまり、“ずつき”だ!

 至近距離だったせいでヘラクロスも防ぐことはできず、まともに食らってしまった。……上手いなあのポケモン。まあヘラクロスもすぐに体勢を整えているし、あまりダメージを受けている様子は見えないが。

 

「ピィッ!」

「ちょっ! ま、待てピカチュウ! 乱暴な真似はするな!」

 

 相手に攻撃の意図があると読んだのか、いきなりピカチュウが両頬の電気袋から電気を放出した。

 ポケモンのトレーナーもいるというのにそれはまずい! すぐさまピカチュウに辞めさせるよう促した。

 ……そう言っている間にもポケモンはこちらに走りこんでいる。

 いや、ここにはもう逃げ場はない。トレーナーも一緒に来てくれれば完全に逃げ道を封じられる。

 

「……大丈夫だ。怖くないから、こっちにおいで」

 

 だから、せめてポケモンが傷つかないうちに手を差し伸べた。

 ポケモンの気持ちはわからないけれど、一瞬表情が変わった気がした。

 そのまま止まってくれ、と祈りながら待っている。このポケモンも無理はしないはずだ。

 

「……ブイッ!!」

「ごふっ!?」

「ピカァ!?」

 

 ……そしてそのポケモンは勢いそのままに、俺の胸元へと“たいあたり”してきた。

 押し出されたことで体が宙に浮かぶ。小柄といってもそれなりの威力はあったようだ。

 攻撃を受けた後ではまともに体を動かせない中、視線を少し下げると……体が海と陸を隔てる柵を越えているということに気づいた。

 

「……ってうそぉっ!?」

 

 信じられないが、そう言っている間にも体は重力に従って水面へと落ちていく。とにかく、このポケモンだけは守らないと!

 腹に収まっているポケモンを抱えると、すぐにバシャンと大きな音が響いた。……っつ。まあ、胸と背中が痛いけれどなんとか怪我はなさそうだな。

 

「くそっ、ヘラクロス、来てくれ!」

 

 バタ足で体を浮かせ、ポケモンへと呼びかけた。

 まもなくして声を聞きつけたヘラクロスが顔をのぞかせる。

 今はピジョンがいないためこいつに頼むしかない。

 ……するといきなり右腕で抱えている先ほどのポケモンがじたばたと暴れだした。いきなりの水中で混乱しているのか?

 

「おい、おとなしくしていろ! 今助けてやるから!」

「ブーイ!」

「……大丈夫だって。怖くなんかない。いい子だから、おとなしくしよう。な?」

 

 両腕で抱え込み、頭を撫でながら優しく語りかける。

 ようやく気持ちが通じたのかポケモンがきょとんとこちらを見つめてくる。

 こちらもじっと見つめ返せば、ポケモンはようやく動きを止めて俺に体を預けてくれた。

 

「よーし、いいぞ。……ヘラクロス、頼む」

 

 ヘラクロスに持ち上げられてもらっている間にもこのポケモンを見つめ続ける。

 ……とても可愛らしい。こうして見るとやはり攻撃的なポケモンとは思えなかった。

 

「大丈夫でっか!?」

「ああ、このイーブイのトレーナーですか? 俺は大丈夫ですよ」

 

 柵まで追いかけていたトレーナーらしき人が駆け寄ってくる。

 何とか気丈に返し、こちらの無事を示した。

 地上に降りてこのポケモンを解放する。今度はいきなり逃げ出すことはなく、体全体をぶるぶると震わせて水分を飛ばしている。

 

「……こっちにおいで。体を拭いてやるから」

 

 自分でもタオルで髪の毛などを拭きながら手を差し出せば、今度は躊躇する動作を見せながらもこっちにゆっくりと歩み寄り、体を預けてくれた。

 少しは信じてもらえたってことかな? タオルで体全体を拭いてやれば、気持ちよさそうにうっとりした表情を浮かべている。……いちいち可愛いな、オイ。

 

「何から何まですんませんな。ホンマ助かったで、ありがとな」

「いえ。それよりも何があったんですか? それとこのポケモンは?」

「ああ、さすがにポケモンのことは知らなかったんかいな? このポケモンはイーブイというてな、わいが今育てているポケモンの一体や」

「……イーブイ。そうか、こいつがイーブイか」

「せや。聞いたことくらいならあるんちゃうか?」

 

 たしかに話で聞いたことはあった。

 ――イーブイ。ポケモンの中では珍しく複数の進化形態を持つという不思議なポケモンだ。こうして見るのは初めてだが、見た限りでは特に変わっている様子は見られず、そうは思えないのだが。

 

「まあわいも育て始めたのは最近なんやけど……どうもこのイーブイはわいに心を開こうとしてくれへんねん。今も少し交流を図ろうとしたらかみついてきおってな」

「……心を開かないというか、多分このイーブイは少し臆病なだけだと思いますよ。

 怯えているんじゃないですか? 自分よりもはるかに大きな人を目の前にして」

「なんや、そんなんわかるんかいな?」

「なんとなくですけどね。さっきもこいつは俺に怯えていたように見えましたし」

 

 あくまで感覚的なものなので上手くは言えないがな。

 だがこういう風に攻撃してくるというのは攻撃的というわけではなく、とても臆病な場合が多い。

 今でこそこうして俺の側にいるが、今は安心しているからだろう。

 

「……あんさん不思議な人やなぁ。そないなことまでわかるとは」

「いえいえ、あくまで俺の主観ですので。気にしないで下さい」

「いやいや、参考にさせてもらうで。……おっと、自己紹介がまだやったな。

 わいの名はマサキ。ポケモン転送・預かりシステムの開発者や」

「どうも。俺はワカバタウンのシュンっていいます」

 

 差し出された手を握り返し、俺も名前を告げた。

 この人がポケモン転送・預かりシステムの開発者。そういえば以前新聞の記事でこの顔を見たことがあったな。

 

「……ワカバタウン? シュン? ……あんさんひょっとして、オーキド博士の知り合いか?」

「え? ええまあ、知り合いと言えば知り合いですけど」

「やっぱりか! よかった、丁度探してたんや!」

「……探してた?」

 

 オーキド博士の知り合いだと知ったとたん、嬉しそうに声を上げるマサキさん。

 ……特にオーキド博士からは何も言われてないんだが。一体なんだろう?

 

「実は博士からポケモン図鑑を託された少年のことは聞いておってな。

 それで君達の旅をサポートするために作っといたものがあんのや!

 わいの家はすぐ近くやさかい、ちょっと家まで来てくれんか?」

「ええ。俺は構いません」

「そうとなれば善は急げや。……風呂にも入った方がええし、さっさと行くで」

「……どうも」

 

 たしかに、このままでは風邪までひいてしまう。

 お言葉に甘えて、俺達はマサキさんの家を訪ねることにした。

 

 

――――

 

 

「……お、風呂から上がったんか?」

「ええ。すみません、お借りしました」

 

 風呂を借りて体を温めると早速先ほどの話の続きだ。

 一応室内ということでヘラクロスはボールに戻したが、ピカチュウと……それとなぜか先ほどのイーブイが俺のすぐ傍にいる。

 

「そないなこと言わんでや。あれとて元々はうちのせいやったんやから。

 ……それで、あんさんに渡したいっていうのは、これのことや」

「……なんですかこれ? コードつきの電子機器ですか?」

「せや。それをあんさんのポケギアとつないでみ」

「こうっすか?」

 

 手渡されたのは黒いコードがつけられている小型の電子機器のようなもの。

 言われたとおりにその先端をポケギアの端子につないでみると。パチッと音を立てて接合した。

 

「その名も『携帯転送システム』! 

 今ポケモン転送マシンが原因不明の故障中やろ? それでその間の措置として製作していたもんや!」

「……つまり、これがあれば今までと同様にポケモン転送マシンの役割を果たせると!?」

「せや。……と言っても、それはあくまで送信用で送り返してもらうことはできへんけどな。そこであんさんにこれも渡しておく」

「……これは?」

 

 そうしてもう一つ渡されたのは、箱型の機械。真ん中にモンスターボールのマークが入っている。

 

「これはその転送システムの受信先となるものや。すでに同じものをオーキド博士の元に送ってある。

 もしもポケモンを送り返してほしいとき、オーキド博士に頼めばこれを使って送ってもらうことができるで!」

「……なるほど。これでポケモンの転送も自由にできる。ありがとうございます!」

 

 「いやいや」と手を振ってお礼に答えてくれる。

 本当に大助かりだ。丁度ピジョンの検査のためにオーキド博士の元に戻ろうかとも考えていたくらいだったから、まさにベストタイミングである。

 

「冒険頑張ってや。応援してるさかい。……それと、あんさんが構へんなら……そのイーブイのこと、頼まれてくれんか?」

「……え? イーブイを?」

「せや。わいにはどうあっても懐かんのに、もうあんさんにすっかり懐いているようやし。その方がイーブイにとってもええやろ」

 

 俺の横では腕に頬ずりしているイーブイの姿がある。

 ……異様に懐かれたな。逆ではピカチュウがうめき声を出しているし。

 

「でも、あなたはいいんですか? イーブイといえば、貴重なポケモンでしょう」

「気になさらんでも。それに実はもう二体イーブイを育ててるんや。以前イーブイの事件に巻き込まれてから異常にイーブイを好きになってもうてな……」

「あ、そうですか」

 

 それでもいいのかと聞いてみたが、どうやらいらぬ心配だったようだ。

 イーブイが入っていたモンスターボールを貰い、俺はもう一度イーブイと向かい合う。

 

「……お前は俺と一緒に行きたいか?」

「ブイッ!」

「よし、なら一緒に来い!」

 

 満面の笑みを浮かべて賛同してくれたイーブイ。

 自分からボールへと入っていった。……これでポケモンは八体目だ。ピジョンとあと一体、オーキド博士の下に送らないとな。

 

「それじゃあマサキさん。色々とありがとうごさいました」

「こっちも通信システム復旧を終わらせるさかい、シュンも頑張りいや!」

「はい! それでは、またいつか!!」

 

 そう言って俺達は別れた。

 携帯通信システム、イーブイ。新たなポケモンと道具を手に入れた。

 ……ここまでしてもらったんだ。もう突き進むしかない!

 

 

 

 ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 

 

 主人公:シュン

 持っているバッジ:2個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ)

 

 

 手持ちポケモン

 

  マグマラシ♂ Lv20

  ピジョン♀ Lv22

  ピカチュウ♂ Lv22 

  サナギラス♂ Lv35

  サンド♂ Lv21

  ラプラス♀ Lv35

  ヘラクロス♂ Lv37

  イーブイ♀ Lv28

 

 レポートに書き込みました!!

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