また金銀クリスタル、HG・SSにてアカネに対してトラウマをお持ちになってしまったかたは、お読みの際は過去に負けずに自我をしっかり保つように心がけてください。
それでは、本編をどうぞ。
「それではオーキド博士。ピジョンとサナギラスのことをお願いします。特にピジョンのことは、万全になり次第すぐに教えてください」
『おおわかっておる。ウツギ君と連携し、一刻も早く全快の状態にまでもっていくとしよう』
「ありがとうございます。それでは、通信を切らせていただきます」
ポケギアの通話を切り、画面は真っ暗となった。
早速貰ったばかりの携帯通信システムを使い、俺はオーキド博士の下に負傷したピジョン、そしてサナギラスを送った。
ピジョンは治療のために。そしてサナギラスは……俺達がさらに強くなるために。
現時点でサナギラスは俺の手持ちポケモンの中でも切り札的存在であった。純粋な
……だからこそ、これから先強くなるためにはサナギラスだけに頼っているだけではダメなんだ。甘えるわけにはいかない。
そんな甘い考えでは駄目なんだ。
全員が強くならなければならない。そう考えたからこそ俺は逃げ道を塞ぐためにサナギラスを一度手持ちから外した。
今の手持ちポケモンはマグマラシ、ピカチュウ、サンド、ラプラス、ヘラクロス、イーブイ。あの二匹が外れたことにより、まだ進化も経験していないメンバーもいる、より小粒なメンバーとなった。
それでもこのポケモン達を成長させ、誰とでも戦えるようにすることが俺の最低条件であり今の目標だ。
ポケモン達が入った六つのボールを一瞥し、それから腰のベルトへと装着する。
ピジョンやサナギラスが戻ってきた時には見違えるほどに成長した仲間達を見せてやろう。
そう考えると気持ちも幾分か上向きになる。
先ほどよりもずっと軽い足取りで俺は病院へ戻っていった。
……今さらだけどサツキさんに何も言わずに随分出歩いてしまった。怒ってないかな?
――――
「……そうですねー。地下通路と言っても、私達のような営業者が街の許可を得て、日を選んで自由に色んな仕事をしているくらいなので。実際は小さな商店街のようなものですよ」
「そうですか。どうもありがとうございます」
コガネシティの地下深くに広がる地下通路。
そこで美容室を経営しているというお兄さんにイーブイの毛づくろいを依頼し、話を聞く。この地下通路のあり方を。
……しかしどうやらここもはずれか。ここに来るまでにも漢方屋があったり一般のトレーナーが勝負を仕掛けてくるくらいで、不審な点は特になかった。
こういう場所にはいかにも何かありそうだと踏んだのだが、さすがにそう上手く話は進まないか。
病院でサツキさんと合流した後(その際に起こった騒乱は割愛する)、俺たちは二手に別れて街中を捜索することになった。
このコガネシティはジョウト地方の中でも最も発展している盛んな都市であり、ショッピングモールやゲームセンター、ラジオ塔をはじめとして様々な施設がある。
逆を言えばそれだけの施設があれば裏もあると踏み、こうして手がかりがありそうな場所を探しては次々と探索しているのだが……ロケット団のロの字も見あたらないのが現状だ。
「ブイィィ」
「どうだ、イーブイ? 心地良いか?」
「ブイッ!」
そう問えば明るく鳴き声を発するイーブイ。
……喜んでいる顔はまた一段と可愛らしく見える。本当に貴重な癒し系ポケモンだ。
これが終わったらデパートで新しいブラシでも買うとするか。自分でも毛づくろいした方が毛なみも整うだろうし、喜んでくれるだろう。
――――
その後地下通路を一回り見た後はゲームセンターやラジオ塔、ショッピングモールと順を追って様々な場所を見て回ったものの、新たな発見はなく。
これ以上は予定時間を過ぎてしまうと考えた俺はサツキさんとの合流場所でもある、本日の宿であるホテルに戻ることにした。
すでに予約を済ませておいた一室にはサツキさんの姿があった。どうやら俺の方が長く時間を潰してしまったようだ。
しかし……
「……サツキさん、どうしたんですか? そんな服持っていましたっけ?」
「お帰りなさいシュン君。これね、デパートで見たら気に入っちゃってね。……買っちゃった」
「いや、買っちゃったって……」
そういう彼女は見慣れない純白のワンピースに身を包んでいた。
露出は控えめだが、清潔感を醸し出す白は着ている本人の姿と相成って大人びた姿を演出している。……あかん、直視できん。
そんなこちらの心境も知らずに、テヘと握りこぶしを作って頭を軽く小突く。
資金をオーキド博士から支援を受けているとはいえ、抜け目ないな……。いや、本来は調査のための援助なんだけど。オーキド博士もそう思って俺達に渡しているはずなんだけど。
「どう? 似合ってる?」
「ええ、似合いすぎているくらいに」
「そう、ありがとう」
おかげでどこに視線を向ければいいのかわかりません。
その場で一回転するとフリルと共にサツキさんの綺麗な蒼い髪もなびいて、より魅力あふれる姿を見せ付ける。
お願いですからこれ以上俺を困らせないで下さい。このままでは旅の目的まで忘れてしまいそうです。
「それで、サツキさん。本題に入りたいんですけど……」
「わかっている。
残念だけど、こちらは何も手がかりはなし。新たに事件につながるものは見つからなかったわ」
「そうですか。俺も同様です。主要施設はほとんど全て見てきましたが、特に何も変わったことはなく」
改めて報告会となるが、両者とも何か手がかりになるものはなく、捜査は無駄足であった。
コガネシティほどの巨大都市ならば何かしら見つかるはず、という考えはどうやらはずれだったようだ。
「わかりました。それでは予定通り、明日は午前中にコガネジムリーダー・アカネに挑むとしましょう。
これ以上は散策しても成果は期待できないでしょうし、それよりは次の街に進んだ方がいい……」
「いえ、そのことなんだけどシュン君。アカネについては事件に関与していないということが発覚したの。だから、コガネジムに挑む必要はないわ」
「……え? そうなんですか?」
「うん。オーキド博士から聞いたことなんだけど、アカネは最初に仮面の男が現れた時にラジオの生放送に生出演していてアリバイも確認済み。
それ以外でもオーキド博士が彼女と共演したことがあったってことなんだけれど、何も疑わしい点は見受けられなかったって」
「……成程。オーキド博士のお墨付きですか。それなら確かに、俺がわざわざジム戦を挑む理由はありませんね」
オーキド博士が直々に調べたというのならば間違いはないのだろう。
元々俺がジムリーダーに挑戦しているのは博士達からの調査の依頼のためであって、個人的なものではない。相手の無実が証明されているのならば俺が挑む必要はないのだ。
「では明日は準備が出来次第、次のエンジュシティにまで進むとしますか。ここである程度旅の道具を調達すれば、ここに滞在する理由もないですし……」
「……シュン君はそれでいいの? 別にシュン君が望むのならば、ジム戦を行ってもいいんだよ?」
「俺がですか? 別に構いませんよ。何もジム制覇を目指しているわけでもありませんし」
「でも挑みたいとも思っているんじゃない? 少しでも戦いを経験したいって。少なくとも、ヒワダタウンでは君のそういう姿勢が私には見えたよ」
「……」
「それにウバメの森の一件も多分影響していると思うんだよね。折角旅に出たんだから、少しくらい自分の意見を言っていいんだよ?」
この人も俺のことは結構見ているようだな。
たしかにヒワダジム戦は挑む必要がほとんどないものではあった。それでも挑んだのは俺が強くなることを望んだからである。
そしてその望みは今はさらに強くなっている。仮面の男との戦いを経て、強くなれるならばどんな些細なことでも挑戦したいと思っている。
そんな中でのこのジム戦だ。ジムリーダーほどの人を相手にできるというのならば、俺は是非ともチャレンジしたい。
「……明日だけ、時間を貰ってもいいですか?」
「うん。そういう風に我が侭を言ってもいいんだからね。私の方がお姉さんなんだから」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。……それじゃあまだ時間はあるし、今日も少し特訓する? アカネはノーマルタイプのエキスパートだし、昨日シュン君が言ってた技の練習でもしようか?」
「いいんですか!? それなら、どうかお願いします」
「ええ。それじゃあ早速行きましょうか」
そう言うとサツキさんはコートを羽織り、ベルトを装着して準備を進める。
……今はこの人に甘えさせてもらうしかないな。頼りすぎているというのは情けない話だが、今はそうすることが最善だ。
だからこそせめてその期待には応えよう。明日の戦いを意識しながら、俺は部屋を後にした。
――――
――そして翌日の朝。
俺達は早々にコガネジムを訪れていた。
「わざわざありがとうございます、サツキさん。
「気にしなくていいよ。私ももっと君のバトルを見てみたいという思いもあったし」
「……ありがとうございます。それじゃあそろそろ行きましょう……「うわああぁぁぁぁぁぁ!!」 ……か?」
ジムの扉を開けようと手をかけると同時に、中から何者かの悲鳴のような声が聞こえてくる。
声から察するに男性のものか? ジムリーダーは女性と聞いているし、俺より先に挑んでいる挑戦者のものかもしれない。
「えっと……今のは?」
「……なんだろうね?」
サツキさんも理解が追いつかず首をひねらせる。俺も予想できずに思わず扉から離れてしまった。
すると程なくして、中から中年のトレーナーが走り出してきた。
「畜生! ふざけんじゃねえぞあのポケモン! 残り一体だけだったのに……あんなのってねえだろ!!」
おそらく勝負に負けたのだろう、なにやら言い訳のような言葉を叫びながら走り去っていく。ポケモンセンターの方角だな。
「おおきに~。また来てや~」
「うん?」
そして遅れる形で一人の女の子がジムの中から出てきた。左右両側で茜色の髪の毛を縛っている。
今の口ぶりから察するにおそらくはこの人が……
「……コガネジムリーダーのアカネさんですか?」
「ん? そやけど、ひょっとして君チャレンジャー?」
「はい。ワカバタウン出身のシュンです。コガネジムに挑戦しに来ました!」
やはり予想通りジムリーダーだ。ノーマルタイプの専門家、アカネ。
特訓も受けたし、自信がある。堂々とリーダーに挑戦を突きつけた。
「ふーん。……まあええよ。中に入り。相手したる」
ジロジロと俺を観察するように眺めた後、ついてくるように促してジム内に入っていく。
やはり先ほどまで激しいバトルが行われていたのか、バトルフィールドのあちこちに戦いの後のようなものがうかがえる。
「さて、それなら早速バトルをはじめようと思うんやけど……バトルのルールはお互い一対一のシングルバトルでもええか?」
「一騎討ちということですか? 別に構いませんけど、なぜ?」
トレーナーサークルに入り、ルールを説明するアカネ。
ジム戦のルールなどはそのジムによって異なる。しかし一対一という試合形式とは珍しい。大抵は二体二であったり三対三と複数のポケモンでのバトルが主流なのだが……
「せないといっつもうるさいねん。負けた後、チャレンジャーは絶対『あと一体が~あのポケモンが~』とか泣いて騒いでく。
うちの切り札に全然手出しできないまま終わるくらいなら、いっそ最初からその一体だけで十分。
君とてどうせ、負けた後泣いてそのお姉ちゃんに慰めてもらうにしても……傷が浅い方がええやろ?」
「…………」
俺の中で何かが切れた気がした。頬がなにやら異常なほどに震える。
久しぶりだなこの感覚は。たしか昔、ゴールドと喧嘩をして口論になった時に感じたものだ。
「誰が負けて慰めてもらうって!? ……上等だ! その勝負受けて立つ! 後で泣いて謝っても許さねえぞ!」
「ええでええで。君も彼女への言い訳を考えといたら?」
「……ぶっ倒す!」
にやりと口角を上げている顔が余計に腹が立つ。
泣かす、アカネを絶対に泣かす! そうじゃないともう気が収まらない!!
この勝負に勝って、泣いた状態で謝らせてバッジをもらう! 仮面の男とか、もうどうでもいい!
「シュン君。挑発に乗らないで。それでは相手の思う壺に……」
「大丈夫ですサツキさん! もう容赦なしに戦うので、早く観客席に!」
「……そう。わかった」
信じてくれたのか、全体を見渡せる観客席へとサツキさんは移動していく。
その姿を見送って視線を相手へと戻した。すでにその手にはボールが握られている。
「準備はええな? それならいくで! ミルたん!」
ボールから飛び出してきたのはミルタンク。
乳牛のような、ノーマルタイプの中でも重量級のポケモンだ。
体力に優れ、並大抵のポケモンでは苦戦を強いられるだろう。しかし……
「ノーマルタイプの対策ならしてある! 行け、ヘラクロス!!」
こちらもすでに準備はしてきた。
ヘラクロスをバトルフィールドへと出現させると、ヘラクロスは雄たけびを上げて敵をにらみつける。
ゲットしたばかりだが、レベルも中々高くノーマルタイプとの相性もいい。それに、昨日の特訓のおかげで新たな技も教えてもらった。
「セオリー通りの格闘タイプ、ヘラクロスか。子供の割には勉強しとるんやな」
「……あんただってまだ子供だろ! ヘラクロス、先手必勝! “つのでつく”!」
もう相手のくだらない言葉遊びに付き合ってはいられない。
ヘラクロスは羽を羽ばたかせ、一直線にミルタンクにぶつかっていく。
飛翔の勢いがついたことで威力も速さも増しているヘラクロスの動きを捉え切れなかったのか、ヘラクロスの角がミルタンクの体へとクリーンヒットする。
ミルタンクの体がふらつき、後ずさる。……しかし、右足を引いてその場で持ちこたえた。
「……チッ。やはり固いか!」
「その程度かいな? ミルたん、ヘラクロスを逃がすんやないで! 角を掴み取るんや!」
防御が固く、やはりこの程度の攻撃では切り崩せない。
するとミルタンクはそのまま攻撃直後のヘラクロスの角を掴み、動きを封じた。
「“メガトンパンチ”!」
そして逆の腕を勢いよく振るい、ヘラクロスの胴体を殴りつける。
嫌な音と共にヘラクロスが吹き飛んできた。……強い。防御もそうだが攻撃もかなりのものだ。
「大丈夫か、ヘラクロス!?」
「……ッ!」
声をかけると、大丈夫だというように起き上がって首を回し再び臨戦体型に戻る。
だが今の一撃で相当なダメージをもらったはずだ。体力を考えても長期戦はこちらに不利か。
「休んでいる暇はないで! ミルたん、“ころがる”!」
「っ!? ……来るぞ!」
追い打ちをかけるべく相手のミルタンクがその身を丸め、加速しながら転がってくる。
ここからでは相手の攻撃を防ぐのは間に合わないか? ……それならば!
「ヘラクロス、“かわらわり”で迎え撃て!!」
どんどん迫ってくる中、ヘラクロスはその場から逃げない。
俺の声に応じ右腕を構えて待ち構える。まだ射程距離ではないのだ。
十分に敵を引きつけ、そしてまさに攻撃が来るというタイミングで腕を思いっきり振り下ろした。
ヘラクロスの渾身の力がかかった右腕が、ミルタンクと衝突。その威力は大きく、転がり続ける相手を右へと振り払った。
「よしっ、いいぞヘラクロス!」
昨日サツキさんに教えてもらった新技だ。かくとうタイプのヘラクロスには元々相性が良かったらしく、すぐに適応した。
おかげで相手の攻撃を防ぎきっただけではなく、相手にダメージまで与えることができた。この一撃は大きい!
「いいや、まだやで」
「なにっ!?」
そんな時にアカネがポツリと呟いた。
すると、今も転がり続けているミルタンクがその言葉通り突如方向を変え、再びヘラクロスへと迫っていく。
「まだ“ころがる”の攻撃は続いている!」
「まさか……ヘラクロス、もう一度“かわらわり”だ!」
なんとか反応してもう一度ヘラクロスは迎撃体勢に入る。
……しかし、ヘラクロスの攻撃が決まってもミルタンクの軸はぶれず“ころがる”が命中。力負けしたヘラクロスは空中へと投げ飛ばされた。
「なっ……そんな!」
「――威力ってのはな、単純な速度と重さの掛け算なんや。重ければ重いほど、速ければ速いほどその威力は増していく。
そして“ころがる”は徐々に勢いを増していく技。そんなやわな力で受け止められるほど、うちのミルたんは甘くないで!」
空中へと吹き飛ばされたヘラクロスはそのまま地面へと叩きつけられた。
何事かをアカネが言っているが、耳に入ってこない。
俺はただヘラクロスを見続ける。……しかしその体はピクリとも動かない。
「ヘラクロス、戦闘不能! よって勝者、ジムリーダーアカネ!」
「まさか……」
審判が旗をアカネの方角へと上げる。
それはすなわち勝負が決したということだ。……つまり、
「俺の負け……?」
「顔を洗って出直してきーや。最近のチャレンジャーの中では、君は中々面白かったで」
「……ッ!」
ミルタンクをボールに戻してアカネは俺に背を向ける。何か言い返そうにも、言葉が見つからず。
考えている間にアカネは去っていった。……サツキさんに促されてようやくヘラクロスをボールに戻し、俺はコガネジムを後にした。
ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………
主人公:シュン
持っているバッジ:2個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ)
手持ちポケモン
マグマラシ♂ Lv24
ピカチュウ♂ Lv25
サンド♂ Lv21
ラプラス♀ Lv35
ヘラクロス♂ Lv38
イーブイ♀ Lv29
ボックスメンバー
ピジョン♀ Lv22
サナギラス♂ Lv35
レポートに書き込みました!!