「今の“かみなり”、まさかあの人たちが……!?」
船上から戦いを見ていたクリスタルは驚きを隠せなかった。
反撃に転じたルギアの猛攻により危機に瀕したシュンであったが、そんな彼を助けるかのようにルギアの体に何者かが放った“かみなり”が直撃。
そしてルギアが怯んだ隙に、シュンを庇うように三人のトレーナーが姿を現した。
一人はヤミカラスに掴まることで空を飛ぶ、黒を基調とした服を着た赤髪の少年。
そして残りの二人はレアコイルの電磁力によって宙に浮いている。一人は軍服を着込んだ中年の男。
最後の一人は赤髪の少年と同い年くらいの体つきで、前髪が爆発しているような髪型が特徴の、帽子を被ったトレーナーであった。
「あれは、ひょっとしてマチスさん!?」
「イエローさん、お知り合いですか?」
「はい。あの体が大きい人、カントーのジムリーダーです」
「カントーのジムリーダー……? そんな人が何でこんなところに?」
「なんにせよそんな実力者が着てくれたならこれほど頼もしいものはないな!」
イエローが軍服の男――マチスを指して言う。
なぜカントーのジムリーダが
ピジョットやピカチュウが撃ち落されてしまったものの、これで戦力は整ったと言える。
「たしかに、その通りですね。……うん?」
ここから反撃に転じることができれば、勝機は見出せるはず。……そう考え納得したところで、クリスタルは『ピピピピ』とまるで目覚まし時計が鳴っているかのような音を耳にした。
「こ、この音は……?」
「クリスタルさんのカバンから聞こえてますよ」
「私のカバンから? ……ポケモン図鑑?」
イエローにも聞こえたようで、クリスタルはイエローの言葉に従い、バックを探りその発進元を探り当てる。
そしてクリスタルが手にしたのはかつて彼女が依頼主・オーキド博士より託されたポケモン図鑑であった。ポケモン図鑑が持ち主の意志・行動に関係なく、勝手に鳴り続けていた。
「たしかに、鳴っているのは私のポケモン図鑑です! でもどうして!?
いきなり鳴り始めるなんて。私は何もしていないのに、何かの故障かしら!?」
「……いえ。おそらくそれはポケモン図鑑の『共鳴音』では!?」
「『共鳴音』!?」
「前の、旧ポケモン図鑑にも同じ現象があったんです。
正しい図鑑所有者の下、図鑑が全て集まったときに発せられる共鳴音。
図鑑所有者達に仲間が近くに集結しているということを教える機能が!」
未知の現象に困惑するクリスタル。そんな彼女を諭すように、イエローがポケモン図鑑の『共鳴音』について語り始めた。
かつてイエローがカントー四天王、スオウ島での戦いでも発生したという図鑑の機能について。
「それじゃあ、今この場にはジョウトの図鑑所有者が集結している……?」
そこから推測できることはただ一つ。
冷静になったクリスタルはその事実にたどり着いた。
「新しいポケモン図鑑は合計で四つ作成された。そのうち二つは私とシュンさんが持っている。
そしてまだ明らかになっていなかった、残りの二つを持っている図鑑所有者というのが……あの二人のトレーナー!?」
今シュンに並び立つように戦場に立っているのが、残りの二人の図鑑所有者だという事実に。
――――
その顔をシュンが見るのは数週間ぶりのことである。少年が旅立ってから連絡を取ってはいたものの、顔を合わせる機会は一切なかった。
目の前に立つ彼が本物であるのか偽者であるのか、そんなことを確かめる必要はない。オーキド博士より聞いていたポケモン図鑑の『共鳴音』が何よりの証拠であるし、そして何よりも――シュン自身が何年もの付き合いである友を間違えるはずがなかった。
「――ゴールド! お前……お前、今までどこで何をしていやがった!!」
名前を呼び、シュンはゴールドにここまで連絡の一つもよこさなかったことへの文句を口にする。
……常にゴールドの無事を心配し生存を信じてきたが故に、再会できてこれ以上ないほど嬉しいはずなのに。
それでも真っ先に怒鳴りつけてしまうのは性格のせいか、あるいはそういう関係だからか。
「……はい。本当スミマセンでした。まあこうして無事に戻ってきたんだから……許してくださいよ」
「こんの、馬鹿やろう! 俺達がどれだけ心配したと……」
「あれ? ひょっとして俺のためにわざわざ来てくれたんっスか? うっわ、嬉しー!」
「……言ってろ! このアホ!」
散々に言われてもゴールドは気分を害することなく、常時笑みを浮かべてシュンに答える。
どれだけ言ってもこの男には無駄だとわかったのかシュンもそれ以上はゴールドを攻め立てるのを止めて……
「だけど、よかった……! よかった……!」
ただひたすら喜び、表情を崩した。目頭を押さえ溜まり切っていたものを放出する。
「……ありがとうございました、シュン先輩」
その姿を見てはさすがのゴールドも悪態をつくことはできず、そっと頭を下げた。
思いがけない形であったが、会いたかった人物と再会できて嬉しくないはずがない。
――話したいことは山ほどある。しかし今はこの再会をただ喜ぼう。
『何をやっているお前達! そんなことをしている場合か!?』
『へ?』
……そんな二人の考えは、近くにいたシルバーとマチスの叫び声でかき消された。
先ほどの“かみなり”による攻撃でも戦闘不能には至らなかったルギアが三発ものエネルギー弾を、彼らが密集している地帯へと一気に放出したのだ。
「ちっ!」
「うおおっ!? ちょっ、あっぶな!!」
紙一重ではあるが、それぞれがどうにか体勢を入れ替えてかわす。
攻撃をかわした後に念を置いて距離を置く四人。攻撃までの間隔は短いが、ある程度離れていれば反応することはできると考えてのことだ。
「こんのルギアッ! 友との感動の再会を喜んでいる真只中に攻撃してくるとは、何と言う卑怯者!」
「そうだそうだ! もっと空気読みやがれ、このデカブツ! KY!」
「……いや、野生ポケモンを相手に卑怯者と言っても仕方がねーだろ」
「というよりも、この戦いの最中で暢気に平和ボケしていたお前達が悪い」
『んだとテメーら! 一体どっちの味方だ、オイ!?』
感動の再会を祝っていたところへの不意打ちに、黙っていられずルギアに叫ぶシュンとゴールド。
だが第三者であるマチスとシルバーにとっては『自業自得』であると感じられたようで、二人を冷たく突き放した。
思わぬところからのツッコミに怒りの矛先が変わり、綺麗に揃った怒鳴り声が響くものの、シルバーはそんなこと関係ないと言わんばかりに「そんなことよりも」と語り始めた。
「先ほどよりもルギアの動きが鈍い。おそらくダメージはまだ残っているのだろう。
今のうちに今後の策を考える必要がある。……そこのお前、船にいるやつと連絡を取れるならばすぐに繋げろ」
上から目線で語るその態度は気に食わないものの、言っていることは正論であった。
ゴールドは「なんでお前が仕切ってんだ」と愚痴をこぼすが、シュンに諭されて引き下がる。
シルバーの言葉通り、しぶしぶとシュンはポケギアを手にする。まだ先ほどの通信は繋がったままであり、クリスタルはすぐに答えてくれた。
「聞こえているか、クリスタル」
『はい、聞こえます。こちらからも戦況は見えてますので、指示があればすぐに動けます』
「わかった。……さて、それでどうする?」
ポケギアを口元から離し、言葉の先はシルバーへと向けられた。
「……二手に戦力をわける。
一つは空を飛べ、ルギアの飛行能力を奪う近―中距離戦闘班。
もう一つはあの船を拠点に援護射撃を行い、注意をひきつける遠距離戦闘班だ」
右手で二本の指を立てながらシルバーが言った。
「先ほどまでの戦闘を見る限り、ルギアは単体への攻撃は圧倒的だが全体への攻撃方法を持っていない。
あの咆哮も最初から使っていなかったことから考えるに体力をかなり使うのだろう。
ならばルギアの攻撃方法をさらに狭め、追い詰める。そして“エアロブラスト”を封じ込めた後、追い詰めていけばいい」
「“エアロブラスト”? おい、シルバー。なんだそりゃ?」
「ルギアが放つあの空気弾のことだ。ゴールドはともかく、戦っていたお前なら気づいていただろう? あの攻撃の正体を」
「ああ。あれは普通のエネルギー弾ではない。ただの空気にすぎないもの、しかしそれをルギアが放つことで威力がとてつもないことになっている」
シルバーの説明の中、聞きなれない単語を耳にして復唱するゴールド。
唯一戦っていたシュンだけはその正体に気づいていて、あの攻撃――“エアロブラスト”について説明した。
同意見だったシルバーは「俺もそう考えた」と賛同し、さらに説明を続ける。
「ならば“エアロブラスト”を封じるために、空気のない水中へと引きずり込むだけだ。
それさえ出来ればやつは一気に不利になる。そうでなくとも体力は削れる」
「……
ルギアの弱点もつけるし、近接戦闘の方が性に合ってるからな」
「俺もヤミカラスと共に空からルギアを攻撃する。……後できればもう一人は戦力が欲しいところだが」
その作戦を行うことにすると、マチスとシルバーは早々に意見を示す。
今はルギアがダメージと“かみなり”による痺れが残っているから攻撃がほとんどないが、それもいつまで続くかわからない。それをわかっているからこそだ。
シュンも目を瞑り、右手の指先を額に当てて現状と戦力を計算し、答えを出した。
「ならば俺とゴールド、そしてクリスタルで船からの援護射撃を行おう。そちらにはイエローさんに行ってもらう。
船から牽制を行うとしてもルギアの攻撃をまともに食らってしまっては意味がない。俺が手持ちのポケモン達を総動員し、船の護衛を行う」
「……俺もその船に残るんっスか?」
「マチスさんと一緒にいるところを見るに、お前は空を飛べるポケモンを持っていないだろう?
俺のポケモンを貸すという手もあるが、ポケモンについて情報を持っていない状態では的確な指示を出せまい」
「うっ! シュン先輩にそう言われては反論できない。……わかりました、わかりましたよ!」
実際のところ、残念なことにゴールドは“ひこうタイプ”のポケモンを持っていなかった。
シュンが護衛に回る分、彼の手持ちポケモンをゴールドが引き連れるという手もないわけではないのだが、効率を考えるとそれよりはポケモン達の独自の判断で戦ってもらったほうがよいと考えたのだ。
普段なら自分の意見はとにかく曲げないタイプのゴールドであるが、頼りにしているシュンにこれほどまでに正論を並べられては返す言葉がないのか、しばし黙り込んだ後了承の返事をする。
「……そのクリスタルとイエローというやつは何者だ?」
「クリスタルは俺達と同じジョウトの図鑑所有者、イエローさんはカントーの図鑑所有者だ。
博士達から何も聞いていなかったのか? そう言うお前もジョウトの図鑑所有者なんだろう?」
「あ、ああ……」
「……何だ? 歯切れの悪い返事だが、どうした?」
シュンはシルバーの問いに淡々と答える。
それに対しシルバーはどこか居心地が悪そうに、曖昧な返事をした。
その素振りがどこか気にかかり、シュンはシルバーを探るように見るが、意外なことにシルバーを庇ったのはゴールドであった。
「すんません、シュン先輩。俺もシルバーも博士達の話を抜け出して旅に出ちまったんで、詳しい話は聞いてないんすよ」
二人の間に割り込むように体を入れるゴールド。
「……ゴールド」
「なっ、そうだよな?」
「あ、ああ。俺もその日は急ぎの用があったのでウツギ博士ともあまり話をせず……」
「話を合わせろ」と視線で語るゴールド。
シルバーも彼の意図を理解してシュンに言った。
「……まあ、ゴールドがそう言うのならばそういうことにしておこう。
シルバーと言ったな? 俺はシュンだ。以降は名前で呼んでくれ。“お前”では誰だかわからないから」
「了解した」
とてもそれだけで納得できるはずもなかったが、ゴールドの言葉を信じてシュンは話を切り替えた。
名前をお互い教えあい、二人は一時ではあるが共闘の握手をかわす。
そして近―中距離戦闘班の指揮をシルバー、遠距離戦闘班の指揮をシュンが執ることに決めた。
シュンが遠距離戦闘班に入ることに決めた理由にはこれもあった。
エーフィなどの防御に優れたポケモンがいることもそうだが、何よりも実戦の経験が比較的多く、かつ勝負事で怯まないだけの度胸があること。
ゴールドもそうだが、クリスタルも長い時間空を飛べないという事情もあり、イエローとシュンならばイエローを戦闘に専念させ、指揮は自分の方がよいとの判断である。
「では、そちらの方は任せるぞ」
「ああ。……だが、その前に一つ条件、というか頼みがある」
「何だ?」
「俺達は陽動とのことだが、船をあの島の方向に進路を向けている。お前達もできるだけルギアをその方向に来るように挑発してくれ」
シュンはうずまき列島のうち一つの島を指差して言った。
その方向をシルバーも見るが、その島を中心とした部分にだけ雨雲が広がっていて、雨も幾分か振っている。
悪天候の方向に船を寄せるのはあまり褒められた行為ではない。それはシュンとて知っていることだろう。シルバーも疑問に感じてシュンに理由を問いかけた。
「理由を教えてもらおうか? 向こうはどうやら天候が悪いようだ。あまり激しくなるようでは船が転覆する可能性も出るぞ」
「……俺の仲間の一人があの島の方向に飛ばされた。お前達も見ていなかったか? ルギアの“サイコキネシス”でやられたんだが……」
「ッ! ……そうか。そういうことか」
確かにそういわれればシルバーにも覚えがある。
ルギアが出現し、暴れ始めた直後に攻撃を仕掛けたトレーナーの存在について。
遠目ではあるが実力は確かだと感じ取っていた。ならば今はある程度の
「わかった。そういう事情があるならば俺達もルギアの注意をその島の方向に向けるように仕掛けよう」
「ああ、ありがとう」
「もう何もないな? ……では、行動開始だ!」
「ッシ! ならば先手は行かせてもらうぜガキ共!」
「来い、ゴールド!」
「頼みますよシュン先輩!」
条件を受け入れてもらいシュンも嬉しそうに笑う。
シルバーは余裕がないのか、それ以上言うことはないかと全員に聞き、作戦の開始を宣言する。
マチスがゴールドをシュンに手渡し、両腕でしっかりと抱え込む。二人分の体重がかかるが、力が自慢のヘラクロスは問題ないとたくましく鳴き声を放つ。
先陣を斬ったのはマチスだ。自分の周囲を囲むレアコイルに突撃の支持を出し、ルギアに接近する。
ルギアも敵が接近することに気づき、痛む体に鞭打って“エアロブラスト”を繰り出した。敵が完全に気がつく前の先制攻撃。
「軌道が丸見えだぜ!? このマチス様を舐めんなよ!?」
だがその動きはマチスの目には単調に映り、丸見えであった。
シュンとルギアの戦いを観戦していたがゆえにスピードにも目が慣れている。
レアコイル達は洗練された連携を持って電磁フィールをを維持しつつ攻撃をかわす。
「翼を切り裂いてやりな、“ソニックブーム”!」
さらにすれ違いざまにレアコイルは空気を鋭く切り裂く衝撃波を放つ。
衝撃波はかわす間も与えずにルギアの右翼を一閃した。
「ギィアーーッ!!」
「ヤミカラス、“おいうち”!」
「――ッ!?」
威力はそれほどでもなかったのか、ルギアは怯む事無くマチスの姿を追う。
だが、敵は一人ではない。意識が逸れた一瞬の隙を見逃さなかったシルバーはヤミカラスに指令を送る。
ルギアの頭部に追撃の一撃がヒットした。突然の衝撃に驚きつつも反撃とばかりに翼を振るうが、ヤミカラスは攻撃と同時に離脱。すぐさま空高くに舞い上がった。
「俺達は船へと移動する。……クリスタル、作戦のことは聞こえていたか?」
『はい。聞こえてました。先ほどイエローさんもそちらに向かいましたよ』
マチスとシルバーの攻撃を見届け、安全を確保したところでシュンも動き出す。
距離を取りつつポケギアでクリスタルに聞くと、丁度イエローとすれ違った。背中からバタフリーに掴んでもらって空を飛ぶ姿は、まるで本物の蝶の様である。
「頼みますよ、イエローさん!」
「任せてください! 僕も少し思いついたんです、
シュンの声援に後押しされたようにイエローはルギアへと向かっていった。
『封じ方』という点は気になったものの、自分も作戦に集中すべきだと船へとゆっくり降りていく。
「それじゃあ行くぞゴールド。お前も攻撃を警戒していてくれ」
「……いや、それよりも俺気になった事があるんですけどいいっすか!?」
「どうした? ああ、今話した相手は先ほど言った俺達と同じジョウトの図鑑所有者だ。
詳しくは船に戻ってから説明する。だから今はとにかくこの場から離脱することを……」
「何すか今の通信相手の声! 絶対ギャルの声だったっすよね!?
先輩いつの間に女の子たらしこんでたんすか? さすが抜け目ないっすねえ、是非俺にも紹介してくださいよ」
「だから後にしろおおっ! そしてクリスタルとはそんな関係じゃねええ!!」
あまりにも場違いであるその発言に、シュンは思わず叫んでしまった。
その叫びに反応したルギアが“エアロブラスト”を放ったりもしたのだが……ゴールドと口論しながらもかわす姿は、あまりにも慣れている動きだった。
――――
イエローはルギアに接近しつつ、自分にある情報を元に考えをめぐらせていた。
(シュンさん達の話ではルギアの攻撃は『空気』で、『呼吸』に過ぎないと言っていた。それならば手の打ち様はある!!)
まだ完全にとまではいかないものの試す価値は十分にある。そう考えてイエローは戦場へ赴く。
「行くよピーすけ、“サイケこうせん”!」
バタフリー――“ピーすけ”に攻撃指令を出す。
しかし効果がいまひとつなのか効いた様子はない。むしろシルバー達を排除しようとしていたところに邪魔が入ったことで怒ったのか、ルギアはイエローに怒りの矛先を移した。
「ギィアア――!!」
叫び、イエローを威圧する。
巨大すぎる体格がイエローと対面するかのように向き合って、イエローも恐怖を抱いた。
ルギアは邪魔者を振り払うべく、再び息を大きく吸い込み“エアロブラスト”を撃ちだした。
その攻撃を防げる者は存在せず、イエローも例外ではなかったのかいとも簡単にバタフリーもろともその体を撃ち抜いた。
「――“かげぶんしん”!」
……だが、撃ち抜いたのは分身であった。バタフリーが素早い動きで作り出した偽者。
あくまでルギアはその一体を貫いたに過ぎず、しかも分身は他にも十体近く存在した。
同じ姿ばかりが目に映り、ルギアは混乱しつつも“エアロブラスト”を放つ。しかしどれもが偽者で、結局ルギアはイエロー達の接近を許してしまった。
「いまだよ、“しびれごな”!」
「ギァッ!?」
そしてルギアが“エアロブラスト”を撃つ動作に移った瞬間、イエローは指示を飛ばす。
バタフリーは麻痺効果を持つ粉をルギアの口に振り撒く。
咄嗟に異物が口に混入したことでルギアは呼吸を中断、咳き込むことで粉を吐き出した。
「やった!」
作戦の成功を確認し、イエローもすぐに距離を置く。
誤って自分も吸い込まないようにと用意したハンカチを仕舞い、イエローは冷静にルギアを見つめた。
そんなイエローをシルバーは不思議そうに観察する。幼さを残す顔と大人しそうな仕草に、「大丈夫なのだろうか」と心配もあったのだが、その心配はまったくの無駄だった。
「ったくあの野郎。相変わらずどこか抜けてやがるな……」
「……マチス。お前はイエローを前から知っていたのか?」
「あ? ああ。以前に色々関わったことがあってな。碌な事にならなかったがな……」
マチスが愚痴を零すのが聞こえ、シルバーがイエローについて聞くが、マチスは不満を隠すことなく言う。
言い方は悪いがトレーナーとしての実力はある程度認めているということがわかった。
何にせよ実力があるトレーナーが味方となった。しかもこれで三対一の形である。そして――
「ギィァアア――ッ!?」
――味方はこれだけではない。
ルギアが怒りをぶつけるように叫ぶが、その叫びは最後まで続かない。下からの攻撃を腹に受けてしまったのだ。
「俺達を忘れてもらっては困るぞルギア? 散々暴れてくれたんだから、それなりの仕返しは覚悟しておけ!」
真下に広がる広大な海。そこにちょこんと浮いている小船には援護をするシュンとゴールド、クリスタルの三人が控えている。
シュンは声が届かないとわかっているが、それでもルギアに対して自分の揺ぎ無い意思の強さを言い放った。
――――
――ぐすっ。
船に到着早々、ゴールドは目頭を押さえ、鼻をすすった。
まるで悲しみを押さえ込み、涙の流出を防ぐような素振りに「ただ事ではない」と考えたシュン達は声をかけずにはいられなかった。
「ちょっ、オイ! いきなりどうしたゴールド!?」
「ひどいっスよシュン先輩。なんですかコレ……?」
「は!? コレって……まさかクリスタルのことを言っているのか?」
「へ? 私、ですか?」
戸惑いつつも問いかけるシュンに、ゴールドは答えるために原因である相手、クリスタルを指差す。
思いがけぬ指名にシュンは当然のこと、本人であるクリスタルはその場で硬直した。
「女の子。……相手の声、絶対ギャルだと思ってたのに……」
独り言だろうか、ゴールドは俯きながら恨み言のように呟く。
「なのになんっすか!? いざ見てみればギャルはおろか、俺の超大っ嫌いな『超マジメ系学級委員タイプ』しかいないじゃないっすか!?」
「なっ……! マ、マジメ系って何よ!? マジメは普通はいいことでしょ!?」
「俺けっこう期待してたのに! 裏切ったな! 俺の期待を裏切ったんだ!!」
「期待も何も、勝手に期待していたのはそっちじゃないの!」
「俺の青春を返せぇ――っ!!」
「随分と短い青春だなー……」
「ちょっと、ちゃんと人の話を聞きなさいって! えっと、ゴールド!
……ああ、もう! シュンさんも暢気に言ってないで、どうにかしてください!」
ゴールドの一方的な不満から始まった、夫婦喧嘩のような漫才。
話がかみ合わず、平行線を辿ってしまいそうな勢いに耐え切れず、クリスタルはシュンに助けを求める。
暢気にツッコミを入れるシュンであったが、たしかにこれ以上漫才には付き合ってはいられないと判断したシュンは話題を変えようと冷静に、指示を出すことにした。
「よっし、それじゃあ二人が仲良く交流を深めたところで方針を立てるぞ」
『仲良くなってません!!』
「……仲良くなってんじゃん。息がピッタリだぞ、羨ましいね」
『違います! そんなことありません!』
「……それじゃあ、話を続けるぞ」
『無視しないでください!』
完全に声が揃っていて、出会ったばかりのコンビネーションとは到底思えない。意外と性格が合うのではないだろうか?
色々思うところはあったがシュンはそれ以上ツッコミを入れることはせず、シュンは真面目な表情で語り始めた。
「まず俺達はここから援護射撃を行う。何も強すぎる必要はない。とにかく命中精度が高めの技でルギアの注意を引き、イエローさん達を援護するんだ」
「……はい」
「船の防御はエーフィの“ひかりのかべ”で威力を弱め、技をぶつけて相殺する方針にしよう。
お前達、あまり体格が大きくないポケモンで、それでいて遠距離攻撃をできるポケモンは何がいる?」
作戦の確認をし、さらに詳しい方針について語る。
さらにシュンは攻防についてより正確にするために、船の上という戦闘場所を踏まえて二人に問いかけた。
「俺はバクたろうと、あとニョたろうっすかね」
「私はメガぴょんとネイぴょんがいます」
ゴールドはマグマラシとニョロトノが入ったボールを、クリスタルはベイリーフとネイティが入ったボールをそれぞれ手にする。
クリスタルに関してはウインディとパラセクトもいるのだが、ウインディは重量的に厳しく、パラセクトも攻撃内容を考えると空中の三人を巻き込んでしまいかねないという理由で却下となった。
「……わかった。ならば船の上では俺のエーフィ、ゴールドのバクたろう、クリスタルのメガぴょん、そして……シルバーのアリゲイツを置く」
「えっ!? シュンさん、そのアリゲイツいつの間に……!?」
「さっきシルバーと別れる時にな。どうやら図鑑の共鳴音からウツギ研究所で一緒にいた二匹がこの場に集結することを知り、ボールの中でうずうずしていたらしい」
ライバルの手持ちポケモンをシュンが持っていることにゴールドは戸惑った。
先ほど空中で別れる際に、シュンがシルバーより手渡されていたのである。よほど二匹と会いたかったようだ。
ウツギ研究所で一緒に暮らしていた三匹をボールから出すと、嬉しそうに寄り添う。こちらも久しぶりの再会、邪魔することはない。
シュンは場所の都合上、ピカチュウとバクフーンをボールに戻すと、先ほどルギアの攻撃を受けてしまったピジョットを呼び寄せた。
「大丈夫か、ピジョット?」
ラプラスの背中にとまっていたピジョットだが、呼ばれるとすぐにシュンのすぐ隣に飛んでくる。
……受けた傷は回復していた。しかも傷跡も残っておらず、まるで元通りの姿に戻ったかのように。
「怪我はもう治っているのか、よかった」
「先ほどイエローさんが回復してくれました。ピカチュウも一緒に治したみたいです」
「……そうか。わかった、あとでお礼を言うとしよう」
クリスタルの説明でシュンも納得し、穏やかな笑みを浮かべる。
ここまで親切にしてもらうと今までイエローを悪く思っていたことが馬鹿みたいだ、と心の中で自嘲した。そして同時にこの戦いが終わったら必ず一言礼を言おうと誓った。
「それじゃあニョたろうはラプラスと一緒に先行し、船の進路を確保してくれ。
ネイぴょんはピジョット、ヘラクロスと一緒にルギアの牽制を、ピジョットをリーダーにして頼む」
「はい!」
それぞれ手持ちポケモンをボールより出して指示を出す。
海を二体、空は三体のポケモンが警戒し、船を守る態勢となった。
「それと俺達はルギアの牽制と同時にサツキさんの救助にも向かう。ヒデノリさん、船の進路はお任せしますよ」
「ああわかってる。進路がルギアの攻撃で大幅に逸れてしまったが、修正しきれないほどではない。できるだけすぐに島につくようにするよ」
「ありがとうございます」
ヒデノリが親指を立ててジェスチャーを送ると、シュンも表情を緩ませる。
戦っている最中もシュンはサツキのことを気にかけていた。
少しでも早く助けたい、だからこそシルバーにも無理を言ったのだから。
これで作戦は全て伝え終えた。少しだけ気が緩み、息を一つついた。
「……あの、シュンさん」
そんな中、ただ一人事情を知らないゴールドはシュンに問いかけた。
「『サツキ』って誰っすか? 名前から考えるに女性っすよね?」
「…………ッ!!??」
言葉に詰まる。シュンは一度ゴールドの顔を見て、サツキのことを話すべきか話さないべきか大いに悩んだ。
もしもゴールドに話したらどうなるだろうか? 少し考えてみよう。……『うっひょー! こんなところに麗しき超美人発見! これからお茶でもしません!?』と人の気も知らずに浮かれてサツキに声をかける姿が脳裏に浮かぶ。
――ふざけんな。調子に乗るなよ。
何故か無性に嫌な気分になり、体内に衝撃が走る。その瞬間、シュンの中で何かがキレた。
「ひょっとしてキレイな人っすか!? ねえねえ、教えてくださいよ!」
「……いいかゴールド、よく聞け」
何も知らずに暢気に話しかける
「サツキさんだけはやめておけ。お前が絶対付き合いたくないような性格の人だ」
「……え!? そうなんすか!?」
「ああ、それはもうクリスタルの比ではない。クリスタルが学級委員だとするならば、サツキさんはそれこそ死刑を平気で下す裁判官のような人だ」
「裁判官!? 死刑!?」
「シュンさんまでそのネタ止めてください!」
ゴールドは予想していなかった答えに表情を崩して驚いた。
その例えとして自分を使われたクリスタルは講義するが、聞こえていないのだろうかシュンはクリスタルには目もくれずに話を続ける。
「とにかく厳しく、とにかく冷たい。まるで『自分は規律を守るために存在する』と言うかのような生活態度で、自分にも厳しい。
しかも他人への接し方もそうだ。必要以上に周囲に近寄ることさえ禁ずる。下手に行動するようなら、『キャー変態! 近寄らないで!』と叫びだす」
「そ、そうなんすか!?」
「……あの、シュンさん。全然サツキさんのイメージが違う気がしますけど。しかもその例、性格が間違っている気がします」
「残念ながらそういう人なんだ。お前みたいに気軽に話しかける男など、それこそ養豚場のブタを見るような目で射殺す。
『可哀相に。明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのに、愚かね』と言わんばかりの冷たく、残酷な目でな」
「そ、そんなに非情な人なんすか!? うわ、今のうちに聞いといて良かった!」
「……シュンさーん。もはや別人になってますよー。戻ってきてくださーい」
ひたすらゴールドを言葉で追い詰める。シュンのその姿は常軌を逸しているようだった。
ゴールドもゴールドで、シュンのあまりにも真剣な表情から、サツキという人物について印象を固めたようで、身震いしている。もしも本当にサツキに会ったらどうするつもりだろうか、甚だ疑問だ。
……しかしいくらサツキを守るためとはいえ、ここまで言葉を並べられるものだろうか? というか、どれだけ必死なのだろうか? そこまでしてゴールドとサツキを会わせたくないのだろうか?
もはやツッコミが追いつかない。クリスタルは現実を放棄し、シュンが元に戻ることに期待することにした。
とても見ていられず、視線を外して船の進路先を見る。どうやら進路は上手く調整できたようで、島へと一直線に進んでいた。
「……あれ?」
しかしクリスタルは一つ気になった点があった。
「なんだかあの島の上空。空が……雨雲が発達している……?」
シルバーも一時思ったこと。
他の島の上空は特に挙げるほど荒れてはいないのだが、その島ではまるでずっと雨が降り続いているかのように雨雲が発達していた。
「大丈夫かな、サツキさん……」
傷ついた体で、さらに雨に打たれては身心共に厳しい面があるだろう。
クリスタルは未だに無事の確認ができていない、頼れる女性トレーナー――サツキの身を案じた。