ワカバの導き手   作:星月

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第二十話 vsベロリンガⅡ 食い違い

「……ちくしょう!!」

「どうしました? 先ほどまでの強がりはもう消えてしまいましたか?」

 

 相手の口遊びに付き合う暇さえない。

 ――何なんだこれは!? 何だこの状況は!?

 

 相手のベロリンガは先ほどから、勝負が始まってから一歩も動いていない。放った技も今のところ“したでなめる”だけだ。

 それなのに、こちらは一体目のヘラクロスがすでに戦闘不能。二体目のマグマラシもすでに追い詰められているだと!?

 

「やはり『ピー』というのも考えものですね。ベロリンガ、“したでなめる”!」

「だから、それ舐める勢いじゃないだろ!!」

 

 敵の不快な言葉と共に、弾丸のような舌が射出される。

 マグマラシはフットワークを生かして左右に跳ぶことでかわすが、衝突した地面は綺麗に抉り取られている。

 ……この威力、そしてこの攻撃範囲。あきらかに普通を超えている!

 

「ベロリンガの舌は身長よりも長く、二メートル以上の長さと言われておりますが……私のベロリンガの舌の長さは、実に三メートルを超えます。

 つまり……べロリンガの周囲三メートルは、全て攻撃範囲だ。たとえどんなポケモンが相手であろうとも、近づくことさえ許しませんよ!」

「三メートルの攻撃範囲だと!?」

 

 予想を超える数字はもはや物理攻撃とは思えないほどだ。

 先ほどのヘラクロスもそうだった。あいつが得意の肉弾戦に移る前に、打ち落とされ、一方的に叩きのめされた。

 マグマラシもそうだ。“ひのこ”は容易に貫かれ、こちらが接近する前に牽制して近づかせない。

 

「……なら、これならどうだ! マグマラシ、“かえんぐるま”!」

 

 マグマラシがその身に炎を纏い、ベロリンガ目掛けて回転していく。

 回転の勢いに加えてマグマラシの炎が全身を包んでいるんだ。これなら今度こそ!

 

「体を炎で包む、ですか。少しは考えたようですが、しかし意味はありませんよ。それはまるで男の『ピー』のようだ。

 ――ベロリンガ、“したでなめる”!」

 

 再び長い舌が射出される。ベロリンガとの距離約1メートルといったあたりで衝突した二つのエネルギーだったが……その威力の前に、マグマラシは呆気なく吹っ飛ばされてしまった。

 

「……マグマラシ」

 

 声をかけてもマグマラシは起き上がることさえできない、戦闘不能の状態。

 ヘラクロス同様、たった一撃で沈められてしまった。

 

「……あなた勝負の前に私のことを舐めていましたよね?

 しかしどうです? 実際舐めているのは、私のほうだ!」

「誰が上手いことを言えといった! というか、お前は一度『舐める』という単語を辞書で調べろ!」

 

 明らかにあれは、普通の威力ではない。槍のように鋭く突き、弓のように一瞬で放たれる。

 ……まず遠距離からの砲撃では敵わない。ただ純粋な力で押し切られてしまう。となると、速さ(スピード)で行くしかない!

 

「頼む、ピカチュウ! 行ってくれ!」

 

 だからこそ、俺が最後に繰り出したのは長年の相棒、ピカチュウ。

 チーム随一の素早さを誇るこいつならば、あの攻撃をかわしながら接近できるはずだ。

 

「これはこれは。随分可愛らしいポケモンですね。舐めまわしたくなるほどだ」

「……ピカチュウ、“でんきショック”!」

 

 相手に惑わされる前に、こちらから仕掛ける。

 ピカチュウの電気袋に周囲の電気が収束し、強い電撃が放たれた。

 

「その程度ですか。随分少ない『ピー』ですね。ベロリンガ、“したでなめる”!」

「“かげぶんしん”!!」

「なにっ!?」

 

 予想通り“でんきショック”は掻き消されてしまったものの、その前にピカチュウの“かげぶんしん”によっていくつもの分身が現れた。

 これで相手も容易には手を出せまい!

 

「そのまま“でんこうせっか”!」

「……複数プレイというわけですか。しかし忘れたのですか? 私のベロリンガの攻撃範囲を。回転しながら“したでなめる”!」

 

 分身も含め、複数のピカチュウがベロリンガへ突進していく。

 その相手を迎撃すべく、ベロリンガはその場で回転し、舌でピカチュウをなぎ払う。

 次々と分身が消えていく中、本物だけが跳んで攻撃をかわした。まだ相手は動けない!

 

「“でんじは”だ!」

「しまった!」

 

 ピカチュウの尾に電気エネルギーが収束し、一つの塊となった。

 そのエネルギー体が打ち出され、ベロリンガを直撃する。ダメージこそないものの、ベロリンガの体は麻痺し、その動きは鈍る。

 

「行け、“でんこうせっか”!!」

 

 ならばこそ、今この好機を逃すわけには行かない。

 再びピカチュウが物凄い勢いで突っ込んでいく。ベロリンガがなんとか舌を打ち出そうとするが、体が言うことを聞かず、ピカチュウを睨み付けることしかできない。

 そうしている間にもピカチュウはどんどん迫る。そしてそのままベロリンガの腹へと突進し……勢いそのままに跳ね返された。

 

「はぁ!? 何だそれ!?」

「軽すぎますよ。その程度の攻撃で、ベロリンガを貫けるはずがない。……“したでなめる”!!」

 

 空中へと投げ飛ばされたピカチュウはもう何もできない。

 そんなピカチュウをお構い無しに、再びベロリンガの舌が発射された。

 ピカチュウの体に直撃し、力なく地面に落下した。……マグマラシ達同様、立ち上がる体力さえ残っていない。

 

「舐めるという行為の尋常さをあなたは知らないでしょうね。舌というものは時には指以上の働きをする。

 舌で女性の『ピー』を舐めるだけではなく、そのまま『ピー』に突き入れ、相手の気持ちを高め、そして最終的に……相手は限界に達して果てる。どうです? 私のベロリンガの舌の味は?」

「……ッ!!」

 

 目の前の出来事だというのに、理解が追いつかなかった。

 このような男に負けるわけがない。それは油断でもなく慢心でもなく、確信だったはずだ。

 ……それなのに、実際はベロリンガ一体のために三体が一撃の下にやられてしまった。

 

「では、約束どおりあなたにはこの件から外れてもらいます。文句はないでしょうね?」

「……シュン君」

「……すみません、サツキさん」

 

 こうなってしまっては、もう俺は何も言い返すことはできない。

 サツキさんが何か言いたそうに俺を見つめているが、とても直視できず。俺は一言謝罪の言葉を述べてその場から去った。

 

 

――――

 

 

「……ちくしょう」

 

 口から出てくるのはこればかり。パーバスとの勝負を悔やむ言葉ばかりだ。

 ポケモンセンターの休憩室。もう外は夕焼けに染まり、昼のにぎやかさも徐々に静まりつつあった。

 もう三体の回復は済んでいるものの、ずっとここから動けずにいた。

 

「何であんなやつに負けたんだ。サツキさんに申し訳ない……」

 

 あれだけ大言を吐いていながらこの有様だ。

 サツキさんとてあの男とは関わりたくはなかったはずなのに。

 ……どうして俺はたった一体を倒せなかったのだろう。

 もう何もやる気が出ず、ずっとこの場に居座っていた。

 まあサツキさんが去ってしまうにしても、これからも一緒にいてくれるにしても、何かしら連絡があるだろうから、ここに滞在しなければいけないという理由もあるわけだが。

 

「……一応、俺も今のうちにやれることはしといた方がいいよな。まずはオーキド博士に伝えよう」

 

 こうなった経緯をまだオーキド博士は知らないはずだ。

 サツキさんの事情も知っているはずだし、今後どうすればいいかも教えてくれるだろう。

 ポケギアを手にし、オーキド博士へと電話をかける。しばらくしてつながった。

 

『おおシュン君か。なんじゃ? 何か困ったことでもあったかの?』

「……はい。その、困ったでは済まされないほどに」

『なんじゃと? ……何かあったのか?』

「ええ。実はサツキさんに関することなんですが……」

 

 俺はオーキド博士にここまでの経緯を全て話した。

 サツキさんの父方の実家からパーバスと名乗る使用人が来たこと。その男から全て事情を聞いたこと。彼がサツキさんを連れ戻しに来たことを。

 そして、俺がパーバスと取引をして……その勝負に負けてしまったことを。

 

『……それは、本当なのか?』

「はい。このようなことで嘘は言えませんよ」

『どうもおかしいのう。話が違うではないか』

「え? 話が違うって……どういうことですか?」

 

 声しか聞こえないものの、博士の声が疑問に満ちていることが伺える。

 別に俺には何も不思議な点はないのだが、博士には気になることでもあったのか?

 

『いやな。実はわしはサツキ君に仮面の男の調査を依頼するにあたって、彼女の祖父とも話したんじゃよ』

「……それで?」

『彼はサツキ君のことを溺愛しているようじゃったが、彼女を縛り付ける気はないようでな。

 彼女の自由にさせたいということで、依頼することを認めてくれたんじゃ。詳しい話はできなかったが、その間急なことでもない限りは、向こうからは何も手出しはしないとも』

「は? いや、待ってくださいよ! おかしいじゃないですか。だって現に今向こうから……」

『うむ。だから話が違うと思っておる。わしの方にも連絡は一切ないし、何かの間違いではないのか?』

「いえ、サツキさんもパーバスのことを知っていましたし、命令を受けたって言ってましたけど」

 

 博士の話に俺も納得できず、混乱してしまう。

 実家からは手出しはしないという話なのに今回はこうしていきなり博士を通じずに出向くなんて、そんな話があるか?

 少なくとも依頼を引き受けた以上、何かしら依頼主である博士に伝えるはず。だとしたら、パーバスは祖父とは別の人間に依頼されたとでもいうのか?

 いや、でもそんなことして何の意味があるんだ? サツキさんと二人になったとしてもサツキさんを連れ出すこと以外に…………あれ? いや、ある!

 

「博士! 今すぐその祖父と連絡は取れますか!?」

『お!? どうした急に? たしかに連絡先は知っておるから、向こうがいるなら可能じゃが……』

「ならば今すぐ確認を取ってください! 俺はサツキさんにかけますから! ひょっとしたらパーバスが、彼女に危害を加えるかもしれません!」

『なんじゃと!?』

「博士の言うとおり、彼女の祖父からの命令ならば博士にも何かしら事情が伝わっているはず。

 しかしそれもないというのならば、おそらくやつは正式な命令なんて一つも受けていない。やつ自身の意志か、あるいは他の人間の命令で動いているはず!」

『なんと! ……わかった、すぐに確認を取る! わかり次第、すぐに君にも伝えよう!』

「お願いします!」

 

 その言葉を最後に、通信をきる。そしてすぐさまサツキさんの番号へとかけた。

 ……迂闊だった。どうしてもっと慎重に行動を取れなかったんだ!? どうしてやつをもっと警戒しなかったんだ!?

 自分には遠い話だと思ってサツキさんの家庭の事情には口出さない方が良いと、特に彼女に深く聞かなかった。

 もしもサツキさんがパーバスに拉致されたり、何かしら暴行を受けているとしたら……嫌な想像しかできない。しかもやつの性格を考えたら、普通に実行できると思えてしまう。

 

「……ッ! 駄目だ、つながらない!!」

 

 何度かけなおしても結果は変わらなかった。

 いくらなんでも、サツキさんならもう出ているはずだ。それなのに出ないということは、電波が通じない場所にいるか、電源を切っているか、ポケギアが手元にないか……意識がないのかだ。

 どれも最悪の場合しか思いつかない。もしもサツキさんが自分の意思であの男について行くならば何かしら俺や博士に連絡を取っているはず。

 ……となると、やはりパーバスに何かをされたと考えて行動した方がいい!

 

「くそっ! 何としても探し出す!!」

 

 すぐさま駆け足でポケモンセンターから出て、暗くなった街の中を駆けていく。

 ヘラクロスに空、ラプラスに海、サンドパンに地中の捜索を任せ何か不審な乗り物を見つけたのならば知らせるように伝え、ピカチュウ・イーブイ・マグマラシを三手に放ち、サツキさんを見つけ次第、知らせるように命じた。

 俺も近くを通りかかる人達に声をかけて、情報を集める。しかし人も少なくなってきたために、中々有力な情報が見つからない。

 ……早くみつけないといけない! 焦りだけがこみ上げ、時間だけが刻々と過ぎていった。

 

 

――――

 

 

「……うっ……ここ、は……?」

 

 まだ意識がはっきりとは定まらない中、サツキは少しずつ目を開けていく。

 視界が徐々に晴れていき、周りに広がる機械からここが何かの操作室だということを、景色から飛行艇のものだと理解した。

 体を動かそうするも、腕は上から鎖でつるされており、身動き一つ取れない状況であった。

 

「どうして、私がここに……?」

 

 理解が追いつかない中、少しでも状況を把握するために一つ一つの記憶をたどっていく。

 彼女がシュンと別れた後、ここまで自分に何があったのかを。

 しかし、思い出そうとしても靄がかかってなかなか思い出せない。

 

「……おや? どうやらお目覚めのようですね、眠り姫」

「――パーバス!」

「長く眠っておられましたが、寝不足なのですか? 駄目ですよ、睡眠不足は美容の敵です」

「……そっか。あなたが私を連れ去ったのね」

 

 パーバスの顔を見て、先ほどの記憶が蘇ってきた。

 シュンと別れたあと、二人っきりで話をつけようと思ったものの、サツキは突如パーバスに背後から布を顔に当てられ、意識を失ってしまったのだ。

 そして今、ようやくその眠りから醒めたということだ。

 

「ええ。虫タイプのポケモンが放つ“ねむりごな”を多量に含んだものを使用しました。人間ならば一瞬ですよ」

「このようなことをして、ただで済むと思っているの? いくら命令だとしても祖父は黙っていないと思うけど」

 

 かつて自分を溺愛していた祖父の姿を思い出し、サツキは警戒心むき出しで警戒した。

 このままでは厳重な処罰は免れない、と。

 しかしパーバスは余裕の笑みを一切崩さず、さらに笑みを深める。それを見てサツキも不審さを深めるばかりだ。

 

「たしかにこのまま戻ってしまえば、私がただでは済まされませんね。ただし、それは戻ればの話ですから?」

「え? ……どういうこと? 答えなさいパーバス、この船はどこに向かっているの!?」

「詳しい場所はお答えできません。しかし、あえて言うのならば……我が主君、仮面の男が待つところまで」

「なっ……!?」

 

 思いもよらぬ単語が飛び出し、サツキの表情が崩れる。

 しかもパーバスは今、仮面の男を『我が主君』と言った。それが示すことはただ一つ。

 

「あなた、まさか祖父を裏切ってロケット団についたというの!?」

「裏切ったとは酷いですね。先ほども私は言ったではありませんか。……私は自分に忠実に、欲に従い生きていくと」

 

 目の前の男がロケット団員であるということだ。

 パーバスの目が大きく開かれ、鋭い視線がサツキを射抜いた。

 

 

ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

主人公:シュン

 

持っているバッジ:3個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ、レギュラーバッジ)

 

手持ちポケモン

 

 マグマラシ♂ Lv30

 ピカチュウ♂ Lv28

 サンドパン♂ Lv27

 ラプラス♀ Lv38

 ヘラクロス♂ Lv40

 イーブイ♀ Lv30

 

 

ボックスメンバー

 

 ピジョン♀ Lv22

 サナギラス♂ Lv35

 

レポートに書き込みました!!

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