ワカバの導き手   作:星月

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第二十七話 vsルギアⅠ 再起の時

 少し時を遡った話、今から数十分ほど前のことである。

 

「……い。……おい。おい、シルバー!」

「むっ……う……?」

 

 縦横無尽に、何度も無造作にゆすられる体。

 耳に届く自分の名前を叫んだ必死な呼び声。

 その二つの感触で、肩まで伸びるほど長い赤髪の少年――シルバーはゆっくりと目を開けた。

 

「……お前は、ゴールド?」

「おう、ようやく起きたかシルバー。こうやって俺がお前を叩き起こすってのは、何だか新鮮だな」

「ふん。……まさかお前に借りを作ることになるとはな」

「へへっ。俺は昔から先輩に扱かれたからな。テメーとは鍛え方が違えんだよ」

「……言っておけ」

 

 目の前に立つ同い年の少年――ゴールドとの軽い受け答えをすませ、横になっていた体を起こす。

 上体を起こす際に先の戦いで受けた傷が影響なのか、体に鈍い痛みが走るが我慢できないほどではない。

 顔には出さずに立ち上がると、視線をめぐらせて状況の把握に専念する。

 

「それよりも一体ここはどこだ? 俺達はどこかの洞窟の内部にいるのか。……いや、それともこれは島の火口部か?」

 

 あたり一面は天然の壁で囲まれているものの、天井は塞がっておらず空が窺えた。

 さらに彼らの周りには大きな円を描くように炎が渦巻いている。

 これらの状況から自分達がどこかの島の火口にいることを推測するが、詳しいことはわからない。

 

「――『うずまき島』だってよ」

「うずまき島?」

「ああ。ポケギアにそう表示されてる。もっともそれ以上詳しい位置まではわかんねーけどよ」

 

 シルバーの疑問に答えるようにゴールドがそう呟く。

 彼が所持するポケギアの地図機能だ。画面には彼らの現在位置――『うずまき島』が表示されていた。

 アサギシティとタンバシティの間に広がる海に位置する島である。

 

「うずまき島か。……いかりの湖から随分遠くに来たものだな」

「まったくだぜ。俺だって今さっき目を覚ましたばかりで何も情報がねーときた。

 ……し・か・も! 帽子やゴーグルを初めとした荷物をなくしちまったからな。俺ら靴だって片方だけだぜ?」

 

 元々彼らはチョウジタウンの北に位置するいかりの湖にいたのだ。それが気がついたらここまで遠くの場所にいる。不満をこぼさずにはいられない。

 ゴールドも同じ状況なのだろう。ため息を一つ吐き、自分の体を見回した。

 たしかにゴールドの言う通り、彼らは二人とも持ち物を殆ど全て失っていたのだ。しかもゴールドは右足の靴を、シルバーは左足の靴を失っているため動きにくい。

 

(……赤いギャラドスも、ここにはいないか……)

 

 その上、シルバーは手持ちポケモンの一体がこの場にいない状況であった。

 シルバーがいかりの湖でゲットしたばかりの赤色のギャラドスである。戦力として期待していただけにこの痛手は大きい。

 だがいつまでも悔やんでいても仕方がない。シルバーは意識を切り替え、事態を好転させることに専念した。

 

「色々不満はあるだろうが、今はそれを嘆いていてもても仕方がない。

 それよりも問題なのは……俺達がなぜここにいるのか。どうやってここまで運びこまれたのか、その二点だ」

「……ああ。俺らいかりの湖で仮面の男と戦ってたはずだよな?」

「それは間違いないはずだ。ゴールド、お前はあの戦いの後のことを何か覚えていないか?」

 

 最低限の確認を済ませるとシルバーはゴールドへと問いかける。

 状況把握が出来ていない中、今はすこしでもお互い情報を共有しておきたかったのだ。

 ……だが、ゴールドは申し訳なさそうな表情で首を横に振る。

 

「いいや。さっきも言ったが目が覚めたらここにいて状況もわかってない。テメーはどうなんだ?」

「一つだけ、覚えていることがある」

「本当か!?」

「……俺達がいかりの湖の底へと沈んでいく時のことだ。

 高速で動く巨大な影が俺達を一瞬で救い上げ、去っていった」

「巨大な影だぁ?」

「ああ。おそらくポケモンだろうが、巨体を誇るポケモンだ。

 ここまで運び込んだのもそのポケモンだろう。そして……おそらく、この炎を放ったのも」

 

 シルバーは視線をゴールドから周囲の炎へと移す。

 未だに炎はゆらゆらと燃え盛っており、消えるそぶりを見せない。

 

(……ただの炎ではない、特殊な炎だ。

 体を温めるだけではなく、まるで俺達に『生命エネルギー』を与えるかのような、『命の炎』とでも呼ぶべき炎)

「……そういえば俺も、意識を失っている間、ずっと何かに見守られているような感覚があった気がするぜ」

 

 その炎はただものではないとシルバーは感じ取った。

 ゴールドも何か思うところがあったのだろう。遠くを見つめながらそう語った。

 二人が同じことを考えたのだからまず間違いないだろう。とシルバーが考えをまとめていると――突如、彼らを囲んでいた炎が予兆もなく消えてしまった。

 

「――炎が消えた!」

「何だ? 俺達が目を覚ましたことを確認し、役目を終えたかと言わんばかりに……」

「どうなってんだ? 何もかもわっかんねーことばかりだぜ……くっそ!」

「おい、待てゴールド! どこへ行くつもりだ!?」

 

 苛立ちを募らせ、ゴールドは足先を洞窟の外へと向ける。

 シルバーはゴールドが怒りで冷静さを失い単独行動を犯すことの危険性を察知し、ゴールドを呼び止めるが……

 

「いつまでもここにつったっていても仕方がねーだろ?

 そんなら外に出て近くに人影がねーか調べるさ」

「む……」

「テメーも来いよ。それとも何か? まーだ仮面の男に受けた傷が痛むってか? 

 ったく、テメーも意外とやわな体してやがるじゃねえか。ウツギ博士の研究所で見せた動きはハッタリかよ?」

「……ふん。言われずとも」

「そうこなくっちゃな」

 

 ゴールドは軽い口調でシルバーの意気を高めた。

 安い挑発とわかりつつも、シルバーもゴールドに続くように洞窟の外へと歩いていく。

 皮肉にも、いつも暴走しがちなゴールドに諭される形になったのである。

 

 

――――

 

 

「……で? まったくどうしてこんなことになっちまうんだよ。……ったくよー!!」

 

 苦笑いを浮かべ、ゴールドは目の前の惨劇に言葉を荒げた。

 どうしてこんな事態が起こったのか。冷静に思い返してもまったく納得がいかない。

 ――洞窟の外へ出てしばらく探検してみたゴールドとシルバーであったが、近くに舟もなく、人の姿も窺えず、途方に暮れていた。

 ポケギアも長時間水に浸かってしまったせいか通信機能が上手く機能せず、連絡を取ることができない。

 するとどうにか打開策を考えているところにその状況を一転させる人物が現れた。

 まるで軍人であるかのように軍服を身に纏い、短い黄色の髪を逆立てている外人。目つきも鋭く屈強な顔つきで、軍人と言われても納得できる見た目であった。

 その男がレアコイル数体に囲まれ、レアコイルの発する電磁力から生まれるシールドに守られるかのように宙に浮かび二人に近づいてきた。

 常人ならば見慣れぬその光景に、思わずゴールドは『何だこのおっさん!? 宙に浮いてるぞ!』と叫んでしまうほどである。

 そんな男がゴールドとシルバーが失ったはずの荷物を持って現れたのだ。ゴールドのリュックやシルバーの赤いギャラドス、どれもが彼らが欲しかったもの。

 男――マチスは二人に荷物を返す代わりに、『仮面の男』の情報を要求。不審に思う二人であったが、マチスから感じるただならぬ怒りを察知し、これを了承。

 マチスに『ロケット団の現首領』『氷タイプの使い手』『ジムリーダーの一人』と答えた。

 最初の情報については知っていたのか何も反応を示さなかったマチスだが、残り二つの情報については過敏に反応した。

 どうやらマチスも独自に調査を進めていたようだが、そこまでの情報には至らなかったらしい。

 どこか納得した表情を浮かべ、『Thank you,boys.おかげで良い情報が助かった礼を言うぜ』とマチスは手を差し出した。

 「なんだこの似非外国人は」と心の中で呟いたゴールドであったが、心底悪い人間ではないとわかり、その手に答える。

 その後、さらに細かいやり取りをして、二人はマチスが乗ってきた舟に乗り、ジョウト本土で戻ることにした。

 マチスいわく、『少しでも戦力は欲しいところだ。すでに対戦済みってなら尚更な』とのことだ。

 これには二人も感謝感激で喜んでマチスと共に舟へと乗り込もうとしたものの――彼らはその舟が、なぜか宙に浮かんでいる光景を目にしたのだ。

 ――そして今に至る。

 

「Oh,my godness! 俺の高速船アクア号が!!」

 

 マチスが地団駄踏んで悔しがる。目の前で自身が搭乗する舟が浮かんでいるのだから当然の反応だろう。

 

「あ・り・え・ね・え! 小船は勿論、あんな馬鹿でかい舟までもがまるで風船みたいに浮いてやがる!」

「見ろ! 舟の下、大型の鳥ポケモンがいる! あいつのエスパーの力だ! あれは――ルギアだ!!」

 

 目の前で起こっているただ事ではない現象に、マチス動揺に混乱するゴールド。

 そんな二人とは裏腹に、冷静にかつ客観的にシルバーは敵を分析しその正体を暴くが……彼がその正体に気づくと同時に、ルギアの口からエネルギー弾が発射された。

 

「避けろ!」

 

 散会する三人。

 ゴールドもシルバーも持ち物が戻り、動きやすくなった分何とかかわすことに成功した。

 直撃した場所を見ると、島の一部が削り取られていることが確認できた。その威力には思わずゾッとする。

 まともに受けるわけにはいかない、と三人はその一撃の威力を理解し警戒態勢を取ると、ルギアは痺れを切らしたかのように、宙に浮かんでいる高速アクア号と付近の小船を海面へと叩きつけた。

 巨大な船体が勢い良く海面と衝突した結果、巨大な津波が発生し、島を襲う。

 

「頼む、ヤミカラス!」

「マチスさん、相乗りさせてくれ!」

「……Shit! 掴まれ、ガキ!」

 

 空中戦力を持つシルバーはヤミカラスを繰り出し、ひこうタイプを持っていないゴールドはマチスに頼み込み、彼のレアコイルに掴まり空中へと逃れる。

 三人とも無事離脱に成功したが、彼らが立っていた場所はあっという間に波に飲み込まれていた。

 

「油断はできねえぞガキども!」

 

 一時の無事を喜んでいる暇もなかった。

 ルギアは溜まり込んだ怒りを爆発させるかのように、我武者羅にエネルギー弾を乱発する。

 休むまもなく発せられる攻撃に近づくことさえできず、三人はただひたすら回避に専念した。

 

「ああもうなんですか、なんなんですかこの図体のでかいポケモンは! 何で俺らが攻撃されなきゃいけねーんだよ!」

「んなこと俺が知るか!」

(まずいな。伝説のポケモン、ルギア。俺達だけでは戦力が圧倒的に足りない。

 このままでは徐々に追い込まれていくだけだ。何か流れを変える一手があればいいのだが……)

「……ん? 何だあれは?」

 

 レアコイルの電磁シールドの中で討論するゴールドとマチス。

 シルバーは一人ヤミカラスに指示を飛ばしながら打開策を考えるが、一向に考えがまとまらない。

 このままではまずい、と焦りだけが募る中……シルバーは一筋の光線がルギアへと襲い掛かるのを目にした。

 電撃だろうか、黄色く光る光線はルギアに直撃する。その威力に苦しそうに空中でもがき始めた。

 

「ルギアへの攻撃だと……?」

「おお、誰だかしらねえけどナイスだぜ! 俺ら以外にもトレーナーがいたんだな!」

「今のは電気、威力から察するに“10まんボルト”だな。攻撃元は……あの小船だ!」

 

 でんきタイプの専門家(エキスパート)であるマチスはその攻撃を瞬時に判別し、攻撃元を割り出した。

 不審に思ったシルバーも、歓喜の声を上げるゴールドもその小船へと視線を向ける。

 たしかに小船には小さいながら人影が見えた。それも一つではない、複数の人影である。

 

「なぜこんなところにこれほどの力を持ったトレーナーがいる?」

「細けえことはどうでもいいぜ! 俺ら以外にもトレーナーがいるなら、そいつらと協力して……」

 

 楽観視するゴールドであったが、その先の言葉は続かなかった。

 今の攻撃をルギアも理解したのだろうか、ルギアの攻撃の矛先が一点に絞られたのである。

 ルギアは先ほどと同じエスパーの力を使用。小船のある人物達へと働き……その者達をはるか遠くへと吹き飛ばした。

 

「……なっ!?」

 

 空中にいるからこそ、三人はその姿がよく見えてしまった。

 巨大客船さえ吹き飛ばした威力である。それを人に使用すればどうなるか……想像に難くない。

 “サイコキネシス”を受けたトレーナーとそのポケモンは離れたところに位置する別の島まで吹き飛ばされてしまった。

 

「なんっつー威力だよ……こいつ!」

「野生のポケモンだ、そりゃ容赦はねーだろーが、くそっ!」

「構えろ! 次の攻撃はすぐに来る! ……むっ!?」

 

 頼みのトレーナーが倒されてしまったことで、再びこちらに攻撃が来ることを予想した三人は再び臨戦態勢に入る。

 いつでも反応できるように神経を研ぎ澄まし様子を窺うが、その必要はなかった。

 ――小船から二匹のポケモンの影が空へと舞い上がった。

 いや、正確に言えば二匹だけではない。一匹はその背中に小柄なポケモンを乗せて、もう一匹は自分の腕でトレーナーであろう一人の男を捕まえている。

 

「まだ他にもトレーナーがいたのか!」

「――まずはピカチュウ、お前だ。“でんじは”!」

「……ん? ピカチュウ? まさか……」

 

 度重なるトレーナーの出現に驚くシルバー。

 しかし、ゴールドはそのトレーナーの声を耳にして、そしてその手持ちポケモンを見て、脳内で記憶の中にいるある人物を思い描いた。

 自分が何度も世話になり、そして鍛えてもらった先輩のような存在である男の姿を……

 

 

――――

 

 

「ピカチュウ、ルギアの背中に飛び移れ!」

 

 三匹の空を飛べるポケモンが行き交い、激しい攻防が繰り広げられる中、俺もその速度に怯むことなく指示を飛ばす。

 ピジョットとルギアが交錯する瞬間、それまでピジョットの背中に乗っていたピカチュウが跳躍。見事ルギアの翼にしがみつき、こちらの期待に応えてくれた。

 

「いいぞ、そのまま電撃を食らわせてやれ!」

「ピッ……カッ!!」

「ギャアア――――!!」

 

 ルギアもピカチュウの存在に気がついただろうが、小回りの効かない体ではどうしようもない。

 対処される前に、ピカチュウは体内に溜め込んでいた電撃を力強く放出する。

 弱点である電気攻撃はやはり苦しいのだろう、その場でもがき悲痛の叫びを上げるルギア。痛いだろうな――だが、だからと言ってその程度でサツキさんを傷つけた罪が晴れるわけがない!

 懐からポケギアを取り出し、先ほど舟の中で聞き出したクリスタルへと電話をかける。緊急時だけあってすぐに彼女は答えてくれた。

 

「クリスタル、聞こえてるか!?」

『はい、大丈夫です!』

「よっし、それじゃあそのままポケギアの通話は繋げたままで頼む。

 ……バクフーン、“かえんほうしゃ”! ラプラス、“れいとうビーム”! エーフィ、“シャドーボール”!」

 

 クリスタルの肯定の返事を受けて、こちらも遠慮なく船上と海上にいるポケモン達へと指示を出す。

 バクフーンは口から巨大な炎の火柱を、ラプラスも同じように氷の光線を、エーフィは空気中に収束させた暗黒の塊を――三匹が一斉にルギア目掛けて打ち出した。

 それぞれのエネルギー弾は一直線に進む。電撃で怯んでいるルギアにはこの攻撃を防ぐ術はなく……全弾命中という、最上の結果をもたらした。

 

『シュンさん!』

「よっし、よくやった!」

 

 ポケギアよりクリスタル達の声が聞こえる。

 俺も思わず拳を握り締め、ポケモン達の功績を讃えた。

 それだけこの連続攻撃の成功は大きかった。まず間違いなく押しているのはこちらだ。このまま流れを継続できれば勝てる、そう思えた。

 

「……ッ! ギィァアァ――――ス!!」

『――ッ!?』

 

 ――そしてその思いを引き裂くかのように、ルギアの咆哮が響き渡る。

 

「ぐっ……あっ。な、なんて馬鹿でかい咆哮だ……!」

 

 文字通り空間を切り裂くかのような咆哮に、耳を塞がずにはいられない。

 頭が割れてしまいそうで、方向感覚さえ狂わせるほどの威力であった。事実、ヘラクロスもピジョットも空中でふらついており、ピカチュウもルギアの背中で座り込んで耳を押さえていた。

 どうやら遠くにいるはずの船でさえ被害を受けているようで、バクフーンやクリスタル達も船上で頭を抱えて、膝から崩れこんでいた。

 味方全員が身動きを封じられ、指揮も乱れた。――この状況を、ルギアが見逃してくれるはずもなかった。

 

「――避けろ、ピジョット!!」

 

 先の展開を察してピジョットに支持を出すが、その時にはもう手遅れだった。

 ルギアは少し羽を羽ばたかせて上空へ上がると、ピジョット目掛けて急降下。

 激突する手前で大きく旋回、巨大な尻尾をピジョットに叩きつけた。

 降下の勢いも重なってその威力は計り知れなかった。ピジョットはまともに攻撃を受けてしまい、海面に叩きつけられる。

 さらにピカチュウも今の旋回で振りほどかれてしまい、空中へ身を投げ出してしまった。

 

「チッ! ラプラス、“みずでっぽう”でピカチュウを受け止めろ!」

 

 せめてピカチュウだけでも、とポケギアで指示を飛ばす。

 ラプラスがすぐに水面上を移動し、空中から落ちてくるピカチュウに目掛けて真下から“みずでっぽう”を噴射。

 威力が低い分、落下の衝撃を和らげるためのクッションの役割を果たし、ピカチュウは何とか無事に回収された。ピジョットもおじさん達が船を寄せて回収へと移ってくれている。

 

「この野郎、ルギア! 行くぞ、ヘラクロス!」

 

 これによりこちらの空中戦力はヘラクロスだけになってしまったが、ここで退けば船が危なくなる。

 突撃の支持を出し、ルギアの懐へともぐりこむ。これならば対処できないと考えてのことだ。

 このままもう一度強力な一撃、“メガホーン”を叩き込んでやろう、そう思って口を開こうとして……口を上手く動かすことができなかった。

 

「なっ……にっ……が、起こっ、て……る?」

 

 疑問を呟くことさえ満足にいかない。

 ……いや、俺だけではなかったのだ。ヘラクロスも同じ状態になっているのだろうか、俺達は空中で静止していた。

 “サイコキネシス”とは少し違う。宙に浮かんでいるのではなく、身動きそのものができない――まるで静止するように操られているかのような感覚だ。

 まったく理解ができない状況。しかし一つだけ思い至る点があり、無理やりにでも首を、視線を上に――ルギアに向ける。するとルギアの目が怪しく光っていることを確認できた。

 おそらくルギアが何かをしたのだろう。だが、その何かを理解できない。

 そんな俺の状況を心配し、ポケギアからイエローやおじさんの声が響いた。

 

『どうしたんですかシュンさん!?』

『何を止まっている!? やられるぞ!』

『まさかあれは……シュンさん、それはおそらくルギアの“じんつうりき”です!』

 

 その中でただ一人、クリスタルだけが思い至る点があったのだろうか、その正体を教えてくれた。

 ――“じんつうりき”? 聞いたことはある。人間の思慮だけでは計り知れない、異例の力。

 エスパーの力の中でもさらに特殊だ。となると、ヘラクロスだけでは解除することなど到底無理だ。すぐにクリスタルと連絡を取り、エーフィに指示を――

 

『ッ! 危ない!!』

 

 ――指示を出す暇などなかった。

 クリスタルの悲痛な叫びが聞こえた。そして同時に体に衝撃が走る。

 薙ぎ払うようにルギアが翼を振るう。翼はしっかりと俺とヘラクロスの体を捉え、大きく投げ飛ばした。

 

「――ガハッ!!」

 

 その衝撃で強制的に肺から酸素が搾り出される。

 体にも激痛が走り意識が飛びそうになるが、歯を食いしばって持ちこたえた。

 

「ッ、負けるな……ヘラクロス!」

「……ッ!!」

 

 そして同じように吹き飛ばされたヘラクロスへと。

 掛け声で意識を取り戻し、ヘラクロスは空中で体勢を立て直した。

 よくこらえてくれたともう一声かけてやりたかったけれども。……どうやらその時間さえないらしい。

 

『逃げてシュンさん!!』

「――無理だ」

 

 クリスタルの今にも泣きそうな、必死な叫び声。俺の身を案じてのことだとわかるが……俺は彼女が望む返事を口にできなかった。

 ……ヘラクロスがようやく体勢を立て直したとき、前方でルギアが大きく息を吸い込んでいた。

 今までの攻撃のタメ時間の短さや性質から、ルギアの砲弾が『空気』だということはわかっている。

 その空気を今吸い込んでいるのだ。後はもう吐き出すだけ。傷ついたヘラクロスではこの至近距離であれをかわすことは不可能だ。

 そうわかってしまった。だから……

 

「……ちくしょう!」

 

 せめて恨みを精一杯こめて、ルギアに一言だけ告げることにした。

 吸息をやめてルギアが息を吐き出すために首を前へと押し出す。

 

「――ラァッ! “かみなり”!!」

 

 もう終わりだと、覚悟を決めたその瞬間。――強烈な稲妻がルギアの体に落ちた。

 

「……?」

「ギャアアアア!!!!」

 

 先ほどのピカチュウの攻撃の時と同様、あるいはそれ以上の悲鳴を上げるルギア。

 突然の事態に理解が追いつかない。突然の雷の発生だが、今までそのような予兆はなかったはずだ。それなのになぜこうもいきなり……?

 

「な、なんだ?」

「Hey! 中々の戦いぶりじゃねえかガキ! だが、諦めるのはちょっと早いんじゃねーか?

 このマチス様にかかれば、こんな図体がでかいだけのポケモンなんて、一ひねりだぜ?」

 

 そんな俺の疑問に答えるように、上空より一人の男が現れた。

 軍人のような格好をしたマチスと名乗るその男は三匹のレアコイルが形成する電磁シールドによって宙に浮かんでいる。

 先ほどの“かみなり”はこの男が放ったのだろう。すばらしい威力であった。

 とにかく助けてもらったからには礼を言わなければならない。そう思って声をかけようとした時、俺はその隣に立つ一人の少年に目が行った。

 

「……え?」

 

 彼の顔を見て絶句してしまう。その顔には見覚えがあった。

 知り合いどころの話ではない。もっと幼いころからよく遊んでいた、悪ふざけもした、訓練もした。

 大切な友達であり後輩のような存在で。俺が今回旅をすることになった目的、探し人。何よりも欠かせない人物がそこにいた。

 

「なーにポッポが豆鉄砲食らったみてーな顔してんすか? らしくねえっすよ、シュン先輩」

「お前……本物、なのか? やっぱり、生きて、いたのか……!」

 

 ニヤリと口角を上げて、生意気そうに軽口を叩く。

 ……それによって気分を損ねるようなことは一切ない。むしろ嬉しさで感情がはち切れそうだ。

 こんなこと本物でなければありえないとわかっていながらも、俺はこの男の名前を呼ぶしかなかった。

 

「――ッ! ゴールド!!」

「はい! ……久しぶりっス、シュン先輩」

 

 懐かしむように、改めて笑みを浮かべるゴールドを見て……俺の視界がボヤけてしまった。

 今はそれどころではないとわかっていながらも、友の無事をこの目で確認できて、涙を塞き止めることができなかった。

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