―― 29番道路 ――
ワカバタウンとヨシノシティを繋ぐ一本道、29番道路。俺も何度かこの道を通ったことはあるが、あれはあくまでも旅などではなく隣町へのちょっとした用事だとか、そんな理由であった。それゆえに当時はバトルのことも一切考えていなかった。
だが今回は違う。旅するにあたってここは初心者トレーナーでも道に迷うことはないだろうが、道端には自慢のポケモンを引き連れたトレーナー達はいる。さらにポケモンを鍛えようと勝負を仕掛けてくる者達がいる。
そしてポケモントレーナーならば受けた挑戦から逃げるわけにはいかない。……まさに今の状況であるのだが。
「マダツボミ、“はっぱカッター”!!」
「ヒノアラシ、“ひのこ”だ!!」
相手のマダツボミの体から放たれる無数の鋭利な葉の刃。
対してヒノアラシは背中から炎を出して臨戦体系に入る。そして“はっぱカッター”を迎え撃つように、ヒノアラシの口から一直線に炎が噴出した。
炎はまっすぐ相手に向かって行き、全てのはっぱをいとも簡単に飲み込んでいく。
そしてそのまま勢いは衰えることなく、炎はマダツボミの体を襲った。炎はあっという間に体中に広がり、その体を飲み込んでいく。
「マダツボミ!!」
マダツボミのトレーナーの短パン小僧が声をかけるが……炎が消えるとともに、マタツボミは倒れた。
これで相手のポケモンは全て戦闘不能。勝負終了だ。
……たしかにこちらとしてもポケモンを鍛えられてよいのだが、それにしてもトレーナーの数が多くないか?
ワカバタウンを出発してすでに三人目のトレーナーとの勝負。一応全勝しているが……今まで野生のポケモンとの勝負なら話は別だが、トレーナーとのバトルなどめったにしたことがなかったために、いまだ慣れやしない。
「……僕の負けだ。はい、賞金だよ」
短パン小僧から戦いの賞金をもらう。
……賞金といっても、負かした相手から現金を手渡しでもらうとか、そういうものではない。
お互いがお互いのトレーナーカードを取り出し、近づける。賞金のやり取りは手渡しではなく、ポケモン交換のように通信してやり取りを行うのだ。このトレーナーカードはポケモン図鑑と同等の技術を誇り、なかなか精密にできているらしい。(サツキさん談)しかもカードには指紋も登録しており、犯罪防止も徹底されている。
さらに口座を作っておけば別の口座に振り込んだり、賞金を分けることもできる。俺も母さん(というか自宅)の口座はあるが……俺はしていない。なんか関係のない物の購入に使われるのでは、と疑問が浮かぶからだ。というよりも以前あったのだ。
ちなみにこのバトルで俺の口座の残金は4200円となった。(最初は3000円だった)旅を始めてさっそく1200円稼いだということになる。
受け渡しが終了すると、短パン小僧はポケモンセンターに行くのだろう。マタツボミをボールに戻して立ち去っていく。「次は負けないからな!」などと言っているが、おそらく会うこともないだろうな。……セリフが完全にかませ役だよ。
「お疲れ様、シュン君」
「待たせましたね、サツキさん。さあヨシノシティへ行きましょうか」
傍で戦いを見守っていたサツキさんに声をかけて再び先を目指す。野生のポケモンやトレーナーとの戦いの時は安全な場所で俺のことを見ていてくれる。時にアドバイスをくれることもあった。
できることならば今日中にキキョウシティに着きたいと考えているから、あまり長居はしたくない。
「ところでサツキさん、一つ聞いておきたいことがあるんですけど」
「ん? 何かな?」
ヨシノシティに向かって歩きながらサツキさんに疑問を問いかける。
オーキド博士やウツギ博士が信用しているくらいなのだからサツキさんもそれなりの実力者なのだろうが、少なくとも俺は今日会うまで彼女のことを全然知らなかった。博士は一年前にも手伝ってもらったと言っていたものの、一年前の事件で活躍していたと聞いているのはレッド・グリーン・ブルー・イエローといったカントー図鑑所有者くらいのものであり、まったく情報がないのだ。
だからこそ、早いうちにこの人のことを色々と知っておきたい。
「サツキさんって、出身はどこなんですか? オーキド博士は、サツキさんが以前カントー地方の事件を調査していたって言っていましたけど……」
「ああそっか。そういえばシュン君には私のことは話していなかったんだっけ」
サツキさんはうーんと唸って、口元に右手の人差し指を持っていく。その仕草が妙に色っぽく見える。
何かを考えているようだが、すぐに答えてくれた。……やっぱり彼女にも何か秘密があるのだろうか?
「そうだね。シュン君も少しは知っておかないと不安だよね」
「……まあ、個人的に知りたいという好奇心はあります」
「じゃあ教えるよ。私は君の想像どおり、カントー地方出身よ。故郷はマサラタウン。オーキド博士の研究所がある街」
「マサラタウン!?」
「ん? そうだけど、どうかした?」
想像外の地名が出てきた事に、思わず声を上げてしまった。
俺の反応を不思議に思ったのか、サツキさんが顔を覗き込んでくる。
「あ、いえ。……まさか、チャンピオンとなったレッドさん達と同じ故郷だとは思わなくて……」
「そういえば彼らも有名人になったもんね」
マサラタウンはカントー地方の小さな町ではあるのだが、かなり有名だ。マサラタウンはかなりの実力を持ったポケモントレーナー達の故郷であり、全大会の覇者・レッドもマサラの出身だ。
それならオーキド博士との関係も理解できる。オーキド博士はもともとマサラタウンでポケモンの研究を行っていた。同じ街に住むということで、いろいろつながりもあったのだろう。
「でも、残念ながら私は彼らとは会った事ないのよね。故郷の有名人と会いたいとは思ったんだけど、その前にこのジョウト地方のニュースを聞いてここに来たのよ」
「え? レッドさん達と会ったことないんですか?」
「うん。彼らが活躍していたとき、私は少し用があってここから離れた地――ホウエン地方に行ってたの」
「……ホウエン地方」
ホウエン地方はジョウト地方やカントー地方から遠い場所にある、自然豊かな土地だ。
なるほど、それでレッドさん達との交流はないのか。となると俺が図鑑所有者の中では初めてサツキさんに会ったってことになる。
「シュン君は行ったことないかな? あそこも自然あふれるいい場所だったわよ」
「そうですね。いつか……この事件が解決したら、是非とも行ってみたいです」
もっとも、今のところそんな余裕はないですけどね。
でも、この事件が終わったら俺も他の地方にも旅してみたいな。再会したらゴールドとかにも声をかけてみるとするか。
「……あら?」
「え? どうかしました?」
俺が一人で決意を固めていると、サツキさんが突然立ち止まった。
そして警戒するように、辺りを見回す。俺には何がなんだかわからなかったが……すると、俺の耳にも何か聞こえてきた。
「……何か聞こえない?」
「はい、聞こえます」
……バサバサ、と耳を澄ますと何かが飛んでいるような音が聞こえる。しかも、その音がだんだん大きくなっている。ひょっとしてこちらに近づいてきているのか!?
「! 来るわ!!」
「なっ!?」
すると、突如木々の間から大量のポッポが勢いよく飛び出してきた。
撃退も考えたがさすがに量が多すぎる。攻撃を受けないように頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「……な、なんだ!?」
だが、決して俺達に襲いかかってこない。ポッポの集団は俺達の上空を横切ってそのままどこかに行ってしまった。
「……集団での移動? そういう時期なのかしら? それにしても……」
「! サツキさん、危ない!!」
「え……きゃっ!?」
咄嗟の判断でサツキさんを抱えて横に飛んだ。
サツキさんは意味がわからないのか、目を丸くしていたが……その直後、先ほどまでいたサツキさんがいた場所に細い針のようなものが打ち込まれていた。
しかも、これはただの針ではない。……一本一本に強力な毒が含まれている“どくばり”だ。相手の攻撃の意思を感じ取り、すぐに体勢を立て直す。
「……ッ。なるほど、さっきのポッポ達はこいつから逃げていたみたいですね」
「――『コブラポケモン』、アーボック!」
毒タイプを象徴する紫色のボディ、そして蛇を思わせる尻尾。アーボックだ。
……まさか旅を始めて早々にこんな相手に出くわすとは思わなかった。さすがに今の手持ちでは分が悪いか?
「サツキさん、下がっていてください! ……ピカチュウ!!」
威力が弱くてもあの毒の攻撃を人間が受けるのは危険すぎる。
サツキさんは俺の意図をよんですぐに後ろに下がった。そして俺はピカチュウを繰り出す。
……今回はレベル差もあるだろうし、力押しは難しいだろう。ならば……
「ピカチュウ、“でんきショック”!!」
最初に牽制ででんきショックを放つ。
読みどおりこれは難なくかわされて、逆に口から毒針を打ち返してきた。
しかしピカチュウはそのすばやさを活かし、回避行動を取る。
毒針をかわしたものの、アーボックは体を大きく動かして尻尾を振り回してきた。
「飛んで、そこからもう一度“でんきショック”!!」
ブウンッと音をたてながら勢いよく振るわれる尻尾。
しかし、ピカチュウは空中に逃れて攻撃を回避し、そこから仕返しのでんきショックが放たれた。
攻撃直後で隙が大きいアーボックに命中したものの……やはり駄目だ。ダメージが小さく決定打には至らない。むしろアーボックの怒りをあおってしまったようだ。
「やっぱり、倒すのは厳しいな」
なにせ向こうは進化も経験しているんだ。実力差がありすぎる。
……よし、やっぱりあの作戦を使うとしよう。
「相手の足元めがけて“でんきショック”だ!」
今度はアーボックの足元めがけて“でんきショック”を放つ。
だが、アーボックはその場から跳躍してこちらへ一気に向かって来た。
……やっぱりだ! 威力が小さいからあまり利いていないだろうが、それでも自分の攻撃が当たらず、逆に電撃を浴びてアーボックはイラついている。だから、一気に勝負をつけるべくこちらに突進してきたのだろう。
「よし! ピカチュウ、“でんじは”!!」
近づいてきたところで、ピカチュウの尻尾から放たれた電気の塊がアーボックに直撃する。至近距離だったためにアーボックはまともに受けてしまう。
威力はないけれど、当たれば確実に相手を麻痺させる“でんじは”だ。これでアーボックの動きは痺れで鈍くなった。動くのもつらそうに、ただその場で尻尾を振っているのが伺える。
「下がれ、ピカチュウ! ヒノアラシ、“えんまく”だ!」
ピカチュウを手元に退かせて、今度はヒノアラシを繰り出す。
登場したヒノアラシの背中からはもくもくと黒い煙が出現し、その煙がアーボックを包み込み、相手の視覚を封じる。
「仕上げだ! ……ヨーギラス、“いわおとし”で壁を作れ!!」
さらに交代し、ヒノアラシを下げて今度はヨーギラスを出した。
ヨーギラスが放った“いわおとし”はこちらとアーボックを隔てるように、岩の壁を作る。
「OK! サツキさん、ここは逃げますよ!!」
「う、うんっ!」
アーボックが動けない今がチャンスだ! サツキさんの手を引いて一目散にかけだす。
レベルが高い相手と下手に戦ったところで、こちらの消耗が激しすぎる。ならばダメージを受けないうちに退いたほうがいい。野生のポケモンに無理して勝つ理由はないのだから。
そこで編み出した作戦が今の業だ。
最初にピカチュウの“でんじは”で相手の動きを鈍らせ、そこにヒノアラシが“えんまく”を放って相手を惑わせる。そして相手の視覚が回復する前に仕上げのヨーギラスが“いわおとし”を放てば、追おうにも障害が多すぎて相手はこちらを追うことはできない。
……完璧だ! まさに完璧な作戦だ!!
「我ながら恐ろしい作戦を考えたもんだぜ……」
「……ォ……ポォ……」
「……ん?」
走っていた足を止めて俺は横に立ち並んでいる木々の間へと視線を移す。
今、何か掠れた鳴き声のようなものが聞こえたような気が……
「どうしたの?」
「今、何か聞こえませんでした?」
「え? いえ、何も聞こえなかったけど」
「たしかこの辺りから……」
「え、シュン君!?」
俺にしか聞こえなかったようだが、俺はひとまず周辺の草むらへと駆けて行く。サツキさんは止めるものの、無視するわけにはいかなかった。
先ほどのアーボックの仲間がいたら危険だが、今はそれよりも先ほどの鳴き声について知りたい。生えている草むらをかきわけて奥へと進んで行く。
……すると、一羽のポッポが地面に倒れていた。
「やっぱり、今のはポッポの鳴き声だったか。大丈夫か!?」
ポッポの小さい体を抱え込む。……どうやら右の翼を怪我しているようだ。骨に異常がなければよいのだが、さすがにここではわからない。……ひょっとしたらこのポッポも先ほどのアーボックにやられてしまったのかもしれない。それで群れと逸れてしまったのか。
「悪いな。少し我慢していてくれ。さすがにここで治療するのは危険すぎる」
俺はポッポを抱き構えたまま走り出した。ポッポも抵抗せずに収まってくれたから助かる。
そしてサツキさんと合流し、俺達はこの場を離れて行く……
しばらく走り続けたところで、立ち止まって休憩する事にした。
「……ここまでくればヨシノシティも目の前だし、大丈夫でしょう」
「そうですね。まずはポッポの治療を……」
ポッポの怪我している右翼を見てみる。外傷は特に見当たらないところを考えると、骨をやられてしまったのかもしれないな。大方、アーボックに地面にたたきつけられたりしたのだろう。
「どうする、キズぐすりを……」
「いや、いいです」
サツキさんがキズぐすりを取り出そうとするが、それを俺が止める。
たしかに外傷を負ったときや筋肉へのダメージを負ったときはキズぐすりは有効だが、骨など内側まで損傷しているとなると治療効果は半減してしまう。
だからこそ、今は道具には頼らずに俺がやろう。
右腕を負傷しているポッポの右翼へと当てる。……意識を全て右腕だけに集中する。力を対外に放出するイメージで……
「……ッ! なっ……!?」
俺の目の前で眩いほどの光が放たれているのが感じられる。
サツキさんがなにか驚いている声が聞こえた気がしたが、今は他に意識を向けている余裕がない。
……約20秒ほどで、俺は力の供給をやめた。短い間ではあるが、やはり力の影響で息が少し荒くなってしまう。
「はあ、はあ。……ふぅ。もう大丈夫だろう」
治ったことを確認したのか、ポッポも嬉しそうに羽を羽ばたかせている。
……しかし、やはりこれはかなり疲れるな。自分の気力を一気に持っていかれる感じだ。
「……シュン君。今のは何? まさか、トキワの力……?」
「いいえ、違います。知っているでしょうけど俺はワカバタウン出身ですから。ポケモンの治療なんてできやしませんよ」
カントー地方のトキワシティに伝わる『癒しの力』をサツキさんはおそらく思い出したのだろう。
だが、俺がやったことはまったく違う。だいたいトキワの『癒しの力』は外側からポケモンの体に働きかけ、傷一つ残すことなくポケモンを治療するのだろうが、俺の場合はまったく逆だ。現にポッポの体にはいまだ若干の傷が治りきらずに残っている。
「で、でも現に今ポッポを……」
「……ま、それはまだ秘密ということで」
どうやら事情を知っているオーキド博士も俺の力については彼女に話していないようだ。
……それは助かる。俺の力は決して乱用していいものではないからな。過信されたら困る。
「それじゃあポッポ。傷も癒えたことだし、お前は仲間と合流しな」
ポッポの地面において、仲間と合流するように促す。……のだが、
「……」
もう飛べるはずなのにポッポは一向に飛び立つ姿勢を見せず、むしろ無言で俺の脚に擦り寄ってきた。
痛みはさきほどの反応からみてもないはずだし、これ以上ここに居座る理由はないはず。それなのにこうやって俺に寄り添ってくるということは……
「……まさか、俺と一緒に来る気か?」
俺の問いにポッポは無言で頷く。
……確かに少しでも戦力は欲しい。ポッポも成長すればピジョットに進化し、空中戦力としては申し分ない最高レベルにもなるだろう。だが……
「いいんじゃないかしら、シュン君」
「……言っておくが、俺達はこれから想像もつかないような戦いに挑もうとしている。それでも、来るというのか?」
サツキさんがそう言う気持ちは理解できるものの、俺はやはりまだ納得できない。確かに今のポッポは完全に傷が治っていないし、今から仲間の群れに合流しろというのも酷な話なのかもしれない。
だがしかし、俺の旅について行くということはそれ以上に酷だ。何せこれから相手にしようとしているのはロケット団を率いている実力者だ。いつ死んでもおかしくないような環境になるだろう。だからこそ下手に巻き込みたくはない。
ポッポはしばし考えるような動作を見せたが……力強く頷いた。俺についてくる、と。そういわんばかりに。
「そっか。……わかった。なら、これ以上言わない。一緒についてこい」
俺は空のモンスターボールを一個取り出す。
そしてポッポに向けて放り投げた。ポッポも飛んで自分からボールへと向かっていく。
……一回、二回、三回とボールが左右に揺れる。
そしてボールはカチッと小さく音を立てて、動きを止めた。
ポッポのゲット完了。俺は早速ボールからポッポを出し、他の三体もボールから出す。
「よし! さっそく仲間が増えたんだ。これからよろしく頼むぞ、皆!」
旅だって早速仲間が増えた。ポケモンたちは皆笑って頷いてくれたし、サツキさんも祝福してくれた。
……このままどんどん頼れる仲間を増やさないとな。たとえ誰が相手であろうと負けないように……
「それじゃ、このままヨシノシティへ行くぞ!!」
ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………
主人公:シュン
持っているバッジ:0個
手持ちポケモン
ヒノアラシ♂ Lv10
ポッポ♀ Lv9
ピカチュウ♂ Lv11
ヨーギラス♂ Lv23
レポートに書き込みました!!