アサギシティで軽いいざこざがあったものの、イエローとクリスタルは俺達二人のことは信頼できる味方だと判断してくれたようで同伴については快く受け入れてもらえた。
クリスタルがタンバシティ方面のポケモン捕獲を望むにあたり、海をわたるための“なみのり”を使えるポケモンがいないため、途中までは俺のラプラスに乗せ、そしてイエローのおじが運転しているという船と合流し、全員がそちらに乗り移った。
「……未だに信じられません。本当にあの人がカントーポケモン図鑑の所有者なんですか?」
そのイエローのおじさんが運転している船の上で、クリスタルは疑惑に満ちた目でイエローを見ている。当の本人と言えばそんな彼女の気持ちなど全然気づいていないのか、船を運転しているおじさんと何事かを話しているな。
「まあ俺達もにわかに信じがたいことだとは思っているんだけどね」
「私も実際に会ったことはなかったから、正直驚いているわ。でもオーキド博士の資料を見る限り、本人で間違いないようだし」
イエローが裏表のない性格のように見えるが、それがクリスタルにはかえって怪しく映ってしまうのだろう。俺とてオーキド博士から前もって情報をもらっていなければ信じきれたかあやしいところだ。
「あ、そういえばクリスタルはイエローさんのデータを持っていなかったっけ? せっかくだし今から送るよ。ポケギアを出してくれる?」
「はい、わかりました。お願いします」
ポケギアの赤外線機能を使い、オーキド博士より受け取っていたイエローさんのトレーナー資料をクリスタルへと送る。
「……えっ!?」
するとその資料を目にしてクリスタルが突如目を丸くした。
それほど詳しい資料は載っていないと思ったんだが……何かあったかな?
「と、年上!? い、イエローさんって年上だったんですか!?」
「はい? えっと僕の話でしょうか?」
「……あ、ツッコムとこそこか」
クリスタルがイエローさんを見て驚愕している。その声に反応してイエローさんもこっちに来た。
「そういえばクリスタルが11歳で、イエローが12歳だったわね。
あれ? ……そういえばイエローよりもシュン君の方が年上よね? どうして敬語を使っているの?」
「いやー、そうなんですけどね。やっぱりイエローさんの方が図鑑所有者として経験が長いわけだし、それにカントー地方を救ったほどの活躍をしたともなると、格上の存在に感じますよ」
たしかにサツキさんの言うとおり俺の方が年齢は上なわけだが、相手が有名人であるということを考えると、どうしても意識してしまう。そしてもう一つ。さすがにこれはサツキさんにも言えないが、個人的に彼の能力のことが頭に入り、気軽に呼べないということも一因ではあった。
「なるほどね。そこまで気にしなくてもいいと私は思うけど」
「そういう性分なので」
「まあ、それがある意味ではシュン君らしいかもね」
納得してくれたようでサツキさんはそれ以上は深く聞かずに、微笑を浮かべた。
こういった所で普段の行いが大切なんだな、としみじみ感じる。サツキさんの気遣いも身に染みた。
「……ま、それじゃあ二人とも。折角だしタンバに着く前に一つ確認してもいいか? 二人の旅の目的を」
「目的、ですか?」
「ああ。俺とサツキさんはオーキド博士とウツギ博士から個人的に仕事を請け負っているから、二人とは目的が違うんだよ。今回は『二人の護衛を頼む』と言われただけだから、今後のためにも聞いておきたいと思ってね」
説明すれば納得して二人とも頷く。
何せ彼らをはじめとした図鑑所有者と違い、俺は仮面の男との戦いのために旅に出ているので、少々事情が異なるのだ。特にイエローさんはカントーの図鑑所有者だからなぜジョウト地方に来ているのか気になる。
「いいですよ。それじゃあ僕から話します。
僕がこのジョウト地方に来たのは、この地方に飛んでいったはずのポケモンを捜索するためです」
「……どういうことですか?」
「そのポケモンがそんなにも価値のあるポケモンってこと?」
「はい。以前、カントー四天王事件の時、首謀者であるワタルが操ろうとしていたポケモンです」
「その事件が解決したとき、首謀者であった四天王が姿を消したようにそのポケモンもどこかに飛んでいってしまってな。方角的にジョウト地方の方角だったってことでおじさん達はこっちに来たってわけよ」
イエローの説明に捕捉するように、船を運転していたおじさんも口にする。
なるほど。たしかにそのような存在を野放しにしておくことは危険か。当事者であり図鑑所有者でもある彼が口にするのだから、それだけの事態なのだろう。
「それでジョウト地方まで来ていたのですが、僕もオーキド博士からクリスタルさんの『新ポケモン図鑑のデータ完全収集』の手伝いをするように依頼されまして、クリスタルさんを探しにここに来たんです」
「……そういえばアサギシティでは私を探していたと言っていましたけど」
「あなたがいることで図鑑完成が早まると?」
「そのことについては僕よりもクリスタルさんから説明した方が早いと思いますよ」
そう言ってイエローはクリスタルへと視線を向ける。
果たしてどういう意味だろうか。イエローはカントー図鑑所有者。すでにカントーに住まうポケモン達のデータはオーキド博士の下にも行っていることだろう。それなのにジョウトのポケモンが主体である図鑑の完成を、クリスタルの手伝いをできるとは思えない。当のクリスタルも意味がわからず疑問に満ちた目で見ている。
「……まあ、それなら先にクリスタルの話を聞こうか。確認するけど、君の旅の目的は『新ポケモン図鑑のデータ完全収集』だよね?」
「はい。オーキド博士にその依頼を託され、今回はタンバシティ周辺のポケモン捕獲のためにここまで着ました。ただ……」
「ただ?」
そこでクリスタルは言葉を濁した。何か言い難いことでもあるのだろうか、顔を俯ける。
「その旅の中で捕獲に失敗した手ごわいポケモン達もいるんです。エンジュで目覚めたという伝説のポケモンの一体、スイクン。今そのポケモンの行方も追っているところです」
「ひょっとしてニュースで報道していたことかしら? たしか先日“やけたとう”から伝説のポケモンと思われる三体のポケモン達が突如現れたって」
……そういえばそんなことあったな。
サツキさんの言葉で思い出したが、数日前にラジオでそのようなニュースが流れていた。たしか自然公園の虫取り大会に出場した日くらいだった。
つまりあの報道が本当だったということか。ウバメの森の“ほこら”のように信憑性の低いもので信じていたわけではなかったが、現に遭遇したというクリスタルがいるのだから間違いないだろう。
「エンジュシティで私は捕獲に挑んだのですが、それ以来スイクンの行方が掴めず他のポケモンの捕獲に戻ろうとしていました」
「それです!」
「え!?」
「……どうしましたイエローさん」
突如話の流れを断ち切り、クリスタルを指差したのはイエロー。突然すぎて意味がわからない。クリスタルもびっくりして硬直している。話が進まないので助け舟を出した。
「僕がクリスタルさんを手伝う理由ですよ。そのスイクンを含めた三体を目覚めさせたのは、僕なんです」
「……は?」
「え?」
「えー!?」
何を言っているのだろうかこの人は。衝撃の一言で俺たちは三者三様の反応を示した。
伝説のポケモン達を目覚めさせただと? 本気で言っているのだとしたら大問題だ。遭遇することさえ本来ならありえないというのに、目覚めさせたなどと到底信じられるものではない。
「はっはっはっ。おいイエロー、そんな風に言ったら信じてもらえるものも信じてもらえなくなるぞ」
そんな場の雰囲気を一周するようにイエローのおじさんの活気な声が響く。この人も何かしら事情を知っているようだ。
「悪いな三人とも。たしかにイエローはその三匹の目覚めには関与している。
ただ、正確に言うとしたら少し違う。『偶然そのポケモン達の目覚めの瞬間に立ち会った』という感じだ」
「あなたもその時その場所で三体を見たのかしら?」
「いや、俺は三体が塔から飛び出していく姿を見ただけだ。しかも超高速で飛び立っていったせいでその姿さえ完璧に捉えられたわけではない。だから本当にその場で見たのはイエローだけだった」
サツキさんの問いに答えるおじさん。嘘は言っていないようだ。
『目覚めさせた』のではなく『居合わせた』とのことだが、どっちだ? この両者では意味がかなり違う。場合によっては本当にイエローは伝説のポケモン達の目覚めの最重要関係者となるぞ。
考えはいくつかあるが、この時点で結論を出すのは早計だろうな。タンバシティでの捜索が終わった後、エンジュによってイエローからは詳しく話を聞くか。
「……ん? どうしたんだ、エーフィ」
考えていると、エーフィが突如服の袖を引っ張ってきた。
まだお腹は空いていないはず。毛づくろいの時間でもない。はて何の用件だろうか。
……その答えはすぐにわかることになった。
「あれ? ……なんでしょうかあれ?」
イエローが遠くの海面を指差す。進路方向上ではないために、おじさんも気づかなかった。
視線をそちらに向けると、水しぶきが大量に上がっていた。しかもどんどん近づいてくる。そしてやがて何かポケモンのような集団が一斉に飛び出してきた。
「あれは――テッポウオか! エーフィ、“リフレクター”!」
すかさずエーフィに指示を出し、船の看板に透明の防御壁を張らせる。
テッポウオの集団は次々と壁に激突。堅固な壁を破ることは出来ずに衝撃でそのまま海面へと落ちるが、その壁を乗り越えたり、違う方向から再び突出してくるなどしてその勢いは衰えない。
「おじさん、このままでは埒があかない! すぐに進路の変更をお願いします!」
「先ほどからやっているが駄目だ! テッポウオを退けない限り船を進ませられん!」
「ちっ。しかしこれだけの数を一掃するとなると船にも被害が……」
ピカチュウやバクフーンのような一斉射撃ができるポケモンは、今回のように味方がすぐ近くにいる場所では味方にまで被害が及んでしまう。かと言って一体一体を相手にしているわけにもいかない。エーフィは壁を張っているしどうすれば……
「スターミー、“サイコキネシス”!」
思考の最中、凛とした声が戦場に響く。
俺が後ろを向くと同時にサツキさんのスターミーの
スターミーが放つエスパーの力は空間の支配にまで及び、テッポウオの集団は全て空中でその動きを止められてしまう。それを確認し、エーフィはリフレクターを解除させた。
「……おお。全部纏めてかよ」
「サツキさんも、戦えたんですか……?」
「これでも一応、シュン君を鍛えている身よ」
「ええっ!?」
そう言ってサツキさんは微笑む。感嘆の言葉しか出てこないな、さすがだ。凛々しささえ覚える。
クリスタルもその威力に戸惑い、イエローに至ってはこれほどの実力を持っているとは思わなかったのか、驚愕して顔を青ざめている。
「さて、このテッポウオ達はどうしましょうか。可哀相だけどこのまま……」
「待ってくださいサツキさん。そのまま“サイコキネシス”を維持して動けないようにしていてください」
「クリスタル? 一体どうするつもりだ?」
今まで傍観を決め込んでいたクリスタルがサツキさんの言葉を遮って前に出た。
カバンを下ろしさらに腰のモンスターボールから一体のポケモン――パラセクトを繰り出した。
「全部捕獲します。皆さん息を少しの間止めていてください!」
「……は?」
おいおい、一体何を言っているんだクリスタルは。どれほどの数のテッポウオがこの場にいると思っているんだ。見た限り二十体は数えるほどだぞ。とてもではないが信じられない……
「パラぴょん、“キノコのほうし”!」
「え、ちょっ! マジで……」
「シュン君!」
「むぐっ!?」
間をおかずしてパラセクトの背部から大量の胞子が放出された。
半信半疑でクリスタル達の方を向いていたがために誤って吸ってしまいそうだったが、寸前のところでサツキさんが口と鼻を手で覆ってくれたために助けられた。……柔らかい。
その一方、動けないテッポウオ達はまともにその胞子を吸ってしまい、催眠作用には耐えられずに“ねむり”に陥ってしまった。
「ふぅっ。――はああっ!!」
今が捕獲の絶好の機会。クリスタルはそれを逃さない。
自分を囲むようにいくつものモンスターボールを円状に並べ、自身はその中央に座り込む。
一つ間をおいて精神を落ち着かせると、叫び声と共に伸ばした左足を軸を中心に回転させる。左足でモンスターボールを蹴り上げると、そのボールはテッポウオ達へと向かっていった。
テッポウオ達はボールに納まり、そのボールは次々と船へと落下してくる。
「うおっ! エーフィ、“ねんりき”!」
再びエーフィに指示を出す。エーフィの目が光り、ボールは念力によってゆっくりと降りてくる。
全てのボールが降りてきたころにはテッポウオの姿はその場から完全に消えていた。
「『捕獲』完了しました。どうでしたか?」
「全てのテッポウオの一発で、か」
「すごいですよクリスタルさん!」
「『
「いや、目の前で見るのは噂で聞く以上だぞ。まさかこれほどとは……」
荒っぽいところはあるが、しかし実力は確かだ。しかも手ではなく足でボールをコントロールしているところを見ると、余程訓練したのだろう。オーキド博士が期待するのも頷ける。
「あれ? シュンさん、あなたのエーフィ、体に傷ができていますよ」
「なんだと? エーフィ、ちょっと体を見せてくれ」
イエローに促されるまま、しゃがみこんでエーフィを呼び寄せて見る。
たしかに、体にはいくつかの傷が見受けられた。薄い紫色の体毛も傷ついている。
「……いつの間に。先ほどのテッポウオにやられたのか」
「あれだけの数だったからね。“リフレクター”も全方位からの攻撃を防げるほど万能ではないから」
うーむ。たしかにサツキさんの言うとおり“リフレクター”は前方からの攻撃を防ぐことはできるが多方向からの攻撃を防ぐことは不可能だ。咄嗟のことだったとは言え、あのような乱戦では使うべきではなかったか。俺の判断ミスだ、エーフィには申し訳ないことをしてしまった。
「とにかく“キズぐすり”を……」
「大丈夫ですよ、僕が治しますから」
「ん?」
バッグからキズぐすりを出そうとしたが、イエローに止められた。
いつの間にかイエローがエーフィに寄り添ってその体に手を当てている。するとたちまち傷が消え、塞がった。
「えっ!?」
「――これは!」
「はじめて見るか? これがイエローの持つ特別な才能、“いやしの力”だ」
「トキワの森の力、ですよね?」
「おう、なんだ君は知っていたのか」
「ええ、よく知っていますよ」
クリスタルやサツキさんはおじさんの説明で納得しているが、俺はそれを言われずともわかっていた。
トキワの選ばれた者にだけ発動するという特別な力。ポケモンの気持ちを読み、傷を癒すというもの。やはり、持っていたのか。
「……わざわざありがとうございますイエローさん。このようなことで力をお借りすることになるとは」
「いえいえ。そんなに気にしないでください」
「そうですか。それではここから先もその力、頼りにさせていただきます」
……本当に裏表のないような顔をしている。こういう相手はやり辛い。こちらの調子まで狂ってくるんだよな。力のことを根に持つこと自体が馬鹿みたいに感じる。本当に、やり辛い。
「それにしても、一体今のテッポウオの群れは何だったのかしら?」
サツキさんが今の現象を思い出して呟いた。たしかに言われてみれば、集団の移動にしては俺たちに攻撃するなど、異常なほどに攻撃的だった。
「……そう言えば、僕以前にも同じ様な出来事と遭遇しました。ふたご島でのポケモンの大移動なんですけど。オーキド博士が『野生の生物は勘に優れ、危機に敏感。きっと大きな危機の前触れを感じ取ったのじゃろう』と言っていました。ひょっとしたら……」
「まさか、このテッポウオ達も何か異変を感じ取ったと?」
「ひょっとしたら、可能性の話ですが」
イエローの言う事も一理あるか。俺やサツキさんも、一度ポッポの群れがアーボックから逃げている姿を見ている。今回もその一例だろうか?
「むっ。――なっ、まずい! 全員何かに掴まれ!」
するとおじさんが何事かに気づき、皆に指示を出す。
言われるがまま船体にしがみつくと突如船が嫌な音を立てて揺れだした。
「どうしたんですか!?」
「前を見てみろ! 船が――巨大な渦に飲み込まれる! 舵が取れん!!」
「なにっ!?」
たしかに巨大な渦が発生していた。今は渦の外側とはいえ、おじさんが舵を握ろうとも船は言うことを聞かない。
くそっ、ニュースで渦潮のことは頭に入っていたというのに、なぜもっと警戒していなかったんだ!
「あっ! 見てください! 渦の中心、その下に――何かいます!!」
「あれは……!?」
クリスタルが渦の中心を指差す。
その先には渦よりも大きな、まるで鳥のような形をした影が映りだされていた。
「なっ、なんですかあれ!?」
「まさかポケモンなのか? だが海底から現れる鳥など、存在するのか!?」
「落ち着いて! とにかく皆、ここからでは手出しもできない。皆このまま船体に掴まって安全の確保を――!?」
混乱が広がる中、一人冷静であったサツキさんの指示が飛ぶ。しかしその言葉は最後まで積むがれなかった。そのサツキさんが、いやこの場にいる全員の体が宙に浮いていたからだ。
「なっ――これは、エスパーの力だというの!?」
「ではこの下にいるのはエスパータイプのポケモン?」
「み、見てください! 私達だけじゃありません。この船そのものが、宙に浮いています!!」
「なんだと!?」
とても信じられないが、目の前の現状がクリスタルの発言を肯定していた。
視界には上空から見ているかのように、広い海や島が映る。すぐ下に乗っていた船があるというのに、だ。しかし船をこうもかんたんに空中に浮かばせるなんて。……いや、よく見るとさらに上空に巨大な豪華客船までもが宙に浮いていた。
これだけの力を周囲に働かせるとは。それだけの力だというのか!?
「あっ、渦から何か出てきますよ!」
すると突如海面から何かが飛び上がってきた。
……かなり大きな鳥ポケモンだった。少なくとも俺は今までこれほどまで巨大なポケモンをまるで見たことがない。まるで竜のようなボディーラインが特徴で、白い姿をしている鳥。
「まさかこいつが俺達を浮かべているというのか!? そんなことがあるわけが」
「常識に囚われないでシュン君! 事実私達は今こうして相手にやられている。
……それよりも今は善後策を考えなさい。下手にこちらから手を出せばどうなるかわからない」
「はっ、はい!」
サツキさんの一括で我に返る。思考もクリアーになった。
たしかにここで下手に動いて状況が好転する可能性は低いか。このポケモンがどういうものなのかもわからない上に、ここからできる状況は限られている。
まず身の安全の確保が最優先。エーフィを肩に乗せて船体にしがみつく。
すると程なくして痺れを切らしたのだろうか、巨大なポケモンが近くの島目掛けて口からエネルギー弾を発射した。
高密度のエネルギーが収束されているのだろう。たった一撃で島の一部を削り取っている。
「なんて威力なんですか……!」
「のんきなことを言っている場合じゃないですよイエローさん! それよりも……ッ!」
「全員船に掴まって離すな!! そしてエーフィ!」
「スターミー!」
「“サイコキネシス”!!」
俺の叫びと同時に船に衝撃が走る。
突如鳥ポケモンが大きく翼を振るったのだ。その動きで念の力を一気に放出したのだろうか、宙に浮かんでいた船は海面目掛けて投擲される。
海面に叩きつけられて衝撃が走るものの、寸前でエーフィとスターミーが“サイコキネシス”を放ち船に念を働きかけたことで最小限にすんだ。
「お前ら、全員大丈夫か!?」
「はい、無事です」
「それよりもおじさんは船の舵を取ってください! また渦潮の中に入ってしまったら意味がない!」
「了解した!」
皆の無事を確認するとおじさんは舵を取りに戻る。
これでいい。ひとまずこれで渦潮の心配をしなくて済む。問題はあのポケモンだ。先ほどの念の力、そしてあの高密度のエネルギー弾。明らかに普通のポケモンではない。
……だが、どこか動きが変だ。あまりにも攻撃が雑だ、ただ怒りに身を任せて暴れているように見える。今も周囲にエネルギー弾をあちこちに放出しているが……っ、一発がこの船に!!
「まずい、エーフィ“ひかりのかべ”だ!」
すかさずエーフィに特殊攻撃を封じる特別な壁、“ひかりのかべ”を空中に張らせる。
エネルギー弾は船に当たらずに壁に衝突、空中で制止する。
……しかしその威力が止まらない! 勢いは壁の耐久力を超えて、壁が壊しさらにこちらに迫ってくる。
「駄目だ、止められない!」
「っ、スターミー、お願い!」
まさに目の前に迫る弾丸であったが、その直前スターミーが庇うように飛び出した。
攻撃はスターミーを直撃し、受けたスターミーは力なく船に倒れこんだ。
“ひかりのかべ”で威力は半減しているはずだというのに、それでもスターミーを一撃で……!
「サツキさん、このままでは!」
「大丈夫よ――“じこさいせい”!!」
周囲の心配を一掃するように、サツキさんは高らかに命じた。
まだスターミーは瀕死ではなかった。自らの力で細胞を回復させて、瞬く間に傷は塞がる。傷ついた
「さて、反撃といきましょうか。スターミー“10まんボルト”!」
回復したスターミーが反撃に転じる。核から強力な電気を発生させ、その電気は一筋の光線となって敵目掛けて放出。見事に直撃した。
電撃が効いているのだろうか、苦しそうに空中でもがいている。
「やはり、その見た目どおり“ひこう”タイプだったようね。おそらくあのポケモンは、この海底で眠っているという伝説のポケモン、海の神――“ルギア”よ!」
「ルギア!?」
その名前はアサギシティで聞いたことがあった。嵐の夜に現れ、荒れ狂う海を沈めたという幻のポケモンだ。
……だが、それがなぜ今現れる!? なぜこうも怒り狂っている!?
「気になることはあるでしょうけど、考えるのは後にしましょう。相手がわかったなら打つ手もある。
シュン君はここで敵を牽制しつつエーフィの壁で船を守って――!?」
「さ、サツキさん!?」
話している途中、いきなりサツキさんとスターミーの体が宙に浮かぶ。
間違いない。これはエスパーの力。ということはルギアの仕業か!
ルギアはこちらをにらみつけている。先ほどの攻撃がスターミーの仕業だと気づいたのか。先ほどのように翼を大きく振り上げ――そして振り下ろした。
「きゃっ!?」
「サツキさん!」
それと同時にサツキさんとスターミーが海へと投げ出された。その勢い、船を投げ飛ばしたのと同等かそれ以上だ! あっという間にその姿が小さくなり、そして見えなくなってしまった。まさか、海中に沈んでしまったのか!?
「おじさん、船の進路をすぐに変更! サツキさんを追ってください!」
「あっ! シュンさん、大変です! ルギアというポケモン、サツキさんの飛ばされた方角にもエネルギー弾を!」
「なにっ!?」
指示を出しているとクリスタルの叫びが響いた。
急いで視線を戻すと、ルギアが口から先ほどのエネルギー弾を海に打ち込んでいた。たしかに、あの方角はサツキさんが飛ばされた方角……! あの野郎!
「クリスタル、イエロー! 二人はこの船をエーフィと共に守ってくれ! バクフーン、ラプラス。お前達も護衛に回ってくれ。
……ピジョットはピカチュウと共に援護を! 行くぞヘラクロス!」
「あ、シュンさん待ってください!」
制止の声がクリスタルよりかかるが、説明している時間も惜しい。
手持ちのポケモンを全てボールから繰り出し、エーフィに加えバクフーンを船上、ラプラスは海上で船の護衛を命じる。
ピジョットはピカチュウを背に乗せて、俺はヘラクロスに掴まり、共に空中に踊りでる。目指すは空で好き勝手やっているルギア、そいつに接近する!
「まずはピカチュウ、お前だ。“でんじは”!」
第一に相手の注意をこちらにと寄せる陽動だ。
ピカチュウは尻尾に電位の高密度エネルギーを生み出し、打ち出す。ルギアの顔面目掛けて直進するが、寸前で気づいたルギアは首を大きく動かして回避する。
“でんじは”は外れたが、これでルギアの意識はサツキさんから外れた。
「次! ピジョット、両の羽で“つばさでうつ”!」
さらにピジョットが先行し、ルギアへと襲い掛かる。
ルギアもピジョット達を打ち落とそうと翼を羽ばたかせて対抗しているが、無駄だ。あの巨体は細かい動きには向いていない。敏捷性ならば間違いなくピジョットの方が上。そしてピジョットの素早さに翻弄され、ルギアの意識は二匹に向かい動きは止まった!
「お前、何をサツキさんにしてくれてんだ! ヘラクロス、“メガホーン”!!」
怒りの咆哮と共に加速。
ヘラクロスは頭部に突出した角を先端として、勢いよくルギアに突進する。
ピジョットがこちらの意図に気づき、一時的に離れたことでルギアも反応するが遅い。遅すぎる。
硬く、大きな角がルギアの顔を下から大きく突き上げる。ルギアの体が仰け反り、完全に怯んだ。
「まだまだ休ませるな! ヘラクロス“ずつき”、ピジョット“でんこうせっか”!」
そこで手を緩めてやるほど俺は優しくはない。
ヘラクロスは頭を突き出し、真っ直ぐ突っ込む。ピジョットも目にも止まらぬ速さでルギアの腹部へと突っ込む。
急所を突くことが出来たのか、ルギアは肺の中の酸素が強制的搾り出され、苦しそうに顔を歪める。体勢を立て直すためにルギアは飛び上がり、距離をとる。
「これ以上の勝手な真似は俺が許さん。サツキさんにはもう指一本触れさせない!」
見下す形でにらみつけてくるが、その程度では怯まない。
俺は逆に相手を威圧するようにできるだけ強く、はっきりとそう告げた。