「……突然失礼しました。いきなり声をおかけして驚きになられたことでしょう」
「いえ。それより、あなたは?」
「私ですか? 決して名乗るほどの人間ではありませんが、名前はパーバスと申します。このたびはサツキ様をお迎えに参上した所存です」
「……何? サツキさんを迎えにだと?」
ポケモンセンターの休憩室の一角。ヘラクロスの治療を頼み、こちらに移動していた。
向かい合う形で座った俺達はさっそく先ほどの内容をこの男――パーバスという者と話している。
しかし、何の目的でここに来たかと思えばサツキさんを迎えに来たと言う。……意味がわからない。彼女がそれだけの地位の人で、何かやることがあるということか?
「はい。その前にあなたにお聞きしたいのですが、あなたはどこまで彼女のことをご存知でしょうか?」
「どこまでと言われてもな。サツキさんがカントーのマサラタウン出身で、ポケモン達もかなりの実力を持っているくらいかと」
「なるほどなるほど。本当に詳しいことは知らないようですね。やはり『このような子供に大人の世界を知るには早すぎる』、そう考えたのでしょうか」
「……どういう意味だ?」
「そう睨み付けないで下さい、私が喜んでしまいますから。
……言葉通りの意味ですよ。あなたはまだ若い。これから学んでいく時期でしょう。そんなあなたに余計な情報を与えたくなかった、ということです」
……ッ。いらつくな、こんなのはただの言葉遊び。俺を少しでも油断させて自分のペースに持っていきたいだけだ。
今は本当の情報を抜き出すことだけに専念すればいい。
事実、パーバスが言っていることが的外れというわけではないのだ。
サツキさんは旅の初めのころから何かを隠しているそぶりがあった。俺の質問にだって全て答えるわけではなく、それこそ自己紹介程度にしか答えてくれなかった。
手持ちポケモンについてもそうだ。一人の時や何か危機的状況に陥ったときくらいにしかポケモンを出さず、最近になって少しずつポケモンがわかってきたくらい。
最初は俺のことをまだ信じていないのかと思っていた。だけど、パーバスの言うとおり何か
「ならばあなたが教えてくれるのか? サツキさんが俺に教えなかった理由を」
「ええ。あなたにも納得し、サツキ様が私と同行することに賛成してほしいですからね。そのために私は今来たのですから」
「……なるほどね」
つまり一緒にいる俺を懐柔しようと思ったものの、サツキさんが一緒だと話すことが難しいから俺が一人の時を狙ったってことか。
この口ぶりだと以前から俺達のことを見ていたということになる。それだけのことだということか。
「ご理解いただけたようでなによりです。では、どこからご説明すればよろしいですかね……」
「最初から教えてくれ。彼女のことを、一から全て」
「……承知いたしました。では彼女の出自についてからご説明しましょう。
まず、あなたも知っての通り彼女はマサラタウン出身です。しかし詳しく言えばこれは彼女の母親の生まれの地。父親はまた別の生まれなのです」
「母親の? それじゃあ、サツキさんのお父さんがマサラの家に……」
「嫁いだということになります。問題はそこなのです」
「……父親の方に何か問題があるということか?」
ここまで説明されれば大体の想像は出来る。
マサラタウンは元からあまり大きな会社や建築物はなく、オーキド博士が研究所を建てているくらいのものだと聞いている。
そんな街の生まれだからと言って、何か大きな問題があるとは思えない。とすれば、問題は別の地から来た父親の方ということになる。
「その通りです。お察しの通り、サツキ様の父親はとある大会社の所長を受け持つ、大富豪の家の生まれでございました。私はその家に仕える使用人でございます。
父親はその家の四男として生まれたのですが……彼はその家の掟に従い、マサラタウンの一人の女性と結婚をしました」
「掟に従ってだと? どういう意味だ?」
「その家の決まりとして、『外の有力な人材の血を組み込む』という仕来たりがあるのです。
人望、指導力、経済力などなど。条件は様々ですが、マサラタウンに関しては『トレーナーとしての実力』です」
「……たしかにそれならばマサラタウンはうってつけだな」
カントーで開かれるポケモンリーグの優勝者はここまで全てマサラタウンのトレーナーだ。それだけ優秀な人間が生まれているということ。
それで目をつけられたってことだな。そういえばロケット団もかつてマサラタウンの住民を狙って活動していたという話を聞いたことがある。
「しかし父親は恋に盲目になってしまいました。彼とて家を継ぐ継承権はあったにも関わらず、全てを捨ててマサラの女性の下へと行ってしまったのです」
「……政略結婚のはずが、本当に望まれた結婚になったってことか」
「ええ。さすがにそこまでは誰も予想できていないことでした」
恋のために組織を捨てて、自由を選んだってことか。そのまま継承権争いに巻き込まれたらただでは済まされないだろうからな。
家族で暮らすのならば名を捨ててでもマサラを選んだ方がいいという考えだろう。あの場所はそういう争いなんて皆無だろうし。
「しかしそれならばなぜサツキさんを? 彼女だってそんなこととはもう関係ないはずだ」
「いいえ。たしかに父親は継承権を放棄しましたが、彼女は別です。
彼女もまた血を引き継いで生まれた人間であり、その資格がある。そこでこの度、彼女の祖父の命令でお迎えに上がった所存でございます」
離れても血筋が邪魔をする、ってことか。まあマサラタウンのトレーナーというのは事実だし、見過ごすわけにはいかないんだろうな。
「……あなたの言っていることはよくわかった。
しかしだからと言ってサツキさんが自分の意志とは関係なしに連れて行くことには賛成できない」
「そういうわけにもいかないのですよ。彼女はすでに実力もあり、そしてそれ以上に実績を上げているのですから」
「……実績だと?」
「おやおや、まさかそれさえも知らなかったのですか? ならばお教えしましょう。彼女はかつて――」
「パーバス!!」
「――!?」
パーバスの声を遮って、声が遠くから響く。
様々な感情がこもっているようなその声には、相手を威圧するような感覚があった。
事実、パーバスは一言で押し黙っている。近づいてくる人影を目の前に、笑みも消えた。
「これはこれは。お久しぶりでございます、サツキ様」
「パーバス。あなたがどうしてここに?」
「お迎えに上がりました」
来たのはサツキさんだった。
パーバスを睨み付けるように問う姿は怒っている様にも見える。
少なくとも俺は今まで見たことがないような表情だった。
――――
サツキさんと合流してレギュラーバッジを手渡され、ヘラクロスの治療も終えた後、俺達は場所を移してカフェに来ていた。
「私は戻らない」
サツキさんはパーバスの意見をきっぱりと否定し、拒絶の体勢を崩さない。
先ほどから何度も一方的な交渉が行われていた。パーバスが事情を説明するも、サツキさんは聞く耳を持とうとしない。
「私にはもう関係のないこと。私の家族は父と母だけ、それ以外は知らないわ」
「サツキ様、これはご命令ですよ。これを断れば……あなただけではない。その家族にも被害が及びます」
「……父を脅す気?」
「あなたも立派な継承者なのです。あなたほどの優秀な方には、是非とも本家に戻っていただきたいというご希望なのです」
「私達の意見なんてお構い無しにでしょう。……だから組織は嫌いなのよ。自由も関係も全て踏み躙っていく」
最後は呟くように、そう話す。
……ずっとこの調子だ。サツキさんは譲る気はないようだし、パーバスも命令に背くわけにはいかないのか一歩も引く気はないようだ。
俺としてはサツキさんにはこのまま旅を共にしてほしいところだが、あいにく部外者であるために口出しはできない。行く末を見守るしかできない。
「そうおっしゃらないで下さい。今までも何度もサツキ様は招集に応じませんでしたが、それは代表の許しがあったからこそ。
しかしこの度は会議の結果、継承者全員の招集が決定されたのです。全員が一堂に会しての社交会、そしてその後の代表との面会。例外はありません」
「……しつこい男は嫌いなんだけど」
「嫌われようとも構いません。むしろ嫌われ、嫌がる美女を無理に引っ張っていくなど……そそりますね」
「…………」
背筋が凍る感覚。恐怖というか、なんだかわからないが。
サツキさんも白目になって固まっている。
しかし先ほどの会話でも感じたことだが……
「サツキさん、ひょっとしてこいつ変態ですか?」
「安心して。ただの変態よ」
「どこにも安心できる要素がないんですけど」
というか、変態が使用人でいいのだろうか? 仮にも金持ちが雇っているならもう少しまともな人材があっただろうに。
しかし当の本人は変態と呼ばれても特に気にしているそぶりは見られないし、それどころかむしろ……
「変態? ありがとう、私にとっては最高の褒め言葉ですよ。変態で何が悪いのですか?
自分に忠実に、欲に従い生きていく。私はただ自分を偽らないだけのこと」
「いや、もう少し偽れよ」
むしろ認めて喜んでいるように見える。
だめだコイツ、本物の変態だ。こういうのは口論になったら相手にしたくないタイプだ。
「……パーバス。何度言われようとも私の意志は変わらない。それ以上私に付きまとうと言うのならば……」
サツキさんが手を腰へと伸ばし、ボールを手に取った。
それが意味するのは当然のことながら実力行使ということだ。口でも駄目ならば行動で、今までそんな攻撃的ではなかったサツキさんがここまでするとは、とても信じられない。
「……忘れたわけではありませんよね。我々は私闘を禁じられている、それは使用人でも同じこと。
今あなたが私に手を出すというのならば、あなたは組織全てを敵に回すということになりますよ」
「なっ!?」
「――ッ!」
サツキさんは表情をゆがめて、手を下げた。
本当だということだろう。ここでサツキさんが手を出せばその時点でおしまいだ。
……そこまでして、戻りたくないというのにかかわらずだ。
「……パーバス。私は……!」
「なら俺なら良いのか?」
「うん? あなたが?」
「なっ、シュン君!?」
「俺と勝負しろ。俺が勝ったならば、もう二度とサツキさんの前に姿を見せるな」
二人の鋭い視線が向けられるが関係ない。
俺だってこんなところで離れたくはないし、サツキさんに少しでも恩を返したい。
ならば今俺がやらなければならない。彼女のためにも、俺自身のためにも。
「……私は構いませんよ。しかしもしも私が勝ったのならば、あなたがこの話から手を引いていただきたい」
「そちらの条件はそれでいいのか?」
「ええ。さすがに部外者との勝負の結果で、サツキ様の意志を踏み躙るわけにはいきませんから」
「……いいだろう」
「ちょっと、勝手に話を進めないで! シュン君も待ちなさい! これは私の問題であって……」
「たしかに俺は部外者です。でも、これ以上サツキさんの困っている姿は見ていられないんですよ」
「……そんな理由で」
「大丈夫です。結局は勝てばいいんですから」
話してもお互いが譲り合えないのならば、トレーナーはバトルで決着を着けるしかない。
これ以上誰かが困っている姿をただ見ているのは嫌なんだ。
サツキさんには怒られるだろうが、失ってしまうよりは幾分かマシ。
だから、バーパスのその余裕ぶった表情を崩してやるとしよう。
――――
「……やれやれ。まさかこの私を勝負に引っ張り出すとは。
いざという時のために、『あれ』を用意しておいて正解でしたよ」
「……なんでだろう。なんかもう勝てる気がしてきた」
再びコガネシティを南下して、34番道路に来た。
さすがに街中でバトルを繰り広げるのは危険な上に迷惑になるからだ。
しかしこうして向き合っているものの……なぜかすでに勝利が近づいている気がした。なんかこう、相手が自分で敗北するような展開を作り出したみたいな。
「さて、ルールはどうしましょうか?」
「……その前に、一体そちらのポケモンは何体いるんだ?」
「一体のみです。重要な案件の時でもなければそれほど連れて行く必要はないので」
パーバスの手持ちは一体だけか。わざわざこんな嘘をつく必要はないだろうし、間違いはないだろう。
となれば普通に考えてルールはタイマン勝負だろうな。
「ならば無難に一対一のシングルバトルだ。先に相手を倒した方の勝ち。文句はないだろう」
「文句はありませんが……一対三の勝負でどうでしょうか?」
「一対三? 俺が三体使って良いとでも?」
「ハンデです。大人が子供を相手にそれくらいのハンデを与えなければ、ただの苛めになってしまいますから」
「……わかった。後悔はするなよ」
相変わらず腹正しいが、怒りで折角の好機を潰すことはない。ここは確実に勝たせてもらうとしよう。
三体もいれば一体目が負けてしまったとしても、その後で対策を打てる。今の俺の手持ちならば、大抵のポケモンには対応できるはずだ。
「もちろんですとも。それでは早速行きましょうか。――ベロリンガ!」
ボールから飛び出てきたパーバスのポケモンはベロリンガ。
舌が異常に長いのが特徴のノーマルタイプ。技も豊富で能力もそこそこあると聞いた事がある。
たしかにノーマルタイプならば弱点も少なく、大抵のポケモンに対抗できるために一匹でも十分立ち回れるだろう。しかし、こちらにはその弱点となるポケモンがいる!
「行って来い、ヘラクロス!」
俺が出したのは虫・格闘タイプのヘラクロスだ。
こいつも昨日の特訓でさらに鍛え上げることができた。相性もいい、得意な肉弾戦に持ち込めれば、一気に勝負を決められる。
「でははじめましょう。……五分です。五分以内にあなたを倒すと宣言しましょう」
「やれるもんならやってみろ。ただし、後悔するのはお前のほうだ!」
ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………
主人公:シュン
持っているバッジ:3個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ、レギュラーバッジ)
手持ちポケモン
マグマラシ♂ Lv30
ピカチュウ♂ Lv28
サンドパン♂ Lv27
ラプラス♀ Lv38
ヘラクロス♂ Lv40
イーブイ♀ Lv30
ボックスメンバー
ピジョン♀ Lv22
サナギラス♂ Lv35
レポートに書き込みました!!