ワカバの導き手   作:星月

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第二十一話 vsゴルバット 空の大乱戦

「……サツキさん」

 

 名前を呼んだところで何も意味がないことはわかっている。

 しかしそれでも、俺は街灯が照らすコガネシティの街中を走りながら彼女の名前を読んだ。どうか無事であることを、まだ遠くに行っていないことを祈りながら。

 

 俺の予想通りだった。オーキド博士から来た通信、それはやはり事態が最悪の方向へと向かっていることを教えてくれた。

 

『――パーバスが昨日からすでに解雇されていた!?』

『ああ。解雇というよりも、自ら失踪したという形のようじゃがな。向こうでも行方を捜索していたという。

 しかもその日、その男が姿を消したときに、倉庫の一角から小型の飛行艇までもが無くなっていたそうじゃ。おそらくは逃亡用に奪っていったのじゃろう』

『……ありがとうございます。それさえわかれば、やることは一つだ。すぐに飛行艇を探します!』

 

 昨日。それは俺達が仮面の男と接触した次の日でもある。

 こちらの情報が向こうに漏れていた事、しかし依頼主であるオーキド博士の情報まではわかっていなかったこと。

 ……もしもパーバスが仮面の男と内通していたのならば、全て辻褄があう。そして今日、邪魔者を拉致したということも。

 

「ざけんなよ。……そんな好き勝手にさせてたまるか!!」

 

 ゴールドまで奪いながら、今またサツキさんまで浚われてしまうなんて許せるはずがない。

 必ず今日中に彼女を取り戻す。すれ違う人を押しのけ、夜の街を疾走した。

 

 

――――

 

 

 一方、飛行艇内部。

 身動きのとれないサツキをパーバスは見下ろすように眺めていた。

 

「サツキ様がジョウト地方へ調査に向かわれた時、私は必ずあのお方に関することだと確信しました。

 かつてカントー地方で起こった事件の際にもあなたは動いておりました。ならば、今回も必ず事件に関するものだろうと思いましてね」

「……そう。私達の情報を流していたのはあなただったのね」

「おや? そこまでわかっていたのですか? これでも秘密裏にしていたのですが、私もまだまだのようですね」

 

 表情が変わらないゆえに、悔しさは微塵も感じられないがばれていたということは本当に知らなかったのだろう。

 パーバスも本家で怪しまれないように行動していたのだからそれなりの自信はあったはず。

 

「私はロケット団やその目的には微塵も興味はありませんが、仮面の男だけに惹かれました。

 サツキ様も一度あのお方と対面したことがあるそうですがどう感じられましたか? ……私は心が振るえました。

 あの奇怪な仮面、馬鹿げたコート、機械のような体。まさにあのお方こそ、カオスの権化! カオスの象徴! 変態の頂点に君臨するお方だ!」

「……あの、シリアスになりきれないからもう少しまともに話してくれない?」

 

 もはや自分のリーダーを馬鹿にしているのか褒めているのかそれさえわからない。

 思わず自分の置かれている立場さえ忘れて、サツキは白い目で目の前の変態を見ていた。

 

「何をおっしゃいますか。十分真面目(シリアス)ですし、まともに話していますよ。

 仮面の男の最も恐ろしいことは、それらの奇妙な点までも含め全てを力で押し通すところにこそある。無理も理不尽も、全て捻じ伏せ屈服させる。自己が正しいのだと知らしめる。

 だからこそ今こうしてロケット団を率いているのですから。……かつてのロケット団に力を見せ付けたことで」

「あなたも、その力に魅入られた一人だと?」

「その通りです。先ほどの戦いでも思いませんでしたか? あのシュンとか名乗る子供との戦い。

 ……彼も中々どうして立派ですね。最善の手を考え、最高の一手を想像し、実行した。

 しかしどんな戦術も戦略も、圧倒的な力の前には何も意味をなさない。そうでしょう?

 それが現実だ。あの子供も現実を思い知ったことでしょう。何もできず、何も意味をなさない自分の弱さを」

「……あまりあの子を馬鹿にしない方がいいわよ」

 

 シュンの名前が出た途端、サツキの表情が変わる。

 呆けた表情が消え、目には強い意志が戻り、鋭い視線をパーバスへと送る。

 その変化を感じ取ったパーバスにも笑みが消え、彼女と向き合うように足を入れ替えた。

 

「彼はあなたが考えているほど弱くもないし、幼くもない。まして現実を知らないわけがない。

 きっとあなたは後悔するでしょうね。あなたが甘く見ていた相手は、必ずあなたを追い詰める最大の脅威となる」

「……仰っている言葉の意味を図りかねますね。どうやら随分あの子供のことを買いかぶっているようだ。

 最大の脅威? ご冗談を。私はたしかに胸囲には目がくらみますが、脅威に感じることなど何もありませんよ」

 

 そういうや否や、パーバスは右手にナイフを持ちサツキに迫っていく。

 彼女の服を掴みナイフで切りつける。皮膚には刃が至らないものの、その部分の服は破れ肌が露出した。

 それでも足りなかったのかパーバスは何度も何度も切りつけた。服の合間から肌や下着が露出し、もはや下着の一部まで切れかけているものの、服が途切れて完全に露出しないのは狙ってのことなのか。

 

「……いい眺めですね。あのお方から傷はつけないようには命じられていますが、それ以外のことならば好きなようにしていいと言われていますので。

 お言葉に甘えて好きなようにさせてもらいますよ。ああ、安心してください。大事なのはチラリズム、本当に手出しはしませんので」

「……外道」

「まだそのような目をするのですか。本当に強いお方ですね。……では私は到着するまで、このままあなたの体を背景にゆっくりしましょうか。サツキ様もどうか寛ぎください」

「……っ」

 

 ポケモンさえいれば、と考えても意味がないことはわかっている。

 彼女が起きた時にはボールやポケギアを含め、身につけていたものは全てなくなっていたのだ。おそらくはこの飛行艇のどこかにあるのだろう。

 今はただじっと待っていることしか出来ない。諦めずに意志を持ち続けることしか。

 

(……シュン君)

 

 理由はわからない。しかしサツキは心の中で突如、ここしばらく行動を共にしていた少年を思い描いた。

 来るわけがない。来れるわけがない。こんな夜中に場所もわからない飛行艇を、状況も理解していない彼が来るなど無理だ。

 そして仮にここに来たとしても、パーバスに勝てるとは思えない。先ほどあのような惨敗を喫したばかり、六体で挑んだとしてもまず勝ち目はないだろう。

 もはや何が起こったとしても、もう助かる道はないのだ。

 

 一度弱気になってしまうと、もう止まらない。涙がこみ上げてきて彼女の視界をゆがめた。

 目を閉じるとその衝撃で涙が溢れ出す。どうせならもうこのまま眠ってしまえばいいのに、と思いながら目を瞑っていると……突如、飛行艇が大きく揺れた。

 

「むっ!? 何事だ!?」

「……?」

 

 上からの大きな衝撃を受け、縦にゆれた飛行艇。

 これはパーバスにとってもアクシデントだったのか、ガラス越しに周囲を見渡すものの、何も見当たらない。

 二人が突然の出来事で呆然としていると、入り口の扉が開かれ一人のロケット団員が駆け込んできた。

 

「申し上げます! 艇内に侵入者が現れました! 飛行艇の上壁を打ち破り、Dブロックに進入! 次々と団員を蹴散らしています!」

「……ほう。侵入者とは。それで、相手は何人ですか?」

「そ、それが……子供が一人、です」

「なに?」

「まさか……」

 

 二人の目が見開かれ、同時に一人の少年の顔が浮かぶ。

 信じられないものの可能性があるとしたら、彼しかいない。先ほどまで彼らが一緒にいた幼い少年――シュンだ。

 

 

――――

 

 

「サンドパン、“ころがる”! ラプラス“みずでっぽう”! ピカチュウ“10万ボルト”!」

 

 サンドパンが勢いよく転がり、迫り来る団員とポケモン達を一掃し、ラプラスから放たれる水流とピカチュウが放つ電流が敵を押しのけた。

 次々とロケット団員やポケモン達が襲ってくるところを見ても、やはりこの飛行艇がロケット団のものであることは間違いない。……そして、おそらくはサツキさんやパーバスがいるということも。

 

 ――この飛行艇を見つけられたのは、ある意味運が良かった。

 相手の逃走経路が空だとわかった瞬間、俺はまず南東の捜索を打ち切り、西と北の捜索に一本化した。

 ワカバ、ヨシノ、キキョウ、ヒワダ、など街は多数あるものの、今まで調べて何もなかったこともあるし、飛行艇が着陸するような広い場所や平野が少なく、木々や建築物が多いと考えたからだ。

 そうして捜索位置を限定していると、北へと飛んでいたヘラクロスが一機の怪しい飛行艇を発見。

 すぐさまヘラクロスに抱えてもらってその飛行艇まで飛び、その上に着陸。マグマラシの炎で一部を溶かし、ヘラクロスの渾身の“かわらわり”。

 衝撃を与えると、大きな穴を作ることに成功した。そのまま中に入ると非常事態を嗅ぎつけた敵が襲い掛かり……そして今に至る。

 

「この飛行艇が敵のものだとわかったならば、もう手加減はしない! イーブイ“ずつき”だ!」

 

 背後から迫るゴルバット三体をイーブイが迎え撃ち、弾き飛ばした。

 もう情け容赦は無用。徹底的に叩きのめすのみ。

 

 次々と団員を打ち破っていくと、ようやく向こうも限界に達したのか攻撃の手が止み、動ける団員達が逃げ出していく。

 子供相手に逃げ出すというのは情けないと思うが、俺にも追いかける理由はない。どうせ下っ端では知らないことも多いだろうからな。

 それならばそれよりもやらなければならないことがある。……意識はあるものの、上手く体を動かせずにはいつくばっている団員を見つけ、そいつの胸倉を掴み上げた。

 

「質問に答えろ。この飛行艇に連れ去られた女性がいるはずだ。彼女はどこにいる? そして、パーバスという男はどこにいる?」

「は、はあ? 何を言っていやがる。そんなの知らねえよ」

「……ピカチュウ」

「ピッ」

「うががががっ!!」

 

 合図を送ると、ピカチュウが男の体に触れて軽い電撃を放つ。

 突如体を襲う衝撃で顔をしかめるが、すぐに電撃をやめる。牽制の意味は伝わっただろう。

 

「本当のことを話せ。下っ端でも何かしら知っていることがあるだろう」

「わ、わかった! 女ならパーバス様が連れて行った! おそらく二人とも操舵室にいる!」

「……操舵室か。ありがとう」

「うぐっ!?」

 

 鳩尾に一発入れると、男は力なく横たわる。

 二人とも同じ場所にいる、つまりパーバスをどうにかしない限りはサツキさんを救出できないということだ。

 

「……よし、ならば作戦変更だ。ピカチュウとイーブイ、お前達はこれから別行動で飛行艇を探ってくれ。

 おそらくはサツキさんの持ち物やポケモン達は別のところに保管されているはず。それを探すんだ。サンドパンとラプラス、サナギラスは俺と共に来い。俺達は操舵室へと向かう」

 

 ピカチュウとイーブイを先に行かせ、俺もラプラスとサナギラスをボールに戻すとサンドパンと共に通路を駆け抜ける。

 サナギラスもオーキド博士に頼んで送ってもらってよかった。

 今回ばかりはいつもとは違う。ポケモン達を総動員させての戦い、戦力を分散させての戦いだ。

 

「……すぐに行きます、サツキさん」

 

 それでも負ける気は微塵もない。

 今の俺達ならば必ず勝てる。もうあのような失敗はしないと決めたのだから。

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